タイプ
論考
プロジェクト
日付
2016/12/22

アメリカ大統領選挙 UPDATE 6:トランプ・ショックの背景にある衰退地域の反乱

 細野豊樹   共立女子大学国際学部教授


   2016年大統領選挙の結果は、世論調査に基づく予測が外れたという意味で、筆者を含め選挙分析に携わる者にとって、サプライズでありショックであった。元ブッシュ陣営の選挙参謀であったマシュー・ダウドは、投票日直近の日曜に放映されたABCニュースの対談において、クリントンは500万票差で勝つと自信ありげに述べていたし、『クック・ポリティカル・リポート』など定番の予測サービスもクリントン優位を伝えていた。特に意外であったのが、各種世論調査ではクリントン優勢であったはずの、ペンシルヴェニア、ミシガンおよびウィスコンシンを、トランプが僅差で制したことであった。


   世論調査が外れた理由として、最も説得力があるのは、トランプ支持層が世論調査への回答を忌避したという説明である(1)。選挙が不正に操作されているとトランプが繰り返す中で、トランプ支持層がエリート・メディアによる世論調査への回答を拒否したのだろうと考えられる。


   以下では、まず投票率の分析から入って、ペンシルヴェニア、ミシガンおよびウィスコンシンを中心に、小都市・非都市部の民主党離れがトランプ勝利の原動力となったことを明らかにする。そして、こうした小都市・非都市部の典型として、ペンシルヴェニア州のルザーン群(Luzerne County)およびファイェット郡(Fayette County)を取り上げて、トランプ・ショックを人口や経済の面で衰退している地域の反乱であると位置付けてみたい。

あまり変わらなかった投票率

    フロリダ大学のマイケル・P・マクドナルドが、投票率の緻密な分析を公開している。これに依拠して、近年の大統領選挙における主要激戦州の投票率の変化をみたのが表1である。

   投票率がそれぞれ2ポイントおよび3ポイント上昇したペンシルヴェニアおよびフロリダを除いて、投票率の変化は1ポイント以内である。従来は棄権していた有権者層を、トランプが広範囲に掘り起こすようなことは起きなかったと解釈できる。だとすると、2012年において民主党を支持していた層が、トランプに流れたということになる。次節では、どういった有権者層が民主党離れを起こしたかを明らかにするため、激戦州における得票マージンの推移を、州内を地域に分けてみてみたい。

激戦州の都市圏別の得票マージンの推移

   上述のとおり、2016年大統領選挙における最大のサプライズは、ペンシルヴェニア、ウィスコンシンおよびミシガンにおけるトランプの勝利であった。図1~図3は、これら三州の郡別の得票数を、州内の主要都市圏別にくくって、得票数のマージン(民主党の総得票数マイナス共和党の総得票数)を示している。主要都市圏の区分は、大統領府予算管理局(Office of Management and Budget)が定める一体的都市圏(Combined Statistical Areas (CSA))による。CSAは、人口5万人以上の中核都市を擁する郡およびその隣接郡から成る複数の都市圏(Metropolitan Statistical Area(MSA))が構成する一体的な経済・社会圏である。

 

 

図1 ペンシルヴェニアの都市圏別得票マージンの推移

備考:2015年現在のCSAおよびMSAに基づき、各州の郡別得票データにより筆者が作成。

 

   図1は、ペンシルヴェニア州を、全米有数の大都市圏である南東のフィラデルフィア等CSA、西部の工業都市のピッツバーグ等CSA、その他CSAおよび非CSA(小都市・農村地域)に区分している。2012年と比べて、クリントンは、フィラデルフィア等CSAにおいて約62万票で勝ったものの、2012年との比較では約3万5千票の微増にとどまった。これに対してトランプは、非CSA地域で約48万票、ピッツバーグ等CSAで約5.8万票、その他CSAで約15万票もの得票マージンを獲得しペンシルヴェニアを制した。特に非CSA地域のマージンは、2012年におけるロムニーの約22万票の倍以上に達し、トランプ勝利の決め手となった。反自由貿易で選挙戦を戦ったトランプが、工業地域のピッツバーグ等CSAよりも、小都市・非都市部型の非CSA地域で得票を増したことが興味深い。

 

   ウィスコンシンおよびミシガンでも、小都市・非都市部の得票マージンがトランプ勝利の原動力となったことを、図2および図3が示している。

 

図2 ウィンスコンシンの都市圏別得票マージンの推移

備考:2015年現在のCSAおよびMSAに基づき、各州の郡別得票データにより筆者が作成。

 

図3 ミシガンの都市圏別得票マージンの推移

備考:2015年現在のCSAおよびMSAに基づき、各州の郡別得票データにより筆者が作成。

 

   小都市・非都市部型である非CSA地域における得票マージンが大きく伸びて勝つというパターンは、オハイオやノース・キャラロイナにもみられる。

 

   ただし、フロリダのような例外もある。国内人口第4位の大票田フロリダは、都市化が進んだ州である。クリントンが2012年のオバマをも上回るマージンを稼いだのは、ヒスパニックやリベラルな米国北東部からの移住者が多い州の南部であり、トランプがクリントンに差を付けたのは、小都市・非都市部でなく、州の中央部である。「I-40回廊と呼ばれる」この地域は、毎回接戦となるフロリダ州の帰趨を決めることが多い。

小都市・非都市部のルザーン郡およびファイェット郡から導かれる2016年選挙の位置づけ

 本年7月の論考(UPDATE4)において、予備選挙において多数の有権者が支持政党の登録を変更したペンシルヴェニア州ルザーン郡およびファイェット郡に言及した。これらの郡では、本選挙においても、トランプは2012年と比べて得票率を大きく伸ばしている。この二つの郡を、トランプの得票率が顕著に下がったチェスター郡(フィラデルフィア近郊)および全米と、社会経済的諸指標について比較したのが表2である。

 

   全米の人口は増えている中で、ルザーン郡およびファイェット郡は、中西部の小都市・農村部に少なくない人口減少地域である。全米平均と比べて高齢化が進んでおり、人口の白人比が高く、移民が少数で、大学卒の割合が低い。トランプの支持基盤が、非大学卒の白人であることは、数々の世論調査や出口調査から明らかな、2016年選挙の核心である。ルザーン郡およびファイェット郡は、経済的には全米よりも世帯所得が低い水準にあり、失業率は高めで、リーマンショックからの雇用回復が遅れている。グローバリゼーションやICTから取り残された地域だといえる。

 

   1人当たりの工業製品出荷額にみる製造業への依存度については、ルザーン郡は全米平均よりもやや高い。ファイェット郡は低いが、工業都市ピッツバーグに近接するので、通勤圏的には製造業への依存度は低くないと思われる。

 

   対照的にチェスター郡は、全米平均ほどではないにせよ人口は増えていて、高学歴・高所得であり、経済のサービス化が進んでいる。

 

   クリントンが得票を伸ばした、ヴァージニア州のワシントンD.C.近郊や、ノース・キャロライナ州のリサーチ・トライアングル周辺も、こうした高学歴・高所得の成長地域である。連邦政府の研究所、大企業の本社などが多数立地する。

 

出典:経済・人口指標については、連邦政府統計局のQuickFactsデータベース、失業率の年平均については連邦政府雇用統計局(BLS)のデータベースなどより出力。得票データはCNN放送。

 

   トランプの選挙スローガンは、「アメリカを再び偉大に。」であった。アメリカ衰退論が論壇で話題だったのは30年前の昔話であるが、中西部人口減少地帯・経済停滞地域の有権者にとっては今日でも切実なのである。この忘れられた人々が、トランプに煽られて、民主党および共和党のエリートに対して反乱を起こす形で、トランプはサプライズ当選をものにした。

 

    非都市地域(rural areas)の有権者が、トランプの中心争点であった雇用と移民について強い不満を持ち、将来に不安を抱いていることは、PEW調査センターが本年5-6月に実施した調査において指摘されている(2)。同調査が強調するのは、非都市地域では女性もトランプを強く支持したことである。クリントンが初の女性大統領の候補として有力だったにも関わらず、女性票の共和党との得票差(ジェンダー・ギャップ)を広げることができなかったのは、非都市地域の女性にアピールできなかったため、ということである。

 

   民主党系の著名な選挙参謀であるセリンダ・レイクが選挙直後のCampaigns and Elections誌の対談において、そしてトランプ陣営の首席参謀ケリアン・コンウェイが、ハーヴァード大学政治研究所恒例の選挙参謀たちによる回顧セミナーにおいて、共通して指摘するクリントンの敗因は、経済メッセージが無かったという点である。小都市・非都市部の女性に対して、教育支援や雇用訓練などをもう少しアピールできていれば、選挙の結果は違っていたかもしれない。

 

   勝敗の分かれ目となった上記の三州の得票マージンは紙一重であっただけに、トランプは支持基盤の期待に応えないと再選は難しい。だからトランプは、今回の選挙で得票を伸ばした小都市・非都市部に対して、インフラ投資で利益誘導したいところである。しかし、共和党内には財政保守が多いから容易でない。そこで、従来からインフラ投資志向が強い民主党の一部と連携する必要が出てくる。問題なのは、小都市や非都市部は宗教保守が多いので、来る連邦最高裁判事の人事においては、非常に保守的な判事の任命を期待されていることである。これに応えれば民主党と全面対決になるので、インフラ投資での連携が吹き飛びかねない。これが、中西部の小都市・非都市地域の得票が伸びて勝利したトランプの矛盾である。

 

(1)Andrew Mercer et.al., “Why 2016 election polls missed their mark”, November 9, 2016,

 

(2) Rich Morin, “Behind Trump’s win in rural white America: Women joined men in backing him”, Pew Research Center,  November 17, 2016,