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第6回日米欧東京フォーラムレポート「共に嵐を乗り切るために」

第6回日米欧東京フォーラムレポート「共に嵐を乗り切るために」

November 15, 2019

激動する地政学的状況と社会情勢を象徴するような猛烈な台風の中、「第6回日米欧東京フォーラム(TFT)」が9月に開催された。この日米欧による戦略的対話が始まって以来、中心的なテーマは常に経済と安全保障に関する共通の利益、とりわけ他国による圧力だったが、「価値観を共有する」民主主義国家である日米欧が国内・域内でさまざまな課題に直面する中、ベストプラクティスへの関心が高まっている。

世界の外交の現状と困難さを増す地政学的状況に鑑みると、「私たちは共に歩むことで強くなっているのか?それとも別々の道を歩むべきなのか?」という問いを持つことは極めて自然だろう。今回のTFTは、日本政府が主導し40カ国以上の首脳が出席した「第7回アフリカ開発会議」の閉幕後、国連総会と「欧州連結性フォーラム」(安倍首相は同フォーラムにおいて、ユーラシアの両極をなす日本と欧州が「とことん一緒に」歩む必要があると力強く語った)の開催前というタイミングで開かれたが、そこで導き出された答えは明確だ。「米国、欧州、日本は、共に歩むことで強くなっている」のだ。

これまで同様、今回のTFTでも、議題に上ったのは今日的なトピックスばかりだ。過去には南シナ海での中国の行動やロシアによるクリミア侵攻なども扱われたが、今回はほぼすべてのパネルで中国の問題が取り上げられた。私たちが共有する価値観に対する中国の挑戦は、中国建国70周年式典を前に香港で始まった大規模なデモに対する姿勢を見れば明らかだ。それはまさに30年前の天安門事件や、進行中の米中貿易戦争での中国の姿勢を思わせる。

過去のTFTでは、日米欧の間に「中国との経済的な連携を優先するのか、それとも安全保障上の対立を問題視するのか」という立場の違いが存在した。議論の方向性は、中国という巨大市場は欧州の利益におおむね沿う形ではあるものの、日本は安全保障上の脅威を警戒し、米国は中間的な立場を取っていた。ところが今回は、中国による挑戦は問題だという認識で三者が一致した。米国と欧州でポピュリズムに対する不満が広がる中、強調されたのは、サイバースペースから海洋航路に至るまで、中国との間で「自由で開かれた」競争を維持することの必要性だった。

ワシントンから参加した私にとって、さまざまな戦略的見解に接するのは新鮮だったし、ブレグジットのゆくえを傍観できたのも楽しかった。しかし最大の収穫は、日欧関係の深化を目の当たりにできたことである。日米関係は、安全保障に基づく同盟関係に加え、トランプ大統領と安倍首相が親密であることから非常に強固だ。それだけに、第1回TFTが開催されてからこれまでの間に見られた、大きな進展の数々に驚かなくなってしまうのも無理はないかもしれない。何しろ当時は日米欧を結束させる共通の関心事がそれほどあるのかどうかさえ疑問視されていたのだ。

しかし今や「共通の関心事」は2日間の日程で扱うにはありすぎるほどだ。河野防衛大臣もスピーチにおいて、日米欧が抱えるさまざまな課題について議論したいと話した(河野防衛大臣は2年間外務大臣を務めた後、内閣改造によりTFT開催の2日前に防衛大臣に任命されたばかりで、TFTは防衛大臣として参加する初の国際会議となった)。また、安倍首相も「欧州連結性フォーラム」の基調講演でこう述べている。「価値や原則が揺らぎ、漂流しかねない当節、ユーラシアの両極をなすEUと日本は高らかに宣言しています。日本とEUが、戦略的パートナーとして、長期的で、深い協力を続けることができるのは、価値と、原則を分かち合っているからである。それが基礎をなしているからだと、そういう宣言です」[1]

安倍首相は今年は大阪でG20を、数年前にはG7を主催し、日本の首相としては在任日数がまもなく歴代最長となる。ドイツのメルケル首相が国際政治の舞台から去ろうとしている今、いずれ民主主義陣営のリーダーの重鎮となるだろう。そうなれば指導者の個性に左右される政治の現状にも変化が現れるかもしれない。トランプ大統領は「アメリカファースト(米国第一主義)」を掲げ、スタイルにおいても内容においても型破りな外交を行ってきたが、それを克服することができたのは安倍首相とトランプ大統領の個人的な関係があったからだ。これは欧州のリーダーには成し得なかったことである。

米国と英国が一層内向きになる中、EUと日本は、パリ協定からイランとの核交渉、環太平洋パートナーシップ協定に至るまで、自由で開かれた国際秩序の維持に向けてリーダーシップを発揮している。インド太平洋地域やデータガバナンスなど、共通の取り組み分野に重点を置いたことで、日米欧は実務レベルでの継続的な連携が可能となり、その結果、日米の二国間による貿易交渉、データガバナンスに関するポスト大阪アジェンダの策定、日本とEUの経済・戦略面でのパートナーシップに関する文書への署名(ブリュッセルで安倍首相とユンカー欧州委員会委員長が署名)といった重要な成果につながった。

2020年に大統領選挙を控える米国政治の現状を考えると、米国の最も親しい同盟国でありユーラシアの両極をなす日本とEUが、中国、イラン、ロシアによる権威主義的な動きに目を光らせ、イノベーションとテクノロジーにおける自由民主主義国家の競争力維持に協力してくれている事実は、米国にとっては最大の朗報だ。テクノロジーにおける地政学的な競争、すなわちユーラシア・グループが言うところの「ジオテクノロジー」の問題は、米中関係が今後どこへ向かうのかという問題に他ならない。ゆえに米国と志を同じくする仲間が欧州と日本の政府・民間部門のどこにいるのかを理解しておくことは、米国の将来にとって非常に重要になる。

たとえ国内に排外主義やポピュリズムの問題を抱えていても、TFTのような国際会議は、国や社会が共有するつながりを大切にしながら未来へ向けて共に前進するための重要な機会を与えてくれる。文化、歴史、貿易などを通じて、私たちは単独では成し得ないやり方で強くなることができる。グローバリゼーションの結果、ミシュランで星を獲得したフレンチレストランはニューヨークやブリュッセルよりも東京の方が多くなり、日本車は日本国内よりも米国内で多く走るようになった。同じように、ジャーマン・マーシャル・ファンドと東京財団政策研究所、駐日欧州連合代表部が連携すれば、それぞれが単独で活動するよりもはるかに大きな成果を生むことができるだろう。

[1] https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2019/0927eforum.html

 

ジョシュア・W・ウォーカー博士(@drjwalk)
ジャーマン・マーシャル・ファンドアジアプログラムのトランスアトランティック・フェローとして日本研究を主導。地政学的リスク分析を専門とする世界有数のコンサルティング会社、ユーラシア・グループにおいて、戦略的イニシアティブと日本のグローバルヘッドも務めている。


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