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2008年大統領選挙と医療問題 第二回 民主党候補者の改革プラン

December 27, 2007

まず、民主党の主要候補者の医療保障制度改革プランについて、概観してみたい。2008年大統領選に向けて、民主党候補者の多くは、国民皆保険制度の導入など、抜本的な改革案を打ち出している。もともと改革に積極的な民主党とはいえ、これだけ多くの候補者が国民皆保険制度改革を掲げて戦うのは、やはり1992年選挙以来といえよう。なかでも最も注目されるのは、自らが医療問題の専門家でもある、ヒラリー・クリントンである。ヒラリーには、1993-94年のクリントン政権による国民皆保険制度改革に、タスクフォースの議長として深く関与したが、「大きな政府」につながるとして共和党や関連団体の猛烈な反発を招き、失敗した苦い経験がある。そのため、自らの案が「大きな政府」につながるものではない点を、とりわけ強くアピールしている。2007年の9月に、正式なかたちで発表された彼女の改革案は、次のような特徴をもつ。

最も重要なのは、全国民に対して、職場や公的プログラムを通じた医療保障制度への加入を義務付ける点だ。これはいわゆる“individual mandate”と呼ばれるものであり、マサチューセッツ州の改革プランも、この制度を採用している。また、大企業には従業員への保険給付の提供や無保険者対策のための財政支出を求め、さらに個人や中小企業には払い戻し可能な税額控除により保険料補助を行う、としている。個人は、連邦公務員医療保障プログラム(Federal Employee Health Benefits Program)を通じて運営される、新たな医療選択メニュー(Health choice Menu)を通じて、公的および民間プランへの加入を選択できる。改革には1100億ドルの費用がかかるとされるが、それは、ブッシュ政権による富裕層に対する減税の廃止やメディケア処方薬価格の引き下げ、予防医療の充実、医療情報技術の促進、などによって賄うとしている。

ヒラリーの改革案は、すでに2007年の2月に、他の多くの候補者に先駆けて公表された、ジョン・エドワーズの国民皆保険制度改革プランに類似している。彼の案でも、加入可能な状態になれば、個人は医療保障制度に加入するよう義務付けられ、それによって2012年までに国民皆保険を実現するとしている。企業雇用者は従業員に対して医療保険を提供するか、その保険料を援助しなければならない。また彼の案では、医療保障へのアクセスを改善するために、互いに競合する公的・民間の医療プランを提供する医療マーケット(Health Market)を創設し、その際の保険料を援助するための税額控除を新たに提供するとしている。また、より多くの低所得成人や児童を加入させるための、公的医療保障(メディケイドおよび州児童医療保険プログラム(SCHIP))の拡張が盛り込まれている。コストは1年間で900億ドルから1200億ドルかかるとされ、それはブッシュ政権による減税の見直しや、予防医療の充実、医療記録の電子化などによって賄うとしている。

ヒラリー(そして基本的にエドワーズ)が、国民に医療保障制度への加入を義務付ける立場をとっているのにたいして、バラク・オバマのプランは、その点で異なる。彼のプランは、すべての児童には医療保障制度への加入を義務付けるが、すべてのアメリカ人に対してそれを義務付けるものではない。企業雇用者には、従業員に医療保険を提供するか、新たな公的医療プログラムのコストを負担することが求められる。また、National Health Insurance Exchangeと名づけられた新たなシステムを創設し、中小企業や、公的医療保障および雇用者提供保険へのアクセスをもたない個人が、それを通じて新たな公的プランや、認可された民間保険プランを購買できるようにするとしている。プログラムにおける給付内容は、連邦公務員医療保障プログラムのそれと、同一の包括的な内容と定められている。また、彼の案には、メディケイドやSCHIPなど公的医療保障の拡張も盛り込まれている。コストは、1年間で500億ドルから650億ドルかかるとされ、医療記録の電子化やブッシュ政権による富裕層に対する減税の削減によって賄うとしている。

このように、ヒラリー、エドワーズ、オバマはいずれも、公的医療保障の拡張を最小限度にとどめ、民間中心の医療保険制度に依拠した改革案を打ち出している。これにたいして、デニス・クシニッチは、民主党、とりわけリベラル派が歴史的に強く支持してきた、シングル・ペイヤー・アプローチに基づいた改革案を打ち出している。このアプローチは、すべての国民に基本的な保険給付を保障し、その財源は保険料方式ではなく税方式のもとに連邦政府が徴収する、そして医療費を決定し、医師・病院など医療提供者に診療報酬を支払う権限を、政府に一元的に付与するというものだ。クシニッチの案は、高齢者を対象とした公的保険であるメディケアを全国民に拡大することを目的としているため、 “medicare for all”とも呼ばれる。このプランのもとでは、すべてのアメリカ人は、公的医療保障制度のもとに、保険料、免責額、そして自己負担額を支払うことなく、公的あるいは非営利の供給者から、歯科医療、精神医療、眼科医療などを含む包括的な医療サービスを受診することができるとされている。

以上、主要な民主党候補者の医療保障制度改革プランについて、概観してきた。全体的にみると、クシニッチなどをのぞけば、民主党候補者の改革プランは類似する傾向にある。公的医療保障の拡張は最低限度にとどめ、民間中心の既存の医療保障制度に依拠するという点、企業雇用者提供保険を促進する点、保険者間の市場競争を一定程度促進する点、さらに改革の財源をブッシュ減税の見直しや情報技術の促進、メディケア処方薬価格の規制などによって賄う点などで、多くの候補者のプランは共通しているのである。実際、先のカイザー家族財団の調査でも、民主党候補者の医療改革プランは全体的にみてほぼ同じだと思う、と答えた割合は45%にものぼり、分からない、あるいは答えなかった割合が30%、重要な違いがそこにある、と答えた人間は25%にとどまった。

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■研究プロジェクトメンバー :天野拓(慶應義塾大学非常勤講師)

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