タイプ
レポート
日付
2013/6/12

利用者本位の医療・介護改革に向けて

第1回連続フォーラムを振り返って




東京財団研究員兼政策プロデューサー
三原 岳


東京財団は昨年10月、政策提言『医療・介護制度改革の基本的考え方』を公表した。今年度は制度改革に関する議論の喚起と国民的な合意を目指して、「医療・介護制度改革に関する連続フォーラム」を開催しており、「たらい回しの起きにくい良質なサービス体制に向けて」と銘打って、5月15日に第1回を開催した。

ゲストは東京都多摩市を中心に医療・介護サービスを複合的に展開する医療法人財団「天翁会」理事長の天本宏氏、「ケアーズ白十字訪問看護ステーション」統括所長で「暮らしの保健室」室長の秋山正子氏、英国で家庭医(GP)専門資格を取得した澤憲明氏の3人。

フォーラムでは東京財団研究会のメンバーや参加者を交えて、利用者本位のサービス供給体制や超高齢化時代の医療・介護連携、予防医療などに関して議論した。以下、フォーラムで出た意見に加えて、日々の研究活動で得た知見なども交えて総括したい。

1.医療・介護連携の深化に向けて

第1回フォーラム*1 の主なテーマはサービス供給体制。厚生労働省は近年、中学校区など人口1万人程度の生活圏を主体に、医療・介護を切れ目なく提供する「地域包括ケア」構想を掲げており、その実現に向けて診療・介護報酬の重点配分などに取り組んでいる。

その背景には人口の高齢化による医療・介護需要の増大があり、3人の話も人口の高齢化と慢性疾患の患者増に伴い、臓器・疾病を「治す医療」から生活面までケアできる「診る医療」に転換する重要性が共通していた。同時に、予防医療や健康・栄養指導など生活面も含めたケアを提供する上で、これまでの臓器別専門医だけでなく、チーム医療や全人的なケアを提供できる医師の存在に加えて、看護師やケアマネジャー(介護支援専門員)、介護職などの連携が欠かせない点も浮き彫りとなった。

しかし、図1のように現状の細分化されたサービスは利用者に不安と不便を与える可能性を否定できない。情報が十分に与えられない中で、利用者が自分のニーズに合った専門医やサービスを選ぶことになり、専門医やサービスの間でたらい回しになる恐れがあるためである。同時に、多様な関係者の連携が上手くいくかどうかは能力や資質、相性などで左右されることも想定される。

このため、サービス供給体制をどう改革するかが主な論点となった。天本氏は個別サービスの充実に向けて、病院の持つ機能を「細胞分裂」させる意義に加えて、「サービスの横断的・水平的統合とともに、多様なサービスを選択・決定する上では垂直的な意思決定システムを明確にしなければならない」と持論を展開した。


図1 細分化されたサービス体系のイメージ ≪拡大はこちら≫


(出所)東京財団作成。


英国のGPも一般的な疾患・外傷を診断・治療するとともに、必要に応じて専門機関につないでおり、「患者の代理人」として責任を持つ体制となっている。

また暮らしの保健室*2 の場合、看護師を中心にスタッフが全人的に対応し、各種関係機関につなぐ役割を果たしており、制度の外で実施している自由度があるため、同様の取り組みが他の地域に広がっている*3。しかし、秋山氏やスタッフのパーソナリティとネットワーク、実績に頼る弱点も持っている。

東京財団が昨秋の提言で、医療・介護サービスの責任主体として「地域包括ケア・グループ」の創設を訴えたのは、患者・利用者の不安を解消する上では「責任主体」を形成する必要があるとの認識が背景にある。

一方、責任主体の形成は「抱え込み」というデメリットも想定される。席上、天本氏が「高齢者住宅は生活の場じゃなきゃならないし、地域に開放しなければならない。抱え込んだら施設と同じ」と述べた通り、まちづくりの観点や住民参加の枠組みが問われる。

その際には患者の満足度などを公開し、選択の自由と住民参加を担保しようとしているイギリスの事例が参考になるのではないか。既にサービス供給主体の大規模化については、政府内でも論じられている*4 が、情報開示やケアの質評価、ケア提供体制に関する住民参加、サービス提供機関による患者・利用者のエンパワーメントなどの仕組みが欠かせない。


図2 「地域包括ケア・グループ」のイメージ ≪拡大はこちら≫
(出所)東京財団『医療・介護制度改革の基本的な考え方』(2012年10月)。



2.「総合診療医」に向けた議論

澤氏の発言内容は「総合診療医」の導入論議に役立つと思われる。総合診療医とは日常的に生じやすい病気を診断・治療し、必要に応じて専門機関に橋渡しする医師である*5。厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」は今年4月、総合診療医の専門教育を2017年度から開始する考えを打ち出しており、英国のGPに近い存在として、生活面まで含めた全人的なケアを提供することが期待されている*6

こうした医師の必要性を強調したのは超高齢化社会の到来を踏まえ、臓器・疾病別の専門医だけでは複数の疾病や慢性疾患を持った高齢者のケアに対処できなくなるとの問題意識が背景にあると思われる。秋山氏が「たらい回しの一例」として紹介していた89歳男性高齢者のケースは、その典型例と言えるであろう。

しかし、日本プライマリ・ケア連合学会の「家庭医療専門医」資格を取得している医師は291人(日本専門医制評価・認定機構調査、2012年8月現在)にとどまっており、指導医の不足や臨床現場の確保など課題が指摘されている。これらの点は今後、日本プライマリ・ケア連合学会を中心に議論される予定だが、澤氏の発表は参考になると思われる。


図3 家庭医のイメージ ≪拡大はこちら≫

(出所)2013年5月15日「医療・介護制度改革に関する連続フォーラム第1回」澤憲明氏資料。


さらに、チーム医療を充実させる上で、三人が共通して看護師の重要性を指摘した点も見逃せない。医学的な知識を持ちつつ、生活面までケアできる看護師の存在は医療・介護の両者を接続する「翻訳者」としての機能が期待される。澤氏によると、イギリスではGPに所属する看護師が診療所の個室を持ち、風邪などの簡単な診断・治療を実施しており、医師の負担軽減に繋がっている。

日本でも医療的ケアを実施できる「特定看護師」の導入論議に加えて、(1)生活指導が必要な糖尿病に関して、医師の指示書を基に看護師が生活・栄養面で外来指導できる仕組み(2)看護師の指示がなくても、たんの吸引を一部の介護施設で認める措置―なども始まっている。今後、医療・介護連携やチーム医療の深化を図る上で、医師から看護師、看護師から介護関連職への権限移譲が必要になるだろう。

3.都道府県と市町村の関係

「日本の自治体レベルではプライマリ・ケアを何処でも議論していない。役割分担が不明確」「市町村がプライマリ・ケアにどう関わって行くべきか。法的な枠組みが必要」―。フォーラムでは医療・介護制度に関する都道府県と市町村の役割分担も話題となった。


表1 医療・介護・福祉に関する計画策定権限 ≪拡大はこちら≫


(出所)東京財団作成。
(注)「◎」はメインに計画を策定する主体。なお、高齢者保健福祉計画、介護保険事業計画、地域福祉計画については、都道府県が市町村計画を補完・支援する計画を策定する。健康増進計画に関しては、都道府県計画の中身を勘案して市町村が計画を策定する。



既に政府の「社会保障制度改革国民会議」で国民健康保険の都道府県単位化に向けた議論が展開されており、都道府県が策定した次期保健医療計画では在宅医療の状況も反映させることになっている。

しかし、現在は表1の通りに医療と高齢者住宅の計画が都道府県、介護計画が市町村と整合が取れておらず、役割分担に関する議論が求められる。

次に、電子カルテの整備と活用である。澤氏の説明によると、イギリスでは電子カルテが全国規模で整備されており、インフルエンザの予防接種に際しては、予防接種を促す手紙を診療所から出して、看護師が外来患者が注射を打ち、その結果は成績払いの報酬制度として収入に反映される仕組みとなっている。その際、公費で対応するのは65歳以上の高齢者や医療現場関係者、糖尿病患者、ぜんそく患者などハイリスクの人に限定しており、これらのデータは全て電子カルテで管理されている。

一方、日本では全国規模のシステムは整備されておらず、2016年度にスタートする「社会保障と税の共通番号(マイナンバー)制度」についても、医療関係の利用は今後の検討課題とされている*7。健康寿命の延長や予防医療の充実に向けて、電子カルテやレセプト(診療報酬明細書)の利活用に向けた検討が必要となる。

同時に、電子カルテの導入は24時間診療に役立つのではないか。現在も「在宅療養支援診療所」*8 では2カ所以上の医療機関が連携するケースが増えており、夜間帯などに普段接していない患者を診察することになるが、担当医同士の情報共有は紹介状のフォーマットをやり取りする程度にとどまっている。患者・利用者の満足度向上と医療・介護サービスの適正利用に向けて、電子カルテの利活用は避けて通れない課題と思われる。

4.報酬制度の見直しに向けて

報酬制度の問題も浮き彫りとなった。天本氏が指摘していた通り、24時間随時対応サービスには空きベッドの確保が必要である。しかし、現在は治療・ケア行為ごとに加算する出来高払いが中心*9 となっており、病床の回転率を上げたり、満床にしたりすることが収益増に繋がる制度設計となっているため、医療機関が常に患者を受け入れられるよう緊急用病床を持つ場合は「持ち出し」になる。

さらに、現行の報酬制度では医療機関や介護施設に行かせないようにする予防的なケアや健康指導を考慮できない。暮らしの保健室が報酬制度の枠外で実施され、厚生労働省の補助金である「在宅医療連携拠点事業」などで必要な経費を賄っているのも、現状の報酬制度では対応できないことを意味している。

同じことは家庭医についても指摘できる*10。家庭医は過度な医療化を防ぎ、継続的なケアを提供することに力点を置いており、医療機関の厄介にならないようにする役目を持つ。このため、現行の出来高払い制度を前提にすると、やればやるほど収入が減るインセンティブに働く。イギリスの場合、約7割を地域の人頭払いで支払う一方、成績払いと出来高払いを組み合わせている。今後、総合診療医を日本で普及させる上では、報酬制度をどう改革するかがポイントの一つになるであろう。

それと同時に、人数や入院日数などを支払い単位とする包括払いに切り替えた場合、サービス提供機関にとっては、どんなに費用がかかっても収入が変わらないため、必要な医療行為を止める「過少診療」などの弊害も起こり得る。そうした弊害を防ぐガバナンスの仕組みとして、情報開示や第三者評価、住民参加などの枠組みも必要になると思われる。

5.医療化の防止と、利用者のエンパワーメントに向けて

最後に、こうした制度改革を進める際の大前提として、患者・利用者のエンパワーメントが欠かせない点である。全人的なケアを提供するプライマリ・ケアを充実したとしても、患者・利用者が「丸投げ医療」「丸投げ介護」を続ければ、医療・介護現場に疲弊をもたらすことになる。フォーラムでも「自分が何をして欲しいか、(患者に対する)啓発活動が必要」(天本氏)、「高齢者が入院すると、廃用症候群になる。無闇に救急車を呼ばないことが重要」(秋山氏)などと、患者・利用者がサービスを適切に利用する必要性を指摘する声が相次いだ。

さらに、患者・利用者の自己選択と「適切なサービス利用」を伴わない限り、生活・福祉の領域でカバーすべき分野を医療に依存することになり、健康寿命の延長や生活と密着している在宅ケアの実現、自分らしい最期は困難になる。奇しくも3人が「過度な医療化」を防ぐ必要性を強調していたことに気付く。

天本氏:患者・利用者のネガティブデータを集める余り、ポジティブデータまで失っている。医療を原因とした「医源病」が起きる。

秋山氏:高齢者が脱水症状⇒意識障害⇒転倒⇒骨折となり、在宅から救急車で急性期医療に運ばれると、急性期医療が重介護状態を作り出す。

澤氏:(健康な状態な人も)不要な検査や治療で何かが見付かってしまうと治療になる。そうなると、(医療が患者を不健康にする)医療化の負のスパイラルも出て来る。

患者・利用者の「賢いサービス利用」を支える総合診療医や看護師、保健師、ケアマネジャーの育成・資質向上とともに、患者・利用者が適切に判断できる簡素な制度が必要になると思われる。


東京財団では今後、非営利・独立の立場から以上の点を研究するとともに、「患者・利用者の適切な利用」を支える制度設計を中心に、連続フォーラムなどの形で世に問いたいと考えている。



*1 第1回フォーラムの資料、議事要旨、動画はリポート「医療・介護制度改革を考える連続フォーラム <第1回>」で閲覧できる。
*2 暮らしの保健室の詳細は「第46回 介護現場の声を聴く!」を参照。
*3 『コミュニティケア』2013年2月号によると、埼玉県幸手市や岐阜県高山市に広がっているという。
*4 政府の経済財政諮問会議では民間議員が医療機関の連携・補完を進めるため、医療法人同士の合併や権利の移転が容易となる規制緩和を提唱している。2013年5月16日経済財政諮問会議。政府の社会保障制度改革国民会議でも同様の議論が出ている。
*5 総合診療医の機能や役割、育成に際しての課題は東京財団で昨年末に研究会を開催している。議事要旨などはリポート「日本における総合診療医の可能性について」を参照。
*6 厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」報告書(2013年4月)は総合診療医が必要な理由として、(1)複数の疾患を抱える患者には、専門医よりも総合的な診療能力を有する医師による診察の方が適切な場合もある、(2)地域では慢性疾患や心理社会的な問題に継続的なケアを必要としている患者が多い、(3)高齢化に伴い、特定の臓器や疾患を超えた多様な問題を抱える患者が増える―などの点を挙げつつ、総合診療医の能力として「日常的に頻度が高く、幅広い領域の疾病と傷害などについて、適切な初期対応と必要に応じた継続医療を全人的に提供すること」と定義している。
*7 例えば、厚生労働省の有識者検討会が2012年9月にまとめた「医療等分野における情報の利活用と保護のための環境整備のあり方に関する報告書」では、医療・介護に特化して健康情報をデータベース化する「医療等ID」(仮称)の創設を求めている。2013 年5月の経済財政諮問会議でも、各保険者が個別に所有しているレセプトを県単位で共有化する取り組みを福岡のモデル事業を引き合いに出しつつ、安倍晋三首相が「医療介護情報をITで統合的に利活用する仕組みについては、具体的に前進させる方向で御検討いただきたい」と述べている。2013年5月16日経済財政諮問会議議事要旨。
*8  2006年度に創設。「24時間連絡を受ける保険医・看護職員を事前に指定し、連絡先を文書で患者に提供している」などの要件を満たすことが必要。
*9 一部の病院では、2003年度から「包括払い」(DPC)と呼ばれる仕組みが導入されている。出来高払いと異なり、包括払いでは入院1日当たりを支払い単位として検査代や薬代を含めており、在宅療養支援診療所でも管理料スタイルの診療報酬が導入されている。介護報酬も一部で包括払いの仕組みが導入されており、通所、宿泊、訪問介護・看護サービスを柔軟に提供する「複合型サービス」の基本報酬は1カ月の定額で設定されている。
*10 この点は論考『総合診療医普及のカギは報酬制度』を参照。