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日印安全保障協力のこれまでの歩みとその背景

January 17, 2017

長尾賢 (東京財団研究員)

昨今、日印の安全保障協力関係が進展しつつある。両国の首脳は毎年交互に相手国を訪問し、事務次官級の外務・防衛2+2、海洋政策、宇宙政策、テロ対策、サイバーテロ対策、アフガニスタン政策、アフリカ政策などについても定期的な協議を行うようになった。両国間では、「秘密軍事情報保護」「防衛装備品及び技術移転」に関する協定も結んでいる [i] 。日本は、日米印の協議にも参加しているが、それだけでなく、インドが主導する環インド洋地域協力連合や、南アジア地域機構、インド洋海軍シンポジウムなどにも参加している。そして海上自衛隊とインド海軍は、アメリカも交えた日米印共同演習マラバールを定期的に開催し、また日印2国間でもジメックスという共同演習を行い、ソマリア沖の海賊対策でも協力している。陸上自衛隊とインド陸軍も国連平和維持活動などで協力し、航空自衛隊とインド空軍も輸送機部隊やテストパイロットの交流などを行っている状態だ。さらに、防衛装備品の輸出として、海上自衛隊が装備するUS-2救難飛行艇をインド海軍に輸出する協議が行われている。

このように、日印間の安全保障協力は、他の国と比べてもかなり進みつつあるといってよい。しかし、これはごく最近始まった新しい動きである。いったいどのような経緯でここに至り、その背景には何があるのだろうか。

1.日印連携発展の経緯

日印間の協力が始まったのは2000年代に入ってからである。インドが1998年に核実験を行ったとき、日本はインドに厳しい制裁を課した。その制裁が継続中であった2000年8月、森喜朗首相は訪印し、日印の関係再構築を始めたのである。2005年にはアタル・ビハーリー・ヴァジパイ印首相が訪日し、小泉純一郎首相とともに「21世紀のアジアおよび世界の安定と繁栄に貢献」するための「グローバル・パートナーシップ」を宣言。2006年に安倍晋三首相は、マンモハン・シン印首相と共に「戦略的グローバル・パートナーシップ」を宣言した。2007年には、訪印した安倍晋三首相がインド国会で「2つの海の交わり」という演説を行い、これは日印の専門家やメディアが繰り返し引用する印象深い演説となった [ii] 。そして2008年、麻生太郎首相とマンモハン・シン印首相との間で「安全保障協力に関する共同宣言」をまとめ、日印の安全保障協力が深化し始めたのである。

2009年、日印両国は安全保障協力促進のための「行動計画」を策定した。現在行われている多くの日印の防衛交流は、この行動計画に基づいて進められている。このような経緯からは、日印の安全保障協力が、2000年以降、行動計画を定め、着実な深化をとげてきたことがわかる。

2.中国ファクターとアメリカの政策の変化

日印の安全保障協力はなぜ着実な深化を遂げてきたのだろうか。深化を後押しする要因があるのに対し、阻害する要因がないからである。深化を後押しする要因とは何か。日印の安全保障面での関係が進化し始めたのが2000年代末であったことは注目に値する。2000年代は、中国の強引な海洋進出が顕著になり、それに伴ってアメリカの政策も変わってきた時期だからだ。

中国の行動はなぜ強引になってきているのだろうか。防衛省のホームページにある資料「南シナ海における中国の活動」は原因をよく示している [iii] 。これによると、中国の行動は、フランス、アメリカ、ソ連などが地域から撤退し、ミリタリーバランスが自国に有利になると、南シナ海の島々を占領するなどの強硬な態度を示すようになる。

だから、中国の行動を抑えるにはミリタリーバランスの維持が欠かせないことになる。ところが、アメリカの軍事力と、急速な伸びを続ける中国の軍事力の差は、徐々に縮まりつつある。例えば、2000年から2015年までの間に、アメリカは13隻の潜水艦を新規に建造・配備した。ところが同じ時期、中国は42隻も建造・配備している。これは、過去に比べれば、アメリカの圧倒的な軍事的優位が揺らいでいることを意味している。従来と同じ安全保障システムでは、中国の行動を抑えるには至らないだろう。

従来のシステムは、日米同盟、日豪同盟といったアメリカとの2国間同盟を中心としており、日豪の安全保障関係のような同盟国同士の関係はあまり深いものではなかった。これはアメリカに深く依存したシステムである。米中のミリタリーバランスが変わる中では不十分なシステムだ。そこで今、アメリカが考えているのは、アメリカの同盟国・友好国同士が協力して、アメリカの役割の一部を担うネットワーク型のシステムである。その中で重要な関係として、軍事力が伸びている新しい友好国、東南アジア諸国や、特にインドとどう協力関係を深めるかが問われている。日印の安全保障協力の深化が必要になってきたのである。

図1:従来の安全保障システムと新しいシステム

参照:長尾賢「 日印「同盟」時代第11回:日豪印「同盟」で日本の安全保障が変わる! 」『日経ビジネスOnline』(日経BP社)2015年8月19日

3.日印の安全保障関係は将来さらに深化する

以上から、日本とインドは2000年代に関係強化を進めたこと。特に安全保障協力は2000年代末、中国の活動が強引になるにしたがって強化されてきたこと。そして、そのような日印の安全保障関係は、アメリカが進める構想と一致しており、アジアの新しい安全保障システムに基づいていることを指摘できる。

昨今、インド側もその重要性を認識し始めている。2014年にピュー・リサーチ・センターがインドで行った調査では、インドが同盟を結ぶべき国として約半数がアメリカ、29%がロシア、26%が日本と回答している [iv] 。印中国境でも中国側の軍事的活動が活発になり、インド側への侵入事件も年400件前後に増え、インド洋でも中国の潜水艦が3か月で4回程度のペースで確認されており、インドは警戒感を強めているからだ。

そのため、日印の安全保障関係は、将来、さらなる深化が期待されよう。日印の安全保障上の協力関係をどう強化していくべきか、より多くの具体案を検討する必要が出ている。

[i] 外務省 「日印防衛装備品・技術移転協定及び日印秘密軍事情報保護協定の署名」 2015年12月12日

[ii] 外務省 「インド国会における安倍総理大臣演説:二つの海の交わり」 2007年8月22日

[iii] 防衛省 「南シナ海における中国の活動」 2015年12月22日

[iv] 72% of Indians fear border issue can spark China war ”, The Times of India, 15 July 2014

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