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公表された大気十条-中国の「大気汚染防止行動計画」の本文及び概要-

September 20, 2013

東京財団研究員
染野憲治


2013年9月12日、国務院は「大気汚染防行動計画についての通知」〔国発(2013)37号〕を公表した(公布日は9月10日付)。

この大気汚染防止行動計画(略称は「大気十条」)の内容は、拙稿「環境問題から見る中国の転換点」で述べたとおり、2013年1月に発生した「PM2.5事件」を踏まえ、今後5年を見据えた総合的な大気汚染防止対策である。

具体的な目標として、(1)2017年に全国の一定規模以上の都市(地級市)のPM10の濃度を2012年比で10%以上低下させること。(2)京津冀(北京市、天津市、河北省)、長江デルタ、珠江デルタなどの地域のPM2.5の濃度をそれぞれ大凡25%、20%、15%低下させること。(3)北京市のPM2.5の年間平均濃度を大凡60μg/m3にすることが掲げられている。

この目標達成のために石炭ボイラーなどの施設や揮発性有機化合物(VOC)などの汚染物の規制強化、移動源汚染対策として燃料油品質の改善や老朽車の廃車、高汚染・高エネルギー消費業種の生産設備増強の抑制、立ち遅れた生産設備の淘汰や過剰生産設備の圧縮、石炭消費総量の抑制とクリーンエネルギー(天然ガス、水力、地熱、風力、太陽エネルギー、バイオマスなど)の利用加速、環境管理の強化、環境コストの価格転嫁などの市場メカニズムの活用、大気汚染防止法改正など法制度の整備、環境保護産業の育成などの具体策を10章35項目にわたり列記した。

このうち自動車燃料の品質については石油精製企業の設備のアップグレードを加速させ、2013年末までに全国で「国IV」基準のガソリンを、2014年末までに全国で「国IV」基準のディーゼル油を、2015年末までに京津冀(北京市、天津市、河北省)、長江デルタ、珠江デルタなどの地域内の重点都市で「国V」基準のガソリン、ディーゼル油を、2017年末までに全国で「国V」基準のガソリン、ディーゼル油を供給することとした。

石炭については、国家石炭消費総量中長期抑制目標を制定し、2017年に石炭のエネルギー消費総量に占める比率を65%以下にすることとした 1

本計画を実質的に作成した環境保護部では2013年9月15日に本計画の厳格な執行を各省、自治区及び主要な市の環境保護部局等へ求める「依命通達」に相当する文書を公表した(公布日は2013年9月13日付) 2 。大気十条でも規定されているように今後、国は毎月、大気環境のワースト10とベスト10の都市名を公表することなどが再確認されている。

大気十条の概要は以下のとおり、全文は中国政府のホームページ 3 で公開されている。

「大気汚染防止行動計画」の概要

1.総合対策を強化し、多種汚染物質の排出を減らす

(1)工業企業大気汚染総合対策の強化
(2)面源汚染対策の徹底
(3)移動源汚染防治の強化

2.産業構造を調整・最適化し、産業転換アップグレードを推進する

(4)高汚染・高エネルギー消費業種の生産設備増強の厳格規制
(5)旧式生産設備廃棄の加速
(6)過剰生産能力の圧縮
(7)生産能力が大幅に過剰な業種で規則に違反して建設中のプロジェクトを断固停止

3.企業の技術改造を加速し、科学技術イノベーション能力を高める

(8)科学技術研究開発と普及の強化
(9)クリーナープロダクションの全面的推進
(10)循環経済の強力発展
(11)省エネ環境保護産業の強力育成

4.エネルギー構造調整を加速し、クリーンエネルギー供給を増やす

(12)石炭消費総量の抑制
(13)クリーンエネルギー代替利用の加速
(14)石炭クリーン利用の推進
(15)エネルギー使用効率の向上

5.省エネ環境保護市場参入条件を厳格化し、産業の空間配置を最適化する

(16)産業配置の調整
(17)省エネ環境保護指標の拘束力の強化
(18)空間構造の最適化

6.市場メカニズムの作用を発揮させ、環境経済政策を改善する

(19)市場メカニズム調整作用の発揮
(20)価格徴税政策の改善
(21)投融資ルートの拡張

7. 法令体系を整備し、厳格に法に従って監督管理する

(22)法律、命令、基準の改善
(23)環境監督管理能力の向上
(24)環境保護取締の強化
(25)環境情報公開の実行

8.地域協力メカニズムを構築し、地域環境対策を統一計画する

(26)地域協力メカニズムの構築
(27)目標任務の分解
(28)厳格な責任追及

9.監視・早期警報・緊急対応体系を構築し、重汚染天気に適切に対応する

(29)監視・早期警報体系の構築
(30)緊急対応計画の制定
(31)速やかな緊急対応措置

10.政府企業の社会的責任を明確にし、全人民を環境保護に動員する

(32)地方政府の指揮命令責任の明確化
(33)官庁間の協調連動の強化
(34)企業の対策強化
(35)社会参加の広範な動員


1 2013年1月23日、国務院は「エネルギー発展第12次5カ年規画」〔国発(2013)2号〕を公表し(公布日は2013年1月1日付)、石炭のエネルギー消費総量に占める比率を2015年に約65%にするとしている。今回の目標は、これに比較すると、やや後ろ倒された感もある。

2 中国環境保護部「関于認真学習領会貫徹落実「大気汚染防治行動計画」的通知」環発(2013)103号、2013年9月13日。
http://www.mep.gov.cn/gkml/hbb/bwj/201309/t20130916_260174.htm

3 中国中央人民政府「国務院関于大気汚染防治行動計画的通知」国発(2013)37号、2013年9月10日。
http://www.gov.cn/zwgk/2013-09/12/content_2486773.htm

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