シンポジウムレポート「紛争下における人道支援と平和構築~普遍的価値の実践をめぐる考察」 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

東京財団政策研究所

詳細検索

東京財団政策研究所

シンポジウムレポート「紛争下における人道支援と平和構築~普遍的価値の実践をめぐる考察」

March 5, 2008

創立10周年記念シンポジウム「グローバル化時代の価値再構築」

<テーマ> 第4回「紛争下における人道支援と平和構築:普遍的価値の実践をめぐる考察」
<開催日時> 2008年2月28日
<パネリスト> ヤコブ・ケレンベルガー(赤十字国際委員会(ICRC)総裁)
緒方貞子(国際協力機構理事長)
<コメンテーター> 岩沢雄司(東京大学法学部教授)
鶴岡公二(外務省地球規模課題審議官)
<モデレーター> 北岡 伸一(東京財団主任研究員(東京大学法学部教授))

独立性と中立性を柱に活動する国際赤十字

ケレンベルガー:ICRCは1863年、スイス人のアンリ・デュナンによって創設され、それ以来、世界各地で武力紛争の犠牲者の保護や救援を行ってきました。現在は世界80カ国以上で活動し、2007年の一年間で約400万人の避難民を支援し、1400万の人々に水供給、衛生活動、建設工事などの援助を行いました。また、10万件におよぶ外科治療を提供しました。活動を地域別にみますと、ICRCの2008年予算の43%がアフリカでの活動に充てられています。また、私たちはイスラム圏のイラク、スーダン、パレスチナ、アフガニスタンを重点的な活動地域としています。 ICRCの活動にはいくつかの特徴があり、その一つに現場主義があります。私たちはまず紛争地域へのアクセスを確保します。そして、現場に派遣された要員が地域の実情や人々のニーズを把握し、それに基づいた適切な支援を提供します。たとえば、復興途上にあるスーダンでは全国にICRCの拠点が設置され、私たちが派遣した140名のスタッフが1800名のスーダン人スタッフと緊密な連携をとりながら活動しています。ICRCはまた、独立と中立を大原則としています。私たちはいかなる政治勢力にも影響されることなく独立して活動し、紛争地域においてはいかなる紛争当事者にも加担しません。そして、この独立性と中立性があるからこそ、私たちは他の国際組織が退去せざるをえない非常に危険な地域でも活動することができます。 ICRCは世界各国の赤十字と連携しながら活動していますが、日本赤十字はスーダンにおける医療支援で重要な役割を演じ、2005年に南アジアで大地震が発生した際にいち早く緊急対応チームを派遣するなど、活発に活動しています。日本政府も、2007年に集団殺害や戦争犯罪を裁く国際刑事裁判所の加盟国となり、紛争時の傷病者や捕虜を人道的に処遇することを定めた国際人道法を積極的に推進するなど、人道支援に大きく貢献しています。

ヤコブ・ケレンベルガー氏スピーチ原稿はこちら

紛争後の復興援助の担い手が今後の課題

緒方:私は1991年から2000年まで国連難民高等弁務官(UNHCR)として難民支援活動に携わりましたが、ICRCとUNHCRの仕事は共通の部分があり、そのためICRCと常に緊密な連携を保っていました。UNHCRは、難民条約に基づき、国境を越えて避難した人々に保護と支援を提供します。したがって、紛争が鎮静化し、難民が母国に帰還すると、これらの人々への保護と支援は原則的にUNHCRの仕事ではなくなります。また、紛争は鎮静化しているため、人々の保護よりも生活基盤を建て直す復興援助が支援事業の中心となります。 そして、ここで「誰が復興援助を担うか」という問題が発生します。母国内の問題ですから本来、UNHCRの仕事ではありません。また、ICRCは紛争中の活動を主体としていますので、ICRCの仕事とも言えません。かといって、どの地域も治安が十分に回復していないため、私が現在理事長を務めている国際協力機構(JICA)のような開発援助機関が中心となって活動できる状況でもありません。このように、今のところ紛争後の復興援助で主導的役割を果たす機関が見当たりません。その一方、紛争後の平和構築には、住宅や食べ物を提供し、住民の生活を安定させることが不可欠です。こういう状況ですので、国際社会はこれから紛争地域の復興援助をどのように行っていくか真剣に考える必要があります。また、その際、国際機関とNGOの連携など、多様な可能性を検討していくべきだと思います。

低下しつつある日本のICRCへの拠出

北岡:ケレンベルガー総裁、緒方理事長、ありがとうございました。続いてコメンテーターの岩沢先生と鶴岡審議官に一言ずつお願いします。

岩沢:私は現在、国連の人権規約委員会の委員を務めています。人権規約は身体の自由と安全、思想・信条の自由などの保障を定めた国際規約で、世界160カ国以上が批准しています。人権規約などの人権法は戦時と平時を問わず適用されますが、ケレンベルガー総裁の話された国際人道法は武力紛争の際に適用されます。このような違いはありますが、人権法と人道法は重なり合う部分が多く、人道支援や平和構築において共に重要な役割を果たしています。

鶴岡:私は実務家として予算面の話をします。ICRCは世界各国からの拠出金で運営されており、日本の拠出額は21世紀に入り国別にみて世界10位前後で推移してきました。しかし、昨年は大幅に拠出額が減り、世界19位に後退しました。これには理由があり、一つには日本の政府開発援助(ODA)が全体的に減少しています。また、ICRCの活動が日本国内で十分に理解されていません。そのため、外務省としては、国内の理解を深め、ICRCへの協力を強化したいと思っています。

北岡:日本の赤十字は1877年(明治10年)、この年に起きた西南戦争の傷病者を救護するために創設されました。国際的にみても歴史のある赤十字なのですが、日本のICRCへの貢献は日本の国際的地位にそぐわないようです。それでは、会場からの質問も受け付けながら話を進めようと思います。

支援活動の参加者に安全面のトレーニング

会場からの質問:復興援助のお話がありましたが、支援活動への参加を希望する人々にトレーニングの場を提供することはできないでしょうか。

鶴岡:日本政府は「平和協力国家」の理念を打ち出そうとしています。このためにも多くの人々に復興援助に参加して欲しいと思いますが、復興の現場は治安が悪く、水道や電気などの生活基盤も整っていません。そのため、参加者に安全管理などのトレーニングを十分に施す必要があります。

ケレンベルガー:復興期は紛争から平和への移行期で相当な危険が伴います。私たちは本来、紛争期に活動する機関ですが、危険な状況に対応できる機関が少ないため、復興期にも活動しています。しかし、復興期の協力者に対するトレーニングは特に行っていません。

緒方:UNHCRの東京事務所で安全管理のトレーニングを提供しています。このようなトレーニングを拡充していく必要がありますね。

北岡:岩沢先生から人権法のお話がありましたが、紛争時の犯罪者を厳格に処罰すると紛争終結に支障をきたすという見方もあるようです。

岩沢:私は昨年、人権規約委員会の委員として、紛争時の人権侵害に対する処罰についてスーダン当局から事情を聴きました。しかし、下級の兵士が軽い処罰を受けているだけで、十分な処罰は行われていないようでした。

緒方:コンゴ紛争で感じたのですが、犯罪者が多すぎて、裁判制度だけではとても対応できません。そのため、各地域の伝統的な裁定制度を活用するなど、何らかの工夫が必要だと思います。

日本の国造りを世界の平和構築に生かす

会場からの質問:日本のICRCへの拠出についてお話がありましたが、日本人スタッフが少ないなど、日本の貢献は人材面でも不十分だと思います。

ケレンベルガー:ICRCの職員は欧米諸国の出身者が多く、私もアジア諸国やイスラム圏の人材をもっと受け入れたいと考えています。

鶴岡:日本人職員が増えるとICRCの国際性が高まります。このためにも、私たちは総裁のご期待に応えていきたいと思います。

北岡:日本は戦後、平和で豊かな国を造ってきました。この経験を世界の平和構築に生かすことが日本の国際的使命ではないかと、皆さんのお話をうかがっていて感じました。

注目コンテンツ

0%

INQUIRIES

お問合せ

取材のお申込みやお問合せは
こちらのフォームより送信してください。

お問合せフォーム