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将来推計の抜本見直しを ― 日本の経済財政社会保障に関する将来推計の課題と将来像

January 26, 2012

日本の経済財政社会保障に関する将来推計の課題と将来像


政策提言「将来推計の抜本見直しを~日本の経済財政社会保障に関する将来推計の課題と将来像~」(PDF:2.20MB)はこちら


政策を検討・立案・決定する際、将来予想される経済変化やその政策によって引き起こされる影響を予め定量的に計測するのが「将来推計」の役割です。社会的要請のもとで立案される政策は、本来、政策の実施自体が目的ではなく、政策がもたらす結果に関心があるのですから、見積り段階で一定の妥当性を持つことが求められます。また、現下の財政と社会保障の問題の深刻さを踏まえれば、政策の検討・立案・決定それぞれの局面で、将来推計はその土台とならねばなりません。

我が国では、多種多様な将来推計が政府内に政策別、組織別に存在します。多種多様とは活発に利用されているとも見えますが、実は大きな問題があります。多種多様に示される結果の基礎をなすパラメータ(変数)を始めとするそれぞれの推計の基本前提は、いくつか共通しているだけで、整合性には疑問があり、その前提が他の推計と異なる理由や全体的な関係性は明らかでありません。そして、その根本にある問題は、多種多様な推計を、当事者である政策担当省庁自身が担っていることにあります。

諸外国等に目を転じれば、「将来推計」を財政、社会保障の規律付けのために用いる動きが近年特に盛んになってきており、以下の4原則が愚直に徹底されています。

一元化 :推計の責任者を一つにすること
整合化 :前提や推計全体のロジックやパラメータ等を一致させること
透明化 :可能な情報をできるだけ開示してその理由なども説明を惜しまないこと
第三者化 :議会や民間などの他の機関による検証と議論を行うこと

遅れる我が国は「将来推計」の政策決定プロセスでの本来の使い方に改めるため、4原則を達成しなければなりません。まずは、政府各所に散在する各モデルを「整合化」することが急務です。その際、日本と同様、各省がモデルを使う英国では、予算責任局(OBR)がロジックやパラメータの整合化に責任を持っている現状を参考にすべきでしょう。次に推計モデル全体に責任を持つ「一元化」に際しては、国家戦略と将来推計を不可分とし、司令塔機能が保持すべきと考えられます。併せて、民間でも検証可能な情報公開を積極的に行うなど「透明化」も求められます。最もハードルが高い「第三者化」には、国会と民間、それぞれに役割があります。国会に第三者としての検証機能の発揮を求めると共に、民間には、人材やノウハウの供与はもとより、自身が検証を不断に続けることが重要です。

各国では「将来推計」を政策の検討や決定の基盤とし、その方法論や実施、活用体制の改善に取り組んでいます。これは、ややもすれば、近視眼的な選択をしがちな民主主義の限界を補完する役割を見出したからだと考えられます。将来世代や少数派に配慮した中長期にも整合的な政策決定をするために、経済モデルと数値を用いた中立的な第三者機関による将来推計が注目を浴びるようになったのだといえましょう。

我が国が、財政危機を乗り越え、政治が信頼を回復するため、将来推計を活用する4原則達成への挑戦が求められます。

東京財団研究員・政策プロデューサー
亀井 善太郎



<「日本の経済財政シナリオ」プロジェクト 研究会メンバー>
亀井善太郎 東京財団研究員・政策プロデューサー(プロジェクトリーダー)
川出真清 日本大学経済学部准教授
中本淳 東京財団研究員
朴寶美 慶応義塾大学経済学部博士課程
高野哲彰 慶応義塾大学経済学部修士課程

    • 元東京財団研究員
    • 亀井 善太郎
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