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高齢化対応、国・都任せでは困難

October 17, 2013

住民に身近な市区町村の役割大

東京財団研究員兼政策プロデューサー
三原 岳


東京の住民や自治体職員にとって、医療崩壊や介護施設の不足は「他人事」だったかもしれない。しかし、今後10~20年を見通せば医療・介護の体制整備は首都圏でも深刻な問題になる。75歳以上の後期高齢者は今後15年間で、都内だけで約60%も増える結果、医療・介護サービスの需要増が予想されるためだ。急ピッチに進む高齢化への対応を考える上では、国や東京都に対策を任せ切りにするのではなく、住民生活に最も身近な基礎自治体の踏ん張りが重要なカギを握る。

6割増える75歳以上高齢者

「都市部で生じる爆発的な介護事情に対してどう対応していくのか、待ったなしの状況。都市の特性に応じたケアシステムの構築を目指したい」―。厚生労働省は今年5月、有識者で構成する「都市部の高齢化対策に関する検討会」(以下、検討会)を発足させ、サービス確保策などについて議論した *1

この背景には今後、首都圏で急速に進む高齢化への危機感がある。2010年現在で都内に住む75歳以上の後期高齢者は123万4000人。しかし、2025年には197万7000人と6割も増える。絶対数が2倍程度に膨らむ埼玉、千葉、神奈川の各県に比べれば増加率は鈍いとはいえ、決して無視できない規模である。

これに対し、都内の受け入れ態勢は充実しているとは言い難い。例えば、介護保険3施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養病床)の人口10万人当たり定員数を都道府県別に見ると、東京は全国最低。関係者からは「地域で叫ばれている医療崩壊や介護施設の不足は今後、都内でも起こり得る」との懸念を聞く。

表1 首都圏の高齢化予想 ≪拡大はこちら≫

(出所)厚生労働省資料を基に作成


このため、自宅を中心に生活圏内で医療・介護サービスを切れ目なく提供する「地域包括ケアシステム」構想の実現が求められており、国も検討会を設置し、都市部での体制整備に向けた検討に乗り出した。

しかし、地域包括ケアの実現には医療・介護・福祉サービスの供給だけで完結する訳ではない。住まいの確保や他の福祉サービスの導入、地域住民の助け合い、地域資源の活用が求められるためだ。政府の社会保障制度改革国民会議が8月に取りまとめた報告書でも「地域でその人らしい生活が続けられるよう、医療・介護のみならず、福祉・子育て支援を含めた支え合いの仕組みをハード面、ソフト面におけるまちづくりとして推進することが必要」との考え方を打ち出している。国や東京都だけで対策を万全にするのは困難であり、住民に最も身近な市区町村が果たすべき役割は大きい。

図1 人口10万人当たり介護保険3施設の定員状況 ≪拡大はこちら≫

(出所)厚生労働省資料を基に作成。横線は全国平均

制度面の不備を超えて

確かに地域包括ケアの実現に向けて、制度面の課題は多い。例えば、日本の医療体制は臓器・疾病別に治療する専門医が中心であり、全人的なケアを提供する「総合診療医」が制度的に担保されていない。このため、臓器・疾病を「治す」医療には向いているが、慢性疾患への対応や生活面まで配慮しなければならない高齢者向けの「支える」医療に対応しにくい。さらに、地域包括ケアに関する計画の策定権限を見ても、医療と高齢者住宅は都道府県、介護は市町村と役割分担がバラバラだ。この点については、社会保障制度改革国民会議報告書は「市町村と都道府県が共同して策定する一体的な『地域医療・包括ケア計画」と言い得るほど連携の密度を高めていくべき」、検討会報告書は「在宅医療と介護の連携という観点からは、都道府県との連携のもと市区町村が主体となって取り組むことが重要」「市区町村が把握した(住まいに関する)ニーズを都道府県の高齢者居住安定確保計画に適切に反映させることが望ましい」と指摘しているが、その方策は見えない *2

表2 医療・介護・福祉に関する計画策定権限 ≪拡大はこちら≫


(出所)厚生労働省資料を基に作成
(注)「◎」はメインに計画を策定する主体。なお、高齢者保健福祉計画、介護保険事業計画、地域福祉計画については、都道府県が市町村計画を補完・支援する計画を策定する。健康増進計画に関しては、都道府県計画の中身を勘案して市町村が計画を策定する。

地域包括支援センターを中心に多職種連携による支援を目指す「地域ケア会議」に関しても、国は拡大を目指しているが、現場からは「多忙を理由に医者が来ない。医師が参加しなければ医療面の手当てが不十分になる。国のシステムは絵に描いた餅」との批判が聞かれる。これらの解決に向けて、国や都、現場が取り組まなければならない課題は多い。

しかし、住民に身近な市区町村はケア体制の構築に大きな役割を負っており、制度の不備を理由に国や都に対応を任せるのは無責任のそしりを免れない。今後の高齢化を考えると、「制度改正を待つまで…」といった言い訳は許されない。

しかも体制整備には時間が掛かる。地域包括ケアの実現には医師、看護職、介護職など専門職による連携が欠かせず、関係者同士の信頼関係は一朝一夕に形成されるわけではないためだ。先進事例と言われる地域は20年近い歳月を要して、現在のシステムを作り上げており、2025年の高齢化を考えれば、市区町村が主体的に体制整備に関わる必要がある。

財源が潤沢な特別区は医療費の無料化や買い物券の販売など住民向けの「行政サービス合戦」を続けているが、今後の危機に対処する準備と、主体的に関わっていく覚悟が求められる。



*1 「都市部の強みを活かした地域包括ケアシステムの構築」と銘打った検討会の報告書は9月に公表された。在宅ケアの拡大に向けた訪問看護などの普及、空き家を活用した低所得者向けの住宅整備、生活支援サービスの拡大などを盛り込んでいる。さらに、報告書は住宅部門と福祉部門の連携などを挙げつつ、市区町村の自発的な取り組みに期待感を示している。

*2 2013年度からスタートした都道府県の医療計画には在宅医療に関する目標・体制を記載することが義務付けられた。


(この論文は9月13日付『都政新報』に掲載されたものを筆者が加筆しました)

    • 元東京財団研究員
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