難航する2021会計年度予算編成と新政権への影響

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難航する2021会計年度予算編成と新政権への影響

早稲田大学社会科学総合学術院教授
中林美恵子

 

2020年113日のアメリカ合衆国大統領選挙(以下「大統領選挙」)結果は、バイデン前副大統領の当選が確実とされている。トランプ大統領は11月末時点でも敗北の宣言をしていないが、結果が覆ることはなさそうだ。トランプ大統領の任期は4年で終了することになる。

トランプ政権が誕生してから、財政規律は必ずしも共和党の最重要課題でない状態が続いてきた。特に2020年には、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が拡大し、社会と経済に打撃を与えた。米議会は早々に、第1弾から3弾までの巨額経済対策支出をまとめた。しかし第4弾の経済対策については、11月の大統領選挙を前に合意が難航し、選挙後も立法に至っていない。

また、2021会計年度(202010月~20219月)予算も、議会での審議が遅れに遅れている。大統領選挙とパンデミックという特殊な環境だったこともあり、2021年度の歳出法はいつ成立するのか読み切れない。かつてオバマ政権からトランプ政権への交代を経験した当時、2017年度の歳出法が整わないまま次政権に引き継がれたが、今年編成する2021会計年度予算の場合は、どのようにバイデン政権に引き継がれることになるのであろうか。

トランプ政権最後の2021会計年度予算
議会の対応
パンデミック対応の緊急財政支出
財政状況は悪化の一途へ
おわりに

トランプ政権最後の2021会計年度予算

トランプ大統領は、2021会計年度の予算教書[1]2020210日に議会に提出している。トランプ大統領にとって最後の予算は、向こう10年間で実質(ネット)4.6兆ドルの財政赤字削減をするとして財政規律をアピールした。5,850億ドル規模の減税と歳出増加を行っても、総額(グロス)で5.2兆ドルの赤字削減効果は期待できると主張した。トランプ政権の独自の試算では、現在の財政赤字(国内総生産(GDP)比80%)は、2022年に81%となるものの、2030年には66%まで縮小することになる。累積債務については、GDP80%が続く計算であるが、これは議会予算局(CBO)が1月に試算した98[2]とは、大きく乖離している。その理由は、大統領府の行政予算管理局(OMB)が、経済成長見通しを非常に高く見積もり、2021年は実質3.1%のGDP成長および2025年まで3%の成長が続く(2030年までの長期予測の平均値は2.9%)として計算しているからである。CBOや民間の長期予測が2%前後であることに比較すると、トランプ政権の予測値は1.5倍も高いことになる。

議会の対応

2020年2月に大統領の予算教書を受け取った議会は、下院を制する民主党そして上院を制する共和党が分割政府を成している。また議会はCBOの試算に基づいて予算編成をする。今年は歳出法がなかなか通過しないまま、930日の会計年度末に成立したCRContinuing Resolution、日本では暫定予算やつなぎ予算と訳される)20201211日まで暫定的な支出が可能となっている状態だ[3]。本稿執筆の11月30日時点においても、12本のうち1本も歳出法が成立していない。これら全てを1本にまとめて通過させることを上院の歳出員会が提案しているが、下院(既に10本の歳出法を通過させている)の歳出委員会との調整はまだ途上である[4]

CRが年度末に議会を通過して[5]101日に大統領が署名できたのは、大統領選挙前後に政府機関一部閉鎖などの緊急事態を引き起こさないための措置だったため、容易に両党の合意を得ることができたことが理由だ。しかし、CRに頼らざるを得なかったことは、そもそも2021会計年度予算編成が極度に難航していたからである。新型コロナウイルス拡大やBlack Lives MatterBLM[6]などの社会問題が広がり、今年の予算編成では歳出法に対して数々の修正案が出されたことも、審議難航の理由だった。新型コロナウイルスに関する経済救済策、BLMに関するもの、警察改革に関するものなど、議論が多岐にわたった。こうした中、下院では7月中に12本の歳出法のうち9本(それらは2本に束ねられミニバスと称された)を通過させることができたものの[7]、上院にはフィリバスター(長時間にわたり演説等を続けることによる、合法的議事妨害)という院内ルールがあるため、党派を超えた賛成を得らないまま、今年の選挙を迎えたことになる。

パンデミック対応の緊急財政支出

大統領選挙の年、2021会計年度予算は難航したまま師走に突入しようとしている。それに並行して、緊急財政支出の措置も行われ、大規模な財政措置の検討が続いている。トランプ大統領もパンデミック対応のため、313日に「国家非常事態」を宣言した。米議会は党派を超えて立法措置に迅速な動きを見せ、経済政策の第一弾としてワクチン開発用などのために83億ドルの財政支出を36日に決定した。第二弾としては、失業給付拡充を中心に1,040億ドルの支出を318日に成立させた。第三弾の大型経済対策である2.2兆ドル(424日に追加措置4,800億ドルが加算された)が成立したのは、327日だった。支出総額では約29,000億ドルになり、これはアメリカの約4.4兆ドルだった年間歳出額の約6割、GDP比にすると14%に当たる莫大な支出であった。

議会による財政出動の立法に加え、トランプ大統領は独自案として310日に給与税の年内免除など、減税案を提示した。ただしこれは議会審議にさえ至っていない。給与税は歳入の3割超にあたるため、財政赤字へのインパクトも非常に大きい。一方、ナンシー・ペロシ下院議長が率いる民主党は、515日夕刻に独自の経済救済策となる3兆ドルの追加対策法案[8]を下院で採決に持ち込んだ。これは208199で下院を通過したが、共和党が多数を占める上院では、この法案を審議していない[9]

こうして政治的な合意がなされぬまま夏の休会を迎え、パンデミック関連の緊急対策費用は底をつくようになっていく。7月末には週600ドルの失業給付加算金が期限切れを迎えた。そこで8月にトランプ大統領は、災害対策費[10]から週400ドルの加算給付金を捻出する大統領令[11]に署名したが、議会が立法によって確保できる資金とは比較にならない[12]。協議が難航する原因はさまざまだったが、議会共和党からは週600ドルの加算金が財政規律の悪化につながることや、失業給付の方が働いていた時の給与より多くなるのは労働倫理に矛盾することなどが指摘された。したがって上院では共和党が、これを週200ドルに引き下げる(元の給与の70%を超えないようにする)新提案を7月に提示した[13]。しかし、週600ドル加算を主張する民主党とは折り合いがつかなかった。そして次々と経済救済策が期限切れを迎えていく。第三弾の経済救済策に含まれていた中小企業向けの給与補償対策費6,600億ドル[14]の申請期限は、一度は6月30日から8月8日まで延長できたのだが[15]、9月末には従業員40万人の航空会社向け雇用対策費250億ドルが期限切れとなった。

共和党議会はミッチ・マコーネル上院院内総務の主導で、727日に1兆ドルの経済救済案を提示したものの[16]、民主党の合意は得られなかった。さらに共和党は夏の休会を終えた9月8日に5,000億ドルの緊急支援策を暫定措置として提示した[17]。この暫定措置は10日に上院で審議されたが、民主党議員のフィリバスターを止める5分の3(60人)の賛成票が得られずに、実質的には否決となり廃案になった。

経済救済措置が枯渇していく中、民主党側は930日に2.2兆ドルに上る追加の経済支援策をとりまとめた[18]。10月1日には下院本会議での採決に持ち込み、214対207という僅差で通過させた[19]。ただし上院共和党は、財政規律の側面からも大規模な財政出動に慎重であるべきだとして、両院の合意は成立しなかった。

そこでトランプ大統領は106日、ツイッターで民主党の2.2兆ドルの提案を拒否するメッセージを掲載、「与野党協議は当面停止だ」と述べた。途端に市場が動揺を始めたため、夜になってから大統領は再びツイッターで、民主党と再協議するとほのめかし、混乱の様相を呈した。その後トランプ大統領は109日になって、1.6兆ドルから1.8兆ドルに増額した経済対策を民主党側に提示した。そして早速、ペロシ下院議長と大統領は短い電話協議を行ったのだが[20]、結局のところ何の合意にも至らず「継続協議」となった。その後は、11月3日の大統領選挙に突入したのである。

財政状況は悪化の一途へ

CBOは92日、財政見通しの改定版を発表した。前年度2020会計年度の財政赤字は、前年度3倍になる約3.3兆ドルとされた。また累積債務は、2020年度がGDP126%で、金額にすると26兆ドルとされた。これは第二次世界大戦直後よりも悪く、過去最悪とされた。利払い費については、向こう10年間で6,640億ドルに倍増する予測となった[21]

また月々に累積される赤字額を、2019年度と今年度で比較してみると、パンデミックに対処するための財政的な負担がよくわかる。CBO11月に発表したデータによると、図1のような違いとなり、2020年の財政状況は尋常でないことも鮮明になっている。

米財務省による財政収支報告でも、2020年10月16日発表の資料によれば2020会計年度の11か月間(10月から8月)の累積赤字が約3兆73億ドルであったとされた。これを前年同期に比較すると2.8倍であった[22]。また、2020年度全体の財政赤字は過去最悪であり、3.1兆ドルだった。これはGDP比にすると15%であり、単年度としては金融危機の2009年度(9.8%)を超え、第二次世界大戦時代(20%)に迫る勢いである。 

おわりに

大統領選挙はひとまず決着をみたが、2021会計年度予算の成立はまだ先が見通せていない。トランプ政権が発足した2017会計年度予算編成当時を振り返ると、政権が交代する年の予算内容を過去の政権に縛られたくないというインセンティブが働いていたことが思い出される。2017年度の歳出法が20169月末に議会を通過できなかったため、CRで暫定的に支出をつなぎながら予算編成は続き、とうとうトランプ政権発足後の20175月になってようやく決着をみた。4年前は11月の大統領選挙結果により、行政府および上下両院ともに共和党が支配することが判明していたため、予算編成は故意に遅らされた面もある。

しかし今年の状況は異なる。行政府は民主党が勝ち取ったにしても、上院をどちらの政党が制するかは202115日に行われるジョージア州での上院2議席の決選投票が済むまで、分からない。また下院は2017年当時と違って、民主党が2021年も支配する。こうした違いを鑑みれば、必ずしも政権交代時のパターンとして2017会計年度予算編成のパターンが当てはまるとはいえない。

選挙後も難航する2021会計年度予算は、どのような道を辿るのであろうか。また、トランプ大統領がホワイトハウスを去った後に、大きな財政赤字を抱えたバイデン政権の政策実現プロセスはどのように始まるのであろうか。政策実現には財政措置が必要である以上、予算編成はバイデン政権にとって最も重要な議会との共同作業とならざるを得ないだろう。政権の真の実力が試されることになりそうである。


[1] Office of Management and Budget. “A Budget for America’s Future – President’s Budget FY 2021.” February 10, 2020. https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2020/02/budget_fy21.pdf 

[2] Congressional Budget Office, “The Budget and Economic Outlook: 2020 to 2030.” https://www.cbo.gov/publication/56073 

[3] Federal News Network, “Trump signs continuing resolution, averting government shutdown.” September 30, 2020. https://federalnewsnetwork.com/government-shutdown/2020/09/senate-sends-shutdown-averting-continuing-resolution-to-trumps-desk/

[4] Population Association of America, “U.S. Senate Appropriations Committee Releases Fiscal Year 2021 Funding Recommendations and Praises Population Research.” November 11, 2020. https://www.populationassociation.org/blogs/paa-web1/2020/11/11/us-senate-appropriations-committee-releases-fiscal

[5] 下院では922日に35957の圧倒的多数で通過。上院でも930日に8410の圧倒的多数で通過。

[6] BLMでは黒人差別反対デモが米全土に波及した。警官による黒人殺害事件が原因であり、警察の予算や改革が注目を浴びた。

[7] Committee for a Responsible Federal Budget, “Appropriations Watch: FY 2021.” November 10, 2020. http://www.crfb.org/blogs/appropriations-watch-fy-2021

[8] H. R. 6800 https://www.congress.gov/116/bills/hr6800/BILLS-116hr6800ih.pdf 

[9] Bloomberg, “House Passes $3 Trillion Stimulus with No Future in Senate.” May 16, 2020. https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-05-16/house-passes-3-trillion-democratic-stimulus-with-no-path-to-law

[10] 大統領の非常事態宣言によって、米連邦緊急事態管理局(FEMA)が持つ災害予算を大統領権限で動かすもの。その際に使う災害救済基金は440億ドルの規模。歳出の決定権は憲法により連邦議会が握っているため、大統領令の法的根拠がないとして越権行為との批判がつきまとう。

[11] Presidential Memoranda, “Memorandum on Authorizing the Other Needs Assistance Program for Major Disaster Declarations Related to Coronavirus Disease 2019.” August 8, 2020. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/memorandum-authorizing-needs-assistance-program-major-disaster-declarations-related-coronavirus-disease-2019/ 

[12] Forbes, “Trump Orders $400 Weekly Unemployment Benefits—Here’s What That Means.” August8, 2020. https://www.forbes.com/sites/jenniferbarrett/2020/08/08/trump-orders-400-weekly-unemployment-benefits-heres-what-that-means/?sh=7b0062ca3bb8 

[13] NBC News, “Senate Republicans move to cut $600 weekly jobless benefit by two-thirds.” July 28, 2020. https://www.nbcnews.com/politics/congress/senate-republicans-move-cut-600-weekly-jobless-benefit-200-n1234997 

[14] 従業員500人以下

[15] NPR, “Trump Signs Small Business Loan Program Extension.” July 4, 2020. https://www.npr.org/2020/07/04/887322386/trump-signs-small-business-loan-program-extension 

[16] CNN, “McConnell formally unveils $1 trillion Senate GOP stimulus proposal: 'The American people need more help'.” July 28, 2020. https://edition.cnn.com/2020/07/27/politics/senate-republican-stimulus-proposal/index.html 

[17] The Washington Times, “Senate Republicans propose $500 billion coronavirus relief bill.” September 8, 2020. https://www.washingtontimes.com/news/2020/sep/8/senate-republicans-propose-500-billion-coronavirus/

[18] 家計に大人1人当たり最大1200ドルを支給する現金給付第2弾などを盛り込んだ。失業給付の積み増しや中小企業向けの雇用維持策、航空会社向けの給与補償策もそろって延長する。財政難の州・地方政府にも4千億ドル強を資金支援。法案は、https://appropriations.house.gov/sites/democrats.appropriations.house.gov/files/SUPP_SEP_01_ALL_xml.2020.9.28.1753.pdf 

[19] The New York Times, “With Bipartisan Deal Elusive, Democrats Push Through Their Own Stimulus Bill.” October 1, 2020. https://www.nytimes.com/2020/10/01/us/politics/democrats-stimulus-bill.html

[20] AP, “White House virus aid offer is panned by Pelosi, Senate GOP.” October 10, 2020. https://apnews.com/article/election-2020-virus-outbreak-donald-trump-elections-steven-mnuchin-fd39283d20318d8f7142a536b75d49bf

[21] Congressional Budget Office, “An Update to the Budget Outlook: 2020 to 2030.” September 2, 2020. https://www.cbo.gov/publication/56517

[22] U.S. Department of the Treasury, “Mnuchin And Vought Release Joint Statement On Budget Results For Fiscal Year 2020.” October 16, 2020. https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm1155

中林 美恵子

  • 早稲田大学社会科学総合学術院教授