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【特集】2026年の課題と展望―「責任ある積極財政」は続くのか?
January 6, 2026
2025年は日本初の女性首相が誕生し、日本政治史の大きな転換点を迎えました。2026年の日本はどのような課題と向き合っていかなければならないのでしょうか。東京財団で昨年10月より新しい研究プロジェクトを開始した上席フェローが、各専門分野から「2026年の課題と展望」を論じます。
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この記事のポイント |
| ・総合経済対策の行方 ・市場からの警鐘 ・日本版DOGEは機能するのか? |
総合経済対策の行方
「責任ある積極財政」を掲げる高市内閣は21兆3千億円規模の新たな「総合経済対策」を打ち出した。一般会計の補正予算は17兆7千億円余りで、これは前年度、石破内閣時の補正予算(13兆9千億円)を約4兆円上回る。補正予算は①物価高対策等(8兆9千億円)、②危機管理・成長投資(6兆4千億円)、③外交・防衛力の強化(1兆6千億円)を柱とする。この補正予算の財源は税収の上振れ、新規国債等からなる。2025年度の税収は80兆円超と当初から2兆9千億円上振れするものの補正予算を賄うには足りず、国債が11兆6千億円ほど追加されることになった。補正後の新規国債の発行額は40兆3千億円と昨年度の42兆1千億円よりも減額だが、石破内閣時に抑えていた新規国債(28兆6千億円)を帳消しにする格好になっている。高市総理は「『責任ある積極財政』はプロアクティブな先を見据えた財政政策ということであり、決していたずらに拡張的に、規模を追求するものではありません」(総合経済対策等についての会見(令和7年11月21日))とするが、当初、財務省が出した補正予算案約14兆円から「しょぼすぎる」と3兆円上乗せした積算根拠は明らかではない。自民党の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」が「25兆円規模」の補正予算を総理に提言していたことを鑑みれば、予算の規模=マクロを優先した感が否めない。
他方、ミクロ=予算配分はどうだろうか?「診療報酬の改定を待たず」実施されることになった病院経営への支援や医療従事者等の処遇改善には第一の柱(物価高対策)から約1兆4千億円が充てられる。しかし、病院経営や処遇改善など医療の「構造的」なテーマについては診療報酬の中で対応するのが筋だろう。仮に今回が緊急対応だったとして、今後、診療報酬の中にどのように反映させていくのか(恒久的な財源として措置するのか)疑問が残る。同じ第一の柱には「お米券」を含む食料購入支援などの推奨メニューを地方自治体に提示する重点支援地方交付金が2兆円計上された。「地域の実情に応じて」柔軟な物価高対策を期待してのことだろう。地域の再編成や地方創生など地域の「多様」かつ「構造的」な課題の解決にあたって自治体の創意工夫を最大限尊重することがあっても良い。他方、物価高のような全国的かつ短期的な事象に対しては本来、国が責任を持つべきだろう。ややもすれば国が物価高対策を地方に「丸投げ」したことにもなりかねない。また、第二の柱(危機管理・成長投資)の予算の半分にあたる3兆円余りが国土強靭化に充当された。インフラ保全等国土強靭化は政府の既定路線であり、当初予算で措置されるべきだろう。補正予算には日本成長戦略本部で決まったAI(人工知能)・半導体など17分野への支援も「経済安全保障の強化」(1兆5千億円)として含まれる。とはいえ17分野にわたって広く薄い支援となっている。総理は「積極財政により国力を強くする」というが、既存の産業・企業を保護するだけならば、「強い経済」には繋がらない。マクロ=財政規模を追求するあまり、ミクロ=予算配分への目配りに欠いているように思われる。
市場からの警鐘
わが国は既にゼロ金利から「金利のある世界」に戻った。こうした中、国債の長期金利は上昇基調にある。40年債は3%を超えてきた。超長期国債の金利急騰を受け財務省は満期が20年以上の国債の発行額を減らして短期国債を増額するよう国債発行計画の変更という異例の対応を迫られた。補正予算が閣議決定された後、国債の金利は更に高まり、10年国債の金利は12月8日、一時2%台に迫る1.97%まで上がった(日本経済新聞2025年12月9日)。これは2007年6月以来、約18年半ぶりの水準である。2010年代、マイナス金利から0%台だったこととは状況が一変している。日銀は長期金利が例外的に急上昇する場合には機動的に国債買い入れの増額などを行うという立場だ(植田日銀総裁衆院予算委員会答弁2025年12月9日)。しかし、短期金利を12月に0.5%から0.75%に引き上げるなど金融政策は引き締め基調にある。今後とも国債が増発されたとしても、異次元の金融緩和のように日銀が国債を購入し続けることはできない。他方、金融規制もあり市中銀行が国債を購入する余力は限られる。否応にも外国人投資家への依存が高まりそうだ。今年6月時点で外国人投資家の国債保有割合は約12%と15年前に比べて倍増している。国債が低金利かつ国内で安定的に消化できる時期は終わったといえる。金融政策は金利に影響はできても、決定できるわけではない。金利を決めるのは資金の需給をバランスさせる市場の原理だ。
物価上昇による名目GDPの増加もあり、国・地方の公債等残高対GDP比は2022年度の約212%から今年度には201%まで10ポイント余り下がる見込みだ(財政制度等審議会資料「財政総論」(2025年11月5日))。しかし、楽観視はできない。国債の利息は発行時点で決まるため、利払い費への影響には時間差が生じることになる。借換債を含め国債の発行額は2024年度で182兆円と高止まりしている。財務省は2025年度の1%の金利増が3年後(2028年度)には利払い費を3兆7千億円増加させるものと試算する(財務省「令和7年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」)。従って、今後利払い費が急増して、公債等残高対GDPが反転するリスクがある。金利の上昇は財政を悪化させるだけではない。家計・企業の借入金利も連動して高まっていく。経済学の教科書が教える通り、財政赤字=国債増は金利増に直結して、民間経済に悪影響(「クラウディングアウト」)を及ぼすのである。
財政悪化=国債発行額の増加への懸念は国債金利に対する上昇圧力となる。財政の膨張が国内のインフレを助長すれば、為替市場で円安も進むだろう。高市内閣発足後、円は対ドルレートで145円台から155円台まで価値が下落している。いずれも市場からの警鐘なのだが、政治に伝わっているのだろうか?総理は財政健全化の目標である基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化について単年度の考え方を取り下げ、「数年単位でバランスを確認する方向に見直す」という。この目標の変更にアカデミアの経済学者はネガティブだ。「エコノミクスパネル」(日本経済新聞社・日本経済研究センター)によれば、PB目標を柔軟化することは「適切でない」とする見方が54%に上り、目標変更が財政規律の低下につながるとの見方が多かった(日本経済新聞2025年11月21日)。高市内閣は高い支持率を保っている。積極財政が民意に適っていると解釈する向きもあろうが、「金利のある世界」において財政政策は民意だけではなく、市場とも向き合わなければならないことに注意が必要だ。
日本版DOGEは機能するのか?
無論、政府は財政拡大一辺倒というわけではない。政府は日本版の「政府効率化省(DOGE)」と称する補助金、租税特別措置(租特)及び基金を点検する担当室を設置した。財務相を担当閣僚として内閣官房の行政改革推進本部事務局を改組、関係省庁からの併任職員約30名で構成され、財務省の主計局や主税局、総務省の自治税務局や行政評価局と連携する。自民党と日本維新の会の連立政権合意書に基づくもので政策効果の乏しい補助金等の廃止を含め見直していく。「責任ある積極財政」の財政基盤整備の一環として位置づけられる。12月2日には初の関係閣僚会議を開催、歳入と歳出の両面で点検を進め、来年度の予算編成や税制改正に反映させていくという。この日本版DOGEは第二次トランプ政権発足(2025年1月)と同時に設置された「政府効率化省(Department of Government Efficiency)」を参考とする。米国DOGEはイーロン・マスク氏をトップに「小さな政府」を志向して大幅な歳出削減を図った。削減対象は補助金・租特・基金に留まらず、省庁の統廃合や連邦職員の大量解雇など過激なものとなっていた。12月3日時点のDOGEホームページでは約2,140億ドル(約33兆円)のコスト削減を実現したとするが詳細は不明である。また、マスク氏が政府を離れたこともあり、ロイター通信(2025年11月23日)はDOGEの組織は既に解体されたと報じている。
この日本版DOGEを担当する行政改革推進本部は約5千ある国の事業に対して行政事業レビューを仕切ってきた。各省庁の自己評価の面もあるが、外部有識者を交えて公開で行われている。こうした行政事業レビューとの棲み分け、あるいは連携を明確にしなければ、「屋上屋を重ねる」体制にもなりかねない。加えて、日本版DOGEで想起されるのは民主党政権時(2009年~2012年)の「事業仕分け」だ。政治主導の下、国の事業の見直しが図られたが、成果は必ずしも芳しくはなかった。民意にアピールできても、実効性がなければ、まとまった財源確保には繋がらない。そもそも補助金・租特等を一点ずつ審査するのであれば、大きな岩=歳出規模をヤスリで削ろうとするようなものだ。それでは岩は割れない(効率化にならない)。ここで求められるのは「財政ルール」である。例えば、全ての補助金・租特等に期限を設定して、原則、期限が来たら、廃止する「サンセット方式」を採用する。現行でも研究開発税制を含めて租特は時限付きだが、延長が繰り返されて実質的に恒久化してきた。期限前に効果検証を義務付け、顕著な(データ分析であれば、統計的に有意な)効果が認められない限り原則、廃止することだ。加えて、「ペイゴー原則」(Pay-as-you-go原則)として、「経済安全保障の強化」など新たな歳出や租特を講じる際には、同額の歳出削減あるいは増税措置を講じなければならないとする。裁量的な一点審査よりも、補助金・租特を広くカバーでき、自動的に効率化が進められる。
総理は「ワイズスペンディングの考え方を徹底」するとも表明している。仮に積極財政において「ワイズスペンディングの考え方を徹底」するのであれば規模(=マクロ)ではなく、メリハリある予算配分が欠かせない。ここで「積極的」とは規模拡大ではなく、歳出構造(=ミクロ)の積極的な見直しを指す。「ペイゴー原則」に従えば、経済成長に資する重点分野に係る事業への予算を増やすのであれば、優先度の低い分野・事業の予算を減額する。例えば、研究開発税制を含め現行の企業支援を見直すことだ。新たな支出の財源を既存の支出の抑制で捻出できれば、歳出の膨張による財政赤字は抑えられる。既得権益があって硬直的な国の歳出構造を改める契機にもなろう。積極財政は放漫財政ではないし、財政規律は緊縮財政という意味ではない。賢く積極財政を行うのであれば、財政ルールでもって財政規律を維持することが必須となる。