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2018/9/14

所有者不明土地問題を考える(上): 政策動向と今後の論点

※本稿は2018年7月17日に開催された第112回東京財団政策研究所フォーラム「所有者不明土地問題を考える――政策動向と今後の論点を専門家が議論」をもとに東京財団政策研究所が編集・構成したものです。

【登壇者】山野目章夫 早稲田大学大学院法務研究科教授/増田寛也 野村総合研究所顧問・東京大学公共政策大学院客員教授/片山健也 北海道ニセコ町長/[モデレーター]東京財団政策研究所研究員 吉原祥子

北海道の面積に迫る所有者不明土地

吉原 災害復旧や空き家対策などにおいて、所有者不明土地が事業の支障となる事例が表面化しています。人口減少・高齢化に伴い、今後さらに拡大するおそれも指摘されています。所有者不明土地とは、「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地」と定義されます。実態はどうなっているのでしょうか。

 

増田 われわれ「所有者不明土地問題研究会」の推計では、所有者不明土地の増加防止に関する新たな取組が進まない場合、その面積は着実に増加します。2016年には九州の面積を超える約410万ヘクタール(ha)でしたが、2040年には北海道の面積に迫る720万haとなることが見込まれます。【発表資料はこちら

 

所有者不明土地による経済損失も増加します。2016単年での経済的損失は約1,800億円でしたが、2040年までの所有者不明土地面積の増加等を考慮すると、2017~40年の累積で約6兆円に及ぶ見通しです。ただし、算出できなかった項目もあるため、さらに大きな損失額となる可能性も否定できません。内閣府によると、日本の土地資産額は約1,140兆円と推計されています。全国の土地の所有者不明率は約20パーセント(%)なので、経済的損失額は2百数十兆円規模と考えるほうが正確ではないかという気もします。

 

吉原 そうした中、所有者不明土地問題が政策課題として多くの関係者で共有されるようになり、特にここ2年ほど、関係各省庁、与野党において対策の必要性についてさまざまな議論がなされてきました。そこには2つの視点があります。1つは短期的な対応策で、すでに所有者の所在の把握が難しい土地についてどうするか。もう1つは、中期的な予防策で、今後こうした土地を増やさないためにはどうするか、という視点です。【発表資料はこちら

 

今年6月6日に成立した「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」は前者にあたります。当面の対応策として、所有者不明土地の公共的目的のための利用を可能とする新たな仕組みが導入されました。

 

さらに、6月15日に「骨太の方針2018」が閣議決定されました。これは後者にあたります。今後、問題の拡大を防ぐため、所有権のあり方や不動産登記制度など土地の基本制度に踏み込んで検討を進め、2018年度中に方向性を示した上で、2020年までに必要な制度改正を実現することが明記されました。相続等が生じた場合に、これを登記に反映させる仕組み(相続登記の促進策)をはじめ、所有者が土地を手放すための仕組み(「受け皿」のあり方)、さらに所有者情報を円滑に把握する仕組み(情報基盤のあり方)など、中期的課題の検討が今後、本格化していくことになります。

 

一つひとつが重い課題です。制度を見直すに際しては、そもそもなぜ所有者の所在の把握が困難であるという現象生じるのか、私たちが土地をどのように考えるのかという根本に立ち返る必要があるわけです。その上で新たな仕組みを模索し、それを共有し、地域で根付かせていくことになります。今後、議論が活発化することが見込まれる中で、いまこの問題をどうご覧になっていますか。 

法に所有者の責務の明記を

増田 「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」の施行は第一歩で、2020年までに必要な制度改革が実現されていることが重要です。

 

われわれの研究会では、昨年12月に所有者不明土地問題の解決に向けて提言を発出しました。3つのあるべき社会の絵姿を描いて必要な施策を提示しています。あるべき社会とは、第1に「所有者不明土地を円滑に利活用、適切に管理できる社会」、第2に「所有者不明土地を増加させない社会」、第3は究極の姿で「すべての土地について真の所有者がわかる社会」です。とりわけ第2の点が重要です。

 

第1の社会の実現に必要な施策として「利活用・管理に係る制度等の見直し・創設、所有者探索の円滑化」「各種制度等の円滑な活用のための環境整備」。第2の社会の実現には「所有権移転の確実な捕捉」「空き地・空き家、遊休農地、放置森林の利活用」「土地所有者の責務の明確化、所有権を手放すことができる仕組みと受け皿の設置」。第3の社会の実現には「『土地基本情報総合基盤(仮称)』の構築、活用」「現代版検地を実施し、集中期間中に所有者の確定」を提案しています。

 

所有者不明土地の問題を考えるときに、背景として考えておくべきことが5つあります。1つは地価が二極化し、大半の土地については今後地価が上がることは考えづらい。人口減少などにより、一部の商業地以外は土地を資産とはなかなか言えない状況であること。2つめは、目前に迫っている「団塊世代」の相続に伴う問題をできるだけ早く解決したほうがよいこと。3つめに、全国の土地の所有者が大都市に集中し、土地の所在と所有者の所在地が離れていること。4つめに、自治体の職員は減少しており、2040年には半減するであろうこと。所有者探索にかかる人手を極力減らすためにも、所有者に関する台帳を統一化するなど情報整備が必要です。5つめに、今後急激に人口が減少すること。所有者不明土地が発生することを避けると同時に、例えば、居住区域と非居住区域とに明確に分けて、居住区域の利用可能性を高めるなどして、国土全体をきちんと管理する必要があります。

 

したがって、ぜひ2020年までに間に合わせてほしいのは、土地基本法に土地所有者の責務を明記することです。憲法29条の財産権は大事な条文ですが、権利の濫用を禁じ、公共の福祉に従うことを定める12条についても議論をして理念を確立する。それを土地基本法などに掲げた上で利用権について議論していただきたい。

 

いま、地籍調査は遅々として進んでいません。自治体はもちろん協力しなければなりませんが、国が現在の100億円以上の予算をつけて確実に調査を進めていく必要があります。 

「土地を自然に還す」という発想も

吉原 法的側面からはどのような課題がありますか。

 

山野目 所有者所在不明土地問題、これからどうするか。8つの話題を緒にしてみなさんと一緒に考えたいと思います。【発表資料はこちら

 

話題1「特別措置法は成立したけれど」。

「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」には「地域福利増進事業」が設けられています。所有者が不明であっても地域住民の福利、福祉と利便を増進するための事業であり、都道府県知事が認めた場合には土地の利用を開始することができるという制度です。

 

ただし、利用権の上限は10年間と制限があります。所有者が現れなければさらに10年延長可能ですが、その後も10年を限度として所有者の有無を確認しなければならない。所有者がずっと現れなかったらどうしたらいいのでしょうか。

 

「20年にわたり使用してきたものは、無償で所有権を取得することができる」のか。それとも、同じく20年にわたり使用してきた人は「補償金を供託して所有権を取得する」のか。または、20年では短いから「期間は30年とする」、あるいは、所有権をいじるのはやめて「ずっと使用を続ける」か。このあたりが悩ましいところです。国民世論に広く意見をお尋ねしながら慎重な審議を進めなければなりません。

 

話題2「登記は任意でよい、と述べることはもはや許されない」。

わざわざ登記をしなくてもよい、と述べる人がいますが、これからは許されません。不動産登記制度への信頼の破壊を招きます。

 

とはいえ、話題3「相続登記をしないと刑務所に入ることになるか」。

「義務化せよ」と気楽に述べる議論について、どのように考えるべきでしょうか。「相続登記を怠る者は、刑事罰に処する」のか。相続登記をしないだけで人に刑務所に入ってもらうというのはどうでしょう。受け入れられるでしょうか。では、「なるべく登記をすることがよい、と法令で定める」か。これはありうる解決策だと思いますが、「なるべく」という話ではなかなか進まないので、税制との組み合わせが必要になります。あるいは、「土地を保有する者が権利関係を明らかにする責務を明確にする」。これは必要なことで、おそらく土地基本法の改正の問題になります。

 

話題4「二重課税ではないか」。

登録免許税は、登記をすることを契機として見出される担税力に着目するものであると説明されてきました。しかし、相続するときには相続税が課せられるので、それとは別に登録免許税を課するのは二重課税なのではないか。

 

話題5「時代遅れの土地基本法」。

土地基本法はバブルのときにつくられた法律です。時代錯誤はなはだしい条文が散見されます。例えば、第4条に「土地は、投機的取引の対象とされてはならない」とあります。いまはむしろ使われない土地のほうが問題です。土地の価格は減少していく中で、その負とどう向き合うかということのほうが緊迫した問題であると感じます。こうした時代遅れを正して、新しい土地政策の理念を打ち出す法律にしていかなければなりません。

 

そこで、話題6「土地がもたらす負をどうするか」。

土地の価値が減少することで、土地を放棄したいと思う人が現れている。どう対処したらよいでしょうか。

 

「管理の負担が重すぎる土地は、所有権の放棄を認めるべき」か。放棄された土地はどこが引き受けるのでしょう。「所有権が放棄された土地の管理という重い問題を税金で負担することは、適切でない」と考える人もいるでしょう。

 

であれば、「論じられるべき課題は、所有権の放棄の是非ではなく、土地の管理のあり方」なのではないか。これまでは放棄された土地は必ずフルに有効活用しなくてはいけないという意識でやってきたのですが、増田先生のお話にもあったように、居住区域はきちんと利用できるようにするけれども、差し当たり効用が得られない土地は危険が生じないのであれば使わないままにしておく、という発想も大いに考えられていい。「土地を自然に還す」という発想があってもいいように感じます。

 

話題7「なぜ人々は土地問題を論ずるか」。

あらためて考えておきたいと思います。今日ここにお集まりのみなさんは、「どのように解決されるかを見つめ、これからの社会を考えたい」という心持ちでいらっしゃっていると確信します。

 

話題8「良質のプレスを育む」。

所有者不明土地問題は、社会全体で真剣に議論しなければいけないテーマです。大局的にみると、この問題は、日本におけるデモクラシーをどう育んでいくかということにもつながります。メディアの役割は重要です。世論におもねることなく、充実した深堀の記事を次々と発信し、問題解決に向けて適切にリードしていただきたいと期待しています。


第112回東京財団政策研究所フォーラムレポート「所有者不明土地問題を考える(下):土地は公共財という前提で」につづく