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2014年アメリカ中間選挙 update 4:中間選挙とアメリカ外交 - 混合型脅威に直面するレイムダックのオバマ外交(島村直幸)

December 10, 2014

2014年11月4日の中間選挙の直後、北京で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)では、オバマ大統領と習近平国家主席が、2日間で9時間以上にわたり会談し、軍事衝突防止や温暖化防止の気候変動の問題で、米中両国が密接に協力する姿勢を見せた *1 (ただし、温暖化ガス削減目標の設定には、ミッチ・マコネル上院院内総務など、共和党指導部が反発している *2 )。中南海での夕食会では、オバマ大統領は、習近平国家主席に対して、「関係を新たな段階に引き上げよう」と提案した *3 。同時に、オバマ大統領は、香港での民主化デモ「雨傘革命」を念頭に、中国の人権と民主主義に対して、注文をつけることも忘れなかった。もちろん中国は、「外国からの内政干渉は許さない」と反発した。

またオバマ大統領は、11月15日、オーストラリア東部のブリスベンで演説し、「アジア太平洋におけるアメリカの指導力(の維持)が、私の外交政策の常に基軸である」と指摘し、「外交、軍事、経済、価値などアメリカのあらゆる力の要素を駆使し、着実に丹念に関与を深め続ける」と強調した。こうして、中国への協調姿勢から一転、中国の海洋進出に警告を発したのである *4

オバマ大統領がアジア歴訪を終えた後の11月20日、アメリカ議会の超党派諮問機関の米中経済安全保障再考委員会が2014年版の報告書を発表し、中国の軍事大国としての台頭が、アジア太平洋地域でアメリカの優位に挑戦している、と指摘した。また中国の核兵力が今後5年で急速に増大し、近代化する結果、アメリカの抑止力が弱まり、日本の安全保障に影響を及ぼす可能性がある、と分析した。こうした中国の脅威に対処するため、アメリカのアジア太平洋地域における「アジア旋回(pivot to Asia)」と「再均衡(rebalancing)」の戦略を強化・維持しつつ、日本の集団的自衛権の行使を後押しすることを政策提言している *5

「再均衡」は、オバマ政権1期目のヒラリー・クリントン国務長官の回顧録『困難な選択( Hard Choices )』によれば、第一に中国との関係拡大、第二に中国の台頭に対抗するための同盟強化、第三に国際法や規範の確立を目的とした地域の枠組みの強化、という3つの要素から構成される *6 。政権1期目のジェームズ・スタインバーグ国務副長官やカート・キャンベル国務次官補も、「アメリカが主導する国際的な枠組みに中国を取り込む」ことを強調している *7

政権2期目にチャック・ヘーゲル国防長官の首席補佐官から韓国大使に任命されたマーク・リーパットも、「再均衡」は中国の封じ込めではない、と繰り返し強調する。また「再均衡」は、軍事や安全保障に限定されず、たとえば、環太平洋経済連携協定(TPP)など、政治経済でもアジア地域に軸足を置くものである、と説明している *8 。オバマ大統領自身も、中間選挙の前から、「TPPはアジア太平洋地域の経済のダイナミズムを取り込むためである」、あるいは「TPPはアメリカの企業や消費者にとって有益である」と語り、国内を説得してきた。これらは、意外とオバマ政権の本音を語っているのかもしれない。ただし、包囲される側の中国にとっては、アメリカ(やその同盟国の日本)による「封じ込め」として受け止められていることは、想像に難くない。

こうして、オバマ政権の「再均衡」は、ニクソン政権の1972年2月の米中和解以降の「ヘッジと抱擁(hedge & embrace)」ないし「統合とヘッジ(integrate, but hedge)」の両面政策から、大きく逸脱するものではない。巧みな外交による両側面のバランスが重要なのである。

オバマ大統領は2013年6月に、カリフォルニア州のサニーランドで、中国の習近米国家主席と延べ8時間にわたって会談した。米中間の「新しい協力モデル」を構築することで一致した。オバマ政権と習政権の米中関係は、ここからスタートした。他方で、オバマ政権は、習近平国家主席が提唱する「新型の大国関係」を容認しないという政策姿勢を崩していない。ただし、スーザン・ライス国家安全保障問題担当大統領補佐官は、「経済の分野では、米中間で『新型の大国関係』を模索してもいい」という趣旨の発言を意図的に繰り返してきた。

オバマ外交は、その後、2013年9月、シリア情勢で強硬姿勢を貫けず、大きく迷走した。その直後の10月には、財政問題をめぐるアメリカ議会との対立激化で、APECの首脳会談など、アジア歴訪をキャンセルした。中国が突然、東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定することを発表したのは、その直後の11月であった。オバマ外交の迷走と無関係ではあるまい。

中間選挙後、オバマ政権が直面する脅威は、こうした中国の台頭にともなう脅威にとどまらない。

ヨーロッパ地域では、混迷するウクライナ情勢をめぐる米欧対ロシアの対立があり、「新冷戦」の到来が指摘されている。カーター政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官であったズビグニュー・ブレジンスキーはかつて、ウクライナはユーラシア大陸の地政学的な「チェス盤(chessboard)」でアメリカが着目すべき重要地域の一つと位置づけていた *9 。攻撃的現実主義(offensive realism)のジョン・ミヤシャイマーは、ウクライナまで北大西洋条約機構(NATO)を東方拡大させないことを確約し、ロシアを安心させ、ウクライナを西側世界とロシアとの緩衝地帯とすることを提言している *10

中東地域では、イラクとシリアで「イラクとシャームのイスラーム国家(ISIS)」の脅威に直面し、空爆の出口は見えない。イラクとアフガニスタンからの撤退は、オバマ大統領が「遺産(legacy)」と見なしてきた政策の成果のはずであった。

こうして、中間選挙後のオバマ政権は、中国の台頭や混迷するウクライナ情勢、イラクとシリアのISISなど、同時進行的に、複数の地域で無視できない脅威に直面している。しかも、混合型の脅威である *11 。ジョン・ケリー国務長官は、ロシアのウクライナ併合を「19世紀のごとき振る舞いである」と批判したが、中国の台頭も、19世紀のごとき近代型の地政学上の脅威である。近代国家を溶解させる形で広がるISISの脅威は、特にその残虐さから、「プレモダンな」脅威であると言えよう。グローバル化にともなうエボラ熱の感染拡大や環境保全、貧富の格差の拡大などは、「ポスト近代」の脅威と位置づけることができるかもしれない。

政権2期目のアメリカの大統領は、「歴史に名前を残す」ことを強く意識する。オバマ大統領は、残り2年間で何を目指すのであろうか―。中間選挙の結果、大統領が民主党で、上下両院のアメリカ議会は共和党多数議会の「分割政府(divided government)」となる以上、内政上での「遺産」作りはあまり期待できない。 そのため、レームダック(死に体)化するオバマ大統領としては、外交と安全保障に活路を見出すことになる。

ただし、オバマ政権内では、デニス・マクドノー大統領首席補佐官、ライス大統領補佐官やベン・ローズ国家安全保障問題担当大統領副補佐官など側近と、ケリー国務長官やヘーゲル国防長官など閣僚との間の軋轢が噂されてきた。ISISへの対応をめぐって、オバマ大統領とヘーゲル国防長官の間で意見の食い違いがある、とも報道されていた。オバマ政権の外交と安全保障のチームは、一枚岩ではないようである。11月24日、ヘーゲル国防長官が更迭されることが発表された。ヘーゲル国防長官は、ホワイトハウスがあれこれ口を出す「微視運営(micro-management)」に辟易していたらしい *12 。また、オバマ大統領が中間選挙の“大敗”を総括することもない。はたして、レイムダックのオバマ外交は、混合型の脅威や課題に、巧みに対応できるのか―。

上院の議会共和党は、ジョン・マケイン上院議員を軍事委員会委員長、ボブ・コーカー上院議員を外交委員会委員長に起用することを内定した。マケイン上院議員は、ISISとの戦いについて、「空爆は中途半端で、包括的な戦略もない」とオバマ政権を厳しく批判してきた。空爆の強化や米地上軍派遣の検討を要求すると見られる。また、ウクライナ危機をめぐっては、共和党が提出する追加制裁法案が成立すれば、制裁の解除が難しくなる恐れがある。これまで、オバマ大統領は、大統領令でロシアに制裁をかけてきた。また、「ロシアが経済的難題に直面するほど、プーチン大統領はナショナリスト路線に傾く」という分析もある *13 。共和党は、国際法を無視した中国の海洋進出も批判しており、もし制裁法案の成立を目指せば、米中関係は緊張しかねない *14

イランの核問題をめぐっては、共和党は対イラン追加制裁法案を再三、提出してきた経緯がある。民主党が多数を握る上院で阻止してきたが、新しい議会ではできなくなる。11月24日、イランの核協議の延長が発表されると直ちに、エド・ロイス下院外交委員会委員長は、「イランの頑なな態度を変えられるのは、さらなる経済制裁しかない」、また「イランに譲歩を強いるため、7か月の延長は経済圧力の強化に使うべきだ」との声明を発表した。マケイン上院議員も他2名との連名で、「交渉を延期するなら、追加制裁をともなうべきである」との声明を発表した *15 。強硬派のマーク・カーク上院議員をはじめ、議会共和党は、新しい議会で対イラン追加制裁を強化するであろうため、「来年はじめの数か月でオバマ政権と危うい対立が起きる」と予測される *16

他方で、通商政策をめぐっては、マコネル上院院内総務が「民主党議員のほとんどが熱心ではない。われわれはアメリカの国益だと考えている」と発言するなど、環太平洋経済連携協定(TPP)など通商交渉の妥結に期待が集まる *17

こうして、民主党が“大敗”したアメリカの中間選挙の結果は、これからの日本外交とも無関係ではない *18

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*1 : Remarks by President Obama and President Xi Jinping in Joint Press Conference , The White House, November 12, 2014
*2 : 『日本経済新聞』2014年11月14日。
*3 : 『産経新聞』2014年11月12日。
*4 : 『日本経済新聞』2014年11月16日; 『産経新聞』2014年11月16日。
*5 : 『日本経済新聞』2014年11月21日。より詳細については、以下の報告書そのものを参照。2014 Annual Report to Congress, The U.S.-China Economic and Security Review Commission , November 20, 2014
*6 : Hillary Rodham Clinton, Hard Choices , Simon & Schuster, 2014, ch. 3.
*7 : 政権を離れた後の発言になるが、『日本経済新聞』2013年10月30日で紹介された第10回日経・CSISシンポジウム「新しい日米同盟―未来への助走」での発言を参照。
*8 : 『朝日新聞』2013年5月29日。
*9 : Zbigniew Brzezinski, The Grand Chessboard: American Primacy and Its Geostrategic Imperatives , Basic Books, 1998 [1997], p. 215.
*10 : John J. Mearshiemer, “Why the Ukraine Crisis Is the West’s Fault: The Liberal Delusions That Provoked Putin,” Foreign Affairs , Vol. 93, No. 5, September/ October, 2014, pp. 77-89.
*11 : Richard N. Haass, “The Unraveling: How to Respond to a Disordered World,” Foreign Affairs , November/ December, 2014, 70-79; 中山俊宏「経済教室 米中間選挙 オバマ大敗 下 『制御できぬ世界』募る不安」『日本経済新聞』2014年11月12日; 袴田茂樹「21世紀の混合型脅威に対応せよ」『産経新聞』2014年11月14日。
*12 : オバマ外交へ辛辣な批判としてDavid Rothkopt, “National Insecurity: Can Obama’s foreign policy be saved?” Foreign Policy , September/ October 2014, pp. 44-51を参照。
*13 : “Russia’s wounded Economy,” The Economist , November 22nd-28th 2014, p. 11.
*14 : 『日本経済新聞』2014年11月9日。
*15 : 『朝日新聞』2014年11月26日。ロイス外交委員会委員長は、2013年7月に下院で可決した対イラン追加制裁法案の共同提案者であった。発表された声明では、「イランが困難な選択を取れなかったことを見ると、最高指導者が今後数か月で考えるとは思えない」とも指摘している。『産経新聞』2014年11月26日。
*16 : Geoff Dyer, “Extra Iran talk set White House and Congress on collision course,” Financial Times , 26 November, 2014. David Rothkopt, “National Insecurity: Can Obama’s foreign policy be saved?” Foreign Policy , September/ October 2014, pp. 44-51.
*17 : 『日本経済新聞』2014年11月9日。
*18 : 21世紀はじめのアメリカ政治外交と国際秩序の変容については、島村直幸「現代アメリカ合衆国政治外交と国際秩序の変容―『オバマ後』の世界をいかに描くか? 」杉田米行編『アメリカ観の変遷 下巻』大学教育出版、2014年、81-111頁を参照。

■島村直幸 杏林大学講師

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