タイプ
論考
プロジェクト
日付
2013/2/28

義務付け見直しから問い直す地方分権 <page3>

~改革論議を巡る通説の再考~


「国=悪、地方=善」なのか?

義務付け・枠付けの見直しに限らず、地方分権を巡る論調は往々にして「権限に固執する国は全て悪」と断定付け、結果として地方を「善」と見做す方向に傾きがちである。実際、義務付け・枠付けの見直し論議に際しても、2010年3月31日の地域主権戦略会議について、新聞各紙は「権限移譲に省庁抵抗」「市町村へ権限 渋る各省」との見出しを付けて報じた*14。しかし、どの局面でも国が「悪」、地方は「善」と言い切れるのだろうか。そもそもの問題として、「地方」とは誰を指しているのだろうか。言うまでもなく、地方の意見を代弁するのは地方自治法に位置付けられた全国知事会など地方六団体*15 のことであり、2011年4月に法制化された「国と地方の協議の場」*16 にも地方六団体が「地方の代表」として参画するなど、「地方」の意見を反映する上で、地方六団体の意見は決して無視できない。実際、引き上げた後の消費税収の配分*17 を巡る国との協議や、地方公務員人件費の削減*18 を巡る議論では、地方六団体の代表が「地方」の声を代表して国に対峙した。しかし、都道府県と市町村の利害が対立する場面も少なくない上、一口に「市」「町村」と言っても人口や面積、産業構造、職員数・議員数などが異なり、住民のニーズや地域の課題などは異なるはずである。こうした様々なニーズを「地方の主張」と包摂した瞬間、「地方の主張」が個々の自治体のニーズから乖離するのは当然予想される現象である。

さらに言えば、「地方の主張」も内部の議論や外部環境に応じて変化している点に留意する必要がある。例えば、公立学校耐震化予算に関して、地方六団体は三位一体改革の時、「補助金があることで却って補助金待ちになり、耐震化が進まない状況になっている。廃止・税源移譲すれば財源のメドが立ち、国に縛られずに地方の判断で計画的に耐震化を推進できるようになる」と主張していた*19 が、現在、政府に対する要望書には「国における耐震化のための十分な財源措置など、学校・社会教育施設の耐震化を促進すること」*20、「公立学校施設等の耐震化事業及び耐震補強事業と同一棟の改修工事等を計画的に推進できるよう、必要な財源を確保するとともに、財政措置の拡充を図ること」*21 との文言が見て取れる。東日本大震災を受けた防災意識の高まりを考慮する必要があるとはいえ、同じ補助制度に関するスタンスが「地方移譲→国庫補助拡充」と180度変わったことは紛れもない事実であり、メディアが好む「国=悪、地方=善」という単純な勧善懲悪のストーリーが常に成り立つわけではないことを示している。

当然のことであるが、国から地方への権限移譲は「目的」ではなく、住民ニーズに近い自治体に自己決定を可能にすることで、効率的な行政運営を可能とするための「手段」に過ぎない。権限や事務の特性など実質面に着目しつつ、国・地方の適切な役割分担を考えるべきであり、実質から乖離した権限移譲は却って非効率になる。実際、今回の義務付け・枠付けについても、社会福祉法人に対する指導監査権限に一部が都道府県から市に移譲されたものの、兵庫県内の21市が権限を県に委託し、移された権限を事実上、県に戻す対応が取られている*22。国から地方、都道府県から市町村への権限移譲だけを金科玉条と考えず、必要に応じて地方→国、市町村→都道府県に逆移譲することも含めて柔軟な議論が必要となる。

<参考文献>
▽大村慎一「義務付け・枠付けの見直しに関する条例制定の動向」『自治体法務研究』2012年冬号
▽川崎政司編著『ポイント解説「地域主権改革」関連法』2012年1月、第一法規
▽鳫咲子「子どもの貧困と就学援助制度」参議院調査室編『経済のプリズム』2009年2月号
▽小林庸平「就学援助制度の一般財源化」参議院調査室編『経済のプリズム』2010年4月号
▽小早川光郎監修『解説 地域主権改革』2011年10月、国政情報センター
▽地方交付税制度研究会編『平成24年度 地方交付税制度解説単位費用篇』2012年10月、地方財務協会




*14 例えば、『朝日新聞』『日本経済新聞』2010年4月1日。
*15 地方自治法263条3では、「(知事や市町村長、議長が)相互間の連絡を緊密にし、共通の問題を協議・処理するための全国的連合組織を設けた場合、当該連合組織の代表者は総務大臣に届け出なければならないと定めており、この規定に沿った団体として、全国知事会、全国市長会、全国町村会、全国都道府県議会議長会、全国市町村議会議長会、全国町村議会議長会が地方六団体と総称される。
*16 三位一体改革を契機に、非公式な協議の場は2004年9月からスタートしていたが、2009年総選挙で設置の是非が争点になり、民主党政権期に制度化された。
*17 社会保障に関する地方単独事業の規模を巡り、国・地方が激しく対立した。引き上げた後の消費税収を社会保障費に充当することにしたため、地方単独事業の多寡が消費税の地方配分割合に影響するためである。結局、2015年10月に消費税が10%になった時点で、地方消費税を1%から2.2%、地方交付税の法定率を税率換算で1.18%から1.52%に引き上げることで決着した。
*18 東日本大震災を受けて国家公務員の人件費は2012年度から2年間、平均7.8%のカットを実施したのに対し、地方公務員人件費の削減は実施しなかった。このため、政府は2013年度政府予算の編成に際して、地方公務員の人件費削減を要求。結局、地方財政対策では地方公務員の人件費を8500億円削減し、出口ベースの交付税も約4000億円圧縮された。
*19 中央教育審議会第15回義務教育特別部会2005年5月31日、全国市長会代表の発言。
*20 全国知事会「平成25年度国の施策並びに予算に関する提案・要望(文部科学省関係)」(2012年7月)。
*21 全国市長会「平成25年度国の施策及び予算に関する提言 公立学校施設等の整備に関する提言」(2012年11月)。
*22 『神戸新聞』2012年10月11日。今回の見直しを通じて、一つの市域だけで施設を運営する社会福祉法人に対する指導監査権限が都道府県から市に移譲されたものの、特別養護老人ホームなど施設に対する指導監査権限は都道府県に残されたままとなっており、使い勝手の悪さが事実上、権限を戻す理由という。