September 25, 2014
日本のエネルギー政策再構築~電力統合体制(Energy Integration)を構築しエネルギーの多元化を実現せよ~
3.11原発事故後のエネルギー政策として2014年4月に政府が決定した「第四次エネルギー基本計画」では、“多層化・多様化した柔軟なエネルギー需給構造”を実現することが大きな方針とされています。その方針が意味するところは、これまでおよそ60年かけて築き上げられた、電力10社による地域独占、原子力を中心とした大規模集中型発電、発電~送電~配電~小売の垂直統合、そして東西を分断した周波数という現在の体制を大胆に改革していくことにほかならず、目指すものは本プロジェクトと同じエネルギーの多元化といえるでしょう。
今後は、エネルギー基本計画に記された方針を具体的に実現していくことが重要になりますが、電力市場の自由化など、これまでにも様々なエネルギー政策が計画されたにもかかわらず、実行段階で十分な成果をあげられなかった事例が少なくないことを考えると、果たしてエネルギー基本計画に記された改革方針が机上論にとどまらずきちんと実現されるのか懸念が残ります。
そこで、本提言ではエネルギー基本計画に記された改革方針が“絵に描いた餅”にならず、着実にエネルギー多元化体制が構築されるよう具体的な視点として、以下4点を提言します。

【提言1】エネルギー多元化を実現しているスペインの電力統合体制を参考にせよ
【提言2】小売自由化が先ではなく所有権分離による発送電分離を先行せよ
・第2段階の小売の自由化と第3段階の発送電分離は順序が逆ではないか。
・法的分離による発送電分離で果たして送電線の無差別公平な利用が担保されるか。
といった点が懸念される。
電力市場自由化の取り組みは、第二次電気事業法改正により2000年から進められているが、発送電分離がなされていない状況のままでは様々な障壁が残り、「新電力」 * と呼ばれる新規事業者の参入は遅々として進んでいないことから、市場自由化と発送電分離のタイミングは見計らう必要がある。
また発送電分離についても法的分離では依然として電力会社との資本関係が残ることから、送電線の無差別公平な利用がどこまで担保されるか注視すること、問題がある場合には速やかに所有権分離の方式へ移行するプランを予め想定しておく必要がある。
【提言3】多様な電力を系統に接続し統合して運用するエネルギー・インテグレーション技術の開発を急げ
スペインのように電力統合体制を構築しエネルギーの多元化を実現するにはそれを支える技術システムの開発が必要不可欠だが、今回の電力システム改革の方針ではどのような技術システムを構築していくかという点はまだ明確ではない。
エネルギーミックスを考える上でも技術的に、何が、どれくらい電力系統に統合が可能なのか中立な立場で技術的検証を行う必要がある。
米国においてもエネルギー省が中心となりスペインが実用しているような多様なエネルギーを電力系統に効率的に統合するエネルギー・インテグレーション技術の開発を急速に進めている。
電力システムの改革においては制度設計と技術的なシステム設計は表裏一体であることから日本も遅れをとらないよう電力統合技術開発の取り組みを急ぐ必要がある。
【提言4】福島を再エネ普及のみならずエネルギー・インテグレーションのモデル地区とせよ
そこで、再エネの普及促進による県の復興を進めている福島にて、単に再エネ発電所を増やすだけではなく、県内の石炭ガス化複合発電(IGCC)などの火力発電、そして既存の電力系統をも統合したエネルギー・インテグレーション技術開発の実証実験を行い、課題の洗い出しを行うことでリスクの低減を図るとともに、福島をエネルギー・インテグレーションのモデル地域とすることで福島の地域活性化と全国への波及効果とを促すべきである。
また、先端的なエネルギー・インテグレーションのモデル地区を世界に先駆けて示すことは、今後成長が見込まれる世界のエネルギー関連市場の獲得にも繋がることが期待できる。
* 既存の大手電力会社である一般電気事業者(電力10社)とは別の、特定規模電気事業者(PPS: Power Producer and Supplier) のことで、契約電力が50kW以上の需要家に対して、一般電気事業者が運用、維持する系統(電線)を通じて電力供給を行う事業者。
【巻末資料】ナショナル・ジオグラフィック日本版「明日はどっちだ!? 資源・エネルギーサバイバル最前線」
平沼光 「検証:エネルギー基本計画3 ハワイの知見を福島に」 http://nationalgeographic.jp/nng/article/20140709/406736/