高山市街と乗鞍岳 (写真提供:Kyodonews)

所有者不明土地問題は、まちづくりの問題――岐阜での取り組み

山田桃子

岐阜新聞社営業局営業部

所有者不明土地問題について 岐阜県の現状

岐阜県の所有者不明土地問題は、大きく森林と、市街地の問題に分けられる。

全国2位の広さをもつ岐阜県の森林面積は、県の全面積1万621平方キロメートルのうち81.2パーセント(%)を占める。県内で最も広い森林面積を有するのは高山市で、20万453ヘクタール、森林率は92.1%に及ぶ。 同市で活動する土地家屋調査士会会長は、森林の所有者不明土地問題には「先祖伝来の地元居住者所有の土地」と「原野商法による別荘分譲地」の二つがあり、どちらも資産価値が低下したことで所有者不明となったと話す。地元居住者所有の土地については、木材に価値のあった時代、山林は手入れされ、土地の境界も所有者ごとに親から子へと伝承されていったが、山林の資産価値の急落とともに手入れがされなくなり、学業と就業のため都市部へ転出した子世代に位置や境界が伝わらないことが要因。土地の境界を示す公的証書といえる公図は明治初期に作成されたものであり、実測していない土地は、風景が変われば境界が不明になる事態になっている。そのため、子が登記上の所有者となっても、相続した土地の位置や境界がわからないケースが多い。別荘分譲地の土地については、1970年代の別荘ブームで、建物がない状態で土地だけが分譲販売された後、分譲業者が倒産や解散したことがおもな要因。どちらも山林の荒廃に繋がり、豪雨や地震により土砂災害などの危険をもたらす可能性が高い。

市街地でも、人口減少を背景にさまざまな場所で土地の価格が低下。土地所有者は存在しても営業していない店舗物件空き家も年々増加している。また、若い世代が学業や就業を理由に転出する人口流出も問題の悪化に追い打ちをかけている。

岐阜県の人口は199万9,839人(2018年9月1日現在)で、42市町村のうち上位5位の岐阜市(40万6,735人)、大垣市(15万9,879人)、各務原市(14万4,690人)、多治見市(11万441人)、可児市(9万8,695人)で全体の45%を占める。2005年の国勢調査以降、岐阜県の人口は減少し続けており、岐阜県政策研究会人口動向研究部会の推計によると2045年には約151万人まで減少する見込み。人口減少は日本の大きな社会問題だが、岐阜県のような地方都市ではさらに人口流出の問題も大きい。1996年以降、職業、結婚、学業による転出超過が続き、20代の若い世代の転出が目立つ。県外で就職、結婚となれば、県に戻ってくることもほとんどない。県外での暮らしがあるとすれば、親から代々所有する土地を相続する期待も寄せづらい。まして、土地の価値が低下し固定資産税の免税点以下にまで低下した土地であれば、なおさら費用をかけて相続するとは思えない。2020年をめどに法改正がなされ、相続登記の義務化や所有権放棄制度が整備されたとして、「放棄する土地」が増えた場合、その土地をどうするのか課題は山積みだ。

そもそも所有者不明土地問題は、法律の問題なのだろうか。法改正で相続が義務化され、罰則が規定されたら所有者不明土地は減少するだろうが、それで土地に魅力が戻るとは思えない。人口が増加していた時代は、自然とそこに人が集まり、建物や道路などインフラが整備され、町が形成されていった。しかし、人口が減少している今、これまでと同じようなインフラを整備するだけの「まちづくり」では、価格競争を引き起こし、より土地の価値を下げる。人口減少時代だからこそ、自分たちが暮らす土地、地域の今後にもっと関心を持ち、議論していくことが大切なのではないか。地元メディアとして、自分たちの土地、地域にもっと目を向けるようなきっかけを生み起こし、情報発信をしていく必要があると考え、「所有者不明土地問題を考えるネットワーク岐阜」を立ち上げた。

「所有者不明土地問題を考える」ネットワークづくり

2018年7月、岐阜新聞社が各関係団体に声をかけ、「所有者不明土地問題を考えるネットワーク岐阜」を発足。メンバーは岐阜地方法務局、県司法書士会、県土地家屋調査士会、県行政書士会、県不動産鑑定士協会、県宅地建物取引業協会、全日本不動産協会県本部。

昨年度の活動は月に1回の勉強会を7月から9回実施。勉強会では、各団体が所有者不明土地に対する取り組みや近況を報告し、集まった参加者で意見を交換。オブザーバーとして県の担当職員も参加した。各団体それぞれに立場が違うため、県民に発信する情報について多様な意見が出たが、岐阜県という地方都市が魅力的な土地になるためには、一般住民らにいかに関心を持ってもらうかが大切で、所有者不明土地問題は、つまり「まちづくり」の問題でもあるという認識で一致した。

11月には一般対象のシンポジウムを開催。関係者、自治体職員も含め約110人が参加した。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの阿部剛志主任研究員による講演では、都市部への人口流出による土地所有権の広域化、相続形態の多様化といった所有者不明土地が発生する要因を解説。倒壊の恐れがあるとして市区町村が所有者に改善を指導、助言した「特定空き家」に近隣住民として対応するケースなどを挙げ、誰もが当事者になりうると訴えた。パネルディスカッションには、岐阜地方法務局の担当者、県司法書士、県土地家屋調査士が登壇。所有者不明土地が地域住民にどう悪影響を及ぼすのかをパネルで示し、聴講者に意識するよう呼びかけた。パネルディスカッション後の質疑応答では、参加者から、土地を相続した際、登記に要する費用に比して土地の価格が低く、十数万の赤字であったという声も上がった。

【シンポジウムのアンケート集計結果】(74人回答/110人)

 

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各自治体の「空き家対策」と「まちづくり」について

各自治体の「空き家」「まちづくり」に対する取組み状況を調査するため、岐阜新聞社が2019年にアンケートを実施したところ、全42市町村のうち34の市町村から回答が届いた。結果は以下のとおり。

1. 空き家バンク制度の取組みについて

21の自治体が制度を実施している。その多くが3、4年前から実施しているが、七宗町は2006年、関ケ原町、美濃市は2007年から実施しているという。空き家バンクへの登録件数は、家屋、土地を含め498件。

2. 空き家バンクを活用した移住・定住者の増加について

8自治体が「増えた」と回答。おもな希望者層は、30代~60代の子育て世代とシニア世代。

3. 所有者不明の空き家の有無

17の自治体が、所有者不明の空き家が「ある」と回答。総数は109軒。ただし、空き家があると認識しているものの、その数は把握しておらず不明との回答も見られた。

「まちづくり」の取組みについては、17の自治体が「移住・定住の促進」と回答。そのほか、新築住宅取得者に対する定住奨励金の交付、保育園の無料化などで子育て世代の定住を促進している自治体もあった。

また、市民と行政が一緒になって「まちづくり」を考えるワークショップや勉強会を実施している自治体が3つあった。なかでも、市民主体のまちづくりを約20年前から実施している自治体の取組みを紹介したい。 

高山市における市民が主体の「まちづくり勉強会」

人口8,847万人、観光地として国内外から人気が高い高山市は、JR高山駅周辺の中心地や古い町並みは、終日観光客で賑わっている。しかし、市内には大学がなく、若い世代のほとんどが大学進学のタイミングで県外に転居し、就業機会が少ないので帰ってこない。高山市では2018年8月から、「高山の未来のための都市(まち)づくり〜30年後(2050年)の高山、何を目指して生きるんや〜」をテーマに、市民が自由に参加し、自治体職員と一緒に考える「まちづくり勉強会」を実地。月に1回開催し、参加者は25名程度。高校生、主婦、事業者など年代も立場も異なる幅広い層が集まる。参加の呼びかけは市が発行する広報紙のみ。担当者は、毎回新しい参加者が増えると話す。この勉強会の目的は、市民と一緒に30年後の高山市を描き、今、しなければいけないことを明確にし、マスタープランの見直しに活かしていくこと。しかし、会自体の効果はほかにもある。市民が主体となって考えることで、地域に自主的な活力が芽生えることだ。

また、2,300軒(空き家率16.1%)の空き家についても「高山空家活用コンテスト」を実施し、最優秀作品には10万円の賞金を授与するなど、空き家の暗いイメージを明るくし、市民が積極的にアイデアを提案したくなるような取組みをしている。公開審査で市民も投票する。昨年度のコンテストでは、高校3年生の女子が、空き家を学生の学習スペースとして活用するアイデアで最優秀賞を受賞。単なる学習スペースではなく、地元企業の宣伝やアンケート調査の場としても活用することで地元の企業と学生とをつなぎ、地元に就職する若者を増やすことが狙い。空き家の整備・運営費は、地元企業からの広告費でまかなう。まちづくり勉強会を立ち上げた自治体職員は「人口減少を悲観することより、この町で暮らして幸せやったと一人ひとりが思えることが大切。高山市の若い世代が県外に出て、帰ってこなかったとしても。高山市に暮らす間、何を経験させてあげられるかを考えたい」と話す。

地方において人口減少は加速する一方。大切なのはその現実を受け入れ、人を増やす施策だけではなく、少ない人口でも幸福度が高いまちづくりを進めること。幸福感が高ければ、きっと他県からも魅力的な地域に見えるはず。

今後のネットワークの活動としては、まちづくりの議論が活性化している自治体を紹介し、まちづくりをテーマにした映画の上映会を開くなど、より多くの人が自分たちの土地や地域に関心を持つきっかけをつくっていく。また、ネットワークのメンバーも、まちづくりを研究している大学や団体などに広げ、より多様な視点で「所有者不明土地問題」を捉えていきたい。

地元メディアとして、所有者不明土地問題がなぜ増えているのかをネットワークの活動を通して発信していくなかで、未来のことを考えて行動することの大切さを伝えていきたい。

 

 

山田桃子(やまだ ももこ)

岐阜新聞社営業局営業部所属。2018年7月、「所有者不明土地問題を考えるネットワーク」を発足。ネットワークの事務局を担当。メンバーは岐阜地方法務局、県司法書士会、県土地家屋調査士会、県行政書士会、県不動産鑑定士協会、県宅地建物取引業協会、全日本不動産協会岐阜県本部。

 

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