タイプ
論考
日付
2013/4/25

出来高払いの弊害を考える ― 介護報酬の複雑化から見える問題点



東京財団研究員兼政策プロデューサー
三原 岳


東京財団は「医療・介護・社会保障制度の将来設計プロジェクト」を展開しており、昨年10月には政策提言『医療・介護制度改革の基本的な考え方』を公表し、医療・介護連携によるプライマリ・ケア(初期包括ケア)の確立や政策決定の分権化などを提言した。このうち、報酬体系に関しては、治療・ケア行為ごとに報酬を支払う出来高払い制度の代わりに、責任を持って患者のケアを請け負うため、管理料スタイルの包括払いへの転換を提唱した。では、出来高払い制度は何をもたらしているのか。創設から14年目を迎えた介護保険制度の報酬が複雑化した歩みと弊害を見ることで、診療・介護報酬体系の見直しを訴える。本稿の主な中身は以下の通りである。

 <主な中身>
   [1] 介護報酬複雑化の経緯
   [2] 複雑化した背景の考察
   [3] 報酬複雑化の弊害と包括払いの重要性



不思議な焼鳥屋

メニュー表を開くと、約400ページ。焼鳥の産地だけでなく、味付けやタレの種類・量、串に刺さっている鳥肉の数、従業員の人数・保有資格、一緒に注文した酒・食事の量や種類、調理方法などで単価が全て異なる。しかも、不思議なことに入店した時間や滞在時間、店の定員・構造・出店場所も単価に反映されており、メニュー表に乗っている単価は約2万件に及ぶ。

もしこんな焼鳥屋に入ったら、どうするだろうか。膨大なメニュー表を見るのが面倒だし、後から値段もチェックできないので、結局は「お任せセット」「串盛り」を頼んでしまうのではないか。

その一方で、注文を受けた店はニーズに柔軟に対応できず、全てマニュアルを確認しなければならない。単価や基準を定めた「青本」「赤本」と呼ばれる膨大な冊子や「Q&A」と称するマニュアルで細部まで定められており、少しでも反すると後から本店の査察で責め立てられるためである。さらに、本店の指示で単価は3年後に必ず変わり、店の人員・施設基準もいつ変わると知れない。そんな中、従業員は思考停止に陥り、客と従業員の双方が不満を抱えたまま、店の評判が落ちて行く―。

介護保険制度の現状を皮肉交じりに形容すれば、こんな姿ではないか。自己選択と地方分権を掲げた介護保険制度が創設されて14年目。相次ぐサービスの新設と加算減算措置の追加を通じて、サービスの単価を示す「サービスコード表」は人智を超えるぐらいに膨れ上がっており、当初の目的とかけ離れた状況になっている。


◇表1 訪問介護サービスコード表の凡例 ≪拡大はこちら≫


(出所)厚生労働省「介護給付費単位数等サービスコード表」(平成24年4月施行版)を基に筆者作成



以下、介護保険を受ける際の手続きから説明する。まず、要介護認定を受けると、介護サービス計画(ケアプラン)を基にサービスを受けることになり、大半の場合は介護支援専門員(ケアマネジャー)がケアプランを作成する*1。この際、ケアの行為ごとに細分化された6ケタのサービスコードを基にサービスが選択され、月々の介護報酬と自己負担額が決まる*2。言い換えれば、サービスコード表は飲食店のメニュー表と言える。6ケタのサービスコードのうち、上2ケタはサービスの種類を示しており、訪問介護は「11」、訪問看護は「13」、介護老人保健施設は「52」、介護療養病床は「53」などと決まっている。さらに、次の4ケタはサービスの詳細と単価を定めており、表1の通りに訪問介護サービスのうち、「20分以上30分未満の身体介護」だけでも24種類に区分けされている。

具体的には、訪問介護の職員数やサービス内容、訪問時間などに応じて区分されており、家事などの生活援助を組み合わせた場合、「20分以上30分未満の身体介護」だけでもトータルで96件まで膨らむだけでなく、事業所のレベルアップを目指す「特定事業所加算」*3の類型ごとにも単価が設定されている。さらに、「身体介護20分未満」「身体介護30分以上1時間未満」「1時間以上」などの時間区分に応じて、それぞれ同様に細かいサービス区分と単価が設定されている。

サービスコード膨張の過程

複雑な制度は訪問介護に限らない。サービスコード表の一覧表は制度創設当初の59ページから計410ページに増加し、まるで電話帳と見間違えるような分厚さとなっている。これ以外にも膨大な施設・人員基準のほか、「Q&A」と銘打ったマニュアルが国から示されており、2012年度改定の場合にはQ&Aだけでも100ページを超える。


◇図1 急増する介護報酬のサービスコード総数 ≪拡大はこちら≫


(出所)厚生労働省資料、介護給付費単位数等サービスコード表を基に筆者作成



時系列に見ると、サービスコードの数は図1の通りに増加傾向が続いており、3年ごとの報酬改定のうち、2006年で大幅に増えていることに気付く。特定事業所加算の創設に加えて、小規模多機能など地域密着サービスに加え、要介護度を悪化させないための予防介護事業が制度化され、それぞれに単価が定められたのが理由である*4。2008年の伸びも顕著である。この時は介護報酬改定の時期ではないが、療養病床に関するサービスコードが急増したためである。その後、2009~2010年で件数は減った*5が、2012年改定で再び増加に転じた。訪問介護のサービスコード数が2010年比で3.8倍も増えた点に加えて、介護職員の給与アップを目的とした「介護処遇改善加算」*6の創設が影響している。複雑化の類型については、図2のように整理できるであろう。


◇図2 介護報酬複雑化の類型 ≪拡大はこちら≫


(出所)厚生労働省資料、介護給付費単位数等サービスコード表を基に筆者作成





 本稿執筆に際しては、民間組織の「全国マイケアプラン・ネットワーク」に加えて、現場の医療・介護関係者から情報提供を頂いた。ここに感謝の意を記したい。
*1 ケアプランは自己作成できるが、作成手続きが煩雑な上、保険者である市町村に忌避する傾向が強く、少数にとどまっている。
*2 具体的には「サービスコード表に載っている単価×サービスの使用回数」を算出した上で、物価や地価などを考慮して6段階に区分されている地域係数を乗じて、月額報酬と自己負担が決まる。
*3 2006年度に創設。加算措置には3種類があり、研修や会議の開催、介護福祉士の資格取得者数などの要件を満たせば、最大20%の加算を受け取れる。
*4 サービスコード表が在宅・施設系を中心とする「介護サービス」に加えて、「介護予防」「地域密着」の3種類になったのも2006年度以降である。
*5 2009年は主に短期入所療養介護(介護老人保健施設)に関する算定構造が変更されたためであり、2010年は3級ヘルパーの訪問介護に報酬を付けなくなった影響である。
*6 「介護職の低賃金が高い離職率に繋がっている」という認識の下、月額平均で1万5000円の給与アップを目的とした「介護職員処遇改善交付金」(予算額は3975億円)が2009年度第1次補正予算で創設された。しかし、2011年度に期限切れとなり、介護報酬本体で対応することになった。職員のキャリアアップに向けた内部体制などに応じて3類型がある。