タイプ
論考
プロジェクト
日付
2018/5/22

(特別寄稿)ソーシャルセクターの立場から見た企業とのエンゲージメント

一般財団法人CSOネットワーク事務局長・理事、SDSN Japan理事

黒田かをり

 

企業とソーシャルセクターは、一方通行の関係から対話等の働きかけを通じて双方向の関係へとここ20~30年で変化してきた。これらの変化を踏まえたうえで、ソーシャルセクターから企業への働きかけの具体例を詳解し、さらに両者の協働の取り組みの現状を分析。ここから、ソーシャルセクターが今後持続可能な社会の構築に向けて最大限の貢献をするため課題は何か考察する。

 

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企業とソーシャルセクターの関係の変化
ソーシャルセクターによる企業とのエンゲージメント
持続可能な社会構築に向けた企業とNPOの協働

まとめ―SDGs時代に求められるソーシャルセクターと企業の協働のあり方


 

 持続可能性(サステナビリティ)は、21世紀の社会経済システムに求められるキーワードであり、国際社会にとっての最重要共通課題である。その背景には、気候変動や生物多様性の喪失、貧困、格差、食料問題、ジェンダー、地球1個分の生産能力を超えた生産・消費活動[1]など、あらゆる地球規模課題が相互に連関しながら深刻化しており、このままでは社会の持続可能性が脅かされるという強い危機感がある。2015年9月、国連総会で「私たちの世界を変革する―持続可能な開発のための2030アジェンダ」(以下、2030アジェンダ)が全会一致で採択された。この文書の中核をなすのが、17の目標、169のターゲットから構成される持続可能な開発目標(SDGs)である。

 国際目標の達成に向けては、政府、企業、国際機関、NPO/NGO等のソーシャルセクターなどがそれぞれ責任を果たして取り組むと同時に、それぞれの違いを乗り越えて協働していくことが求められている。地球規模課題はどれ一つとっても単独のセクターだけでは解決し難いからだ。

 本章では、企業とソーシャルセクターに焦点を絞って、両者の関係性の変化とSDGs時代の協働のあり方を考察する。

1.企業とソーシャルセクターの関係の変化

 かつては、利潤追求の企業と社会課題解決を目指すNPO/NGO等のソーシャルセクターとは相容れないといわれたが、ここ20~30年で両者の関係性は大きく変化している。その大きな要因は、上記した「持続可能性」への危機感の高まりである。

 1990年代から、グローバル化の進展と相俟って、気候変動、生物多様性の喪失、水問題、人権侵害、貧困などの地球規模課題の重要性が増し、社会の持続可能性を脅かす共通課題として認識されるようになってきた。グローバル化の影で、影響力を増大させた多国籍企業の行動が原因とされる環境問題の悪化や途上国に伸長するサプライチェーン上の労働・人権問題等の深刻化が露呈した。

 これにいち早く反応したのが国際NPO/NGOで、企業の社会的責任(CSR)への要請を世界的に高める牽引力となった。

 同時に、深刻化する地球規模課題の解決に向けて、企業の資金力、ビジネスモデル、イノベーションなどへの期待が高まると同時に、政府、企業、NPO/NGOなど多様なセクター間で連携して取り組む必要性が広く認識されるようになった。

 2000年に入ると、企業は、CSRへの取り組みを強化すると同時に、CSRを本業の中に位置付け、企業経営に組み込むようになってきた。また、ソーシャルセクターとの戦略的な関係を築くとともに、経済的価値を創出しながら社会的ニーズに対応することで社会的価値を創造する「共通価値創造」[2]のアプローチを取るなど、企業と社会の関係自体が変化してきた。

 ソーシャルセクターから見た企業との関係性の変化を単純化して述べると、かつてのソーシャルセクターが企業に対して批判や監視、または商品のボイコットなどを行う「対峙型」や、企業がソーシャルセクターを支援する「フィランソロピー型」といった「一方通行」の関係から(あるいは、そもそも企業にとりたてて関心を持たないソーシャルセクターも多かった)、近年では持続可能な社会の構築に向けて、ソーシャルセクターが企業に働きかけ(エンゲージメント)を行う、つまり、対話などを通じてコミュニケーションを確立する、さらに一歩進めて協働するといった双方向の関係性が多く見られるようになった[3]。もっとも、「対峙型」や「フィランソロピー型」がなくなったということではない。実際、戦略的にさまざまな形で企業にエンゲージメントを求めるソーシャルセクターも多く、両者の関係はより多様化しているといってよいだろう。図表1は企業とソーシャルセクターの関係の変化のイメージを表したものである。

 次に、持続可能な社会構築を目指して、ソーシャルセクターが、企業とどのようにエンゲージしているのかを詳述する。

2.ソーシャルセクターによる企業とのエンゲージメント

 NPO/NGO等のソーシャルセクターは、従来、企業行動による負のインパクトの是正を求めて企業に働きかけをすることが多かった。なぜなら、多くのNPO/NGOは、先住民、女性、障害者、性的マイノリティ(LGBTI等)、児童労働をさせられている子ども、企業のサプライチェーンの中で長時間労働や強制労働をさせられている労働者、資源採掘や農業生産のために土地収奪をされる農民など、社会的に弱い立場にある人やグループの権利擁護や支援活動をしているからである。しかしながら、最近では、第1節で言及した共通価値創造において企業と協働するソーシャルセクターも増えている。共通価値創造においても、環境保護や脆弱な立場にある人々の視点が求められるからである。SDGsが「誰一人取り残さない(leave no one behind)」を最重要テーマに掲げていることもこの流れを加速化しているといえるだろう。

 

(1)ソーシャルセクターによる企業への働きかけ

 先述したように、ソーシャルセクターが企業行動への監視や批判を行い、企業や社会に対して声を上げ、行動したことは、企業の社会的責任(CSR)を国際的に推し進めるきっかけとなった。

 環境問題での象徴的な事例としては、1989年に、エクソンモービルの石油タンカー、バルディーズ号がアラスカ沖で座礁、大量の原油を流出させ沿岸部に甚大な環境被害を与えた事故をめぐる動きがある。この事故を受けて、企業の環境対応を求めるNPOや研究者は、CERES(セリーズ)という連合体を立ち上げ、企業が環境に対して守るべき社会的責任原則「セリーズ原則(当初はバルデイーズ原則)」を策定した[4]。日本においてもこの原則を日本企業に要請することを目的に、1991年バルディーズ研究会が立ち上がり、環境への関心が一気に高まった。なお、セリーズが母体となり、のちにCSR報告書のガイドラインをつくるグローバル・リポーティング・イニシアチブ(GRI)が発足した。

 労働・人権問題での有名な事例は、1990年半ばに起きた最大手スポーツ用品メーカーのナイキに対する不買運動である。同社は、再三、東南アジアの下請け工場での児童労働や低賃金労働を改善するよう指摘を受けていたが、取引先の問題だとして取り合わなかった。これに人権団体やNPOが反発、学生や消費者を巻き込む大規模な不買運動が展開され、同社は収益が落ち込み、企業イメージも大きく損ねた。結果、同社は、サプライチェーンにおける企業行動規範を設け、従業員の労働環境を改善することを約束した[5]。これをきっかけに企業や業界ごとのサプライチェーンにおける行動規範作成の動きが加速化した。

 

(2)マルチステークホルダー連携による企業行動指針の作成

 このころから、企業に対して単に批判するだけでなく、行動規範策定に関与してCSRを推進する活動に積極的に関わるソーシャルセクターが増えた。ソーシャルセクターが主導した行動規範やガイドラインには、当初、児童労働問題解消を議論するために集まった多様なステークホルダーが作成した国際労働人権規格のSocial Accountability 8000(SA8000)、複数のNGO、労働組合、企業の三者で結成された倫理貿易イニシアチブ(ETI)が作成したETIコード、先述のGRIが作成したグローバル・リポーティング・ガイドライン、CSR報告書への保証基準を定めたAccountAbility1000(AA1000)などがある。これらは、ソーシャルセクターが主体となり、企業を含むマルチステークホルダーの参画を得て作成されているのが特徴である[6]。ほかにも国際標準化機構(ISO)が2010年に発行した社会的責任の手引き書、ISO26000の策定にも、NPO/NGOは主要なステークホルダーとして積極的に関与した。

 また、ソーシャルセクターは、環境や社会の一定条件をクリアして生産・加工されている商品に認証を与える制度の構築にも積極的に関与した。主な国際認証としては、国際フェアトレードラベル機構(FLO)による商品認証制度、世界フェアトレード連盟(WFTO)の団体認証制度などがある。ほかにも、森林管理協議会(FSC)の森林・木製品認証制度や海洋管理協議会(MSC)の漁業資源認証制度、持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)などがあり、これらは環境NGOが主体となり、企業を含む関係団体など多様なマルチステークホルダー・プロセスで協議を重ね、開発しているのが特徴である。

 

(3)CSR評価への参画

 ソーシャルセクターによるCSR推進には、評価機関や調査機関との連携もある。社会責任投資(SRI)とは、企業のCSR経営を評価して行う投資であり、1990年代から欧米を中心に急速に市場が拡大してきた。近年では特に環境・社会・ガバナンス(ESG)投資として企業のCSRが評価されている。SRIの投資情報を提供する評価機関はNPOにより設立されたものも少なくない。SRIの代表的な調査・評価機関であるEIRIS(アイリス)は、非営利組織であると同時に、世界的なNGOとのネットワークを有し情報を得ている[7]。また、企業の気候変動対策と情報開示を求めることを目的に世界の主要な機関投資家らが2000年に非営利組織として設立したカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(現在はCDP)には、世界の主要SRIのほとんどが参画している。

 1990年代終わりには、金銭的価値だけでなく、社会的価値を適切に評価することで事業への投資価値を判断するための社会的投資収益率(SROI)が開発される。その後さらに発展してきているが、日本でも非営利組織SROIネットワークジャパン[8]が発足し、SROIの情報提供や研修などを実施している。

 さらに、企業の公表データ等を指標に照らしてその企業の人権や環境への取り組みを評価、公開する手法がある。国際NGOのオックスファムは、世界大手の飲料・食品会社を評価するプロジェクト「ビハインド・ザ・ブランズ」[9]を2013年に立ち上げた。ソーシャルメディアを活用することで、消費者を交えた双方向のコミュニケーションを可能にし、また対象企業もオンライン上で対応や発信を行なっている。オックスファムは、2017年に2013~16年の評価を分析し、各社とも総じて点数が高くなっていることを公表している。

 同様の手法を用いた取り組みに、銀行の投融資方針を独自の指標で格付けするフェアファイナンスガイドがある。日本でも3つの環境NGOが協働してフェアファイナンスガイド・ジャパン[10]を運営し、キャンペーンを展開している。

 最近では、NPO/NGOが機関投資家と協働して、セクター別に企業の人権に関するパフォーマンスを評価する企業人権ベンチマーク(CHRB)を開発し、2016年、農産物、アパレル、採掘業の3業種98社を対象としたパイロット・プロジェクトを実施し、注目を集めている[11]

 

(4)日本のソーシャルセクターの企業への働きかけ

 従来、日本では、政府やソーシャルセクター、消費者など企業を取り巻くステークホルダーからのCSRへの要請は限定的であり、CSRは企業を中心に発展してきた。欧米や一部のアジア諸国に比べて、企業に積極的に働きかけをするソーシャルセクターはまだ少ないのが現状である。

 日本での取り組みは、日本独自というより、国際的なネットワークに所属、あるいはそれと連携して行われるケースが多く見られる。先述のフェアファイナンスガイドはその一例である。また、早い段階から金融機関への働きかけをしているNGOに、地雷廃絶日本キャンペーンがある。人道的な立場から対人地雷とクラスター爆弾の廃絶を目指して1997年に活動を開始した同NGOは、クラスター兵器連合の傘下団体として、2009年からクラスター爆弾製造企業に対する投資を禁止するキャンペーンに参加している。

 また、日本でもESG投資が広がりを見せる中、機関投資家とソーシャルセクターの対話が少しずつ始まっている。とはいえ、エビデンス・ベースで企業への働きかけを行っていくには、リソースとキャパシティ(現地における知見、経験、ネットワークなど)が極めて限られているのが現状である。こういったアドボカシー活動は、ソーシャルセクターの最も重要な役割の一つであると同時にその存在意義にも関わる部分である。この部分の補強のために、シンクタンクを含む研究機関との連携や、ESG投資を行う機関投資家との対話や協働など、他セクターとの連携がその解決の緒にもなるのではないかと期待する。

3.持続可能な社会構築に向けた企業とNPOの協働

 次に、企業とソーシャルセクターとが互いの違いを乗り越えて協働する事例を見てみよう。最初に、ジェームズ・E・オースティンが著書The Collaboration Challenge(協働のチャレンジ)[12]に整理した「連携の3段階」を紹介する。

 

(1)オースティンの企業とNPO/NGOの「連携の3段階」

 第一段階は「フィランソロピーの段階」で、企業がNPO/NGOを支援する関係である。寄付や助成のほか、企業の社員によるボランティア参加、施設の提供や商品の貸与、またNPO/NGOが行うキャンペーンやチャリティイベントなどへの参加などさまざまな形態がある。最近では、企業や専門家が専門性やノウハウなどを無料で提供するプロボノ・サービスも増えている。

 第二段階は「取引の段階」で、NPO/NGOと企業に相互理解と信頼関係が生まれる段階である。企業の商品の売り上げの一部をNPO/NGO支援にあてるコーズ・マーケティングや、NPO/NGOのイベントへのスポンサーシップなどがある。両者の関係には「フィランソロピーの段階」から一歩進んで双方向性が見られる。

 第三段階は「統合の段階」で、双方の関係性が強まり事業統合が行われる段階である。共通のビジョンに基づく共同事業の実施や商品・デザインの共同開発なども含まれる。

 この3段階については、図表1も参照されたい。この段階は、必ずしも最終点を「統合の段階」に置いているわけではなく、あくまで連携の深化・進化を表すものである。ある企業が、NPO/NGOと事業統合をする傍らで、専門家をプロボノ・サービスで派遣するといった複合型の連携が行われることは珍しくない[13]。企業とNPO/NGOの関係性がより戦略的になると同時に多様化しているといえるだろう。なお、本章では、この3段階のうち、「取引の段階」と「統合の段階」を協働と呼ぶ。

 

(2)日本における企業とソーシャルセクターの協働の変化

 日本においても、前述したソーシャルセクターによる「企業への働きかけ」に比べて、協働の取り組みはかなり進んでいる。一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)企業行動・CSR委員会と1%クラブが、1991年から会員企業を対象に実施している「社会貢献活動実績調査」に非営利組織との関係に関する設問がある。2002~14年の3年ごとの結果を見ると、非営利組織との接点を持つ企業数は確実に増えている。具体的な関係を見ると、支援が順調に増加しているだけでなく、協働関係やNPO/NGOからの評価を受け入れる企業も増えていることがわかる(図表2)。

 

出所  経団連「2014年度 社会貢献活動実績調査結果」2015年10月20日、Ⅱ-10頁[14]

 

 一方、NPO/NGOの企業連携に関する調査が限られている中で、外務省事業として国際協力NGOセンター(JANIC)が2016年に実施した調査に関連の設問がある。この結果は報告書「NGOデータブック2016―数字で見る日本のNGO」[15]にまとめられている。

 それによると、2000年代以降、企業がCSRに力を入れるようになってから両者の関係性が深まり、調査研究をはじめ、近年では協働による「プロジェクト実施」が増えてきているのは経団連の調査結果とほぼ同じである。また同調査では、回答団体の約2割が「CSV 型」(本章では「共通価値創造型」)の連携に取り組んでいると回答、それら団体の年間の寄付金収入の平均額は約2億9,000万円に上るという興味深い結果が示されている。一方で、「チャリティ・慈善型」(本章では「フィランソロピー型」)連携と回答している団体の平均額は約1,300万円である。つまり、企業と共通価値創造型事業を実施するには、一定規模以上のNPO/NGOでないと難しいということであろう。

 他方、東京財団CSR研究プロジェクトが2014年から毎年、一部上場企業、主要非上場企業、主要外資系企業を対象に実施している「CSR企業調査」から、NPO/NGOとの協働関係がここ数年、減少傾向にあることが読み取れる(図表3)。

 2014年調査に比べると、2016年調査では10ポイントも減少しているのは興味深い。上のJANICの調査結果と合わせると、協働は進化する一方で全体の件数は減っているのかもしれない。つまり、量は減っても質が向上している、と考えることができる。企業の立場からは、NPO/NGOの活動を支援するフィランソロピー型支援から共通価値創造型にシフトしていて、相手を選択する際には一定規模以上のキャパシティやリソースを持ち合わせたNPO/NGOを戦略的に選ぶ傾向があると考えられる。

 国内に目を向ければ、地域密着の課題解決型のNPO/NGOなどソーシャルセクターの組織基盤強化を支援する企業も増えており、企業によるソーシャルセクター支援や協働は多様化している。

 このあたりは今後、研究や調査をさらに進めていく必要があるだろう。

 

4.まとめ―SDGs時代に求められるソーシャルセクターと企業の協働のあり方

 SDGs時代にあって、企業のCSR/サステナビリティや企業コンサルタントの社会への理解が深まりつつある。加えて、ESG投資の高まりを受けて、社会や環境に関する企業と投資家間の対話が増えている。早くから投資家との連携を確立してきた欧米等のNPO/NGO等ソーシャルセクターと比べて、日本では一般的にソーシャルセクターと投資家の関係はそれほど構築されていない。結果、ESG投資が盛んになっても、そこにソーシャルセクターの強い存在感があるわけではない。

 このような状況において、日本のソーシャルセクターが、持続可能な社会の構築に向けて最大限の貢献をするためには、①社会で弱い立場にある人たちの参加の保証とそれが叶わない場合はその声を届けること、②多様なセクター連携を推進すること、③市民社会の目線でのデータ収集やエビデンス・ベースでの提言をすること、などが重要である。

 ②に関連することで、SDGs達成に向けて、企業とソーシャルセクター双方の補完と協働の必要性をあらためて強調したい。図表4が示すように、企業とNGOのSDGs各目標への取り組みにかなりの差異が見られる。

 

出所  外務省、JANIC「NGOデータブック2016――数字で見る日本のNGO」[17]、企業活力研究所「社会課題(SDGs等)解決に向けた取り組みと国際機関・政府・産業界の連携のあり方に関する調査研究報告書」(2017年3月)[18]の調査結果をもとに筆者作成。

 

 目標3「健康と福祉」、目標5「ジェンダー平等」、目標6「きれいな水と衛生」、目標11「持続可能なまちづくり」への取り組みはNGOの方が多いものの企業の取り組みとそれほどの違いは見られない。一方、目標1「貧困をなくす」と目標4「質の高い教育」への取り組みはNGOの方が圧倒的に多く、目標7「クリーンエネルギー」、目標9「産業、技術革新、インフラ」、目標12「持続可能な消費と生産」、目標13「気候変動へのアクション」などは企業の方が多い。目標達成に向けては、それぞれの強みや特徴、関心を活かした連携や補完が必要だと思われる。もちろん、企業とNGOだけではなく、政府や研究機関、労働組合、金融など他のセクターとの連携も重要である。さまざまなセクターの中でも比較的利害関係が少ないソーシャルセクターは、多様なセクターのつなぎ役となり、連携を推進する効果を持つといわれている。特に、幅広いネットワークを持つ中間支援組織等が果たす役割は大きい。

 また、③の一例として、国際NGOオックスファムによる152カ国を対象にした格差を是正するコミットメントの指標化が挙げられる[16]。市民社会の目線で指標を作成すれば、政府統計からは見えてこない経済格差の問題が浮き彫りになるであろう。繰り返しになるが、ソーシャルセクターは、シンクタンクや研究機関などと協働して、政府統計がカバーしきれない、現場に近いデータの収集・分析等を積極的に行うことが重要である。

 最後に、企業とソーシャルセクターの協働に際して以下を提案する。

・社会課題解決に向けて―つまり課題の特定、事業連携、ルール形成、評価等において―互いをパートナーとして位置付けること。

・ソーシャルセクターは現地の知識や専門性を生かす。特に、特定の国やセクター、課題等における人権リスク状況に対応すること。

・互いに目的を共有し、理解を深めること、正直であること。

・多様なステークホルダーによる取り組みを推進すること。

・両者の連携を新たな価値創造に結び付けること。

 SDGs時代に求められているのは、これまでの延長線上ではない「変革」である。持続可能な未来に向けて、企業もソーシャルセクターもこれまでのやり方を見直して、社会や人を中心としたイノベーションを探求することが求められている。

『CSR白書2017 ――ソーシャルセクターとの対話と協働』(東京財団、2017)pp61-71より転載

*書籍の詳細はこちら

◆英語版はこちら→ View from the Social Sector: Engaging with Businesses for Sustainability


 

[1] WWF「生きている地球レポート2016 要約版(http://www.wwf.or.jp/activities/data/WWF_LPR_2014.pdf, 2017年6月25日最終閲覧)。

[2] マイケル E. ポーター、マーク R. クラマー「経済的価値と社会的価値を同時実現する 共通価値の戦略」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2011 年6月号、14-24 頁。

[3] 「第5章 企業との関係を知ろう」、澤村明、田中敬文、黒田かをり、西出優子『はじめてのNPO 論』有斐閣、2017 年、91-108頁。

[4] 長坂寿久『NGO・NPO と企業協働力― CSR 経営論の本質』明石書店、2011 年。

[5] 澤村・前掲注3。

[6] 澤村・前掲注3。

[7] 長坂・前掲注4。

[8] SROI ネットワークジャパンウェブサイト(http://www.sroi-japan.org/, 2017年6月28日最終閲覧)。

[9] ビハインド・ザ・ブランズウェブサイト(https://www.behindthebrands.org, 2017年6月28日最終閲覧)。

[10] フェアファイナンスガイド・ジャパンウェブサイト(http://fairfinance.jp, 2017年6月28日最終閲覧)。

[11] 企業人権ベンチマーク(CHRB)ウェブサイト(https://www.corporatebenchmark.org, 2017 年7月20日最終閲覧)。

[12] James E. Austin, The Collaboration Challenge, Jossey-Bass publisher, 2000.

[13] 澤村・前掲注3。

[14] 経団連「2014 年度 社会貢献活動実績調査結果」2015 年10 月20 日(https://www.keidanren.or.jp/policy/2015/089_honbun.pdf, 2017年7月4日最終閲覧)

[15] 外務省、国際協力NGOセンター(JANIC)「NGOデータブック2016 ―数字で見る日本のNGO」(http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000150460.pdf)。

[16] オックスファム, “Commitment to Reducing Inequality Index”(http://policy-practice.oxfam.org.uk/our-work/inequality/cri-index, 2017年8月14日最終閲覧)

[17] 外務省・前掲注15。

[18] 企業活力研究所「社会課題(SDGs 等)解決に向けた取り組みと国際機関・政府・産業界の連携のあり方に関する調査研究報告書(2017 年3月)。