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アジアの安全保障のカギを握るアンダマン・ニコバル諸島

October 2, 2014

[特別投稿]長尾 賢氏/東京財団アソシエイト

9月22日、新しいインド海軍の艦艇の進水式に出席したアンダマン・ニコバル諸島を管轄するインド軍司令官が興味深い発言をした。その中では、アンダマン・ニコバル諸島には専用の艦隊を創設し、潜水艦を含め配備するべきであること。政府はアンダマン・ニコバル諸島における増強の必要性について理解しており、おそらく増強の方向となる、という内容の発言である(注1)

もしこの話が本当だとすれば、この発言は日本の安全保障にかかわる重要性をもっている。どうかかわるのか。本稿では、アンダマン・ニコバル諸島の重要性と日本の安全保障のかかわりについて概説することとした(図は位置関係)。

(注1)Jayanta Gupta, “Andaman and Nicobar Command should get a fleet: CINCAN” (The Times of India, 22 September 2014) (http://timesofindia.indiatimes.com/City/Kolkata/Andaman-and-Nicobar-Command-should-get-a-fleet-CINCAN/articleshow/43168702.cms ) 図:アンダマン・ニコバル諸島の位置
※筆者作成

1.インド洋の出入り口

アンダマン・ニコバル諸島の重要性は、大きく分けて3つある。1つ目は、ここが北東アジア各国にとってインド洋へ進出する出入り口になっている点だ。図を見ての通り、アンダマン・ニコバル諸島はマラッカ海峡の西、ちょうどインド洋側の出口に位置している。そのため、北東アジア各国の海軍がインド洋へ進出しようとする際に通過する可能性の高い要地である。例えば1942年、日本の帝国海軍がインド洋へ空母5隻を展開させて英空母を撃沈し、スリランカの英海軍基地などを空爆したことがある。その際は、インド洋に入る前にアンダマン・ニコバル諸島を占領している。現在、中国海軍は原子力潜水艦をインド洋に派遣することが増えているが、インド洋により多くの艦艇を展開させる際は、アンダマン・ニコバル諸島のような要地は必要になろう。アンダマン・ニコバル諸島のすぐ北のミャンマーのココ諸島に中国が通信施設を設置しているのは、このような中国のインド洋進出上の重要性があるからと、推測される。

2.シーレーンを閉じる門

もう1つは、同じ地理的状況から、アンダマン・ニコバル諸島がマラッカ海峡の出口にあることから、シーレーン防衛上の重要性を持つことである。仮に例えば中国とインドが対立状態に入ったとき、インドはこのアンダマン・ニコバル諸島を利用して、中国向けの商船の通行を規制できる可能性がある。実際には、そのような対立が印中間で起きる可能性があるのか疑問があるし、通行を規制するといってもどこまで厳格に規制できるのか疑問もある。それでもインドがアンダマン・ニコバル諸島を有していることで、マラッカ海峡の安全保障に強い影響力を有していることは否定できない事実であり、インドの海洋国としてのパワーの一端を示している。

3.多国間協力の舞台

アンダマン・ニコバル諸島の3つ目の重要性は、その地理的位置関係ゆえに、ここがインドと東南アジアをつなぐ多国間協力の舞台となっていることである。インドはここで1年おきにミランという多国間演習を主催している。この演習には多くの東南アジア各国の海軍、インド洋の沿岸国も参加している。インドと東南アジアにちょうど中間に位置するため、このような演習を開くのに便利な位置にあるからだ。そして、そのような交流の機会を通じてインドと東南アジア諸国の防衛交流は順調に進展している。インド海軍はシンガポールとの間で毎年共同訓練を実施しているし、タイ、インドネシアとの間で共同パトロールを行っている。そして、インド空軍はマレーシア空軍の訓練も行っている。インドのアンダマン・ニコバル諸島の地理的利点を生かした防衛交流は、インドが東南アジア地域の安全保障への関わりを強める役割を果たしている。

4.日本にとってのアンダマン・ニコバル諸島

こうした利点は日本にとってどのような意味をもつであろうか。まず、日本にとってインド洋は中東から日本まで天然資源を運ぶシーレーン防衛上重要な地域である。地域の安全保障が安定していることが望ましい。日本との関係強化が進むインドの海軍力が増強され、インド洋地域を安定的で開かれた海として維持しようとする努力は、日本の国益になる。その観点から、インドが行っているアンダマン・ニコバル諸島の防衛力強化も、日本の国益に合致するといってよい。

また、日本が中国との外交を展開する上で、日印協力は欠かせないものになりつつある。インドがマラッカ海峡の封鎖という選択肢を持っていることは、中国に対する圧力として一定の圧力になろう。

さらに、中国の海洋進出が激しくなりつつある南シナ海では、日本やインドといった地域の安全保障に責任を持つような大国がない。そのため中国と東南アジア諸国との軍事バランスは中国側に大きく傾いている。アメリカとともに日印豪は協力して東南アジア各国の防衛努力を支援する必要がある。インドがアンダマン・ニコバル諸島を通じて東南アジア各国の軍事力に対して支援を提供することは、日本の国益に合致しよう。

こうして考えると、日本にとって、インドがアンダマン・ニコバル諸島の防衛力強化に取り組み、より東の地域への関与を深めることは国益に合致する。現在、日本がアンダマン・ニコバル諸島の空港整備に協力する構想について報道があるが(注2)、このような空港・港湾などのインフラ建設計画は積極的に進めるべきであろう。そして、とくに海峡防衛の観点からは、潜水艦や機雷に対する防衛能力の向上につながる支援が求められ、日本の潜水艦技術、対潜水艦技術、掃海技術など有用といえる。

(注2)「中国牽制…インド離島の空港整備 軍用視野、印首相来日時に提案へ」(産経新聞、2014年7月26日)(http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140726/plc14072611130012-n1.htm )

    • 元東京財団研究員
    • 長尾 賢
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