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中国とバイデン米政権 競争と協力、並行の時代へ
2013年12月、北京の人民大会堂で中国の習近平国家主席(右)と握手するバイデン米副大統領(当時)[写真提供:GettyImages]

中国とバイデン米政権 競争と協力、並行の時代へ

December 21, 2020

はや過ぎ去ろうとしている2020年を振り返ると、世界を揺るがせたのはやはり中国であった。武漢市に始まる新型コロナウイルスの爆発的な流行は世界に広がり、予想もしなかった経済社会の危機をもたらした。しかし、世の中は実に不可思議で複雑だと言うほかはない。中国は強権発動で人の動きを止めたことによりウイルスを抑え込み、いち早く経済の回復に成果を上げている。

景気回復は途上
「政治」の季節へ
日本、賢く強く

景気回復は途上

ただ、中国の現状をどう評価するかは必ずしも簡単ではない。1年前の毎日新聞オピニオン欄で、19年第3四半期の成長率が6.0%まで下がり、指導者たちが経済の先行きに深刻な懸念を表明していたことを記した。その状況下で勃発したパンデミック(世界的大流行)である。ダメージがなかったはずはない。今も賃金の遅配、欠配への労働者の抗議活動は毎日のように起きている。

国家統計局は24歳以下の失業率を発表しない。恐らく、若年層の就職探しは厳しい状況にあるのだろう。強気の姿勢を崩さない習近平氏だが、就任以来最大のピンチを完全に乗り切ったと言うにはまだ早い。他方、それでも主要国では唯一のプラス成長であり、世界の多くの産業にとって中国の景気回復が頼みの綱であるのも事実だ。

習近平政権にとって、経済活性化と金融リスク回避のバランスは政策運営上の難点だ。中国電子商取引最大手アリババの創業者、馬雲(ジャック・マー)氏が当局の金融規制を痛烈に批判したところ、アリババグループの金融会社アント・グループの新規株式公開が突然延期された。ここには、肥大する私営企業への警戒という中国の政治事情も絡んでいる。

中国国内では5年に1度の党大会が2年後に迫り、政治の季節を迎えている。10月下旬の中央委員会総会の前には「中央委員会工作条例」が制定された。そこには、いわゆる習近平思想を用いて人民を教育することや、全党の「核心」としての習近平氏の地位を擁護することなどが盛り込まれた。1強体制のさらなる強化であり、長期政権への道を開く布石である。

「政治」の季節へ

興味深いのは、9月末には政治局会議で同条例案を審議したと報じられたのに、10月中旬に条例全文が発表された際には、そこで審議のみならず批准したと記されたことだ。こうした矛盾の露呈の背景には意見対立があることが多い。実際は審議しかしなかったが、来る中央委員会総会の議題にすれば反対意見が多く出るため、持ち回り会議で調整してその前に批准したことにしたのだろうか。

中国共産党には、68歳以上は中央委員に再任されないという内規があると広く信じられている。また党規約によれば、中央委員でなければ政治局員にも総書記にもなれない。そこで、党大会時に69歳になる習近平氏が引き続き党のトップとして君臨するためには、年齢制限の内規を変えるか、党主席制を復活させるなどの制度変更が必要だ。今回、少なくとも表向きは、そのどちらもなかった。実際、後継者の指定もなく、習近平政権の存続が既定路線となった感がある。だが、制度上の障害もクリアしてそれがスムーズに実現するかどうかは、今後2年間の経済社会と外交の安定にかかっている。

中国外交の最大課題は対米関係の安定だ。11月下旬、元駐英大使の傅瑩氏は米ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、米国に協力的競争を呼びかけた。今月1日、言論NPOなどがオンラインで開催した東京-北京フォーラムでも、米中関係は競争と協力をはらんでおり、バイデン政権とは協力を強化していきたいという声が中国側から聞かれた。

中国共産党は、外交とは闘争だという基本認識を有している。最近は「戦狼(せんろう)外交官」[1]の過激な言動も目立つ。しかし政策に使う言葉は融和一色のことが多く、言行不一致の印象を与えがちだ。オバマ政権に向けて提案した、相互尊重、ウィンウィンの「新型大国関係」の樹立はその一例だ。だが最近、方針修正の気配がある。日本が実践してきた競争と協力の並行策(two-pronged approach)を、中国も対外政策の枠組みとして受け入れたように見えるのだ。

習近平氏が国連総会で60年までに二酸化炭素の排出を実質ゼロにするよう努力すると述べたり、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への加盟を積極的に考えると語ったりしたことも、その文脈で理解することができる。つまり戦略面では競争を続け、米国が強調する「インド太平洋戦略」[2]を覇権維持のためのもう一つの北大西洋条約機構(NATO)づくりだと批判する。だが、日本が主導するTPPや経済を前面に出す「自由で開かれたインド太平洋」には反対しない。新型コロナで悪化したイメージを回復し、また米国の協力を引き出す上でも、使える多国間の枠組みは使う方針だ。

日本、賢く強く

米国の識者と対話すると、競争と協力を並行させることが必要だという認識がワシントンでも広がる気配が感じられる。トランプ政権では競争に偏ったがそれでは他の国はついてこない。また自国の利益を考えても、米国企業は中国市場を放棄するつもりはない。さらには、バイデン政権が気候変動問題などに本格的に取り組むならば中国との協力が不可欠だ。

競争は激化するため、協力との並行は緊張感を伴う。だがそれ以外に道はない。日本は矛盾を抱えて生きる賢さと強さを備えるほかない。まずはメディアも、「自由で開かれたインド太平洋」の二面性と、その区別を認識した中国の対応を正しく理解すべきだ。

 


[1] 「戦狼外交」
中国のアクション映画「戦狼/ウルフ・オブ・ウォー」になぞらえた中国の好戦的な外交手法。中国は新型コロナウイルスへの対応で悪化したイメージを回復させるため、医療物資などを送る「マスク外交」を展開。一方で欧州の国々や豪州などが中国に感謝の意を表明するよう要請されたり、経済的な脅しを受けたりしたことが原因で中国への不信感が高まっている。

[2] 「インド太平洋戦略」
安倍晋三前首相が2016年に「自由で開かれたインド太平洋」構想を発表。法の支配に基づく秩序を実現し、繁栄と平和をもたらすという日本の外交方針で、菅義偉政権も引き継いだ。米国のトランプ政権が支持し、「インド太平洋戦略」を打ち出した。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」が背景にあるが、日本は中国との協力に軸足を移したとされ、日米間には違いもある。

 

本稿は、2020年12月10日 毎日新聞朝刊「オピニオン」欄に掲載された記事に加筆修正したものです。

    • 高原 明生/Akio Takahara
    • 元東京財団政策研究所上席研究員
    • 高原 明生
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