タイプ
論考
プロジェクト
日付
2018/9/18

地域社会における放置資産問題――日南町の寄付事業の取り組み

 

片野洋平

鳥取大学農学部生命環境農学科准教授

 

近年、日本全国で管理がなされないまま放置される山林、耕作が放棄されている農地、居住が確認されない家屋などの問題が顕在化しつつある。これらの問題は、所有者不明土地の問題として着目されているが、筆者は放置された資産は自然環境・社会環境に対して悪影響を与えるという観点から、一貫して環境問題としてとらえてきた。日本の面積のうち約7割が森林に覆われている事実や放置される土地の面積の多くが地方に存在する可能性から考えれば、つまり面的な観点からすれば、同問題を、地域社会における環境問題としてとらえる理由もわかっていただけるであろう。昨今、同問題について多くの人が関心を寄せていることが報道からもわかる。人々は深刻な問題に対して不安を抱くと共に、故郷の資産を処分することの難しさなどに共鳴しつつ、同問題に対して興味をもつのではないであろうか。

 

以下では、特に、都市よりも、地域社会における山林、農地、家屋・土地に焦点をあて、第一に、筆者がどのような関心の下にこの課題をとらえてきたかを概説する。第二に、これまでの研究結果の概要を提示する。そして、第三に、同課題に対する一つの解決策として、筆者が過疎自治体である鳥取県日南町で実践している寄付に関する政策を紹介したい。 

放置された資産の問題

これまでこうした問題はそれぞれ、荒廃する山林の問題、耕作放棄地問題、空き家問題などとして、行政においては、たとえば、林業担当課、農林業担当課、住宅担当課において扱われてきた。学問領域でも、それぞれの問題は、たとえば、林業経済学、農業経済学、住宅あるいは建築学等の領域で、固有の課題として扱われてきた。放置される山林、農地、家屋の問題は、それぞれの問題を支える制度や対策が異なるため、行政においても、学問的にも、個別に扱われてきた経緯は理解できる。しかし、所有者側からみた場合、山林、農地、家屋は地域において同時に所有されることが多く、類似する理由から放置されることも多い。政策的・学問的にも、放置される資産(筆者の研究では、「放置財」と呼んでいる)として一つの課題として構造的にとらえた方が理解が深まり、対策を立てやすい可能性もある。

 

こうした放置資産のうち、所有する資産が存在する地から離れて居住するいわゆる不在村者の所有する資産に対する意識と行動については、わからないことが多かった。ただでさえ個人の資産に関する情報を把握することが難しい上に、不在所有者をつかまえること自体が難しいからだ。

 

以上の観点から、調査の目的は、第一に、山林、農地、家屋(土地を含む)を統一的にとらえること、そして、第二に、不在所有者が有する資産の量やその資産に対する不在村所有者の意識や行動を明らかにすることを目標にした。 

調査結果の概要

不在村所有者の動向を明らかにするためには、基本的には、現在、資産を有する場所とは異なる自治体に住民票を有する方に対して調査を行う必要がある。したがって、従来行われてきた住民基本台帳や選挙人名簿など被調査者の所在地をもとにした調査ではなく、資産の場所から日本各地の個人を特定する固定資産税台帳をもとにした調査を行わなければならなかった。この名簿を調査で用いることは、一般にはかなりハードルが高い作業であるが、鳥取県日南町(および南部町)の協力の下、同町において、不在村者を対象とした放置資産の調査が可能となった。なお、鳥取県日南町は、広島県、島根県、岡山県に囲まれた中国山地の中央部に存在する過疎地域にある。人口は5,457人,高齢化率(65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合)は46.8パーセント(%)、平均年齢は58.1歳である(2010[平成22]年度国勢調査)。不在村所有者1,113名を対象に、郵送調査法による社会調査を実施した。回収数は408、有効回収率は37%。

 

その後、同調査の結果を全国と比較するために、2015年にインターネット調査を行った。この調査では、国内において過疎地域自立促進特別措置法(過疎法)に指定された、過疎自治体(旧市町村)内に山林、農地、あるいは家屋を所有し、かつ、所有する財が存在する過疎自治体とは異なる自治体(現市町村)内に在住する不在村者に着目したものである。全国約400万人のネットモニターから、いくつかの抽出を経て、最終的には全国から偏りなく1,117のサンプルを得た。

 

さらに、調査時期は前後するが、鳥取県日南町に資産を有するが、全国各地に居住する方20名に対して所有者が居住する場所で1~2時間のインタビュー調査を実施した。いずれの調査もこれまでの調査とはややタイプが異なるため苦戦した経緯がある。

 

3つの調査により、大まかにいえば、以下のことが明らかになっている。第一に、不在村所有者は、地方に、山林、家屋、農地を重複して複数所有していること(図1)。

 

図1  住んでいない過疎地に資産を持つ人の管理状況ーー放置されている資産は森林以外も

 

第二に、不在村所有者は、山林についていえば、小面積を所有している者の割合が大きく、地域との交流が薄れるにつれて管理が難しくなる傾向があること。第三に、同じ不在村所有者でも、所有地と近い地方都市に在住する者と、都市に在住する者では、資産に対する行動パターンが異なること。具体的には、地方都市に在住する所有者は所有地とのつながりを維持し、可能な限り資産を維持管理したいと望んでいる傾向があるのに対し、都市部に在住する所有者は資産を経済合理的な形で処理していきたいと望む傾向があることがわかっている。

 

以上の結果についてご興味があれば、詳細は文末に掲載する論文をご参照いただきたい。

寄付という選択

放置される資産には、農地、宅地家屋、山林、墓などが考えられる。筆者は墓をのぞき、いずれの放置資産についても一定程度調査を行ってきた。放置された農地や宅地家屋は、平場に所在し顕在性も高く、所有権者の特定という観点でいえば、比較的容易である。しかし、放置された山林は所在の確認、所有者の特定、管理のしにくさ、そして面積の大きさなど、他の資産に比べさまざまな点で管理の難しさが存在する。また、山林は環境問題に影響を与える可能性も高いため、筆者は放置される山林にやや比重を置き研究を進めてきた経緯がある。さらに重要なことであるが、総じて資産価値が低い放置資産は、所有者が資産を売ろうとしても買い手が現れない場合が多い。「売りたいのだけど買い手がいない」という不在村者の嘆きをよく聞く。

 

不在村者へのインタビューに際しても、今後故郷に帰る予定はない、継承者がいない、買い手がないため、資産を無償でいいので国に譲渡したいという話をよく聞いてきた。所有者不明土地の問題でしばしば議論されているが、不要な資産を国に譲るという道筋は、現状ではほぼ絶たれている。市町村など自治体に譲るという道筋はあるが、自治体側は引き受けた資産を管理できるか不安なため及び腰だ。

 

こうした中、過疎自治体の一つである鳥取県日南町では、増原聡町長のリーダーシップの下、山林を中心に寄付を受け入れる事業を展開しつつある。筆者もこの事業に同町の非常勤職員として関わっている。無償で譲り受けた山林を有効活用し林業振興を図ると共に、ひとたび地域を離れた者であっても、共同体の一員であるという共同体的な責務に応えることが主目的である。その他にも、今後発生するであろう放置資産の所有者探索コストを未然に抑止する目的、放置された資産による災害発生を未然に防止する目的、新しい試みを通じて過疎自治体の存在意義を確立する政治的目的など、さまざまな副次的な目的も有している。自治体が不在村者の寄付を受け入れるという試みは全国的にみても新しいもので、2018(平成30)年9月現在、寄付を希望する多数の不在村者のうち、試験的に5名程度を選出し、受け入れ条件の整備を行っている。

 

以下にその具体的内容を紹介するが、2018(平成30)年9月段階における状況で、今後さまざまな変更がある可能性がある点をご理解いただきたい。

 

まず、現段階では、山林の寄付の受け入れ要件として、以下の条件を考えている。

1. 抵当権などないこと

2. 分筆登記が完了していること

3. 共有林については全員から同意があること

4. 管理上支障がないこと

5. 固定資産税の未納がないこと

 

以上の条件を確認し、現地の確認を済ませた後、寄付希望者からの山林の受け入れについては、筆者も属する司法書士、ベテラン森林組合員、森林系NPO法人職員からなる専門部会からの情報提供および方針案の提示ののち、町の課長クラスからなる審査会で議論と判断が行われる。その後、土地の所有者から町へ登記の移転を行う。寄付された山林は町が管理責任を有する町有林となる。2018(平成30)年度内に審査会を経て試験的に寄付の受け入れを実施する予定である。2019(平成31)年以降、課題などを踏まえて文書等の改善を行い、順次その他の寄付希望者の山林を受け入れていく予定だ。

 

不在村者の資産を寄付という形で自治体が引き受ける方策は、所有者不明土地の問題の解決において現状では有効な手段の一つとなりえる。今後議論が行われるであろう、現在進行形の寄付の課題の一端について紹介しよう。

 

第一に、寄付希望者の山林資産のうちスギ・ヒノキなど人工林のほとんどは、3ヘクタール(ha)未満の小面積で分散したものが多い。また、同資産には林道をつけられないほど奥地に所在する山林も多数含まれている。さらに山林資産には、人工林以外の雑木林も多数含まれている。自治体側としては、小規模・分散・奥地の人工林を譲り受けても効率的な施業が行うことができないため林業振興には寄与しないという課題を抱えている。また、雑木については現状の人工林の間伐を中心とした林業においてはほとんど利益にはならない。こうした必ずしも経済的利益に結び付かない山林の受け入れについては審査会で慎重な議論が行われることになる。

 

第二に、寄付希望者の山林資産には、所有者が共同で所有する共有林が存在する。この場合、権利関係が複雑で、寄付希望者の意思だけでは簡単に寄付ができない場合も多い。2018(平成30)年度については、共有の山林は次年度以降の課題として扱うことにしている。

 

第三に、寄付希望の山林の現地確認には多大なコストが発生する。受け入れ準備段階で不法投棄がないことなどを確認する必要があり、ベテラン森林組合員の協力の下、現地を確認する作業を行っているが、資産の所在地にたどり着くまでに多大な時間と労力を要する。地籍調査などが十分に進んでいないためである。なお、同町の地籍調査は現段階で32%程度しか進んでいない。現状では経済的利益にならず、今後、多大な時間と労力をかけられなくなるおそれがある。筆者はほぼすべての現地確認作業に同行したが、小面積、分散、奥地、急峻な地形など、かなりの悪条件の山林であっても過去に植林された様子をみるにつけ、事態は相当深刻であると感じている。

 

第四に、寄付希望者の中にも、登記の名義が本人ではなく、二代前、三代前、あるいはもっと前の先祖の名義である場合も多数存在する。寄付を進めるにあたり、登記の名義を寄付希望者本人に移してもらう必要があるが、名義の変更に少なくない費用が発生するため、この費用負担に寄付希望者が耐えられるかが課題となる。

 

第五に、すでに指摘したように不在村所有者は山林のほかに、家屋・宅地、農地などを重複して所有している。寄付希望者の山林だけ自治体がもらい受けても、その他の資産は放置され、放置資産の最終的な解決にはつながらない。また、上述の審査会で寄付の受け入れに適さないと判断されれば、所有者にとっては、山林の問題が継続することになる。

 

以上のように、寄付には課題や困難も多く根本的な解決にはほど遠い。それでも、地域が率先して解決できる解の一つとして、日南町では前向きに取り組んでいる。よい意味でも、悪い意味でも、本事業で得た知見を、同じような困難を抱える他の地域の参考にしてもらいたいと思っている。日南町の寄付事業について今後ぜひ着目していただきたい。

 

 

※調査についての参考文献は以下の通り

■日南町・南部町調査:「研究者と自治体の共同調査の実践と工夫――鳥取県日南町と南部町の事例から」『社会と調査』15号、2015年、86~91頁。

■インターネット調査:「過疎地域に放置される不在村者の財の所有動向:所有者に対するインターネット調査から」『環境情報科学』46巻1号、2017年、91~100頁。

■インタビュー調査: “The conditions of forestry management in depopulated areas of Japan: Forest management behaviors of non-resident owners using a qualitative comparative analysis,” Journal of Environmental Information Science, Vol. 44, Issue 5, 2016, pp. 99-110.

 

 

 片野洋平(かたの ようへい)

1974年東京都生まれ。1998年上智大学法学部卒業、2005年同大学法学研究科博士後期課程単位取得の上退学、2009年同大学にて博士(法学)取得。2008年より鳥取大学農学助教、2017年より現職。専門は環境政策、法社会学、社会学。本記事に関連する業績として、「過疎地域に放置される不在村者の財の所有動向:所有者に対するインターネット調査から」『環境情報科学』46巻1号、2017年、91~100頁。同論文を中心とした研究で、国内に放置された森林を中心とする資産の実態解明に関する一連の研究として第18回環境情報科学センター賞受賞。連絡先:katano[アットマーク]tottori-u.ac.jp

 

 

  

<所有者不明土地問題を考える>トップへもどる