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【Views on China】第13次5ヵ年計画党中央建議の気づきの点

December 8, 2015


日中産学官交流機構特別研究員
田中 修

10月26-29日に開催された党5中全会は、第13次5ヵ年計画党中央建議(以下「建議」)を採択した。本稿では、この「建議」総論部分の主要な特徴について概説する。

1.起草プロセスを習近平総書記が主導

11月4日に新華社が公表した「建議」の誕生記(以下「誕生記」)によれば、今回の「建議」の起草グループは1月28日に設置されたが、組長は習近平総書記、副組長は李克強総理と張高麗副総理であった。

通常の5ヵ年計画建議であれば、組長には総理が、副組長には筆頭副総理がそれぞれ就任し、党総書記は大所高所から起草プロセスを指導することになっていた。しかし、今回は総書記自らが起草の責任者となっている。

しかも、「誕生記」では、習近平総書記は早くから新5ヵ年計画のための新しい発展理念を示す必要があるとし、後述の「5大発展理念」を提起した。「誕生記」では、「5大発展理念は、正に習近平総書記が中国の発展が直面する新たな情況と新たな問題に対して行った時代に沿う回答であり、党中央の治国と治政思想の重大な理論的刷新であり、マルクス主義の中国化の最新の成果である」と絶賛している。

また、「誕生記」は、「260日、9ヵ月近く、習近平総書記は文書起草活動を高度に重視し、文書起草グループが上申する各原稿を真剣に校閲し、何度も重要指示を出した。その間、習近平総書記は、党中央政治局常務委員会を4回、党中央政治局会議を2回主催し、建議稿を審議し、一連の重要指導意見を提起した」とする。さらに、習近平総書記は常に貧困扶助を気にかけ、6月にはこのための座談会を貴州省で開催し、8月12日に天津で大爆発事故が発生すると、直ちに「建議稿に安全生産責任管理制度、人民の生命財産の安全を確実に擁護する方面の内容を増やすよう要求した」とされる。

このような習近平総書記の八面六臂の活躍に対し、他の政治局常務委員については、「文書起草プロセスにおいては、李克強、張徳江、兪正声、劉雲山、王岐山、張高麗等の中央指導者も重要意見を提起し、具体的指導を行った」という簡略な記述があるだけである。

最近、各分野で習近平総書記の突出ぶりが指摘されるが、この5ヵ年計画建議策定においても、それが際立っている。

2.第13次5ヵ年計画の歴史的性格

歴史的にみて、今回の5ヵ年計画には、3つの特徴があると考えられる。

(1)中国経済が「新常態」に入って最初の5ヵ年計画である

このことは、習近平総書記自身が5中全会で行った「建議」案の説明(以下「説明」)で強調している。彼はまず、新常態の下では、

①成長速度は、高速から中高速へ転換しなければならず、

②発展方式は規模及び速度型から、質及び効率型に転換しなければならず、

③経済構造調整はフローと能力拡大から、主としてストック調整とフロー最適化の併存へと転換しなければならず、

④発展動力は主として資源と低コスト労働力等の要素投入への依存から、イノベーション駆動に転換しなければならない、

という「4つの転換」を主張し、「これらの変化は人の意志に基づく転換ではなく、わが国の経済発展の段階的特徴の必然的要求である。『建議』を制定するに際しては、これらの趨勢と要求を十分考慮し、新常態に適応し、新常態を把握し、新常態をリードするという総要求に基づいて戦略の計画を進めなければならない」と述べた。

経済が新常態に入ったのであれば、発展のあり方にも新しい理念が必要となる。このため、後述の「5大発展理念」が提起されることになった。

(2)「小康社会の全面的実現」を図る最後の5ヵ年計画である

習近平総書記は「説明」において、「たとえば、農村貧困人口の脱貧困は、際立った不足部分である。我々は、一方で小康社会の全面的実現を宣言しながら、他方でなお数千万の人口の生活水準が貧困扶助の基準ライン以下にあるということがあってはならない。これは、小康社会の全面的実現に対する人民大衆の満足度に影響するだけでなく、わが国の小康社会の全面的実現に対する国際社会の認知度にも影響するものである」と述べている。

このため、今回の「建議」では、約7000万人の農村貧困者の脱貧困と、都市における1億人の出稼ぎ農民の戸籍転換と待遇改善が大きな目玉となっている。また、2020年に2010年のGDPと個人所得の倍増を実現するために必要な平均成長率も、議論されている。

(3)改革の全面深化において「決定的成果」を挙げなければならない5ヵ年計画である

2013年の党3中全会では、改革の具体的なメニューを挙げ、2020年までにこれらの改革項目の重要分野について「決定的成果」を挙げなければならないとされた。2015年までの状況をみると、財政、金融や規制緩和の分野を除くと、改革のテンポは必ずしも速くはなく、今後5年間での改革の加速が必要となる。

しかし、今回の「建議」は、発展理念を強調する一方で、改革促進には余りスポットをあてていない。この点につき、党中央財経領導小組弁公室の楊偉民副主任は11月9日の記者会見において、「今回の建議は改革の系統的な文書ではなく、発展の系統的文書である」とし、今回の建議で重視した改革は国有企業改革、財政税制改革、金融体制改革であったと説明している。

ただ、「建議」本文をみると、これらの改革は大きな柱の1つである「イノベーションによる発展」の中の1小項目にすぎず、記述は極めて簡潔なものとなっている。

3.「5大発展理念」の提起

習近平総書記は「説明」において、「発展理念は、発展行動を先導するものであり、全局、根本、方向、長期を規定するものであり、発展の考え方、方向、注力点の集中的体現である」とし、発展理念が正しければ、目標と任務さらには政策措置もしっかりと定まるとした。

「建議」は①イノベーション、②協調、③グリーン、④開放、⑤共に享受、という5大発展理念を提起した。この5大発展理念は、習近平総書記によれば、「第13次5ヵ年計画ないし更に長期のわが国発展の考え方、方向、注力点の集中な体現であり、改革開放30年余りのわが国の発展経験の集中体現でもあり、わが国の発展法則に対するわが党の新たな認識である」とされている。

よく、歴代の最高指導者の指導思想である、毛沢東思想、鄧小平理論、「3つの代表」重要思想(江沢民)、科学的発展観(胡錦濤)に倣い、習近平総書記は新たな指導思想を模索しており、それは「4つの全面」(小康社会の全面的実現、改革の全面的深化、全面的な法に基づく治国、全面的な厳しい党の統治)だと言われることがある。だが、筆者はこれに違和感を覚える。「4つの全面」のうち、「小康社会の全面的実現」と「改革の全面的深化」は、彼の総書記としての第2期(次回19回党大会で再選されれば、2017-2022年)の任期途中である、2020年に具体的成果を示さなければならないからである。

指導思想というからには、長期に共産党を指導するものでなければならないはずである。この点、この「5大発展理念」は長期の発展のあり方を示し、「理論的刷新、マルクス主義の中国化の最新の成果」とされていることからすると、習近平総書記の指導思想の重要な構成要素をなす可能性がある。

もっとも、胡錦濤前総書記の「科学的発展観」にしても、まず2003年に「5つの統一的企画」という考え方が示され、これが次第に理論的に精緻化されて科学的発展観へと進化していったのであり、習近平総書記のオリジナルな指導思想は、まだ生成過程にあると言えるだろう。

「5大発展理念」については、国家発展改革委員会の徐紹史主任が、11月3日の記者会見で、次のようにわかりやすく解説している。

(1)イノベーションによる発展を推進する

イノベーションは、発展をリードする第一の動力である。新常態の下、中国が直面する最大の試練は、「中等所得の罠」を乗り越えることであり、この難題を突破するための根本の出口は、イノベーションによる発展にある。

第12次5ヵ年計画期間、中国の科学技術イノベーションは大きな進歩を遂げたが、イノベーション能力、自主的な技術、知名ブランドに欠けており、科学技術成果の転化率と科学技術の進歩への寄与率は、先進国となお大きな格差がある。

第13次5ヵ年計画期間は、イノベーションを国家発展の全局の核心に位置づけなければならない。

(2)協調的な発展を推進する

中国は、協調的な発展の方面で、比較的際立った3つの問題が存在する。

①都市と農村の二元構造と、都市内部の二元構造という矛盾が、依然として比較的際立っている。

②地域の発展がアンバランスであり、東部、中部、西部、東北地方の間がアンバランスになっている。

③社会の文明程度、国民の素質と、経済社会の発展水準が、なお釣り合っていない。

このため、第13次5ヵ年計画期間は、協調的な発展という要求に基づき、地域間の協同、都市と農村の一体化、物質文明と精神文明の協調発展を引き続き推進しなければならない。協調的な発展の中で発展の空間を開拓し、脆弱な分野を強化する中で発展の持続力を増強する。

(3)グリーンな発展を推進する

現在、長期に累積された大気、水、土壌汚染の問題は、中国で比較的際立っており、生態環境の改善に対する人民大衆の呼び声は比較的強烈である。

このため、第13次5ヵ年計画期間、中国は資源節約、環境保護という基本国策を堅持し、資源節約型で環境友好型の社会の建設を加速し、グリーン、低炭素、循環的な発展を推進して、中国さらには世界の生態安全のために貢献しなければならない。

(4)開放的な発展を推進する

今日の中国は、既に世界最大の貨物貿易国、最大の外貨準備国となっており、外資導入と対外投資でも世界の前列にいる。中国と世界経済は既に相身互いの構造を形成している。

このため、第13次5ヵ年計画期間は、よりハイレベルな開放型経済を発展させ、世界経済のガバナンスに積極的に参加し、より広範な利益共同体を構築しなければならない。

(5)共に享受する発展を推進する

近年、中国は民生の改善と保障の上で大量の政策を実施し、顕著な成果を得た。しかし、人民大衆の期待に比べれば、公共サービスと社会保障体系はなお不完全であり、均等化の程度も十分高くはなく、社会管理と矛盾を取締る能力はなお不足している。

このため、第13次5ヵ年計画期間、我々は「発展は人民のためにあり、発展は人民に依拠し、実現した発展の成果は人民が共に享受する」ことを堅持しなければならない。

おわりに

習近平総書記は「説明」において、「建議決定後、建議に基づき第13次5ヵ年計画要綱を制定しなければならず、2つの文書の間に合理的な分業がなければならないことを考慮した。このため、建議の内容上の重点は、発展理念の確立、発展の方向、考え方、重点任務、重大措置の明確化であり、いくつかの具体的政策手配は後に要綱で規定することにして、建議のマクロ性、戦略性、指導性をより好く体現し発揮させた」としている。

たとえば、習近平総書記は「説明」において、「6.5%の成長は新5ヵ年計画期間の最低ラインだ」と述べ、これが大きく報道されたが、党中央財経領導小組弁公室の楊偉民副主任は11月9日の記者会見において、「6.5%自体は決して目標ではない。最後の目標がどのように確定されるかは、来年3月の全人代による」と念を押している。習近平総書記自身も、「説明」の中で「総合的に見ると、わが国の経済が今後7%前後の成長速度を維持することは可能である」とも述べており、成長率目標は6.5%から7%前後まで、あいまいなままになっている。

今後、2015年の成長率、雇用、個人所得の最終的な結果を踏まえ、経済改革と構造調整を優先する立場から、できるだけ6.5%に目標を落としたい改革派と、経済の実力を上回る高い成長率目標を設定することで、改革と調整を先送りにしようとする既得権益擁護派との間で、来年3月まで厳しい綱引きが続くことになろう。

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