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次代の国際コンセンサス形成に向けた基盤づくり:「GGF2025」報告会(終了)

August 27, 2015


浅野貴昭
(東京財団研究員 兼 政策プロデューサー)

10年後の国際社会が直面する課題に挑むために、いま何ができるのか。東京財団が、慶應義塾大学やドイツの国際公共政策研究所(GPPi)等とともに実施した政策ワークショップ「 グローバル・ガバナンス・フューチャーズ2025 」(以下、GGF2025。概要については 「未来から逆算して今の世界を考える」 を参照)に参加した日本人フェロー5名のうち4名(慎、原口、野添、浅野)が東京財団にて報告会を行った。

多様なキャリアと専門性を持つGGFフェローによる政策対話は、どのようなプロセスを経て、どのような成果につながったのか。報告会は、政策提言の内容、シナリオ・プランニング手法、国際的な合意形成のあり方などについて、直接、日本人フェローの声を聴く機会となった。以下、当日のフェローによる発言や、参加者との意見交換を基に、議論の焦点をまとめる。

非専門家の使い方?

冒頭、GGF2025の枠組みと、10年後の国際社会の姿を描くために用いられた、シナリオ・プランニング手法について簡単な説明があり、その後、各フェローから、シナリオと政策提言について紹介があった。地球工学(原口)、インターネット・ガバナンス(慎)、無人兵器の軍備管理(野添、浅野)の3つが、GGF2025が取り上げた政策課題である。

GGFプログラムの特徴のひとつは、専門家に議論を完全に委ねないことにある。GGFフェローは、各々、多様な実務経験を持つプロフェッショナルではあるが、GGF2025において課されたトピックについては必ずしも専門家ではない。そもそも、地球温暖化対策のタブーと呼ばれることもある地球工学、良くも悪くも民間企業の果たす役割が大きいインターネットの世界、そして民生、軍事両用の技術を基盤にして拡散していく無人兵器の問題は、いずれも有効なガバナンスの仕組みが出来上がっていなかったり、専門家の数も限られていたりするような分野である。

しかし、参加したフェロー自身からは、専門の枠外に踏み出すことを、新鮮な体験として受けとめていた、との声が上がった。日常では接点がない分野のプロフェッショナルの発想に触れ、改めて自分の立ち位置を見直し、意思疎通のスタイルについても工夫を凝らす。10年前と比べれば、はるかに物事が複雑化し、早いペースで展開している今を思えばこそ、10年後の世界では、これまで以上に、幅広いステークホルダーを巻き込み、コンセンサスを効率よく築いていくことの重要性にも気づく。グローバル・ガバナンスとは何か、という議論をゼロから積み上げていく中で、専門家が、各々、分担管理の上、社会課題を処理している現状の限界にも勘付かされる。

新しい政策対話の第一歩

政策提言をまとめた以上は実践あるのみ。GGF2025の試みが現実社会に通用するか否かを、早速試さんとばかりに、GGF2025最終会合が開催された米国ワシントンDCでは、完成した報告書をもって、政策実務者、研究者など、当該分野に知見を有する専門家たちとの意見交換にも乗り出した。その際には、既存の議論をなぞっただけ、検討すべき課題の絞り込みすらできていない、という手厳しいものから、大きな方向性をうまくとらえている、既存の体制に切り込む果敢な挑戦だ、と評価してくれるものまで、いろいろな反応があった。

そうした中、ただの空想と片づけられかねないGGFの近未来シナリオを先取りするかのような事件、事故が、ドローンやサイバー・セキュリティに関して起きた。GGF報告書の目的は、未来を正確に言い当てることではない。国際情勢、景気、治安、財政など、鍵となるいくつかの要素を提示し、それらがいかにダイナミックに、相互に影響を及ぼしながら、国際社会の行く末を左右し得るか、という問題提起こそが目指すところであり、それによって、専門家、非専門家の注意を喚起しようとしている。それでも、政策提言の出来不出来、シナリオ・プランニングの演習をいとも簡単に追い越してしまう世界の動向、それらがすべて混ざり合いながら、国際的な政策対話の糸口をGGF2025がわずかなりとも提供できたのであれば、プログラムにふさわしい締めくくりをワシントンDCで迎えることができたのではないか。

国際コンセンサスのためのインフラ形成

報告会の中で明らかになったのは、GGF2025の3つのチームはいずれも、いかにして幅広いステークホルダーの声を拾い上げ、それを国際的な合意形成に活かすか、という課題に挑んでいたことだった。報告書では、意思決定プロセスが少数に独占される可能性、甚大な危機を迎えてようやく合意に漕ぎつける可能性、多様な声の前に国際世論が引き裂かれてしまう可能性などが示されており、国際コンセンサス形成についての問いに答えることの難しさがにじみ出ている。望ましい意思決定過程を模索するも、迂遠な道のりのほかに選択肢はないようにも思えてしまう。

それでも、フェローによる報告がポジティヴなトーンで貫かれていたのは、GGF2025の濃密な議論を乗り切ったことによる自信が裏付けとなっているのかもしれない。GGFプログラムは、文化的背景も、キャリアも、専門性も異なる25名のフェローが、1年間をかけて、世界の5都市を巡り、環境を変えながら、のべ4週間強にわたる時間をひたすら政策議論に費やす、という贅沢な企画である。それは、フェロー自身が国際合意形成を疑似体験するということであり、そうした活動の蓄積こそが、そのまま次代の国際意思決定を形作っていけるのではないか、という希望の下に設計されている。報告書作成のプロセスで、GGFフェローたちは、議論の組み立て方、コミュニケーションの取り方、一連の摩擦に耐えうるタフな心構え等々を少しずつ、身につけていく。学生による留学経験とも少し異なった、よりプラクティカルな実験である。

GGF2025とは、10年後の未来を見据えたプログラムであったにもかかわらず、報告会では、もう終わってしまった過去、つまりプログラムの中身や、分析手法についての議論に多くの時間を割く形となってしまった。GGFフェローが考える2025年の世界とはどのような社会か、これから優先して取り組むべきグローバル・ガバナンス上の課題は何か、といった問いを、後日改めて投げかける機会があれば、と思う。が、それは世界中に散らばっているGGFフェローによる今後の活動が答えとなるのかもしれない。GGF卒業生たちは、国際ネットワークを維持しつつ、自主的な活動を継続することとなり、第4期目となるGGF2027についての企画も進んでいる。これからGGFコミュニティの活動はより多様に、そして拡大していくことになりそうだ。

本報告会にパネリストとして参加したフェローのコメントを以下に紹介する。

慎 泰俊 (NPO法人Living in Peace代表理事)

「タダでドイツ、中国、インド、アメリカに行って色んな人の話が聞ける」という不純な動機でGGF2025に志願したのですが、このフェローシッププログラムからは、予想よりも遥かに多く学びを得ました。私が得たものは大きく以下の三つに集約されると思います。

第一に、未来のシナリオ作成の技法を身につけたことです。本プログラムにおいてフェロー達が執筆することになるレポートの最大の特色は、「10年後の世界を描き、そこから得られる洞察を基にした政策提言を行う」ことにあります。方法論の詳細は私自身のメモ(リンク https://note.mu/taejun/n/nd1a2e0925eb6 )を見て頂ければと思いますが、本プログラムでは、五カ国から集まったプロフェッショナルたちが缶詰めになって、3週間をかけて未来のシナリオを作成することになります(最後の1週間はその政策提言をプレゼンします)。このシナリオ作成という技法は非常に汎用性が高いもので、政策提言のみならず、ビジネスや個人のキャリアといったものを考える上でも役立つものです。

第二に、プログラムを通じて各国で政策立案に直接関わっている人々の話を伺えたことです。新聞を読むだけでは理解できないことも多いため、数多くの質疑応答セッションを通じて、各国の政治が何を目指しているのかを確認することができました。

第三に、これがおそらく最も重要なのですが、各国のプロフェッショナルたちと長い時間を過ごし関係を作れたことです。密度の濃い4週間を通じて、気兼ねなく話し合いが出来る友人が各国にできました。これは情報共有といったレベルにとどまらず、今後不確実性を増していく世界において、各国間の友好的な関係を維持する上でも非常に大きな役割を果たすと感じています。

こういった多くの学びを得るとともに、国際政治における日本の立ち位置について考えさせられました。私はインターネットガバナンスに関する政策提言レポートを作成していたのですが、未来を予測する上で重要なプレーヤーとして、日本の名前がフェローたちの口から出ることは皆無でした。超大国アメリカ、EUにおいて中心的な役割を果たしているドイツ、近い将来に世界一の経済大国となる中国、成長著しく人材豊富なインドに挟まれて、日本の影はどうしても薄いなと感じざるを得ませんでした。

もう過去のような勢いが国に訪れることを望めない日本が、国際的に権威ある地位を保つためにはどうするべきなのか、そんなことをよく考えていました。まず、私は自分にできることをしようと思います。

原口正彦(コロンビア大学PhD課程、The Earth Institute, Columbia Water Center在籍)

この報告会での議論を通じ、シナリオ・プランニングへの関心が高いことを感じ、改めてその意義と目的を振返ることができた。私はGGF2025に参加して初めてシナリオプランニングについて知り、1年間を通じてシナリオプランニングのプロセスに触れることが出来た。GGF2025の中でのシナリオ・プランニングの醍醐味は2つあったと感じており、1つ目は将来を予測することではなく、政策提言をすることが主たる目的として据えられていたことである。GGF2025では、未来について10以上にものぼるシナリオを想定したが、その一つ一つのシナリオが2025年に実現するかどうかという予測の正確性をあげることではなく、複数のシナリオの中から選び出した両極端な2つのシナリオに対応できる政策を提言をすることが主たる目的に据えられていた。2つ目は、このシナリオプランニングの結果を用いて、政策立案者との対話が図られたことである。GGF2025は1年をかけて5都市で開催されたが、その最終都市であるワシントンDCで開催された政策立案者との討論会では、シナリオから導き出された政策提言とその限界について徹底的に議論することができ、政策提言の実効性を見極める有効な機会であった。

今後、自らの研究成果を実社会に働きかけていく際に、GGF2025で培った経験やネットワークを活かしていきたい。

    • 元東京財団研究員
    • 浅野 貴昭
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