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名古屋市会公明党議員団議員報酬等検討委員会での講演レポート

May 13, 2010

概要

2010年5月11日、公明党名古屋市議団からお招きをいただき、「地方議会の改革~議員報酬・政務調査費・議員定数~」というテーマで講演いたしました。会派所属の議員だけでなく、マスコミ各社から記者が10名以上参加されていました。関心の高さがうかがえました。以下は、講演内容と意見交換で議論された内容とそれを踏まえた所見です。

“減税改革首長”山田宏と河村たかしの違い

主たるテーマである議員報酬についてお話する前に、山田宏杉並区長と河村たかし名古屋市長が、それぞれの減税政策を実行に移すまでの手法について、5月8日に開催された松下政経塾の「減税自治体サミット」で、どのように説明したかを解説いたしました。

山田区長は、自身のマニフェストに最優先課題として「減税自治体構想」掲げて勝利しただけでなく、当選後も区役所幹部職員との実効性についての協議を重ね、財政や行政法の専門家による検討会議を開催し、具体案を作成しました。マニフェストに明記されていても、区民は制度そのものに懐疑的であったり、減税よりも公共サービスの拡充拡大を望む声が少なくありませんでした。議会もそのような区民の声に強く影響を受け、理念的には賛成だったり共感できるのだが、反対を表明する議員が多数を占めていました。しかし、約3年をかけ、粘り強く、“丹念”に説明、説得を繰り返しました。説明手法は、多岐におよびました。著名なマンガ家による短編マンガまで作成、配布しました。その結果、賛否が4割で拮抗する程度まで理解や支持が得られました。この段階で、議会に条例案を提案し、議会の「政治決断」を求めました。

一方、河村名古屋市長の手法については、名古屋市会議員に改めて説明する必要はないですが、反対が多数を占める議会で可決できないとみると、自らの政策を承認する議会をつくるために議会の解散を市民に働きかける言動をとるようになりました。

説得という政治のリーダーに最も求められる責任を放棄する行為です。説得には時間も労力も必要です。時には妥協も必要でしょう。しかし、それらは民主主義を成熟させるのに不可欠です。自治体運営の政治的リーダーが市民に政策判断を事実上丸投げすることは、一見民主的であり自治そのもののように受け止められますが、実は中長期的には自治体の自治力育成に大きな妨げとなります。

議員報酬・政務調査費・議員定数の根拠

議員報酬・政務調査費・議員定数についてですが、理念も明確な根拠ない「数」だけの議論に終止符を打っていただきたいと提案いたしました。報酬は3割削減、定数半減など数字先行の議論は不毛な議論です。議会が首長案に対しての代替案や現行の報酬についての修正案を出すにしても、理屈が必要です。その理屈作りが今、議会に求められています。結論ではありませんが、その手掛かりは、議員の活動の「見える化」を図ることです。多くの市民にとっては、議会や議員の活動実態がよく分かりません。議会や議員の仕事が市民生活に影響しているのかどうかも判断できていません。これらは、東京財団が過去3年にわたって全国でイベントを開催したときに参加した市民から寄せられて意見でもあります。「地方議会/議員は多忙そうに振舞っているが、仕事内容が不明瞭で、市民生活への影響の有無が判断できない」、「一般市民の生活レベルや平均年収と比較すると、議員は高収入だが、しっかり仕事をしてもらうための適正な議員報酬がいくらなのかは判断できない」これが多くの市民の議会や議員についてのイメージを要約したものです。

議員活動の“見える化”

そのような認識を踏まえ、現在東京財団で分析中の「地方議会議員の活動調査」の中間とりまとめを紹介しました。全国から約30名の市区町村議員の協力をいただき、日常の公的な活動の分析を行いました。自治体の多様性と同じように議員の仕事も多様であることがわかりました。各自治体、地域で議員に求められている仕事は異なります。全国均一でこれが議員の仕事であり、それに対しての報酬金額を示すことは無意味です。各自治体議会がそれぞれの責任において議員報酬・政務調査費・議員定数を決めることが肝要です。

そのためには、議員の活動を市民に示し、議員の“仕事”を明確にすることが重要です。何が議員の仕事なのかの自治体内での共通認識が形成されなければ、議員報酬や政務調査費、議員定数の議論は堂々巡りとなります。地方議会議員に住民相談と称される細々した日常生活に密着した問題の相談相手を求めるのか、その自治体独自の政策を立案できるような知的作業を求めるのか、それは各自治体の責任です。

議会は現在処理している条例案、陳情・請願の件数や処理時間などを数値化して、仮にそのような業務をコンサルタントや調査会社に依頼した場合の費用を示すなど具体的で自主的な取り組みを実行しなければなりません。市長からの劇薬的な削減案にただ反対するのではなく、建設的で説得力のある代替案を作成し、市民に問わなければなりません。

決して行ってはいけないことは、議員報酬や政務調査費、議員定数の決定を議会が市民に丸投げしてしまうことです。それは議会の責任転換だけでなく、自治体の政治システムの崩壊を意味します。

<文責:赤川貴大>

    • 元東京財団研究員・政策プロデューサー
    • 赤川 貴大
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