第6回日米欧東京フォーラムレポート「対中レッドラインをめぐる日米欧の課題」

2019年9月12-13日に東京で、東京財団政策研究所と米ジャーマン・マーシャル基金(GMF)による「日米欧東京フォーラム」が開かれた。日米欧にインドと豪州を加えた参加者間で議論の焦点となり、また、常にさまざまなトピックの通奏低音として存在していたのは、やはり中国である。

問われるのは、中国の行動に関して、どこに「レッドライン(超えてはならない限界)」を設定するかである。別のいい方をすれば、何が「受け入れ可能(acceptable)」で、何が「受け入れられない(unacceptable)」のかの峻別が求められている。

政府による対外活動でも企業によるM&Aやインフラ投資にしても、中国の活動の全てが問題なわけではない。「中国マネー」を必要とする国は世界に存在し、アジアやアフリカはもちろんのこと、欧州も例外ではない。では、どこで線引きすべきか。答えは自明ではなく、分野や地域によっても異ならざるをえない。

加えて、いかにレッドラインに合意しても、それを中国が超えても何もしない(できない)のでは意味がない。対中政策の信頼性の観点では、むしろ逆効果ですらある。この点は今回の会議でも議論になったが、明確な答えを出すのは容易ではない。

対する中国側は、米国や日本、欧州、その他の諸国の出方を注意深く窺っている。これを「探り(probing)」といい、我々はまさに試されているのである。

「欧州は中国に甘い」との指摘は、日本でも米国でも繰り返しなされており、今回も聞かれた。しかし、欧州からの参加者の多くが強調したように、欧州における対中認識は急速に厳しくなっている。それでも、軍事・安全保障面において、欧州の対中脅威認識が日米ほどに高まらないのは、地理的要素も考えれば避けがたい現実であろう。

ただし、より構造的にみれば、日本、米国、欧州とで、中国の行動のなかで何に最も大きな懸念を感じるかが異なるということもである。知的所有権など共通の課題はあるものの、日本では尖閣諸島を中心とする東シナ海における「グレーゾーンの事態」や歴史問題、米国ではAI(人工知能)やビッグデータといった先端技術や、サイバー、宇宙領域での挑戦、欧州では企業のM&A、人権、サイバー分野での対中懸念が顕著である。分野横断的に理解しなければならない所以である。

さらに、米中対立は本質的には「トランプ問題」ではなく、より構造的な「戦略的競争(strategic competition)」である。しかし、昨今の米中対立の背景には、トランプ要因を見出すことも難しくない。そうである以上、特に(トランプ政権に厳しい)欧州において、「トランプとの心中はご免だ」との声が出ることも避けられない。これが中国に関する米欧協力を阻害しており、これは日本にとっても好ましくない事態だといえる。

関連して、中国との「ディカプリング(離別)」の可能性も深刻な点である。米国の一部では、経済面を含めた米中関係のディカプリングが従来以上に現実的な選択肢として議論されている。今回の会議では、欧州からのとある参加者が、欧州は日本同様、中国とのディカプリングは考えられないと発言していた。筆者は、同様の指摘を欧州の他の研究者や実務家からも頻繁に聞く。中国にとっての最大の貿易相手はEUである。

貿易や関税、投資、技術をめぐる米中対立がさらに激化した場合に、米国が中国との全般的なディカプリングを自ら進めるのみならず、日本や欧州にもそれを求めてきた場合に、日米関係、米欧関係は大きな試練を迎える。究極的には米国を選択する可能性は高くとも、容易な決定にはなりようがない。

加えて、たとえ日米欧がまとまれても、それ以外の諸国を対中アプローチにおいてどのように取り込んでいくかが課題となる。アジアやアフリカに多数存在するそれら諸国に対して、米中間の二者択一を迫ることは非建設的であるばかりか、逆効果となる場面も多いだろう。

次期携帯通信5Gをめぐる議論もそうである。ファーウェイに代表される中国製品の方が価格が安く、性能も問題ないとした場合に、それでもそれを排除する必要性を説得できるのか。たとえ日米欧がファーウェイを排除しても、人口という観点では、世界のマイノリティにとどまる。残念ながらこれが現実である。インドとインドネシアの関係強化に注目すべきとの、とある参加者からの指摘もこの観点で重要性を有する。

安倍晋三首相は、ニューヨークでの国連総会からそのまま大西洋を横断してブリュッセルに向かい、9月27日、同地でEUが主催した「欧州連結性フォーラム」に出席し、日EU協力の重要性を訴える基調講演を行った。この機会に、ユンカー欧州委員会委員長との間で、「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」と題された文書も署名された。中国による一帯一路に対抗して日本とEUが手を結ぶ、大きな一歩になった。

中国による地域や国際秩序への挑戦をまえに、いかに欧州を取り込んでいくことができるのか。連結性や質の高いインフラに関する日EU協力は、中国を意識して具体的に物事を進めていく意思を示すものである。そして、このイニティアティブの対象となるのは、まさに、さまざまな意味で日米欧と中国の間に存在する諸国である。日欧協力のみならず、この点に関する日米、米欧協力を含め、そうした方向を支える知的基盤の形成こそが、「日米欧東京フォーラム」の目指すものだろう。


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鶴岡路人

鶴岡 路人

  • 主任研究員

研究分野・主な関心領域

  • 欧州政治
  • 国際安全保障
  • 米欧関係
  • 日欧関係

研究ユニット

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