コロナゲームはタカハトゲーム?

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コロナゲームはタカハトゲーム?

新型コロナウイルス感染症が武漢から始まり、世界に拡大し、世界保健機関(WHO)は2020年3月、この感染症をパンデミック(世界的大流行)であると表明した。多くの国々で都市封鎖が実施されたが、日本では強制ではないものの、外出の自粛が要請されている。

これを簡単なゲームで表現するとどうなるのだろうか[1]。あなたと相手という二人のゲームを考えてみよう。以下の表における各セルの数では左があなた、右が相手の利得を示している。相手が自粛を選びあなたが外出するなら、あなたは両者が自粛するよりもそれなりに楽しむことができるとし、その値を10としている。一方で、自粛をしている相手は外出したあなたが何らかの形でウイルスを持ち込むのではないのかと案じ、両者が自粛するときよりも悪くなるとし、その値を2としている。両者ともに外出すると感染の可能性が高くなるのでこの利得を0としている。他方、両者ともに自粛する場合、感染リスクを下げることができるのでその利得を8としている。このゲームのナッシュ均衡(落ち着くところ)はどこだろうか。相手が自粛するならあなたは外出を選び、相手が外出するならあなたは自粛を選ぶであろう。相手も同様に違いない。そうすると、二人とも外出することはないものの、片方が自粛し、片方が外出するところに落ち着くに違いない(網掛け部分)。つまり、両者が同時に自粛することはないのである。

表 コロナゲーム 


実は、このコロナゲームは進化ゲームの出発点となったタカハト(鷹鳩)ゲームである[2]。相手が攻撃(タカ)的な外出戦略をとるならおとなしい(ハト的な)自粛戦略をとるのである。逆もしかりである。ただいずれかの戦略を確実にとるというよりも、例えば、10回のうち何回自粛を選ぶのかという確率を付した混合戦略がある。この例の場合だと、二人とも自粛を50%にするというのがこの戦略であり、進化的に安定的な戦略と呼ばれている。なお、さきほどの二つのナッシュ均衡は進化的に安定的な戦略とはなり得ない。 

囚人のジレンマゲームでは社会的に望ましい選択がなされるような仕組みが開発されているが[3]、このようなコロナゲームで全員が自粛する自然な仕組みをデザインすることは不可能であることが知られている[4]。そのため、多くの国々で自宅待機を強制するロックダウン(都市封鎖)が採択されたのであろう。一方、日本では私権の尊重のため強制力を持つ施策は採用されず、緊急事態宣言下で政府による80%以上の自粛の要請がなされている。 

国立情報学研究所の水野教授らは外食や娯楽などで使ったクレジットカードの実績を分析し、住宅地からの流出を観測している[5]。3月以降自粛率は上昇しているものの、8割に到達するにはほど遠いし、地域格差や年代格差もかなりある。一方、メリーランド大学のレイ・チャン教授は携帯電話のビッグデータを用い、全米各地のステイホーム率や社会的距離指標などを出している[6]。例えば、メリーランド州の外出自粛解除前の4月25日の社会的距離指標は60だったが、解除後の5月8日では47に落ちている。教授によると「自粛疲労」が起こっているとのことである。 

私の所属する高知工科大学は4月初め大学内の寮生に退寮を指示し、遠隔授業を始めた。5月初め、私の担当する1年生向けの講義(受講生約150人)にネット上でアンケートをとったところ、家族以外の他者との接触の自粛率と外出の自粛率について、1割弱の学生の自粛率は2割程度だが、残りの学生の両者の平均は 8割をゆうに超え、全体でみると自粛率はほぼ8割である。 

遠隔授業に切り替わり、もう一月近くになる。実のところ、こちらのほうがよいのではないのかと感じ始めている。知識の伝達、宿題の提出・採点、個別の学生へのサポートなどが非常にスムーズにしかも効率的になったのである。大学教育は単なる知識の伝達のみではないものの、教育のあり方そのものが大きく変わろうとしているのではないのか。

  

本稿作成に当たって青木隆太(東京都立大学)、小林豊(高知工科大学)の両氏からさまざまなコメントをいただいた。記して感謝したい。

  


[1] 近年の感染ゲームの進展は著しいが、ここでの議論は最も単純な場合を想定している。Chang, Sheryl L., et al. "Game theoretic modelling of infectious disease dynamics and intervention methods: a review." Journal of Biological Dynamics 14.1 (2020): 57-89. https://doi.org/10.1080/17513758.2020.1720322

[2] Smith, J. M. Evolution and the Theory of Games, Cambridge University Press, 1982.

[3] Saijo, T., T. Masuda, and T. Yamakawa “Approval mechanism to solve prisoner's dilemma.” Social Choice and Welfare 51 (2018): 65-77.

[4] Saijo, T., and T. Yamato “A voluntary participation game with a non-excludable public good.” Journal of Economic Theory 84 (1999): 227-242.

[5] 水野貴之, 大西立顕, 渡辺努「流動人口ビッグデータによる地域住民の自粛率の見える化 - 感染者数と自粛の関係 -」2020年4月22日.

https://www.canon-igs.org/column/macroeconomics/20200422_6369.html

[6] https://data.covid.umd.edu/

西條辰義/Tatsuyoshi Saijo

西條 辰義

  • 上席研究員

研究分野・主な関心領域

  • フューチャー・デザイン

研究ユニット

経済政策・経済思想ユニット