【開催報告】第11回BBLセミナー「新型感染症(COVID-19)インパクトで進化するフィンテックビジネス」

東京財団政策研究所では、日本における政策ネットワークの拡充と政策議論喚起のため、BBLセミナー(BBLBrown Bag Lunch Seminar Series)を随時開催しています。

11回目となった6月29日には、野村総合研究所 金融イノベーション研究部 上級研究員 柏木亮二氏を講師にお迎えし、「新型感染症(COVID-19)インパクトで進化するフィンテックビジネス」という演題でご講演頂きました。

柏木氏からは、新型感染症の影響によって、キャッシュレス化、クラウド化、APIの利用、業務のデジタル・トランスフォーメーション(DX)などが進展したことで、フィンテックビジネスの進化も加速している状況とともに、APIの活用によりあらゆる企業が金融機能を持つ可能性などについてご講演をいただきました。

続く司会の西川政策アドバイザーとの質疑応答では、デジタル基盤整備における政府の対応や、昨今のフィンテック企業の倒産をどう見るかなど、活発な議論や問題提起が行われました。

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質疑応答(要旨)

西川氏)単なるコロナ対応を越えて、フィンテックが産業へ与えるインパクトとはどのようなものでしょうか。企業や産業、働き方をどんな方向に変化させるか。外部経済的な効果としてはどんなことが期待できますか。

柏木氏)いろんな効果があると考えている。まず資金調達先の多様化。個人でいえばカードローン等、限られた融資先しかなかったところに、別の融資先、プレーヤーが増えていく。ビジネスの世界でも同様にクラウドファンディングやトランザクションレンディング、またファクタリングといったサービスもある。少額、短期間だが効率的な与信が増えていくことで、零細企業、個人事業主にとって、アイデアを実現する道筋が増えることが考えられる。2点目がUberのケース。自分のビジネスに金融機関の一部をプラスすることで、新しいビジネスモデルが生まれる可能性がある。例えばサブスクリプションサービス。現在はクレジットカードでの振替でしか対応できてないケースが多いが、自社サービスの一部に組み込むことができれば、サブスクリプションといいながらダイナミックプライシングのような仕組み導入したり、その人の利用状況に応じた新しいサービスが組み込めるかもしれない。3点目は決済や口座の入出金情報といった、金融業界で今まで閉じていたデータが、デジタルデータとして世の中に流通すること。これがもっともインパクトのある外部効果だと思う。匿名化やプライバシーの問題はもちろんあるが、決済や個人の金融資産といった今まで利用できなかったデータが、マーケットに流通するのはかなり大きなインパクトがあるのではないだろうか。

 

西川氏)フィンテックビジネスを拡大するためには、政策の面からみて、どのような課題があるのでしょうか。 進展の妨げになっているポンイトやその打開策についてお考えを伺えますか

柏木氏)個人的な見方ではあるが、金融庁による2016年頃からの日本のフィンテックへの政策対応は、世界的にみても素早かったように思う。ただ、フィンテックビジネスに対する投資額が、中国などと比べても相当少ないというのは、ひとつの課題である。金融はお金を扱う業界だ。資本の厚みが要求されるビジネスであるとすれば、そこに資金が流れる仕組みがないといけない。そういう意味で、ひとつ大きなボトルネックになっているのは、銀行法の規制が厳しすぎることだろう。いまは若干緩和されたとはいえ、「楽天は銀行をもてるが、銀行は楽天を持てない」という話が象徴的といえる。銀行のように大規模な資本を動かせるところが、もう少し新技術や、新しいプラットフォームに投資できるような道筋を作っていくことが必要なのではないか(法律で手当てすべきかどうかというのは議論があるかもしれないが)。具体的にどうなるかはわからないが、例えばみずほが子会社・グループ会社でベンチャーキャピタルを作ったり、共同でオープンイノベーションを進める会社を作って、実証実験や新しいビジネスの取り組みをしている。本来であれば、(みずほ)本体でもそういう取り組みができるような仕組みがあれば良いのではないかと思う。この国会にも資金決済法の改正案が出されている。いままでは銀行にしか認められていなかった決済業務を他の事業者に認めるという規制緩和だが、今回はさらにもう一歩踏み込んだものである。これまで上限100万円しか扱えなかった資金決済事業者を、リスクに応じて三段階に分けて規定。一番上の事業者は、ある意味で青天井の決済ができる仕組みになっている。金融庁もリスクや時代のニーズに応じた法改正・規制緩和を進めている。しかし、何故か銀行側の規制緩和はあまりない。どちらかというとオープンAPIのように対応を求めることが多い。銀行側がもう少し自由に動けるような動きがあってもよいのではないか。

 

西川氏)欧州のオンライン決裁大手のワイヤーカード社が、不正により破綻した疑いがある。従前の金融業の監督では手が届かなくなっているという恐れはないか。健全な発展のために、今後の監督や監査などの方向についてのアイデアをお願いします。

柏木氏)仮想通貨取引については、比較的早めに金融庁が法整備を進め、監督の体制を固めたという経緯がある。グレーゾーンのビジネスは必ず出てくるので、そういったことへの対策は必要にはなる。ただし最近は、法律のグレーゾーンに関しても、実際に事業をスタートさせる前に「金融庁としてはこう考える」という方針を表明する仕組みがある。ひとつがフィンテックサポートデスクと呼ばれるもの。自分たちのビジネスプランをサポートデスクに連絡すると、既存の法律に抵触するかどうか、既存の法律ではどのように解釈されるのか、ということを比較的、早いタイミングで回答してもらえる仕組みがある。また、実際にユーザーのニーズがあるかどうか、ユーザーからはどのような反応があるか、ということを実験したいような場合は「レギュラトリーサンドボックス」というかたちで「FinTech実証実験ハブ」と呼ばれる仕組みを利用することもできる。そういう意味では、いきなり全く未知のビジネスが表れて、金融庁の規制の網もすりぬけて、というようなことは日本に関しては発生しにくいのではと思う。ただし、海外で大きくなったサービスで日本にいきなり入ってくるようなケースは難しい対応になるかもしれないが。仮想通貨、暗号資産に関する(日本の)規制の枠組みは世界でトップレベル、テンプレートになりうるレベルだと思う。ただ銀行法や他の業法は新規参入をそこまで想定していない法律が一部残っている。いまは参入者側にフォーカスした法改正が多いが、既存のプレーヤーが新規参入に対して、どうやって競争環境を維持していくのかを考える必要がある。

 

柏木 亮二

  • 野村総合研究所 金融イノベーション研究部 上級研究員

西川 正郎

  • 東京財団政策研究所 政策アドバイザー