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動脈と静脈が織り成す中国内陸経済の変化(2)

February 20, 2014

5 四川西南循環経済産業園

再び、ごみの山が並ぶ国道沿いを走るとT字路があり、国道を外れるように道を折れる。すると、その道沿いには牛棚子村の店と異なる、真新しくて清潔そうな食堂や売店が並び、作業着姿の若者が歩いている。その道をさらに進むと、奥には広大な敷地が広がる四川西南再生資源産業園があった。

2008年9月22日、内江市政府と中国最大の再生資源回収利用企業である中国再生資源開発有限公司(中再生)は「西南再生資源産業基地の建設に係る協力協定」に合意、協定の具体的中身として同年11月14日に34億元を投資し、内江市東興区の5,000ムー(3.3km²)の土地を造成して四川西南再生資源産業園を建設する協力書に署名した。

西南再生資源産業基地全体は、西南最大の再生資源基地として、53.3km²の再生資源市場交易区及び26.7km²の再生資源深度加工園区を建設する壮大な計画である。西南再生資源産業園はこの基地の中核となるもので、総投資額は30億元以上、三期工程に分け、当初の総工期は2015年までの5年計画であった。一期の面積は800ムー、投資額は9.12億元で、回収分別、集散交易、モデル加工、物流配送、汚染対策、管理研修、科学技術研究開発および公共サービス等の機能を有する施設を建設する。二期の面積は400ムー、投資額は5.15億元で、深度加工区を建設する。三期の面積は3,800ムー、投資額20億元を予定し、資源収集量を拡大するほか、深度加工プロジェクトなどに係る建設を行う。

開発を行なう中再生は、いわゆる中央国有企業(国務院国有資産監督管理委員会が保有する113の中央企業)ではないが、国務院の批准を受け、1989年5月に北京で設立された中華全国供銷合作総社傘下の企業で、国の支持を受けた中国国内トップのリサイクル企業である。四川省内江以外にも、広東省清遠、河南省洛陽、江蘇省常州、山東省臨沂、寧夏回族自治区銀川霊武、河北省唐山、陝西省西安、黒龍江省、江西省など全国に拠点を構えている。中国で大手のリサイクル企業は他にもあるが、その多くは、一つ乃至多くても数カ所の省での活動に留まる。その理由の一つには、省単位で出される、リサイクルを行うための許可の取得の難しさがある。中再生が中国全土に広がりを持つことは、国策会社としての証だとも考えられる。

2009年10月18日、一期工程として800ムーの面積を有する四川西南再生資源産業園の建設が開始された。このとき内江市の唐利民書記は、「粗放型、低付加価値、高汚染の歴史に別れを告げ、専業化、集約化、産業化経営の発展段階に進む」ことを宣言した。2011年3月9日には内江市政府と中再生は北京にて第二期プロジェクト投資協力書に署名、同年6月5日には一期工程が終わり、正式に開園して120社が入居するとともに、二期工事が開始された。

2009年当時、同地にあるリサイクル企業は1,142社、就業人員は7,344人、廃プラ以外も含めた年間取引量は150万トン、年取引額は前述のとおり50億元以上であったという。しかし、インフォーマルな小企業ばかりでは環境汚染の心配もある上、税収も限られる。内江市としては中国国内のトップ企業を誘致し、産業としてフォーマル化が進むことを望んだであろう。西南再生資源産業園は、最終的に年間で再生資源185万t、電気・電子機器廃棄物200万台、廃自動車5万輌を扱い、100億元の売上高と2億元の利潤を実現し、それによって19億元の税収をもたらして、2万人の就業を解決する計画となっている。

産業園内に入ると、左手に大きな建物が並ぶ。ここは中再生の敷地で、オフィス棟のほか、リサイクルのための作業ラインや、静脈資源のヤードとなっている建屋がある。一見する限り、近代的かつ大規模な作業場となっており、牛棚子村の家内制手工業とは比ぶべくもない。

敷地奥を右手に曲がると、整頓された区画に資源回収業者のヤードが連なっている。ここに来て、牛棚子村に活気が感じられなかった理由が分かった。これまで村で資源回収業を営んでいた企業のうち、一定の資金力がある企業は既にこの産業園に移転してきており、現在も村に残る企業は零細企業に限られていたのである。ここでは業者はリサイクルは行わず、資源回収のみを行っている。回収された資源は隣接する中再生でリサイクルされるか、ここからリサイクルを行う企業へと買い取られていくようである。これによりインフォーマルセクターでのリサイクルによる環境汚染を防ぎつつ、彼らの雇用も存続させている。

6 政府と企業のWIN-WIN

2012年夏、中再生が工場を建設した唐山市玉田県を訪れたことがある。ここも内江市牛棚子村と同様に廃プラスチックや廃タイヤの集散地で、工場から少し離れた村には農民が副業で行うようなインフォーマルなリサイクル企業が集まっていた。同工場の管理者は、インフォーマルな企業がリサイクルを行い、環境汚染を引き起こしている現状を改善するため、それらの企業には資源回収に専念してもらい、集まった資源のリサイクルは環境対策が整った同社の工場で行うようにすると話していた。さらに、インフォーマルな企業で働く農民らを同社の社員として雇うことも考えており、そのための研修会を開催していることを説明してくれた。

この内江市も同様の仕掛けである。静脈産業でもっとも重要なことの一つは、静脈資源を集めることである。中再生としては、内江市には既に集散地としての実績があり、静脈資源が集まる地の利を活用できるという計算があったのであろう。

他方、そのことは内江市にとっても経済を維持、拡大し、税収を上げ、環境保全も進むという望ましい選択である。そして、内江市の上級政府である四川省政府にとっても、望ましいことであった。中再生が内江市に進出するにあたって、省内唯一の都市鉱山モデル基地が発展を遂げるため、省としても後押しをした様子が伺える。2010年3月に四川省発展改革委員会は、中再生を四川省循環経済モデル試点企業に指定した。同年8月には、四川省政府は中再生に対し、国が景気対策として開始した「家電以旧換新制度」(古い家電から新しい家電への買い換えを促進させる補助制度)において、回収された家電のリサイクルを行うことの許可を与えている。

国策企業である中再生を、地方が許認可で支える。その結果、企業は収益を上げ、地方には税収、雇用、そして清浄な環境が確保される。
一見すると、望ましい結果である。

もし問題があるとすれば、このような保護的な政策の恩恵を受けてもなお、中再生の2010年10月末の売上高が3億7,597万元に留まることかもしれない。この年、同社は確かに増値税6,334万元を支払っているが、同時に四川西南再生資源産業園のプロジェクトに対し中央財政より7,922万元の補助金が支払われている。

一般に静脈産業の経営は、再資源化したものの販売による収入だけでは厳しく、日本であれば廃棄物処理費用を得ること、中国であれば現在の家電リサイクルで支給されているような補助金を得ることを見込んで経営をすることになる。静脈資源として扱うものによるが、インフォーマルセクターが残る市場では、環境への配慮を行うフォーマルな企業が稼げる利幅は大きくないことが予想される。環境保全上の理由のみならず、静脈産業が持続可能な経営を行うためには、中国の市場からインフォーマルセクターを排除していくことが必須となる。

四川西南循環経済産業園の三期工程は、一、二期をはるかに上回る規模の投資が必要となる。現在の収益状況で、そのような投資は可能であろうか。2012年6月、四川中再生は韓国SKグループおよび蘇寧電器との協力覚書を結んだ。内陸における動脈産業の成長が続くなか、四川省、内江市そして中再生らは静脈産業の発展にも確信を持っているのであろうか。その行末が注目される。


【参考文献】

細田衛士、染野憲治(2014)「中国静脈ビジネスの新しい展開」北海道大学、『經濟學研究(The economic studies)』 Vol.63,No.2,13-27頁。

染野憲治(2011)「循環経済に向けた中国の取組み」一般財団法人日中経済協会、『日中経協ジャーナル』 No.211,16-19頁。

周永生(2013)『“城市鉱山”概論』 世界図書出版広東有限公司。

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