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アメリカ大統領選挙UPDATE 9:「オバマの勝因:「地上戦」「空中戦」「サイバー戦」での圧倒」(前嶋 和弘)

November 26, 2012

今回の大統領選挙でのオバマの勝利を「想定外の大勝」という見方がある。獲得選挙人でロムニーとは126もの差がついたためだ。確かに直前までの全米を対象にした世論調査の結果から、オバマとロムニーの差は「歴史的僅差」などと報道されていたため、選挙人の差は「想定外」だったかもしれない。ただ、筆者を含め、オバマの再選戦略をずっとみてきた多くのものにとっては、ほぼ予想通りの結果となった。

というのも、戸別訪問や投票促進運動などの組織作りを中心とした「地上戦」だけでなく、テレビでの選挙スポットCMを中心とする「空中戦」、さらにはソーシャルメディアなどでのPR戦略を含む「サイバー戦」のいずれにおいても、ここ1年の選挙戦でオバマ陣営はロムニー陣営を圧倒してきたためである。

特に、民主党支持者と共和党支持者が拮抗する激戦州においては、オバマ陣営の地上戦、空中戦、サイバー戦という3つの戦いは完璧に近いものだった。この3つの戦いは、相互に密接に関連付けることで、効果は一気に高まる。さらに、現職の強みであり、政策を打ち出すことで有権者拡大を狙う「ローズガーデン戦略」もオバマ陣営はこの3つの戦略に有効に組み込んだ。

まず、1年前の2011年秋から冬にかけては離反が目立っていたアフリカ系などの所得再配分を強く主張する層のつなぎとめに奔走した。地上戦でフィールドオフィスの数を増やして実際に支援者接触することで、「オバマ離れ」を防ごうとした。同時に富裕層増税の必要性をツイッターやフェースブックで熱心にPRするサイバー戦を展開した。さらに、2012年頭の一般教書演説でも「全ての人に公平な社会」を訴え、富裕層増税を政策として掲げた。春以降に本格化した空中戦でも富裕層増税を中心とする「公平な社会」はオバマの選挙スポットで最も頻繁に登場する中心テーマに位置づけた。

これに続き、2012年春以降には、地上戦での有権者との接触を続けるとともに、同性婚容認、移民寛容政策など、リベラル色が強い層の心の琴線に触れる政策を次々に打ち出していった。もちろん、打ち出した政策は、選挙スポットとソーシャルメディアを使って徹底的に後押しする。こうすることで、白人リベラル層に加え、同性愛者やヒスパニック票の獲得を確実にしていった。

特筆したいのは、選挙戦を通じて、オバマ陣営が空中戦とサイバー戦では常にロムニー陣営の「一歩先」を進んでいた点である。過去の再選を目指す大統領陣営よりも2カ月ほど早く、オバマ陣営は共和党の候補者一本化となった4月ごろから、空中戦を本格化させた。ロムニーに対して「首切り名人」「女性の敵」などネガティブなレッテル貼りを執拗に繰り返した。党大会前後からは、堅調に集まった選挙献金を使い、オバマ陣営は激戦州の空中戦に余すところなく投入した。一方、共和党内での予備選勝ち残りにリソースを費やした分、ロムニー陣営は後手に回ってしまった。

ウエスリアン・メディア・プロジェクトによると、2012年4月11日から10月29日の期間にオバマ陣営はロムニー陣営の2.6倍もの50万強の数の選挙スポットを投じた。ただ、外部応援団であるスーパーPACについては、「Restore Our Future」「American Crossroads」などのロムニー支援の団体が、「Priorities USA」などのオバマ支援の団体よりも潤沢な資金を使って、ロムニー応援の意見広告を展開したため、全体的にはオバマ陣営の選挙スポットとオバマ支援の意見広告を足した総量は、ロムニー陣営の選挙スポットとロムニー支援の意見広告の合計量に比べ、1割弱上回っただけだった。だが、オバマ陣営が春から初夏の段階に先行して空中戦を展開したのに対し、ロムニー支援のスーパーPACの意見広告の放映がピークを迎えたのが選挙戦終盤だったのが決定的だった。「醜いロムニー像」が既に国民の心に中に刷り込まれた後では、ロムニー側の反撃も結局、時遅しだった。10月3日の第1回討論会でロムニーはオバマを圧倒したが、植え付けられたロムニーの悪いイメージはもう修復できなかった。

さらに、サイバー戦はオバマの圧勝だった。現職である分、差し引いて考えなければならないが、10月末段階でのオバマのフェースブックの「likes」をクリックしたユーザーは、ロムニーの3倍の3110万だった。同期のツイッターのフォロワーもオバマが2120万であったのに対し、ロムニーは150万にとどまっていた。それぞれのツイートはリツイートされることで一気に伝播するため、フォロワーの数が決め手となる。オバマ陣営はソーシャルメディアを使ったPRそのものにも力を入れており、10月16日の第二回目の討論会の時間にオバマ陣営は37回のツイートを書き込んだのに対し、ロムニー陣営は2回にとどまった。

空中戦、サイバー戦での圧倒、地上戦の優位に加え、失業率の改善という大きな後押しもあり、オバマは2008年選挙のコアとなった支持層をほぼ今回の選挙でもほぼそのまま維持した。同年選挙に比べると若者や白人からの支持はやや落としたものの、ヒスパニックやアジア系などの人種マイノリティ票を着実に伸ばしたことも出口調査の結果から分かっている。投票所に行くためには交通費もかかるため、支持者に低所得者層が多いオバマの方が投票率に左右される。今回の選挙では2008年よりも数ポイント投票率は下がった。それでも2008年大統領選挙で獲得した州のうち、今回の選挙でオバマが失ったのはノースカロライナ、インディアナの両州(および比例代表のネブラスカ州の1選挙人)のみだった。

このように、選挙戦略でロムニー陣営を凌駕し、選挙人の獲得を最大化したが、現実のオバマ支持よりも「戦略」や「戦術」で勝利した分だけ、国民の間の「選挙疲れ」が非常に大きくなっているようにみえる。オバマ支持が連邦議会選挙の動向に影響し、民主党を助けたといえるような「コートテール効果」も極めて限られており、オバマへのマンデート(権限委譲)とはいえない結果であろう。一般投票での50.8%という得票率は、2008年選挙の52.9%に及ばない。何といっても、ロムニーとの一般投票での3%ほどの差が大きな選挙人の差につながるのは、選挙マネージメントやマーケティングが巧みになってきたことを示しているのかもしれない。実際、過去の大統領選挙をみると、ここ数年、一般投票で僅差であっても獲得選挙人で差が出るケースが増えている。

選挙戦略がうまくなればなるだけ、勝利後の国民の期待が小さくなってしまうような気がしてならない。

    • 上智大学総合グローバル学部教授
    • 前嶋 和弘
    • 前嶋 和弘

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