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【概要】第1回 地域伝統産業活性化勉強会

December 22, 2010

地域伝統産業を元気にするための方策を考える勉強会
第1回 概要

○日 時:2010年12月06日(月)17:00~20:30
○場 所: NPO法人 遊悠舎京すずめ
○参加者: 井上健二 (東京財団研究員兼政策プロデューサー)
土居好江(NPO法人遊悠舎京すずめ理事長)
柳原弘行(京都新聞編集局次長、文化報道部長)
吉永 憲(共同通信情報企画本部次長)
地元自治体伝統産業振興政策担当者

【議事次第】

1.開会
2.参加メンバーの紹介(自己紹介)
3.勉強会開催の趣旨等
4.地域伝統産業に関する行政の取組状況
5.意見交換
6.ヒアリング調査の実施等について
7.閉会

【勉強会要旨】

参加メンバーからの自己紹介の後、井上より配布資料に基づき、勉強会開催の趣旨及び地域伝統産業の現状や国等における地域伝統産業振興施策の取組状況等について説明があり、その後、メンバー間で意見交換を行った。その主なポイントは以下のとおり。

(勉強会での議論の対象となる伝統産業のイメージ)
■この勉強会で扱う「伝統産業」は、伝産法指定の伝統的工芸品といった限定的なものではなく、伝統的な技術及び技法を用いてい作られているもので、地域の伝統的な文化や生活様式に密接に結び付いた産業といった緩やかなイメージ。

(現状認識及び問題意識)
■全国各地で、伝統のある工芸品はじめ伝統あるものがどんどん廃れていっている。守れるかどうかは時間との競争。守るべき日本の文化をしっかり守っていく必要がある。
■京都の伝統産業でも、いいものが廃れていっている。伝統産業に関わっている職人さんの声も発信していくことが重要。
■伝統産業の中には、歴史的にもう廃れてしまう寸前のものもあれば、新たにコンセプトを変えて、世界に発信し、大きく飛躍した伝統産業もある。この差がどうして生まれたのか、きちっと分析することは、他の伝統産業がどう生き残り、発展させることができるか、その方策を考える上でも重要。
■伝統産業と文化は表裏一体で切っても切り離せないもの。伝統産業には、文化的な側面と経済としての側面がある。伝統産業の課題は、産業として活動しているはずだが、たとえば、「文化だから儲からなくていい。」というように、疲弊した原因を文化に求める風潮がみられること。文化財的側面から「残していかなければいけない技術」などはあるが、それは別途手当てしていくことが大事だが、伝統産業を考える時、産業である以上、「売れること」が大事。
■漬物の分野では、たとえば、伝統をしっかりと守りながらいい商品をつくっていらっしゃる小規模事業が厳しい状況で、一方、後から参入した大規模な事業者が栄えているという事例は数多くあり、伝統を守り、ほんまもんを作っている事業者のよさをもっと発信し、守り立てていくということも大事。
■バブルの頃までは、行政が産業発展の方向性を指し示し、業界がそれに従えば、発展していけた時代だったが、今は、その方法では上手く行かなくなった。個々の事業者がどの方向に進むかを考え、多方面に動く中で、上手くいくものもあれば、そうでないものもあるという状況。
■一般の方は、伝統産業=文化と短絡視しがち。産業として成立する要件が確保されているかどうかは一般的に関心はもたれない。名産品と伝統工芸品はほぼ同じものと、産地以外の人からは認識されているのが現状。産地は頑張っているが、ほとんどの人はそのことを知らないし、伝わらない。その理由は、守らなければいけないものという意識が産地以外にはないこと。文化として、残すべき文化、文化遺産として受け継いでいかなければいけないという話だと分かりやすいが、産業として残さなければいけない、ということを外から見ている人に説明することは極めて難しい。その地域に入り込まなければ分からないこと。産業論として発信するとなると難しいし、発信しても理解されないことの方が多いというのが現状。
■マーケットが維持できなくなって衰退してきている産業に対して、新たなマーケットを創造できるのか。その際、「伝統」という固定概念が障壁になり、新しいアイディアも生まれにくく、脚光を浴びないから後継者も出来にくいという状況が起きているのではないか。
■ものづくりを志し伝統産業の職人になることを希望する若者は多いが、”売れない”、産業として成り立たないという厳しい現実があり、事業者がそうした若者を雇用できない、あるいは若者が個人で独立しても食べていけず辞めていく、という実態がある。
■伝統産業は、製品が売れていた当時は、集団就職で多くの工員が機械を使って織る作業に従事しており、その当時の近代産業そのものだった。伝統産業を守るという時に、どの部分を守るのか、何を守るのか、をはっきりさせることが大事。
■たとえば着物であれば、茶道をやっている人などがいるので一定程度の需要は維持されるが、相当低い水準になるのではないか。
■右肩下がりの状況の中で、これまでとはまったく次元の異なる発想で伝統産業を捉えなおし、事業者自らが新しい市場を開拓していかない限り、厳しい状況は打破できない。お香の松栄堂の取組はいい参考事例。
■伝統産業の多くは、生活様式の変化によって衰退していったものが多い。昔は日常品だったものがそうでなくなったことによる。工芸品としては買ってもらえる可能性はあるが、日用品としては買ってもらえない。こうした点を再認識した上で、どう対応するかを考えることが重要。
■「よそもの、若もの、バカもの」と地域再生ではよく言われるが、外の視点あるいは若者の視点をもったプロデューサーのアドバイスを伝統産業の関係者が聞く耳を持たなければ、伝統産業の厳しい状況は変わらない。
■グローバル化に伴い、自国の伝統文化を語れる人材の育成が益々必要になってきている。最近の若い女性の間では、着付けのできる人が増えてきているとの話もある。
■今の若い世代はちょうどバブル世代の2世。ちょっと前の本物の良さを見る目を持っている。ブランドに依存するのではなく、自分に合ったものを本質で求めている、自分なりにおしゃれを楽しんでいる。消費するものにはお金をかけないが、自分が大事だと思うものにはお金をかける傾向があり、チャンスともいえるのではないか。
■生活様式の変化の流れは変えられないので、それを踏まえた新しい提案を業界側からやっていく必要がある。
■伝統産業の中でも最終商品を作っているものと左官のようにそうでないものとあり、その違いを踏まえた議論が必要。また、焼き物でも、作家と呼ばれる人と日用品を作っている人とでは全く違うので、区別して議論していく必要がある。
■伝統工芸品を製作する高度な技術に価値を置き、それを次世代に継承する方向で取り組むべきではないか。

(伝統産業振興のための取組について)
■伝産法は”産地”を支援する、産地の”団体”を支援するということを前提とした制度設計がなされているが、これをどう考えるか議論が必要。
■他府県ではあまりないが、最近の施策で、京都では、技術振興、仕事をお願いすることでの職人さんへの直接支援を行う支援策も実施。
■12月1日にMy Kyotoというフリーペーパーが創刊、東京メトロの表参道駅など主要駅に約7万部置かれている。首都圏から京都に誘客すること、首都圏で京都のものを購入していただくことを狙いとしている。コンセプトは、現代の生活に和の様式を取り込むことを提案すること。内容的には、たとえば、マンションでお茶会を催すといったムーブメントを興すことを誘引することを狙ったものや着物マンガなど、他の商業誌にはない情報が盛り込まれている。
■資金力・ブランド力のない小規模事業者や職人さんに対して、行政が介在し、新しいマーケットの開拓を応援する事業を実施している。
■プロデューサーを活用した事業を行う際に、京都伝統工芸大学校(TASK)の学生あるいは卒業生で、職人ではなく、将来プロデューサーを目指す人を一緒にそのプロジェクトに助手のような形で参加させ、プロのプロデューサーのノウハウやその人的ネットワークをOJTで学ぶような人材育成事業もやってはどうか。
■国の伝産補助金の販路開拓支援事業で、販路開拓支援といいながら、展示会場で商品に値札をつけてはダメとなっているのは改善すべき。
■これから行政がしなければいけないことは、今日・明日どうするかではなく、20年・30年後を見据え、これまでは家庭で伝えられてきた地域の伝統産業というものを、社会全体で伝えていく、子供達に教育の場などを通じて知ってもらい、触れ、体験してもらうことではないか。
■住宅の中から畳のある日本間がなくなっている。その結果、日本間の暮らしにあった着物、座卓や座布団が必要なくなってきている。漆喰の壁や掛け軸などもそう。新築する際に、日本間を1つ作ったら、固定資産税を減免するといった施策でもしない限り日本間は復活しないのではないか。
■ファッションで着物を捉えている若い人が多く、着物でパーティーなどのイベントを開催すると人気が高く人が集まる。また「京都きものパスポート」の取組を通じて着物の着用が徐々にではあるが増えている実例もある。そういう分野から新しい形で、現代の消費者のニーズにあった商品の提供などを進めていくことを支援している。中長期的には教育は大事だが、短期的にはこうした取組を進めていくことも必要。
■アンテナショップ白イ烏では、西陣や友禅関係の75の事業者が参加しているが、今のところ、アンテナショップでの売上は右肩上がり。若い人のニーズに合うような環境づくりをすることでマーケットを刺激していくことは大事。
■単発的なイベントを開催すればいい反応が見られるように、潜在的な需要は存在するが、それを顕在化させること、実際の消費に結びつけるところまでもって行くことは難しい。
■京都で授賞式などを開催する場合に、タキシード着用ではなく、正装は着物で、「着物着用」とすべき。「議会や仕事はじめも着物が正装」といったことをもっと進めてはどうか。最近は、車に乗らない若者が増えてきているが、車の運転がしずらいと敬遠されていた着物にとってはチャンスともいえる。
■東山で開催するイベントなどでは、若い人がレンタルで着物を借りて、着て楽しんでいるが、次のステップとして、実際にその人が着物を購入するかというと、なかなかそうはならない。値段の問題や手入れの手間などが課題か。着物を入れる箪笥もない。着付け、手入れなど着物は大変という先入観を変える、着物を洋服感覚で簡単に着ることができる着こなし術といった情報発信を京都発でしていくということが大切。
■今までの伝統的な技術・素材・技法はできるだけ生かしながら、デザイン、色柄、形状などは現代の要素を取り入れた新商品の開発に対して支援を行っている。(ただ、本当のイノベーションは、これを超えたものを作ることなのかも知れない。刀鍛冶が刀を使わないという時代の変化、生活様式の大変革に合わせて、包丁職人に変わっていったといのはイノベーションの成功例ともいえるのではないか。)
■伝統産業と新産業のマッチングについて、伝統産業をシーズとみた時に、ニーズがどこにあるかが分からない。新産業側にそういった目利きが出来る人が必要。そのため、京都市産業技術センター内に伝統技術と新産業技術を融合させるセンターが先月オープン。


〔参考資料〕
■第1回勉強会資料(PDF:746KB)

    • 元東京財団研究員
    • 井上 健二
    • 井上 健二

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