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第27回「介護現場の声を聴く!」

October 13, 2011

第27回目のインタビューでは、訪問介護などのサービスを全国で展開している「株式会社やさしい手」社長の香取幹さんに対し、今年6月成立の改正介護保険関連法に盛り込まれた「地域包括ケア」の課題や高齢者向け賃貸住宅の市場拡大に向けた展望などを聴いた。

インタビューの概要

<インタビュイー>
香取幹さん=「株式会社やさしい手」社長

<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)

※このインタビューは2011年10月5日に収録されたものです。
http://www.ustream.tv/embed/recorded/17685593

要 旨

「地域包括ケア」の実現性は?

第27回のインタビューは前回と同様、今年6月に成立した改正介護保険保険法に盛り込まれた「地域包括ケア」が話題となり、前回に続いて香取さんに出演してもらった。

(→第26回のインタビュー内容はこちら)

厚生労働省の「地域包括ケア研究会」が2009年に取りまとめた報告書によると、地域包括ケアとは「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみならず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」という定義。

地域包括ケアが提唱されるに至った背景として、香取さんは「今の介護サービスで行き届かない部分を包括的に提供する仕組みが必要。特に在宅医療は今のシステムでは機能しづらい」と説明した。

同時に、「最近は『訪問介護などで生活援助給付、所謂家事代行サービスは贅沢である』ということで、サービス給付を止めようという流れが非常にある」「(従来は生活支援)サービスを高齢者の自宅でやる比率が高かった。しかし、『家族と同居している高齢者は家族がいるのにどうしてサービスが提供されるべきなのか』という議論で、縮小の傾向を辿って来ている。日中同居であっても家族が一緒に住んでいる場合においては、給付に対しては不適正ではないかという判断(が)されている」と指摘し、小泉純一郎政権期の社会保障見直し路線の中で掃除や調理、洗濯などの生活支援サービスに関する介護給付が削減・抑制された点を引き合いに出し、「要介護2以上の高齢者は家事援助をサポートしないと、ご飯を食べて生きて行くのも辛い状況があるので、何とかそれに変わるサービスを提供しなきゃならないという背景もある」「利用者がどうやって暮らして行くのだろうかという時、色んな私費サービスを内包して提供して行く必要があり、そういった環境があって特別養護老人ホーム(特養)などに入所しなくても在宅で生活できるのではないか、という考え方から地域包括ケアが生まれた」と解説した。

さらに、介護療養病床の廃止問題も地域包括ケアの導入論議の背景にあるとのこと。この問題では、介護療養病床の長期入院(社会的入院)が社会保障費の増大を招いているとして、小泉政権期の医療制度改革の一環で、2011年度末に廃止する方針が決まった。しかし、民主党は政権を獲得した2009年総選挙のマニフェスト(政権公約)で、廃止方針を延期を主張し、今年6月に成立した改正介護保険関連法では廃止方針を6年間延期することが決まった。

香取さんは「利用者の立場があるので、制度変更は難しいのが現実。利用者の状態にも拠るし、既に介護サービスが行うことによって生存が継続している人に、ライフラインとしての介護を明日から提供しないということは非常に問題。電気、ガス、水道が突然ある日止まるのと同じ。違うシステムに置き換えて行くのは当然難しい」としつつ、介護療養病床の廃止方針が延期された理由として、「職能団体の要望を聞き入れた」と指摘した。

一方、地域包括ケアとの関連では「(介護療養病床廃止の)受け皿として考えられたのが地域包括ケア。厚生行政で『在宅に行こう』という話はあっても、(介護報酬は)在宅に流れて来ず、結局は在宅介護が縮小する」と指摘しつつ、「このまま施設介護を継続して行くと、社会保障費の増大に歯止めが掛からない。できれば独居かつ重度の高齢者も、在宅介護で一人で自立支援をサポートできる体制が必要。それが地域包括ケア」と強調した。

では、どうやって地域包括ケアを実現するか。香取さんが強調するのが「定期巡回随時対応型訪問介護看護」という仕組みだ。

香取さんによると、「ケアプランはどういった形になるのか国で正に議論している。国が提案している中では、上位にケアマネジメントがあり、デイサービス、ショートステイ、福祉用具貸与といったサービスが利用することができ、居宅サービスとして定期巡回随時対応型訪問介護看護サービスが提供される」と発言。

さらに、地域包括ケアを考える上での論点として、サービス提供責任者との連携(共同マネジメント)、5~10分の短時間随時対応、私費による生活支援サービスの提供、在宅医療・訪問看護との連携(継続的マネジメント)、高齢者地域居住支援などを挙げた。

このうち、短時間対応の利用者として、香取さんは▽直接介護は必要なくても不安に思った人▽認知症を持っており、1日3~4回生活を見に行かなければならない人▽トイレに行く時に手伝う必要がある人-などを挙げつつ、「色んなサービスを5~10分という形で提供して行くことで、生活全体を見守る。生活援助サービスとの組み合わせが(国の社会保障審議会で)議論されている」と語った。

介護保険外のサービスとして全額私費で負担して貰う生活支援サービスの関係では、想定しているサービス内容として、見守り、生活相談、配食、ケアコール、アクティビティプログラム、金銭管理(金銭立替サービス)、地域交流、泊まり・通いのサービスなどを列挙。これらのサービスについては、「定期巡回が包括払い(=実際のサービスごとに報酬を支払う出来高払いに対し、特定のサービスに定額の報酬を支払う方式)になれば可能になる。包括払いの定額制になると、自由度が高い」と述べた。

さらに、香取さんは「在宅診療所や訪問看護ステーション、近隣医療機関との連携も期待され、医療依存度が高くて今までは入院しないと駄目だった方々も、こういった機関との連携によって自宅で住まいを継続できる」と力説した。

このほか、香取さんは定期巡回随時対応型訪問介護看護を進める上で、3つのマネジメントが重要と訴えた。

3つのマネジメントとは「ケアマネジメント」「共同マネジメント」「継続的マネジメント」という内容。香取さんによると、このうち「ケアマネジメント」ではケアマネージャーが福祉用具貸与やショートステイ、デイサービス、定期巡回に関するケアプランを作成し、包括払いの中で様々なサービスを提供する考え方。香取さんは「ケアマネジメントの中で定期巡回を位置付けて貰う。一社独占が議論されているが、地域の色んな会社がある中で、良い事業者を選んでケアマネジャーがケアプランを作ることが可能になる」と述べた。

また「共同マネジメント」はケアマネージャー、看護師、サービス提供責任者が共同でマネジメントに当たること。情報共有を進めつつ、24時間365日のケアプランを作成することを目指しており、香取さんはサービス提供責任者らがIT(情報技術)を活用し、ケアマネージャーらと詳細な情報を共有しながら必要な介護サービスを提供して行く意義を強調した。

さらに、香取さんは「継続的マネジメント」として、「医学的な観点から利用者の状況変化を確認し、状況に合わせて医療・介護サービスを提供する」と解説しつつ、在宅医療体制も重要になるとの認識を披露した。具体的には、病気になった時に診療を受ける「かかりつけ医」制度を前提とする従来と異なり、今後の地域包括ケアのイメージとして、「医師が定期・継続的に医学管理を在宅で行うサービスに基づいて、医者と介護事業者が連携して在宅を支援する」と強調。その上で、「今までだと、かかりつけ医が病気になった時に伺っていたが、継続的ではない。今後長期的なことを考えると、要介護が軽度の時から在宅医療で医者と信頼関係を構築し、重度になった時にも住めるような仕組みを作って行く」と語った。


その後、香取さんは定期巡回として想定される幾つかのケースを紹介してくれた。

具体的には、▽家族が病気になって誰も介護する人がいない時など、困った時に泊まりができるサービス▽生活リハビリを兼ねて定期的に高齢者を事業所で預かって日帰りで帰ってもらうサービス▽地域交流や他世代交流を提供。地域と連携し、地域交流の中で高齢者が生きて行く流れのサービス▽生活援助給付が整っていない人に対し、食事を介護職が自宅に持って行き、食事を召し上がって貰うサービス-などを列挙。さらに、今年6月成立の改正介護保険法関連で、これまで医療行為として制限されていた痰の吸引、経管栄養が一定の研修を受ければ、介護職員でもできるようになった点を引き合いに出し、「介護職員が痰の吸引や経管栄養のために巡回に行くことが期待される」と期待感を示した。

さらに、こうした取り組みを通じて、利用者・家族を中心に病院、在宅医、専門往診医、介護事業所、訪問看護、ケアマネージャー、薬局といった関係者がサポートする相互連携の在宅利用体制が実現できると強調した。香取さんは「新しい在宅医療の仕組みの中で可能になって行く。利用者を中心にした在宅チームの連携として、在宅療養支援診療所とケアマネと連携することで、地域や保険者の支援をもらって、継続して住めることを支えて生きたい」「在宅医療や生活支援サービス、特に私費サービスも同時に包括払いで提供して行くも考えられる中で、包括ケアが支えられるべきだ」と意気込んだ。


高齢者住宅の整備では改装するケースも

インタビューでは、今年4月に成立した改正高齢者居住安定法に基づく「サービス付き高齢者向け住宅」も話題に上った。

これまで高齢者用の賃貸住宅としては、高齢者の入居を拒否しない「高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃)」、高齢者向けにバリアフリー化などに配慮している「高齢者専用賃貸住宅」(高専賃)、高専賃の優良物件を認定する「高齢者優良賃貸住宅」(高優賃)などの制度が存在した。

しかし、これらの分類を同法は「サービス付き高齢者住宅」として一本化するとともに、▽床面積25平方メートル以上▽トイレ、洗面設備の設置▽バリアフリー施設▽安否確認、生活相談サービス提供―などの要件を満たした住宅を都道府県に登録する制度を創設した。

香取さんは住み慣れた土地で老いつつ、介護サービスのサポートなどを継続して行く上で、サービス付き高齢者住宅の存在を重視しており、「地域で高齢者が住んで行く促進の意味で、高齢者の居住支援の制度を同時に整備して行くことで、当初考えられている地域包括ケアが発展する可能性がある」と予測。

その上で、「民間の金を使って土地所有者に(住宅を)建てて、多少の補助金を頂いて国の税金を余り使わず、(特養などと)同様の施設を造って、自宅を形成して自宅の中で介護サービスを受け入れられるシステムを作ることも(国が)提案されている」と指摘したほか、国の地域包括ケアでもサービス付き高齢者住宅に定期巡回随時対応型訪問介護看護などを付属させるとともに、居住者だけでなく地域の利用者に介護を提供する仕組みが想定されている点を説明した。

なお、この場合の介護サービスは保険適用の対象外。香取さんは「介護保険のサービス給付ではなく、基本的には自費サービス。このような仕組みがもう少し拡大すると、本格的に地域居住が進む」と訴えた。

一方、国土交通省はサービス付き高齢者住宅の拡大に懸命だが、香取さんは「新品の高齢者住宅を作る必要はない。東京でも周辺に多くの空室を持って、『賃貸住宅コーナーは空室が多くて困ったな…』と悩んでいる人がいる。このような人から借り上げ社宅と同じような方法で借り上げて、身元保証人がいない高齢者で入居が難しい人に貸して差し上げる事業が各地で始まっている」「サービス付き高齢者住宅を作る時、(隣に)築15年のマンションがあるのだが、ガラガラだったりする。新しい高齢者住宅を造るのはどうなんだろうか考えると、こういったサービス(=中古住宅を活用するサービス)が必要なのでは」と話した上で、「バブル時に豪勢に造られた社員寮を改修するケースが増えている」と紹介してくれた。

その際、サービス提供者の多くはNPO法人という。「住宅を貸す以外に(要介護高齢者を対象に)安否確認、日常生活相談、見守り、配食、トラブル対応などのサービスを行って行く。地域にお住まい頂く支援の中で、このような生活を助けて行く機能を同時にやる事業も注目されている」とのこと。

しかし、資金の流れは「貧困ビジネス」と似ている部分がある。サービス付き高齢者住宅での生活支援サービスを展開するNPO法人は生活保護者を受け入れる代わりに、国から生活保護(住宅扶助分)を受け取り、入居者に対してサービスを展開しているが、貧困者を狭い場所に数多く収容して劣悪なサービスを提供して生活保護費を受け取っている貧困ビジネスと比べると、サービスの質を伴っている点を除けば、資金の流れ方自体は余り変わりがない。

香取さんも「集団居住で一つの部屋に何人も暮らさせて、生活保護給付を当てにして大きな利益を生む事業者も多い。キチンと志を持ってやっている人もいるので、貧困者ビジネスがない形の中で、(サービス付き高齢者住宅の)システムが動いて行くことが必要」と強調した。

その上で、サービス付き高齢者住宅の展望として、「国の財政を鑑みて『療養病床については金が掛かる』『特養は金が掛かる』と突き進むのが難しいとなると、新築でサービス付き高齢者住宅を民間資源を投入して行き、そこに介護サービスを付けて行く(べきだ)」と改めて強調。さらに、高齢者住宅に関しても、「新築ばっかりだったら金が足らないので、空室を使って住居を確保する施策の中で介護サービスを付けて行く。(あるいは)若い頃に買い求めた住宅でも長く生きて行けるような形の仕組みを作っていく。幅広く色んなことをやって生活・暮らしを支えて行く。そういう仕組みこそが地域包括ケアに求められている」と総括した。

実際、香取さんの会社が近くオープンさせるサービス付き高齢者住宅はインスリン、バルーンカテテール、在宅酸素などが必要な高齢者も受け入れることを想定しており、「医療依存度が高い利用者も定期巡回随時対応型訪問介護看護、在宅医療と連携し、施設の中で自宅でサービスが提供できる」と力説。さらに、「現状は少ないが、来年の法改正以降に、こういった施設は広がって行くと考えている。補助金制度もあるので5年で大変たくさんの物が建って来る。リーズナブルな価格で利用できる環境が競争原理の中で整って来る」との見通しを披露した。

このほか、サービス付き高齢者住宅のエレベーターが話題になった。高層住宅にエレベーターの設置を義務付けた建築基準法が改正される以前の建物に関して、香取さんは「5階建てでエレベーターが付いていない(古い)施設が建設年度によっては多い中で、(高齢者らが)外出するのは大変大きなバリアになる。エレベーターが付いているかどうか大きな問題」と指摘しつつも、「高層階に住んでもエレベーターがある限り、問題がない。現状の建築物は高齢者に住みやすい形になっている。そういった環境であれば高齢者も長く住める」と発言。

さらに、3月11日に起きた東日本大震災の関係では「(エレベーターが止まった介護施設では)人力でやった所は大きかったのでは。震災で被害が深刻な地域ではエレベーターの復旧は1~2カ月止まっていた地域がある中では、苦労があった」「ジャパンケアサービスは被災地でも定期巡回型サービスを行っており、福島に会社の資源を投入している。(サービス提供場所が)仮設住宅の場合もある」と話した。

【文責: 三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】
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