2018年10月、処方薬の価格を抑え患者により多くの情報を提供するための法案にサインするトランプ大統領(写真提供:Getty Images)

会計年度末、大統領は議会とどう向き合うか

早稲田大学社会科学総合学術院教授
中林美恵子

 

2016年の大統領選挙でトランプ氏が掲げた選挙公約は、その多くが実現されることになった一方で、政権3年目以降は議会との共闘が芳しくない。来年の大統領選挙に向け、政策的な成果を上げ続けるには、ある程度議会をリードする力が必要になる。トランプ政権の政策立案能力と実行力は、実は下院で共和党が多数の地位を失った2019年以降の成果で、評価することができよう。

既にトランプ大統領が実行に移したものには、税制改革および法人税減税、イラン核合意破棄、TPP離脱、パリ協定離脱宣言、NAFTA再交渉(ただし後継のUSMCAは議会承認が継続審議中)、米韓FTA再交渉、最高裁に保守的な判事を任命(2人)など多数ある。これらは上下両院で共和党が多数を占めていた最初の2年間に実現したものである。その後、日米貿易交渉やメキシコと国境の壁建設における最高裁での勝訴もあったが、これは議会での調整を迂回した上での成果だ。米中通商交渉やイランとの新しい核合意、そして北朝鮮の非核化などは、まだ見通しが立たない。また、おそらく失敗に終わりそうなのが、オバマケア[1]の撤廃だ。これから廃止しようにも、世論調査ではトランプ大統領誕生の前と後で、オバマケアへの支持率と不支持が逆転[2]してしまった事実もある。

このままでは、トランプ政権後半の2年間は殆ど目立つ成果がない印象で終わってしまう。今後、トランプ大統領が次の選挙までに議会共和党と共闘して上げられる成果があるとすれば、せめて2020年度予算編成でガバメント・シャットダウン[3]を引き起こさないこと、そしてできればトランプ大統領が議会民主党と利害を共有するインフラ投資についての協議を成功に導き、さらに国民の関心と不満が高い薬価の引き下げに着手したいところだ。

2兆ドルのインフラ投資を発表したものの…

今年の4月末、大統領府と議会民主党指導部は、2兆ドルに及ぶインフラ投資案を協議することを発表していた。トランプ大統領の2016年当時の選挙戦では1兆ドルのインフラ投資が公約として挙げられていたのだが、その後2018年の一般教書演説の時に1.5兆ドルまで値が上がり、その後11月の中間選挙を前に2兆ドルの掛け声が出るようになった。これは議会民主党と歩調があったわけであり、何らかの協力関係を築ける数少ない案件とされた。

ただし、大統領の予算教書[4]でこのインフラ投資について確認しようとしても、具体策は実は掲載されていない。そもそも大統領の予算案では中央政府が拠出するインフラ投資額は10年間を合計しても2000億ドルのみとなっている。からくりは、中央政府の補助金として経費の2割を負担する半面、残りの大部分となる8割については民間や地方政府が支払うという図柄を想定している部分だ。これをどのように修正して立法化するのかという点も、大統領は議会任せにしている。

インフラ投資が喫緊の課題であることは、確かに論を待たない。CBO[5]も、2003年をピークに8%も減少している現状で慢性的な資金不足が続いているとする。不足金額だけでも2013年から2020年までに1.6兆ドルに上るとの指摘をもしている。ナンシー・ペロシ下院議長(民主党)は、インフラ投資と薬価引き下げはトランプ大統領と協力できると、公に述べていたほどである。

しかしながら5月に入って、ロシア疑惑の議会公聴会にトランプ大統領が側近や元側近を証人として出頭させないという手段に出たことをペロシ下院議長に「隠ぺい」呼ばわりされたことによって、トランプ大統領がロシア疑惑問題の議会での扱いに不満を持ち、5月22日のホワイトハウスで行われたインフラ投資の協議は決裂してしまった。

ロシア疑惑の追及を止めるまではインフラ投資計画について民主党とは協議しないと宣言したトランプ大統領だが、それでもインフラ投資は、景気と選挙の動向によっては協議復活の可能性がある案件といえよう。議会共和党はともかくとしても、トランプ大統領と議会民主党には税制規律に対する懸念が薄いという共通項があるからである。大統領選挙に向かう中で、注目すべき動向である。 

薬価引き下げに向けての動き

アメリカ国民の医療費に対する不満は募る一方である。Kaiser Family Foundation の世論調査によれば、63%の回答者が、何らかの形で処方薬の価格を抑える規制が必要であると指摘している。したがってもし共和党と民主党が何らかの形で合意ができれば、市民生活に大きなインパクトを残す成果として2020年選挙でのアピールポイントとなる可能性が高い。トランプ大統領もそれを認識している。ただし結果は現在のところ芳しくはない。方策や方針が右往左往するばかりで、決定的な案が押し出せていないのである。

例えば最近も、リベート(割戻金)支払制度の廃止を断念してしまったケースがある。トランプ大統領は7月12日、医療保険会社の代わりに医薬品価格の値引き交渉に当たる仲介業者にリベート(割戻金)が支払われる仕組みを終わらせる計画を断念したと発表した。大統領の提案は、メディケア(高齢者・障害者向け医療保険)など公的医療保険の対象となる医薬品について、医薬品メーカーがPBM(薬剤給付管理、Pharmacy Benefit Management)にリベートを提供することを禁止するというアイディアだった。実現していれば、複雑な薬価決定の仕組みを一変させる可能性があったものの、PBMは薬価高騰の原因はリベートではなく、医薬品会社の責任だと主張した。それどころかリベートは全体的な医療保険コストの抑制に寄与しているというのだ。逆に製薬業界は、リベートで薬価を値引きしてPBMがその一部を保留してしまうために薬価を高く設定せねばならないと主張して、真っ向から対立して平行線を辿った。

他にも、テレビ広告での薬価公表案、外国で支払われる価格の最低水準に基づいて医薬品が購入できるようにする制度案等さまざま提案されているが、どれも十分な支持を得るに至っていない。

立法府の方でも、財政(歳入)委員会のチャールス・グラスリー委員長(共和党)とロン・ワイデン少数党筆頭委員(民主党)が、薬価の問題については共通の認識を持って協力する余地があるとされている。特に薬価上昇に上限を設ける案が中心になっており、審議を進めるにあたってCBOによる予算見積もりを待機中の状態である。本来夏の休会前にこれが出る予定ではあったが、トランプ大統領がリベート廃止の案を撤回したことによって、計算のし直しを余儀なくされている。

また下院でも9月19日に、民主党のペロシ下院議長が薬価引き下げの法案[6]を発表した。ペロシ氏によれば、共和党議員の支持は得られそうにないが、トランプ大統領の薬価引き下げの意欲と呼応できれば、議会の共和党議員の賛成もある程度得られるだろうから、立法も可能だと主張する。

議会によるイニシアチブであったとしても、結果的に薬価の引き下げが可能になれば、トランプ政権にとっては悪い話ではない。2020年の選挙に向け、インフラ投資や薬価引き下げなど、財政に大きな負担とならない方法を超党派で模索することができるならば、今後の大統領の公約実現に更なる前進となり得るであろう。こうしたチャンスに向けて、どこまでトランプ大統領が民主党に対して大人のディールをできるかが、鍵を握りそうだ。

会計年度末を迎えての2020年度予算

今年もアメリカ議会はとうとう会計年度末を迎える。一度9月30日のデッドラインを超えてしまうと、CR (continuing resolution) による暫定予算で当該年度の予算を手当てすることになるが、昨今はその短期的な措置が切れる度にガバメント・シャットダウンの危機を迎えるのが常になっている。ただし来年は大統領選挙の年であるため、ここはトランプ大統領も議員たちもギリギリの妥協を図り政府の一部閉鎖などを阻止するのではないかと見込まれてはいる。しかしながら実際どのような展開になるかは、予断を許さない。

下院は9月23日に、CRを301票対123票[7]で成立させた。11月21日までの暫定措置であるため「ストップギャップ」とも称される措置だ。上院もこれを間もなく通過させると見込まれている。それでも、ランド・ポール上院議員(共和党)などは抵抗しており、CR成立の条件として2%の歳出カットを強制する修正案への投票を先に行うよう求めている。

10月1日の真夜中までには大統領がCRに署名しないと、文字通りガバメント・シャットダウンが発生することになる。トランプ大統領がそれを避けるためにも、このCRには署名以外の選択肢がない。大統領本人も署名するつもりだと公に述べている。よほどの大義名分が存在しない限り、政府機能を停止させることは選挙にとって得策ではない。それでもストップギャップには常に期限があり、大統領が選挙前に何度これに署名をしなければならないのかは現在のところまだ不明だ。

下院は単独で既に、2020年度歳出法12本のうち10本を通過させている。しかし上院では共和党が多数を占めるため、そのまま下院案が取り上げられる可能性はゼロだ。その上、上院では12本の歳出法案のうち1本も通過していない。これはまさに、トランプ大統領にとって本当のリーダーシップが求められる局面であろう。しかし大統領が自らの政策実現のために議会をリードできないのだとすれば、せめて政府機能停止だけでも避けようと努めるのが、2020年会計年度に残された道の筈だ。 

 


[1] オバマ政権が主導した医療保険制度改革で、20103月に新たな公的保険制度として法案が議会で成立し、2014年から適用が開始となった。

[2] RealClearPolitics “Public Approval of Health Care Law” https://www.realclearpolitics.com/epolls/other/obama_and_democrats_health_care_plan-1130.html 

[3] 政府機能一部閉鎖

[4] “A Budget for a Better America – President’s Budget FY 2020.” Office of Management and Budget, March 11, 2019.

[5] 議会予算局(Congressional Budget Office

[6] H.R.3 - Lower Drug Costs Now Act of 2019

[7] 共和党からは76人の賛成者が出て、225人の民主党下院議員と共に票を投じた。

中林 美恵子

  • 早稲田大学社会科学総合学術院教授