タイプ
論考
プロジェクト
日付
2017/10/2

アメリカ大統領権限分析プロジェクト:大統領スタッフの抱える構造的ジレンマ

菅原和行(福岡大学教授)

1.スタッフ人事の混乱は大統領の問題か、構造的な問題か

 ドナルド・トランプ政権の発足以来、ホワイトハウスのスタッフ人事は混乱が続き、政権運営にも支障を来している。大統領とスタッフ、またはスタッフ間の軋轢が深刻化し、マイケル・フリン国家安全保障問題担当補佐官、ショーン・スパイサー報道官、ラインス・プリーバス首席補佐官、スティーブン・バノン首席戦略官など、多くのスタッフが早々にホワイトハウスを去ることとなった。

 混乱の原因はどこにあるのだろうか。この点に関しては、第一にトランプ大統領自身の問題は否定できない。政治経験の欠如や政権発足までの準備不足により、スタッフの適切な人選がなされなかった面もあるであろうし、スタッフを有効に活用できないなか、頻繁な入れ替えが続いている印象も受ける。

 一方、トランプ政権ほど顕著ではないにせよ、20世紀後半以降、歴代の政権は多かれ少なかれ、スタッフとの関係やその活用のあり方に苦心してきた。そのため、今日の大統領スタッフにまつわる問題は、大統領個人に起因するものに加え、構造的なものもあるように思われる。ここでは、このような視点から、大統領スタッフの抱える構造的問題について考察したい。

2.制度的大統領職の発達

 アメリカ政治研究では、しばしば制度的大統領職(institutional presidency)という概念が用いられる。この概念は、大統領とそれを取り巻くスタッフ機関(ホワイトハウス事務局、行政管理予算局、経済諮問委員会、国家安全保障会議など)の総称として用いられるほか、大統領とスタッフが一体となって行動する際のパターン化されたシステムを指すこともある。つまり、大統領の決定や行動は、大統領個人によってなされるというよりも、大統領と多様なスタッフとの関係によって組織的になされるという認識である(Moe, 1985)。

 こうした組織としての大統領職は、大統領が政治的リーダーシップを発揮する際の制約、たとえば知識的制約や時間的制約などを克服すべく発達したものである。20世紀初頭まではホワイトハウスにおいて大統領を支えるスタッフがごく少数であったため、大統領は政策形成において各省庁の官僚組織に依存せざるを得なかった。しかし、自律性の強い省庁の官僚組織は、大統領がリーダーシップを発揮する際にしばしば足かせとなることもあった。こうしたなか、フランクリン・ローズヴェルト政権期には、大統領職の強化を目的として大統領府が設置され、大統領直属のスタッフも増員された。その後も、歴代の大統領は直属機関の設置・拡充やスタッフの増員を図り、応答的な政策形成を可能とする体制の構築を試みた(Rourke, 1992)。

 大統領スタッフが拡充された背景として、大統領を取り巻く環境の変化もあげられる。とりわけ、20世紀後半以降に見られた情報技術の発展は重要な契機となった。今日、大統領はかつてとは比べものにならないほど、大量の情報を処理することが求められている。玉石混交の情報が溢れるなか、大統領自身が必要な情報を選り分け、迅速かつ的確に処理するには限界がある。また、現代では政府自体が大量の情報を発信し、世論に多大な影響を与えている。公式の演説や日々の言動に至るまで、情報の発信には専門のスタッフによる綿密な検討が不可欠となる。さらには、新聞、テレビ、インターネットなど、多様化するメディアへの対応も求められる。こうした情報技術の発展は日々加速しており、情報を扱うスタッフの重要性はより一層高まっている(Mackenzie, 2001; Kumar 2007 [邦訳, 2016])。

3.スタッフ組織の構造的ジレンマ

 大統領スタッフの拡充は、大統領自身の知識的・時間的制約を補い、多様な政策分野において迅速かつ的確な決定を下すことを可能にした。しかし、スタッフは高度な専門性を追求し、組織として行動するようになるにつれ、省庁の官僚組織と同様、標準化や形式的合理性を志向するようになる。一方、大統領はスタッフに対してつねに応答性を求めるため、標準化されたシステムが大統領の意向に沿わないこともしばしば起こりうる。大統領制の研究者であるテリー・モーによれば、個々の行政組織はそれぞれの論理、利益、信念に基づいて行動しているため、大統領がそれらを統制することは容易ではなく、その点は省庁組織に限らず、大統領府の諸機関にも当てはまるということである(Moe, 1985)。また、マシュー・ディキンソンによれば、大統領スタッフは専門能力と政治的忠誠のどちらか一方に偏りがちであり、その結果、大統領府の各機関においても中立的な専門能力と大統領への応答性を同時に満たすことは構造的に困難であるということである(Dickinson, 2005)。

 応答性の低下したスタッフ組織に対し、20世紀後半以降の大統領はその人事権を用い、人員の入れ替えや組織の改変を試みてきた。たとえば、リチャード・ニクソン政権では、ホワイトハウスのスタッフが増大し過ぎたため、あえて規模を縮小させ、少数の補佐官に行政権を集中させた(Dickinson, 2005)。また、ロナルド・レーガン政権では、大統領への応答性の低い組織において人員整理を行うことにより、職員の士気を低下させ、離職者を増やす戦術を用いた(Lewis, 2008 [邦訳, 2009])。このように、20世紀後半以降の大統領は、しばしばスタッフ組織の「政治化(politicize)」を図ることにより、中立的な専門性よりも、大統領への応答性を向上させることを志向したのである(Moe, 1985)。

 大統領スタッフは大統領に応答的な政策形成を実現すべく、専門性を追求し、組織として行動するようになるが、当の大統領はそれを応答性の低下と見なし、スタッフ組織の「政治化」を図ろうとする。このことがスタッフ組織の抱えるジレンマであり、機能不全に陥りやすい構造的背景と言えるのではないだろうか。

4.大統領スタッフの応答性とは

 以上のように、大統領スタッフによる職務の遂行が専門的・組織的に行われるようになるにつれ、大統領の意向から乖離することも起こりうる。元来、大統領スタッフは応答性に乏しい省庁組織に対抗して拡充された側面が強いが、専門化や組織化が進んだことにより、自らも官僚制に特有な性格を帯びるようになったといえるかもしれない。たしかに、大統領スタッフは政権交代のたびに新たに任命され、任命後も大統領の人事権によって入れ替えが可能なため、省庁組織の職業公務員とは大きく異なる。しかし、今日、大統領スタッフが高度に専門化・組織化した結果、応答的な政策形成の実現という本来の職務から乖離する場面も見られるようになり、こうしたスタッフの逆機能とも言うべき状況が大統領の不満を高めている面は否めない。

 一方、何をもって応答性の低下と見なすかという点は、判断が難しい。場合によっては、スタッフが大統領の利益を考えて行動した結果、短期的に大統領と衝突するようなこともある。歴代の首席補佐官も指摘するように、大統領にはさまざまな制約があるため、たびたび誤った判断を下すこともある。その際、大統領との短期的な衝突も厭わず、専門的な見地から適切に意見を述べることも、本来、スタッフが果たすべき役割であろうし、結果的には大統領の利益に応答的な行動と言えるかもしれない(Kernell and Popkin, 1986 [邦訳, 1988])。

 このように、大統領スタッフの行動が応答的であるかどうかを見極めるのは容易ではないが、結局、その見極めの主体となるのは、スタッフを統制する立場にある大統領をおいて他にはない。そのため、スタッフが適切に機能するかどうかは最終的には大統領自身に依存する面が大きく、今日の機能不全の原因が大統領個人にあるのか、もしくは構造的な問題にあるのかを一概に結論づけることは難しい。いずれにせよ、他国に類を見ない規模の大統領スタッフを抱えるアメリカにおいて、大統領とスタッフがいかに向き合うべきかという点は、今後も継続的に検討されるべき課題であろう。


参考文献

・Dickinson, Matthew J. (2005), “The Executive Office of the President: The Paradox of Politicization”Joel D. Aberbach and Mark A. Peterson eds., The Eecutive Branch, New York: Oxford University Press: 135-173.

・Kernell, Samuel and Samuel L. Popkin (1986), Chief of Staff: Twenty-five Years of Manging the Presidency, Berkeley: University of California Press. [邦訳]S・カーネル、S・L・ポプキン(1988)『大統領首席補佐官―ホワイトハウス政治の実像』徳田太司訳、東洋経済新報社。

・Kumar, Martha Joynt (2007), Managing the President's Message: The White House Communications Operation, Johns Hopkins University Press. [邦訳]マーサ・J・クマー(2016)『ホワイトハウスの広報戦略―大統領のメッセージを国民に伝えるために』吉牟田剛訳、東信堂。

・Lewis, David E. (2008) The Politics of Presidential Appointments: Political Control and Bureaucratic Performance, Princeton: Princeton University Press. [邦訳] デイヴィッド・ルイス(2009)『大統領任命の政治学―政治任用の実態と行政への影響』(稲継裕昭監訳, 浅尾久美子訳)、ミネルヴァ書房。

・Mackenzie, G. Calvin (2001) “The State of the Presidential Appointments Process,” G. Calvin Mackenzie ed. Innocent until Nominated: The Breakdown of the Presidential Appointments Process, Brookings Institution Press: 1-49.

・Moe, Terry M. (1985) “The Politicized Presidency”John E. Chubb and Paul E. Peterson eds., The New Direction in American Politics, Washington D.C.: The Brookings Institution: 235-271.

・Rourke, Francis E. (1992) “Responsiveness and Neutral Competence in American Bureaucracy,” Public Administration Review, 52 (6): 539-546.

・菅原和行(2016)「官僚制―オバマによる応答性の追求とその限界」、山岸敬和、西川賢編著『ポスト・オバマのアメリカ』大学教育出版、43-60頁。

・田中秀明(2009)「専門性か応答性か:公務員制度改革の座標軸(上)」『季刊行政管理研究』126号、3-36頁。