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アメリカNOW 第50号 グーグル対中国の結末 (池原麻里子)

July 23, 2010

中国のグーグルに対する検閲問題だけをレポートするつもりはないが、本件、とりあえず一件落着したので、まとめておきたい。

グーグルは6月に、Google.cn をGoogle.com.hkという香港の検索サイトに自動迂回させている状態では、インターネット・コンテント・プロバイダー(ICP)のライセンスは更新しないと、中国当局から警告された。中国のICPライセンスは毎年の更新が必要である。この警告に対応して、グーグルはGoogle.cnの検索ページを自動的にGoogle.com.hkに迂回させるのではなく、同サイトのリンクを載せるようになった。

つまり、検索をする者は、このリンクをクリックしないとGoogle.com.hkのホームページには行けなくなったため、1クリック、手間が増えたことになる。
この対応を妥協案として受け入れた中国政府は、7月に入ってからグーグルのライセンスを更新した。これでグーグルは、今後も中国で活動を継続することができるようになったわけだ。また1月12日に発表した自社としては今後、検閲は行わないという意思を貫き、表現の自由や人権保護の擁護者たちを満足させることになった。

一方、中国当局は、Google.com.hkの検索結果に対して、「防火長城」と呼ばれるファイアウォールを駆使した検閲を継続できる。工業情報省通信開発部門のトップ、張峰は記者会見で、グーグルのウェブサイトを運営しているGuxiang社は「中国の法律を順守し、違法なコンテンツは提供しないことを約束している」、「調査した結果、同社は基本的に関連の法や規制を満たしているとの結論に達した」と述べている。つまり、両者にとって納得がいく妥協に達し、a win-win situationになったわけだ。

ICPライセンス更新によって、グーグルは中国内でのビジネス活動を継続できることになったが、同社の検索エンジン利用者は減りそうな見込みである。中国互聯網絡信息中心(CN-NIC)が7月15日発表した「第26回中国インターネット発展状況統計報告」によると、2010年6月末現在の中国のネット利用者 は4億2000万人。その検索市場は、本年第2四半期には26.4兆元のビジネス規模となり、53.2%の成長を見せた。

そして、グーグルのシェアが2.2%減り、27.3%に縮小したのに対して、百度(バイドゥ)はその分、3%伸び、70.8%のシェアを占めるようになった。検索エンジン問題は携帯電話分野でのビジネス展開にも支障となっているようだ。携帯電話業者はグーグルの携帯電話用ソフトであるアンドロイドを導入しつつあるが、グーグルの検索サービスではなく、百度などを利用している。どうも、グーグルの中国市場におけるビジネスはなかなか前途多難そうである。

さて、グーグルはその後も中国内でのサービス・アクセス状況について、自社サイトで発表し続けている。7月20日時点での現状は次の表の通りだ *1 。前回レポートした4月1日時点と比べると、ウェブアルバムサイトのピカサがFully Blockedになってしまい、また携帯については全面的にPartially Blockedになったことがわかる。ウェブ検索も7月14~20日では1日だけPartially Blockedだが、その前週の7~13日にかけては3日間、Partially Blockedとなっている。中国当局による検閲度が強化されていることがうかがえる。


Mainland China service availability

さて、グーグルが中国当局の検閲を拒否すると発表した頃には盛り上がっていたインターネット・フリーダム問題だが、3月頃には活発だった米国連邦議会での公聴会も一段落し、インターネット・フリーダム保護を目的とした幾つかの法案も全く、動いていない。グーグルの中国問題が一段落したため、何か事件が起きない限りは注目されることもなさそうである。

一方、オバマ政権で「21世紀ステートクラフト」としてインターネット・フリーダムも推進している国務長官イノベーション上級アドバイザーのアレック・ロスと国務省政策企画本部のスタッフ、ジャレッド・コーエンは、ツイッターなどのSNSを活用し、国内外の市民にリーチアウト。プレス・リリースやコミュニケに依存する従来型の外交手段の刷新を図っている。国務省は外交官に対して、インターネット・フリーダムのモニター方法に関するトレーニングも始めつつある。本件については、ヒラリー・クリントン国務長官、そしてアンマリー・スローター政策企画本部長も熱心であると言われており、今後も外交上の優先課題の1つとして、取り上げていくことになるだろう。



*1 :http://www.google.com/prc/report.html#hl=en


■池原麻里子(ワシントン在住ジャーナリスト)

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