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アメリカ大統領選挙UPDATE 1:リック・ペリーの躍進と失速に見る共和党が直面する課題 (島村直幸)

October 5, 2011

テキサス州知事のリック・ペリーが、全米で2番目に大きな州での11年間の実績を背景に、8月13日に大統領選挙への出馬を正式に表明し、共和党の候補者指名争いで一気に首位に踊り出た。ペリーの最大の強みは、在任中に100万人以上の新規雇用を創出した「テキサスの奇跡」にあるが、同時に、保守の原則を断固として貫く政治スタイルによって、共和党の内部で分裂しがちな保守派を取りまとめることができる強力な大統領候補として期待が高まっていた。

ペリーは、「小さな政府」路線を掲げ、減税や規制緩和を推進する財政保守派として、「茶会」運動の有権者から強い支持を集めた。また、「宗教を反映した政治を展開すべきである」という持論を繰り返し、キリスト教福音派から強力な支持を得ることにも成功した。問題は、こうした保守派からの支持を背景に予備選挙に勝利し、共和党の大統領候補になれても、はたしてオバマ大統領に勝利できるのかという深刻な懸念が残ることである。

9月のカリフォルニア州とフロリダ州での公開討論会では、特にペリーとミット・ロムニーの二人が、雇用創出の実績やオバマ大統領に勝利できる資質、社会保障・医療保険制度改革などの争点をめぐり、激しい議論を戦わせた。ロムニーは、過度に保守の大統領候補を指名してしまえば、オバマ大統領の再選を容易にしてしまう、と繰り返し警告した。また彼は、ペリーが社会保障制度の財政基盤と合憲性を疑問視していることを厳しく批判し続けた。

保守の原則にこだわりすぎてしまえば、激戦州や大きな州の郊外で無党派層や穏健な有権者からの支持を獲得できないのではないかという懸念が共和党につきまとうことになる。9月12日のフロリダ州での討論会の直前に、ティム・ポーレンティーがロムニー支持を表明したことは、ペリーの躍進に対する共和党内の懸念を示唆するものであった。これに対し、ペリー陣営は、ルイジアナ州知事のボビー・ジンダルがペリーを支持することを明らかにした。

しかし現時点まで、共和党の州知事や上下両院の議員、支援者たちの多くは、大統領選挙の行方に一定の距離を保ちつつ、ペリーの躍進に対して、好奇心と懸念とが入り交ざったアンビバレントな感覚を抱いてきたように見える。彼らは、ペリーが保守の有権者、特に茶会運動や宗教右派からの支持を獲得できる能力を高く評価しているが、同時に、本選挙で無党派層や穏健な有権者をどこまで取り込めるのかについての懸念を払拭できずにいるのだと思われる。

大統領選挙ではまず、予備選挙で、共和党内で主流派である保守派にアピールする原則を掲げ、保守の政策を打ち出さなければ、共和党の大統領候補にはなれない。しかしながら、あまりに保守的な大統領候補のままでは、11月の本選挙で、無党派層や穏健な有権者を取り込むことができない。こうした「保守のジレンマ」を、共和党の大統領候補は戦略的に克服していく必要性がある。

しかも、2012年大統領選挙は、2010年中間選挙で台頭した茶会運動の影響力が強く作用する政治状況の下で戦われる、はじめての大統領選挙となる。茶会運動の活動家や有権者は、保守の原則にこだわり、妥協を嫌う傾向が強い。特に予備選挙で、無視できない影響力を行使すると容易に予測できる。そもそも、茶会運動の台頭によって、共和党がますます保守化し、アメリカ政治は保守とリベラルのイデオロギーの分極化がますます精鋭化してしまっている状況にある。「保守のジレンマ」はより深刻になってしまうであろう。

こうした政治状況に対して、ペリー陣営は、「保守のジレンマ」にほとんど縛られずに、保守的な有権者が多い南部と宗教色の強いラストベルトでの支持をまず固める戦略で、大統領への道を突き進むシナリオを描いてきたように思われる。「(連邦レベルでの高齢者年金の)社会保障制度を廃止すべきである」という立場を修正した以外に、無党派層や穏健な有権者を取り込むために、戦略的に自制し、原則を貫くアプローチを抑制していく動きをほとんど見せてこなかったからである。

しかし、9月22日のフロリダ州での討論会で、ペリーは、「パキスタンの核兵器がテロリストの手に渡ったらどうするか」という外交・安全保障の問題で的外れな受け答えをしただけでなく、テキサス州での不法移民の子供への補助金支出の問題で、ロムニーやミッシェル・バックマンなど他の候補者たちから厳しい批判を浴びた。特に不法移民の問題をめぐって、保守派の間で懐疑的な見方が広がり、躍進を続けてきたペリーの勢いは早くも失速し始めた。

討論会2日後の24日にフロリダ州で実施された模擬投票で、ペリーはハーマン・ケインに37%対15%の大差で敗北してしまった(ロムニーは14%)。FOXテレビが28日に発表した世論調査の結果では、ペリーの支持率は約1ヶ月前の26%から19%にまで急落し、18%から23%に上昇したロムニーに首位を奪われてしまった。共和党エスタブリッシュメントの間で穏健派のクリス・クリスティの出馬待望論が再燃するなど、共和党の候補者指名争いは、再び「本命不在」となり、流動化の様相をにわかに呈してきた。ただし、予備選挙の日程が前倒しされる結果、クリスティらによる遅れた出馬は困難になると予測される。

ペリーとロムニーを軸とした候補者指名争いがこのまま続いた場合、共和党にとって、まったく対照的な選択肢を迫る結果となる。保守層の支持を固めるため、保守の原則を断固として貫くべきか。それとも、無党派層や穏健な有権者の支持を幅広く獲得するため、戦略的に自制すべきなのか。どちらの戦略とアプローチを共和党がとるのかは、予備選挙でのペリーとロムニーの勝敗を見極めなければ、最終的な決断は下せないのではないか。

こうして、2012年大統領選挙に向けて共和党は、党内の保守派と穏健派を取りまとめ、かつ現職のオバマ大統領に勝利できる強力な大統領候補、「第二のレーガン」をまだ見出せずにいる。しかも、共和党の保守化にともなう保守とリベラルのイデオロギーのさらなる分極化は、かつてのレーガン大統領でさえ、統合することが困難なまでに深刻化してしまっているように見える。

    • 杏林大学講師
    • 島村 直幸
    • 島村 直幸

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