2019年5月4日、アイオワ州フォート・ドッジで演説するサンダース氏 (写真提供 GettyImages)

台頭するサンダース派の外交論とは:サンダース氏の外交演説を手がかりに

中央大学 法学部非常勤講師

西住祐亮

2016年大統領選挙の民主党予備選で、「民主社会主義」を掲げるサンダース(Bernie Sanders)上院議員(バーモント州、無所属)が躍進したのを一つのきっかけに、アメリカの民主党では、党内左派の存在感が高まっている。

2018年中間選挙では、サンダース氏と政策的立場が近いとされるオカシオ・コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)氏が、下院議員選挙(ニューヨーク第14選挙区)の民主党予備選で、現職有力候補に勝利した。その後の本選挙でも勝利したオカシオ・コルテス氏は、アメリカ史上最年少の女性下院議員となり、現在の民主党を代表する一人になったとも言える。またサンダース氏自身も、2020年大統領選挙への出馬を表明し(2019219日)、民主党予備選を見据えた世論調査の多くでは、バイデン(Joe Biden)前副大統領(2019425日に出馬表明)に次ぐ2位の位置につけている[1]

こうした党内左派は、数の上で勢力を伸ばしているだけでなく、掲げる政策の中身でも、注目を集めている。経済的争点を中心に、従来の左派・リベラル派より更に左寄りの立場を打ち出していることから、日本のメディアでは「最左派」といった表現で紹介されることもある。

しかし外交政策の分野に目を移すと、台頭する党内左派の立ち位置は、必ずしも判然としない。2016年選挙時のサンダース候補は、圧倒的に内政問題に比重を置き、選挙戦を開始してから最初の4ヶ月間は、陣営のウェブサイトに「外交政策」の項目がないほどであった[2]。外交問題への言及が少ないのは、2018年選挙時のオカシオ・コルテス氏にも言えることであった[3]。また中には、台頭する党内左派の間で共有される確たる外交論がないことを指摘する見方もある[4]

そこでこの論考では、以上のような現状を踏まえた上で、サンダース氏個人に注目し、同氏の外交論について理解することを試みる。サンダース氏は、トランプ(Donald Trump)政権発足以降、一転して外交政策に関する発信を強めている。こうした姿勢は、台頭する党内左派の中でも際立ったものとされ、外交政策に焦点を当てた演説も幾つか行っている。こうした演説の中身は、サンダース氏の外交論を理解する上での重要な材料となる。 

外交政策に関する発信の強化

2020年選挙に向けたサンダース氏の外交姿勢として、まず指摘すべきは、外交政策への言及が少なかった2016年選挙時と打って変わって、この分野における発信を強めていることである。こうしたサンダース氏の姿勢の変化については、「サンダースの進化」「サンダース2.0」といった形容もなされている。なかでもこうした変化の象徴とされるのは、サンダース氏が行った二つの外交演説で、一つは20179月にウェストミンスター大学(ミズーリ州フルトン)[5]、もう一つは201810月にジョンズホプキンズ大学で行った[6]

サンダース氏が姿勢を変化させた理由の一つとして指摘されるのは、2020年選挙を見据えた民主党の党内事情である。すなわち2016年選挙時にサンダース氏が掲げた左寄りの国内政策が、民主党内に浸透したという「自身の成功」によって、奇しくもサンダース氏がこの分野で他候補との違いを演出するのが難しくなったというわけである[7]

こうした中、サンダース氏は、他の左派系候補に先駆けて、自身の外交論を大々的に示したことになり、今後、こうした発信をますます強化するのではないかとの見方もある。サンダース氏は、2017年に入ってから、外交専門家を集めた会合を、定期的に開くようになったとも伝えられている[8] 

民主主義と権威主義の抗争

サンダース氏の外交論の中身で注目すべきは、現在の世界を、民主主義と権威主義が競い合う場と見立て、「民主主義の後退」や「権威主義の台頭」への取り組みを中心的な課題に位置づけていることである。

こうした姿勢は、ジョンズホプキンズ大学で行った演説のタイトルが「権威主義に対抗するグローバルな民主主義運動を構築する(Building a Global Democratic Movement to Counter Authoritarianism)」であったことにも表れている。サンダース氏はこの演説の中で、「競合する二つのビジョン」の抗争を指摘し、この抗争の結末が、アメリカと世界の今後を大きく左右すると強調している[9]

またサンダース氏が2017年に演説を行ったウェストミンスター大学は、イギリスのチャーチル(Winston Churchill)元首相が、ヨーロッパ大陸の分断や国際共産主義の脅威を指摘した「鉄のカーテン」演説(19463月)を行った場所でもあり、この場所の選定が、権威主義の広がりを警戒するサンダース氏の姿勢を象徴しているとする見方もある[10]。そもそも、サンダース氏が外交政策に関する発信を強めたもう一つの理由というのも、ロシアによる2016年選挙への介入疑惑(権威主義による民主主義への攻撃)であったとされる[11]

こうした「権威主義の台頭」に対して警戒感を抱いているのは、当然ながらサンダース氏に限ったことでなく、こうした警戒感は、トランプ政権発足後のアメリカで、かなり幅広く共有されている(「シャープパワー」の議論など)。ただサンダース氏に特徴的なことがないわけではない。

第一の特徴は、民主主義と権威主義の抗争を国単位の抗争と見るのではなく、国の垣根を越えた抗争と見なしていることである[12]。ここで特にサンダース氏が念頭に置いているのは、トランプ大統領の存在であり、ジョンズホプキンズ演説でも「アメリカ国内における民主的規範の破壊」や「プーチン大統領との親密な関係」を繰り返し批判している。その他、民主主義を支持する各国の勢力が連帯する必要性や、アメリカ自身が模範となる民主主義を国内で実践する重要性についても強調している。

第二の特徴は、2016年選挙時に打ち出した国内政策(貧富の格差の是正など)を、この抗争の文脈に取り入れていることである。すなわちサンダース氏は、「不平等、腐敗、寡頭制、権威主義がみな不可分」(ウェストミンスター演説)であることを強調し、世界の格差是正や腐敗撲滅に取り組むことが、「権威主義の台頭」を抑え込む上で重要になるとの主張をしている。

第三の特徴は、世界の民主主義を支援する重要性を指摘する一方、軍事的手段を通した民主化促進には否定的な姿勢を示していることである。サンダース氏は、トランプ政権下の国防支出の拡大や、イラク戦争(20033月開戦)を批判すると同時に、対外関与の「本気度」を軍事力行使の有無で判断する「アメリカ政界の古い考え方」に対しても批判を加えている(ウェストミンスター演説)。なおここからも分かるように、サンダース氏は、トランプ大統領の姿勢だけでなく、従来のアメリカ外交についても、問題点を数多く指摘している。 

サンダース氏の外交論に対する評価

こうしたサンダース氏の姿勢と、外交演説の中身については、肯定的な見方と否定的な見方の双方が示されている。

まず肯定的な見方については、権威主義との抗争をアメリカ外交の中心的な課題に位置づけ、それを二つの演説を通して、明快かつ雄弁に語ったことが、民主党支持者の間で広く支持されている[13]。既に述べたように、「権威主義の台頭」に対する警戒感は、現在のアメリカで幅広く共有されているものであり、とりわけ2016年選挙への介入が問題視されるロシアについては、民主党支持者の間でほぼ批判一色の状況となっている。サンダース氏は二つの演説で、繰り返しロシアに言及し、プーチン大統領への対決姿勢も鮮明にしているが、こうした点が、民主党支持者の間での高評価につながった可能性は高い。

またこの点と関連して注目されるのは、民主党系外交専門家とサンダース氏の距離が縮まっているとされることである。2016年選挙の際、外交専門家の多くはクリントン(Hillary Clinton)陣営に加わり、サンダース氏の「外交政策への無関心」を批判する場面もあった。しかし現在ではこのような構図にも変化が見られ、「アメリカが直面する脅威を最も正確に把握している」として、一転してサンダース氏を高く評価する専門家も出てきている[14]

加えて、格差是正といった左寄りの政策論を外交演説に取り入れた点は、従来の支持者から高く評価されている。またこれと関連して、「権威主義への対抗」と「世界の格差是正」という二つの目標を結合させたことが、外交政策に関する党内対立の解消につながると期待する向きもある[15]

他方、否定的な見方としては、権威主義に対抗する手段についての言及が少ないとの指摘が目立つ。すなわち、演説での雄弁な語りとは裏腹に、具体性に欠けるのではないかという批判である。またこの点と関連して、特に問題視されるのが、中国に対する姿勢がはっきりしない点である[16]。周知の通り、現在の「権威主義の台頭」の中で、中国はロシアと並んで、最も警戒されている主体である。にもかかわらず、サンダース氏は二つの演説の中で、中国にほとんど言及していない[17]

また中には、権威主義に対抗するサンダース氏の姿勢そのものを疑う見方もある。ここで特に問題となるのは、社会主義を掲げるベネズエラのマドゥロ政権に対する姿勢である。トランプ政権がマドゥロ政権への圧力強化を進める中、トランプ大統領や共和党支持勢力の一部は、マドゥロ政権に対する民主党左派の「生ぬるい姿勢」を執拗に口撃している。サンダース氏自身は、演説とは別の機会に、マドゥロ大統領の振る舞いを批判しているが、アメリカの軍事介入については、明確に反対をしている。サンダース氏の対ベネズエラ姿勢については、民主党内でも問題視する声が一部であり[18]、民主党予備選の過程で、引き続き問われていくことも予想される。加えて、サンダース氏本人の姿勢とは別に、サンダース氏支持者(民主党左派)の中には、権威主義的な指導者に同調する勢力もいると見られ、こうした勢力との距離のとり方も、この先のサンダース氏にとっては、重要になってくるかもしれない。

さらに選挙戦の展開によっては、外交演説での主張と、過去の言動の整合性が問われるような場面も出てくるかもしれない。サンダース氏は、1991年から2007年まで下院議員(バーモント州)を、その後は現在に至るまで上院議員を務めている。この間に行われた議会採決(点呼投票)での投票行動や、議会決議・法律に関する発言などについて、サンダース氏が説明を迫られるということも、この先あるであろう[19] 

2020年大統領選挙に向けて、サンダース氏が民主党指名候補の座を勝ち取る可能性は、当然ながら不透明である。しかしこの論考でも触れたように、2016年選挙時のサンダース氏は、民主党予備選で敗れはしたものの、サンダース氏が選挙戦で打ち出した国内政策の幾つかは、その後の民主党に深く根を下ろすことになった。2020年選挙では、同様のことが外交政策の分野で起こるのではないか。こうした観測を示す専門家も中にはいる[20]。選挙戦でのサンダース氏の闘いぶりとは別に、サンダース氏が掲げる外交論についても、引き続き注目していきたい。

 

 


[1] CNN Poll, April 25-28, 2019. <https://cdn.cnn.com/cnn/2019/images/04/29/rel6a.-.2020.democrats.pdf> p.6; Monmouth University Poll, April 11-15, 2019. <https://www.monmouth.edu/polling-institute/documents/monmouthpoll_us_042319.pdf/> p.4.など。

https://www.monmouth.edu/polling-institute/documents/monmouthpoll_us_031119.pdf/

[2] Peter Beinart, “It’s Foreign Policy That Distinguishes Bernie This Time,” The Atlantic, February 21, 2019. <https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2019/02/foreign-policy-distinguishes-bernie-sanders-2020/583279/>

[3] 加えて、外交政策の中で、関心が通商問題や移民問題に偏りがちであることも、党内左派の特徴として指摘されてきた。Sarah Jones, “Where Is the Left Wing’s Foreign Policy,” The New Republic, August 1, 2018. <https://newrepublic.com/article/150317/left-wings-foreign-policy>

[4] Paul Berman, “The Foreign Policy of the American Left,” Tablet, November 18, 2018. <https://www.tabletmag.com/jewish-news-and-politics/275223/american-left-2-foreign-policy> など。

[5] “Read: Bernie Sanders’s Big Foreign Policy Speech,” Vox, September 21, 2017. <https://www.vox.com/world/2017/9/21/16345600/bernie-sanders-full-text-transcript-foreign-policy-speech-westminster>

[6]Sanders Speech at SAIS: Building A Global Democratic Movement to Counter Authoritarianism,”

Website of Senator Bernie Sanders, October 9, 2018. <https://www.sanders.senate.gov/newsroom/press-releases/sanders-speech-at-sais-building-a-global-democratic-movement-to-counter-authoritarianism>

[7] Jamelle Bouie, “Sanders Has an Advantage, and It’s Not About Economics,” The New York Times, February 21, 2019. <https://www.nytimes.com/2019/02/21/opinion/sanders-warren-foreign-policy.html >

[8] Derek Robertson, “Bernie Sanders is Quietly Remaking the Democrats’ Foreign Policy in His Own Image,” Politico, October 17, 2018. <https://www.politico.com/magazine/story/2018/10/17/bernie-sanders-is-quietly-remaking-the-democrats-foreign-policy-in-his-own-image-221313>

[9] 権威主義勢力の広がりについて、サンダース氏は「新たな権威主義の枢軸(new authoritarian axis)」という表現も使っている(ジョンズホプキンズ演説)。

[10] Berman, op.cit.

[11] Robertson, op.cit.

[12] この点と関連して、サンダース氏は、同盟国・友好国の指導者に対しても、「権威主義的な指導者」との表現を使って批判をしている。具体的には、イスラエルのネタニヤフ首相、サウジアラビアのサルマン皇太子、フィリピンのドゥテルテ大統領、ブラジルのボルソナーロ大統領などの名前を挙げている(ジョンズホプキンズ演説)。

[13] Robertson, op.cit; Bouie, op.cit.など。

[14] Robertson, op.cit. オバマ(Barack Obama)政権期に国防省に勤務したヴァン・ジャクソン(Van Jackson)氏や、2016年選挙時にクリントン陣営で外交顧問を務めたジェイク・サリバン(Jake Sullivan)氏が例として挙げられる。

[15] Ibid; Bouie, op.cit; Benjamin Wallace-Wells, “Bernie Sanders Images A Progressive New Approach

to Foreign Policy,” The New Yorker, April 13, 2019. <https://www.newyorker.com/news/the-political-scene/bernie-sanders-imagines-a-progressive-new-approach-to-foreign-policy>

[16] Suzanne Nossel, “Bernie Sanders Still Doesn’t Pass the Commander-in-Chief Test,” Foreign Policy,

March 1, 2019 <https://foreignpolicy.com/2019/03/01/bernie-sanders-still-doesnt-pass-the-commander-in-chief-test/>; Peter Beinart, “Bernie Sanders Offers a Foreign Policy for the Common Man,”

The Atlantic, October 15, 2018. <https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2018/10/bernie-sanders-and-end-american-century/573001/> など。

[17] サンダース氏の中国への言及は、ウェストミンスター演説で3回(ロシアは7回)、ジョンズホプキンズ演説で1回(ロシアは6回)であり、いずれも気候変動問題か北朝鮮問題の文脈での言及であった。なお習近平国家主席への言及はいずれの演説でもなかった(プーチン大統領には計8回言及)。

[18] Caitlin Oprysko, “Menendez ‘Surprised’ by Bernie Sanders’ Soft Maduro Stance,” Politico, February

26, 2019. <https://www.politico.com/states/new-jersey/story/2019/02/26/menendez-surprised-by-bernie-sanders-soft-maduro-stance-873325>

[19] 例えば、アジアへのアメリカの関与拡大を規定したアジア再保証イニシアチブ法(ARIA)について、サンダース氏は表立った意見表明をしていない。この法律は、安全保障、経済、価値の全ての分野でアメリカのリーダーシップ強化を目指したもので、多額の安全保障関連予算も認めている。この法律は、上院・下院の圧倒的多数の支持を獲得して成立(2018年12月)したが、国防予算の拡大に反対するサンダース氏は、予算拡大の内容についてどのように考えたのであろうか。今後はこうした点について問われる可能性もある。

[20] Robertson, op.cit.など。

 

 

 

 

 

西住 祐亮

  • 中央大学法学部非常勤講師