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第9回「介護現場の声を聴く!」

June 8, 2011

第9回のインタビューでは、介護事業者のホームページ作成などに従事する「株式会社スカイヤーズ」取締役COOの野波太朗さん、居宅介護支援などに携わっている「ハートバンク株式会社」、介護分野のコンサルティング業務などを担当する「ハードビジョン株式会社」代表取締役を務めつつ、「社団法人日本介護協会」理事を兼任する関口貴巳さん、小規模デイサービスなどを展開する「株式会社日本介護福祉グループ」取締役FC事業本部長の石川幸俊さんに対し、人材確保など介護現場が直面する課題などを聞いた。

インタビューの概要

<インタビュイー>(画面左から)
野波太朗さん=「株式会社スカイヤーズ」取締役COO
関口貴巳=「ハートバンク株式会社」代表取締役、「ハードビジョン株式会社」代表取締役、「社団法人日本介護協会」理事
石川幸俊さん(株式会社日本介護福祉グループ取締役FC事業本部長)

<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)

※このインタビューは2011年6月6日に収録されたものです。
http://www.ustream.tv/flash/viewer.swf

要 旨

人手は常に不足

第9回目のインタビューでは、介護業界を志した動機や業界に入った際の印象が話題となった。

15年前に専門学校の「介護福祉学科」を出て、介護業界に足を踏み入れた関口さん。小学校の頃からボーイスカウトとして老人ホームを訪ねる機会があり、「お年寄りの笑顔が忘れられず、何となく中学生の頃から『福祉の道に進む』という漠然とした思いがあった」という。

その後、老人保健施設として働き始めると、間もなく介護保険制度が創設された。しかし、関口さんは当時、2000年4月の制度スタートを取り上げるニュースを見た程度で、「期待感はなく、現場はピンと来なかった」と振り返った。むしろ、制度創設に際して、各施設にケアマネージャーの配置が義務付けられたため、ケアマネジャーの資格を取るベテランの職員が相次いだいことが印象に残っているという。

一方、30歳で介護の世界に入った石川さんは「自分の親世代が要介護状態になった時、『何もできないな…』という思いがあったので、そこに向けて勉強したい」と考えて、介護業界に入った。さらに、「自分自身も安心して年を取れない」「高齢化で市場が枯渇することはないので、ビジネスチャンスになる」という判断もあったと話した。

その後、話題は現場の人手不足に移った。

介護現場の離職率は他の産業よりも高く、財団法人介護労働安定センターの「介護労働実態調査結果」によると、介護従事者の離職率(2008年10月~2009年9月)は17%と高止まりしている。

その背景としては、待遇の低さなどが指摘されており、政府は2009年度第1次補正予算で、月額賃金を1万5000円上乗せする基金を創設したが、これまでのインタビューでは「1日で辞めた人がいる。心配になって電話を掛けたら電話が不通だった」などの体験談が出ている。

今回のインタビューでも、石川さんが「常に募集を掛けている所もある」などと人手不足の実感を披露。関口さんも「有り難いことに、うちの会社は待っている方もいるぐらいだが、一般で見ると(人繰りは)厳しい」と話した。

一方、介護施設のPR支援などを担当している野波さんは就職希望者の多さを指摘した。野波さんによると、「たまたま去年、制作会社として介護の求人サイトを立ち上げ、半年ぐらい反響を見ていたが、かなり良かった」という。さらに、3月11日の東日本大震災の後も状況に変化は見られず、「(20歳代ぐらいの)若い人か、年の上の人が多い」と話す。ただ、一般に雇用状況が厳しいとされる30~40歳代については、むしろ介護業界への就職を希望する問い合わせは少ないという。


サービス業としての喜び

その後、介護職の苦楽に話題が移った。

石川さんは現場で働いていた頃の経験を「苦しいという記憶はない。対応が難しい利用者は大変だが、こんなに楽しくてクリエイティブな仕事があるんだなと驚いた印象が強い」と述べた。

石川さんは元々、介護業界の人間ではなかったため、業界に入る前には「介護地獄」などと報じるメディアに影響され、暗いイメージを持っていたようだ。しかし、業界に入った後の印象として、石川さんは「楽しさや嬉しさは想像以上だった。実際現場に行けば分かるが、そんなに暗くない」と話す。就職に際しては、日本介護福祉グループ以外の事業者も見学し、「暗いイメージを受ける所もあった」というが、「楽しそうにしているので、自分の会社に入った。こんなに楽しい世界もあるんだ、やり甲斐もあるんだと思った」という。

さらに、石川さんは「暗いイメージが先行しているので、求職者たちも足踏みすると思うが、大きくくくれば(介護職は)サービス業。対応した利用者から反応が得られる感動は非常に大きい。やり甲斐を感じやすい」と指摘した。

その一方で、仕事で辛さを感じる場面としては、「利用者にとっていい結果にならなかったとか、職員同士で人間関係がうまくいかなかったことが辛い」と話した。

関口さんも「好きな仕事をやらせて貰っているので、喜びはあるし、幸せだ」と話す。その半面、辛さを感じる部分については、「(日常業務から利用者の)死から避けて通れない。死を目前にして、介護業界から去る人を何人も見ている」と指摘。その上で、「それぞれ介護職員が死生観を持たないと、精神的に潰れてしまう」と強調した。

さらに、暗いイメージを強調するメディアの報道ぶりに関しては、「介護現場で働く人間にクローズアップした特番を見ると、『給料が安いのに頑張っている』という報じ方が多い」と苦言を呈しつつも、「現場もキラキラ(した職場)やハキハキ(とした雰囲気)を発信できていないんじゃないか。現場で働く姿や、(現場の職員が)思っていることを発信して行きたい」と話した。実際、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・システム)やツイッターを使った情報提供では全国から賛同者が集まっているという。介護業界で働く人達が自らの仕事への思いを熱く語ろうと、今年11月に開催される「介護甲子園」というイベントなども、こうした取り組みの一環と言えそうだ。

最後に、制度改革に向けた注文が話題となった。

関口さんは「(制度が導入される以前の)措置(=行政による福祉サービスの提供)の時代とは全く違う。リハビリ、送迎の有無などが(介護報酬の)点数で評価され、制約ができたので好きな介護(サービス)ができなくなった」と話しつつ、「末端の介護職員が反映される仕組みを作っていくべきではないか」と注文を付けた。

一方、石川さんは「制度の解釈が自治体レベルで違う。何とか統一できないのか」「利用者の個々のケースに応じて柔軟に解釈できないか」と話した。中でも前者の点に関しては、介護保険制度は都道府県ごとに保険料が異なり、供給されるサービスの水準も自治体の判断で違う。さらに、石川さんによると、制度の運用や解釈も自治体ごとに食い違いが生じており、「地域によって判断基軸が違うことは利用者も受けられるサービスが違う(結果となる)」と苦言を呈した。

IT業界に身を置く野波さんは「SNSを利用し、(介護現場の魅力などを)発信していくことを国のプロジェクトしとしてやってもらいたい」と求めた。

【文責: 三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】
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