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超長期の政策課題への政治対応とフューチャーデザイン
写真提供:Getty Images

超長期の政策課題への政治対応とフューチャーデザイン

April 20, 2022

R-2021-093

超長期の政策課題
経済ポピュリズム——なぜ支持されるのか
有権者と政治家の近視眼——時間的視野の問題
短期的視野を招く情報の問題

超長期の政策課題

科学技術、産業、資本市場などの発達は、数世代にも及ぶ超長期の政策課題を産み出している。たとえば専制君主制の時代において、国家の借金能力は国王の寿命に大きく制約されていた。しかし市民革命による財政民主主義の確立や国債市場の発達などにより、国家の借金能力は大きく拡大し、現代では、次世代以降にも大きな影響を与える超長期の財政判断を政府や国会が行うようになっている。他にもたとえば地球環境問題などが、超長期の政策課題の代表例として挙げられよう。

このような世代を超える超長期の課題を民主主義は想定しておらず、それに十分に対応できないのではないか、という疑義が呈されている(例 小林2019)。超長期までは至らない時間軸においても、たとえば経済政策では、民主主義国家の下では、短期の経済利益を優先し長期の持続可能性をないがしろにする傾向があることが長らく指摘されてきた(e.g.,  Dornbusch & Edwards 1991; Edwards 2010;八代 2018)。

本稿では、長期政策課題、さらには世代を超えるような超長期の政策課題につき、なぜ「経済ポピュリズム」とも呼ばれるような、短期を長期に優先させる経済政策が支持されるのかを考察する。その上で、長期的な課題への適正な対応のあり方につき、今までの政治学の延長線上で考えられる対策を簡潔に指摘する。また、「仮想将来人」を意思決定過程に関与させるフューチャーデザイン(FD)の試みが、ここにどのような新しい視点を加えうるかも補足的に考察する。

経済ポピュリズム——なぜ支持されるのか

ポピュリズムの定義については、政治哲学者らの間で様々な議論があり、なかなか収斂しない[1]。ただ、定義という入り口段階の議論に拘泥するのは生産的ではない。ここでは経済財政分野で問題となる「ポピュリズム政策(人気政策)」を、Dornbusch & Edwards(1991)の定義に沿いつつ、加藤(2017)と同様に「短期的には(中位[2]の有権者に)利益をもたらす(可能性が高い)ものの、長期的には不利益をもたらす(可能性が高い)政策」とカジュアルに仮置きする。財政バラマキ策などが典型例となる。

図1は、政策の類型を4つに分けている。「ポピュリズム政策(人気政策)」の他は、短期長期とも利益をもたらす「理想政策」、短期長期とも不利益をもたらす「失敗政策」、短期的には不利益で長期的には利益をもたらす「不人気政策」とする。

 

1:人気政策と不人気政策

長期+ 長期-
短期+ 理想政策

人気政策
ポピュリズム政策

短期- 不人気政策 失敗政策

ここで問題となるポピュリズム的な状況とは、図1の「人気政策(ポピュリズム政策)」が「不人気政策」に比べ、政治家や有権者により過剰に支持されるような場合である。そして実際、そのような状況は民主主義下で多く観察されてきた。

たとえば自然災害対策についての政治学の著名な実証研究では、有権者は自然災害後の救済支出(事後対策)の実施については政権与党を高く評価し選挙で報いるのに比べ、自然災害前の予防支出(事前対策)の実施については有意な反応をしないことが明らかにされている(Healy & Malhotra 2009)。災害前の時点から見れば、事前の災害予防のための支出は短期マイナス、長期プラスの不人気政策であり、事後の救済支出は短期プラス、長期マイナスの人気政策(ポピュリズム政策)と言える。このような有権者の投票行動の結果、米国の自然災害対策の出費は極端に事後支出に偏っている。著者らの簡易な試算によれば、予防支出を2.91億ドル増やすことで40億ドルもの大幅な厚生向上(welfare gain)が可能となるという。

この自然災害対策の例でもそうだが、「人気政策」が「不人気政策」に比べて過剰に支持される状況は、最終的には、中位の有権者自身にとり不利益になる。それにもかかわらずなぜ有権者は、自らに不利益となるような経済ポピュリズムを支持するのだろうか。どのような対応が可能だろうか。

今までの研究はいくつかの要因を明らかにしてきたが、以下では有権者の「時間的視野(time horizon)」と「情報」の問題と、その相互関係を検討していく。(他にもたとえば「時間不整合とコミットメント」(e.g., Alesina & Tabellini 1988)、「集団性」(e.g., Jacobs 2011)などの要因が考えられるが、ここでは省く。)

有権者と政治家の近視眼——時間的視野の問題

図1の人気政策が不人気政策に比べ過剰に支持される要因としてもっとも簡単でストレートな説明は、「有権者は近視眼だからだ」というものだ[3]。近視眼の有権者は短期を長期より強く選好するため、図1では人気政策を不人気政策に比べ過剰に支持する。先ほどの自然災害対応の実証研究の例においても、事前支出に比して事後支出が過度に強く選好されるのは、有権者が近視眼(myopic)だからと著者は結論づけている(Healy & Malhotra 2009)。

また、行動経済学や政治学の研究も、人々の近視眼的行動を明らかにしてきた(e.g., Thaler 1981; Lowenstein & Prelec 1992; Achen & Bartels 2016)。さらに政策を作る政治家の側も、次の選挙での再選のため近視眼的な行動を取ることが知られている。ただ再選目当ての政治家サイドの近視眼については、有権者が長期的視野を持って政治家の近視眼的な行為を罰することで、ある程度は規律できる。

有権者の時間的視野が短くなるのは、以上のような心理的に不合理な要因だけではない。たとえば完全に利己的な有権者は、自分が生きている期間内のみで政策の是非を判断し、その先のことは政治選択の際に考慮しないであろう。そうなると高齢者の方が若者より短期の時間的視野で政策の支持・不支持を決めることとなる。図1で言えば、高齢者の方が人気政策をより支持することとなり、高齢者の人口比が多い社会においては経済ポピュリズムの流布へとつながりかねない。これは、少子高齢化が進む日本において特に深刻な問題となりうる。そのため、こうした点を是正すべく、世代別選挙区制度(井堀・土居1998)や、さらに議席を各世代の平均余命に応じ配分する方式(竹内 2016)などの選挙制度改革が提案されてきた。

さらに、冒頭で述べたような世代を超えた超長期の政策課題については、たとえ選挙権を得たばかりの18歳の若者であっても、短期的視野に過ぎる場面が生じてくる。本来は100年を超えた時間的視野で政策の是非を判断すべき超長期の課題であっても、それ以下の自分の余命の範囲内の時間軸で判断してしまうからである。このような事態は民主主義が想定していなかったものであり、それへの対応は、まだ生まれていない将来世代に投票権を与えるといった民主主義の根幹にかかわるラディカルな制度改革の実施か(現行憲法下では当然違憲となる)、自分だけでなく子孫や次世代のことも考える有権者の利他性の発現により解決していくしかない。幸い、かつて主流経済学が想定したような完全合理的、完全利己的な人は、実際には極めて例外的な存在であることが、様々な分野の数多くの実証研究や実験などで明らかにされている。

日本発で研究と実践とが進められてきたフューチャーデザイン(FD)は(Saijo 2022)、地域などでの熟議民主主義的な設定の中に「仮想将来人」を参加させ、世代を超えた将来的な視点を意思決定に取り込むといった試みを行ってきた。これは、本稿で述べてきた有権者の近視眼や経済ポピュリズムといった問題の解決に大きく寄与しうる革新的なアプローチである。ただ、FDが有効な意思決定のあり方として地域や国などで定着するには、まずはFD自体が正統性(legitimacy)のあるものとしてその地域などの住民に受け入れられなければならない。そして、そうした住民たちがFDを受け入れるために必要なのはやはり、住民たちの世代を超えた利他性なのである[4]

短期的視野を招く情報の問題

最後に、長期・超長期の課題についての経済ポピュリズム的な状況が生じるもう一つの要因として情報の問題を取り上げ、それへの対応の方向性を指摘したい。

現代のような複雑化した不確実性の高い社会で将来を見通すことは非常に難しい。これもまた、民主主義草創期には想定されていなかった事態かもしれない。特に長期、超長期の政策課題とその政策対応の是非を吟味するには多くの情報や分析が必要となるが、以前のReviewで書いたように(加藤 2022)、本業に忙しい有権者は通常、乏しい政治情報しか有していない。

こうした将来の不確実性が高い状況においては、有権者にとって「現在」の価値が「将来」の価値に対して相対的に高まる[5]。たとえ近視眼ではない合理的な有権者であっても、情報が少なく不確実性の高い状況においては将来に比べて現在を高く評価するため、表面的には近視眼的な政治選択をすることになるのだ(Kato 2022)。実際、長期の政策コミットメントに対する不確実性は、公共財投資への支持を大きく減じることが、実験手法を用いた分析で明らかにされている(Jacobs & Matthews 2012)。

また、有権者は自らの情報制約の問題を克服するため、将来を見据えた政治判断ではなく、政党や議員の過去の経済業績をベースにした「業績評価投票(retrospective voting)」をすることも知られている(Fiorina 1978)。さらに、そこで評価の対象となる「過去」の期間(時間的視野)は非常に短い範囲に留まる(Achen&Bartels 2016)。

こうした情報不足に起因する一連の状況は、短期を長期に比べて過度に重視する経済ポピュリズムの流布へとつながりうる。対応としてまず考えられるのは、政治情報の流通であるが、このための対応は以前のReviewに譲る(加藤2022)。そこでも少し触れたが、特に財政問題や地球環境問題のように、超長期の複雑な課題については、政府から独立し、国民から信頼されるような長期の推計機関の存在が、国民の情報収集コストを大幅に削減する。

フューチャーデザインの試みも、有権者の将来判断にあたっての情報不足の問題への対応において、一つのヒントとなりうる。

民主主義下の市民は本来、長期にわたる「良い統治」を実現するため、時間をかけて未来に至る情報を集め、より良い政治判断を行う責務を有する。しかし個々人は本業などに忙しく、なかなかそのような「良い統治」の実現のための時間を作ることはできない。そういう面倒な作業は他の市民に任せ、自分は本業や家族サービスに徹しようと思う市民も多いだろう。典型的なただ乗りである。その一つの帰結が情報の欠如である。

こうした状況を改善するためには、将来についての情報収集を特定の人——FDでいう「仮想将来人」——に割り当て、仮想将来人が一種の未来オンブズマンとなって、責任を持って有権者の将来判断に資するような情報を収集・分析することが一つの対応策となりうる。実際、こうした未来オンブズマン的な役割の導入は、北欧諸国で導入されている。

**

冒頭でも述べたように、長期、超長期の政策課題への対応は、市場経済及び民主主義にとっての一つの大きな挑戦である。かつての主流経済学が想定していたような完全合理的な個人と民主主義の組み合わせでは、この問題はおそらく解決できない。様々な試みを通じて、個々人が本来有している利他性を発現させていく仕組みを作り上げていくことが、今後特に重要となろう。日本発のFDも、その一つの理論的かつ実践的アプローチとして、大いに注目されるべき試みである。

 


<参考文献>

Achen, C. H. and L. M. Bartels. 2016. Democracy for Realists: Why Elections Do Not Produce Responsive Government. Princeton: Princeton University Press.

Alesina, A. and G. Tabellini. 1988. “Credibility and Politics.” European Economic Review. 32: Pp. 542-50.

Dornbusch, R. and S. Edwards. 1991. The Macroeconomics of Populism in Latin America. Chicago: Chicago University Press.

Edwards, S. 2010. Left Behind: Latin America and the False Promise of Populism. Chicago: University of Chicago Press.

Fiorina, M. P. 1978. “Economic retrospective voting in American national elections: a micro-analysis.” American Journal of Political Science. 22: Pp. 426-43.

Healy, A. and N. Malhotra. 2009. “Myopic Voters and Natural Disaster Policy.” American Political Science Review. 103-3: Pp. 387-406.

井堀利宏・土居丈朗 1998.『日本政治の経済分析』木鐸社。

Jacobs, A. M. 2011. Governing for the Long Term: Democracy and the Politics of Investment. Cambridge: Cambridge University Press.

Jacobs, A. M. and J. S. Matthews. 2012. “Why Do Citizens Discount the Future? Public Opinion and the Timing of Policy Consequences.” British Journal of Political Science. 42-4. Pp. 903-935,

Judis, J. B. 2016. The Populist Explosion.New York: Columbia Global Reports.

Kato, S. 2022. “Rationally Myopic Voter: Uncertainty, Distrust, and Populist Policy.” A paper accepted and presented at the Annual Meeting of the Midwest Political Science Association (MPSA). April, 2022.

加藤創太 2022.「東京財団政策研究所Review:有権者の情報不足の問題をどう緩和するか: 日本の財政民主主義を機能させるために」東京財団政策研究所HP

加藤創太 2017.「ポピュリズム政策と財政膨張」加藤創太・小林慶一郎編著『財政と民主主義』日本経済新聞出版社。

小林慶一郎 2019. 『時間の経済学:自由・正義・歴史の復讐』ミネルヴァ書房。

Saijo, T. 2022. “Future Design for Sustainable Nature and Societies.” KUT-SDE working paper. 2022-1.

Lowenstein, G. and D. Prelec. 1992. Choices Over Time. New York: Russell Sage Foundation.

Thaler, R. H. 1981. “Some Empirical Evidence on Dynamic Inconsistency.” Economic Letters. 8: Pp. 201-207.  

竹内幹 2016.「少子高齢化時代の選挙制度——世代別選挙区と平均余命による議席配分」『現代思想』43号。

八代尚宏 2018. 『脱ポピュリズム国家:改革を先送りしない真の経済成長戦略』日本経済新聞出版社。

 

[1]最近の様々な定義の類型についてはたとえばJudis(2016)が詳しい。なお、日本ではよく「大衆迎合主義」と訳されるが、世界での議論の潮流とはややずれている。

[2] 「中位」とは「平均」とはやや異なる概念で、対象サンプルの真ん中の人の数値を言う。たとえば有権者に年齢順に並んでもらったとき、ちょうど列の真ん中に来る人の年齢が中位である。

[3] もちろん現在の100円は1年後の100円より通常は価値が高い。ここで言う近視眼とは、そういった通常の時間割引率を超えて現在を未来より選好する嗜好を指す。

[4] FDの主唱者たちも、そういった利他性を「Futurability」という造語で表している。FDは制度を内生的なものとして捉えるため(Saijo 2022)、FDが意思決定制度として地域に定着するには、FD自体がFuturabilityの意識を持つ住人たちの嗜好・行動の均衡となることがおそらく肝要となる。

[5] 1年後の100万円の価値を割引率(通常はプラス)によって割り引くことで、「1年後の100万円」の現在価値が求められる。不確実性が高まると割引率が通常は高まるため、1年後の100万円の現在価値は下がる。



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