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試行錯誤の所有者不明土地「持ち主探し」

黒崎亜弓
ジャーナリスト

 

所有者不明土地問題への対策は大きく二つに分けられる。「今後、発生を防ぐためにどう手を打つか」と「既に不明の状況に陥っている土地をどうするか」。後者の問題は、長年、売買が行われていなかった土地が公共事業などの対象となった際に顕在化する。所有権を持つ相続人たちの割り出しに時間と手間がかかるうえ、連絡のとれない人がいれば事業は立ち往生してしまう。その顕著な例が、東日本大震災の際の高台移転だった。

これまで不動産登記とは、権利を持つ人が自ら権利を主張するものだったが、2018年6月に成立した「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」(特措法)では、国が所有権を持つ人を探して登記を促すことが盛り込まれた。具体的には、公共目的での利用が想定され、なおかつ登記上の所有者が死亡した後、長期にわたって相続登記が行われていない土地(長期相続登記等未了土地)について、登記官は調査を行い、登記簿にその旨を記載したうえで、相続人に登記を勧告できるとする条項だ(第40条)。

2020年度までに約14万筆について解消作業に着手するとの工程表が閣議決定されており、特措法の一部が施行された2018年11月以降、事業が動き出した。「これまで登記は権利を主張する人が行うもので、法務省は“受け身”だった。やることなすこと初めて」(法務省民事局民事第二課の担当者)というこの事業、初年度にはさまざまな混乱が生じている。

「最終登記から70年」の3割が該当せず

全国50の法務局で1,000筆ずつ(北海道内では数百筆ずつ)という調査を実際に担ったのは司法書士だ。これまでも役所や公共団体から登記や相続人調査を受託してきた各地の公共嘱託登記司法書士協会に加え、この事業のために組んだ受託団や司法書士法人などが入札などを通じて受託した。

事業ではまず各法務局が自治体に「公共目的での利用が想定される」地域について調査要望を寄せるよう依頼した。各法務局は登記簿データをもとに、要望があった地域で最後の登記から70年以上経っている土地を抽出し、司法書士に調査を委託した。

受託した司法書士はまず、登記名義人の戸籍を取り寄せる。調査対象は、「死後30年にわたって相続登記が行われていない土地」と政令で定められており、該当する場合は、子どもらの戸籍をたどって法定相続人を割り出してゆく。最終的に法定相続人全員の名前、住所、生年月日、間柄などを記した一覧図を作成し、法務局に納品する。一覧図のデータは法務局に備え付けられ、登記簿には調査済みの土地である旨、記される。

 

図1 長期相続登記等未了土地の調査事業

 

抽出の基準を「最後の登記から70年以上」としたのは、30〜40歳の時に土地を取得したとすると、70年経てば死亡から30年経っているという想定に基づくという。

ところが、ふたを開けてみると、1,000筆のなかには、登記上の所有者が生存しているか、死亡していても30年以上経っておらず、調査対象とならないケースが相当数含まれていた。調査対象となったのは全国平均でおよそ7割。地域間のばらつきが大きく、最小の地域で3割弱、最大の地域で約9割だった。これは想定より長寿だったこと、地域によっては若いうちに相続していることなどが影響しているという。

突然の減額に不満噴出

法務省は、年度末の契約期限を前にした2019年3月、契約を結び直すにあたって、調査対象とならない分を減額した金額を提示した。法務省の担当者は「想定していなかったことだが、作業に見合った額を支払うのが国の予算の使い方としては適切」とするが、司法書士には反発が広がった。

というのも、当初の契約金額も各司法書士会が事前に提出した見積もりに比べて大幅に低かったうえ、調査に入った案件のなかには、何度も相続が発生し、そのつど増える相続人を追うために膨大な作業を要するものが含まれていたからだ。司法書士たちは事業の公共的な意義もふまえ、労力の多寡をならした総額として金額を受け入れていたが、「労力が少ない分はカット」と後から言われたがゆえに「話が違う」と不満が噴出した。

当初の入札価格(1,000件分)は地域でばらつきがあるが、1件あたり約2万4,000円といったところ。再契約した総額について、1,000件のうち調査対象になった分は1件あたりの金額が変わらないとすると、調査対象とならなかった案件は1件あたり1,000円弱と算出されるという(全国公共嘱託登記司法書士協会協議会[全司協]の杉本千里副会長が複数の法務局の再契約金額を基に推計)。

図2 再契約のイメージ 

 

入札価格は、1件あたり平均26人の相続人が発生していることを前提にしたものだが、平均26人という相続人数も、案件によって大きく異なる。登記上の名義人が死亡し、その子も死亡していれば、法定相続人はねずみ算式に膨れ上がる。昔は子の数が多く、時代によって異なる法律上の相続の規定を照らし合わせなければならない。これらは所有者不明土地について以前から示されている実態ではあるが、今回の調査を通じ、改めて浮き彫りになった。登記上の名義人が江戸時代の生まれで、法定相続人が200人近くに上るケースもあった。そのような案件の報酬は、民間で調査を依頼された場合は数十万円は下らず、公共事業の用地買収などの際に自治体から調査を受託する際には、戸籍の請求件数に応じて算出されるという。

調査事業は「50法務局で1,000筆ずつ」の規模で3年間、実施される見通しだ。初年度の経緯をふまえ、2019年秋に予定される2年目の入札では、最終登記から70年経った土地について、法務局で名義人の死亡から30年経っているかどうか調べたうえで、調査対象となる案件のみを委託するという。

煩雑な手続き、コストも増

報酬面に加え、調査上の手続きが煩雑でコストを要することも課題だ。

法定相続人の戸籍や住民票を取り寄せる作業は、登記官が自治体に対して公用請求する形をとる。公用請求は手数料がかからないが、法務局と自治体の間で文書をやりとりしなければならないため、司法書士が作成した申請書を法務局から発送し、自治体は法務局宛に戸籍や住民票を返送する。受け取った法務局から担当の司法書士に直接、発送する地域もあるが、司法書士を統括する事務局を経由する地域、あるいは司法書士が法務局に取りに行く地域もある。作業の流れが固まるまでも二転三転し、郵送などのコストも生じている。

加えて、時間的な問題もある。昨年秋に入札が行われた後、実際の作業がスタートした年末は各自治体も窓口で戸籍や住民票の請求が混み合う時期だった。返送まで1カ月かかる場合もあり、大幅に遅れが生じた。2019年7月の段階でもまだ法定相続人の一覧図の納品は完了していない。

このような混乱について、法務省担当者は「やってみると思い通りにいかないことが多かったが、感覚はつかめてきた」と話すものの、全国50法務局で1,000筆ずつ一斉に実施する前に、まず小規模にテスト事業を行ったうえで、実際に生じる課題を洗い出した方がスムーズに進んだのではないか。

全司協の山田猛司会長は、「登記が実態を反映していなければ信頼性が下がってしまうので、登記の信頼を保つためには必要な事業だとは思うが、なぜ、これほど値切って、短期間で進めようとするのか」と疑問を呈する。 

相続人への通知に実効性はあるのか

調査の最終段階では、登記簿に記載すると同時に、判明した法定相続人のうち1人に法務局が通知を送り、登記を促す。送付相手は、法定相続人のなかから、固定資産税の納税義務者かどうか、住所がその土地に近いかなど基準に基づいて選ばれる。この送付相手の選定と通知書類の作成も、司法書士が受託した調査事業に含まれている。

各地の法務局・司法書士会では、通知を受け取る相続人を対象に相談会を行う予定で、その旨も通知に同封するという。「通知を受け取ったら、相続人間で遺産分割協議を行い、単独所有者として登記をするのが望ましい」と法務省の担当者は話すが、実際にそう進むかは不透明だ。

法定相続人にとって、本来ならば負担すべき調査費用が公費で賄われており、メリットがあるともいえる。ただ、調査対象となった土地は、それまで相続登記がなされてこなかった理由でもあるが、土地価格で見れば低いものが多く、登記や遺産分割協議にコストをかけて所有権を主張する必要を見出しづらいことに変わりはない。調査対象となったのは公共事業の利用が想定される土地であることから、将来の買収の可能性があるとも受け取れるが、現時点では土地が存在するのみなので、分割のしようがない。

なお、候補者への通知には、その土地を自治体が「公共事業の利用が想定される地域」としたことは記されない見通しだ。これは自治体の要請によるもので、事業の実施時期が未定で地域は広めに選定しており、計画の変更もありうるからだという。

結局、相続登記をするとしても共有名義が穏当という事態になれば、いざ買収する際には再調査を要する。時間が経てば、今回の調査で割り出した法定相続人もまた死亡して相続が発生していくからだ。 

懸案の共有地も調査へ

調査が行われるのは「長期相続登記等未了土地」ばかりではない。所有者不明土地のなかでも特に難題となっている、登記簿で所有権者がわからないケースについても、2019年5月に法律(表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律)が成立し、調査が行われる見通しだ。

登記簿に所有権を持つ人の名前や住所が全員分、明記されていない「変則型登記」の発生は、1960(昭和35)年に土地台帳と不動産登記簿の一元化が行われた時点に遡る。明治以来の土地台帳には、所有者欄が名前あるいは集落名だけだったり、○○○○外何名、といった形で記載されたものがある。墓地や山林などが中心だ。このような表記が一元化でそのまま登記簿の「表題部所有者」欄に記載され、その状態が解消されていない土地は、全体の約1%を占めると算出されている(全国50万筆調査に基づく)。

図3 表題部所有者不明土地の内訳

 

この表題部所有者不明土地について、2019年5月に成立した新法のもとで登記官に調査権限が与えられた。調査で所有者が判明すれば登記簿の表題部に記載される一方、「探しても所有者を割り出せなかった」となれば、裁判所の関与のもとで管理し、その先で利用を可能にするという位置づけだ。調査結果が権利にも影響を与える点で、一歩踏み込んだ制度といえる。

年間7,700筆を予定する調査を実際に担うのは、「所有者等探索委員」だ。登記官と同等の調査権限を持つ非常勤国家公務員で、司法書士や土地家屋調査士といった士業のほか自治体職員OBを任命することが想定されている。報酬は、国会答弁によると基準に沿って日額2万2,300円の予定という。調査は、墓地であれば墓石の文字や寺の台帳を見る、事情を知る土地の人からに話を聞くといった、難易度の高いものだ。手がかりは既に乏しく、時間が経つほど失われていく。

これらの大がかりな土地所有者の探索について、日本司法書士会連合会で担当する山本一宏常任理事は、「バブル期以来だ」と振り返る。高度成長から土地バブルの時代にかけては、長らく所有権が動いていなかった土地にも開発が及び、土地の売買契約を結ぶために明治、大正までも遡って権利者を割り出す需要が発生した。

ところが今回は事情が異なる。公共事業や農地改良などの現場では認識されていた問題に、ここにきて国がようやく正面から向き合い、対処に乗り出したものだ。長年のツケ回しの大きさに対し、公費ゆえに投じられる費用は潤沢ではない。それゆえ、待ったなしで急ぐべき調査は何か、周到に準備したうえで効率よく行うべき調査は何か、腑分けのうえで進める必要があるのではないか。

 

 

 

黒崎亜弓(くろさき あゆみ)
1978年静岡市生まれ。京都大学農学部卒業。2001〜2008年共同通信社記者。2008〜2011年『週刊エコノミスト』編集部に在籍、「日本の水源林を守れ」(2010年1月26日号)など担当。フリーを経て2015年より再び『週刊エコノミスト』編集部に在籍し、「みんな土地で困っている」特集(2017年8月22日号)など担当。2019年5月よりフリー。

  

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