中国の気候変動政策と低炭素経済戦略(2)

4.中国の気候変動目標

(1)第十一次五カ年規画の目標

第十一次五カ年規画では、2010年のGDP単位あたりのエネルギー消費量を2005年比で20%削減、2010年の再生可能エネルギーの10%導入などを目標とした (図表3) 。生産効率の低い陳腐化・小規模な産業設備の淘汰等により2006年から2009年の各年で、それぞれ前年比1.78%、4.04%、4.59%、4.78%削減した。

NDRCによれば、2006年から2008年までに廃棄された施設は、小規模火力発電所3826万KW、小規模製鉄工場6059万トン、小規模精錬工場4347万トン、セメント製造能力1.4億トン。さらに、2009年に小規模火力発電所1000万KW、小規模製鉄工場2500万トン、小規模精錬工場600万トン、セメント製造能力0.5億トンを閉鎖するという。また、2000年から2008年までに増加した非化石エネルギーは、風力発電は34万KWから1000万KW、水力発電は7935万KWから16300万KW、原発は210万KWから910万KWとしている。

それでも、2009年時点で14.38%の削減に留まっており、あと1年で目標を達成できるかは微妙な状況である。NDRCの解副主任は2010年5月24日に開催された各省市省エネ主管部門工作座談会において、特に河北、遼寧、上海、江蘇、河南、湖北、湖南、広西、貴州、青海、寧夏、新疆の12の省・市の名前を挙げ、地域毎の割当目標の達成度が低いとして、奮起を促している。

(2)温室効果ガス削減目標

前述のとおり、現在、中国が掲げている温室効果ガス削減目標は、「2020年までにGDP単位当たりのCO2排出量を2005年比で40-45%削減」するというものであり、さらに「2020年の非化石エネルギーの15%導入」なども掲げている。前述の目標とはエネルギー消費量ではなくCO2排出量となっていること(原子力発電などCO2排出量の少ない非化石エネルギーを使用することも改善につながる)、再生可能エネルギーではなく非化石エネルギーとなっていること(非化石なので原子力発電、大規模水力発電なども含む)といった点で異なっている。

(3)温室効果ガス削減目標の設定方法

筆者の所属する東京財団では、現代中国研究プロジェクトとして中国の環境問題を研究しているが、その一環として2010年1-3月にかけて中国の有識者に対して気候変動に関するヒアリングを行った。

今回設定された温室効果ガス削減目標に関する第一の疑問として、同目標の設定にあたり、気候変動が中国へ与える影響など科学的分析結果がどのように反映されたのかという問題があった。温室効果ガスに関する削減目標については、2050年までに世界のCO2排出総量を半減する必要があるということが世界的にも共通の認識となりつつある。また、気候変動による社会・経済などへの影響は、特にインフラ整備などの対策も脆弱な中国をはじめとする途上国ほど大きい。したがって、世界のCO2排出総量の20%を占め、世界第一の温室効果ガス排出大国である中国が野心的な目標を打ち出さなければ、自らを危機に追い込むことにもなりかねない。

しかし、気候変動問題に関する科学研究を担う有識者らによれば、「40-45%」という削減目標を設定するにあたっては、複数の研究機関においてモデル分析が行われたが、気候変動による中国の社会・経済への影響、例えば食糧生産の落ち込みや気象災害の発生予測などを担当している機関へは目標設定にあたってのレポート提出といった依頼はなく、そのような被害影響や2050年での温室効果ガスの半減などのIPCCでの科学的議論と、今回の目標は直接的な関係はないとのことであった。

このことについてCOP15にも出席した環境関係者は、「中国には、『天が落ちてきたら背の高い人が支える』ということわざがある。国際的な気候変動問題は最終的には先進国という『背の高い人』が資金と技術を提供して解決すべき問題であって、中国は『天が落ちてくる』心配をする前にまず自分の心配をしている」と解説してくれた。

第二の疑問として、この40-45%の目標が経済にどのような影響を与えると考えられているのかがあった。

目標設定のモデル分析も行う研究機関の関係者によれば、CO2排出削減による低炭素経済の実現は、環境保護政策のみならず、省エネ・省コストを目指す産業戦略でもあるという。40-45%という削減目標を設定するにあたっては、「2020年まで年平均7-8%の経済成長を維持するという前提を置いた場合に、仮に産業構造の調整が順調に進んだとすれば、実現可能な数字」として設定されており、逆に経済成長が鈍化した場合にも達成できるか否かは分からないという。

いずれにせよ、長期的な経済成長が達成できるかは、このような目標設定によるエネルギー制約のみに拘束されるものではなく、多様な原因がある。そもそも、温室効果ガス削減により伝統的産業が影響を受けるのは当然であり、それは逆に新規産業のビジネスチャンスでもある。例えば、米国の風力発電産業チェーンの例などを分析すれば、低炭素産業は火力発電などの伝統的な産業よりも雇用を創出するという。

だからと言って、この40-45%という数値は容易に達成できる目標ということでもない。中国の有識者の言を借りれば、例えば、(1)中国では省エネのための工場閉鎖により100万人の失業者が発生し、地方政府が多大な負担をして再就職支援をしており、(2)都市部には「毎年」東京都の人口以上である1500万人が流入してきており、(3)世界で最もエネルギー効率改善が進んだ日本の二度の石油危機(1973-1977年及び1979-1983年の5年間)でも削減率はそれぞれ16%であった。中国の目標は、世界にも類を見ない挑戦であり、最大限の努力をして初めて達成しうる数値として設定されているという。

(4)温室効果ガス削減目標の達成方法

それでは、中国は、この温室効果ガス削減目標の達成のために、どのような方法を考えているのであろうか。

中国の有識者による一つの分析によれば、短期的には非化石エネルギーの増加は望めず、まずは省エネの推進が重要であるという。モデルによってもその割合に差異はあろうが、目標全体の70%程度は省エネが寄与する。

省エネ促進には技術革新と構造調整の2つの道がある。技術革新については、現在の十一次五カ年規画では効率の悪い小規模工場の閉鎖や古い設備の更新によって省エネを達成してきたが、既に閉鎖や更新は相当程度進み、次期十二次五カ年規画(2011~2015年)でも、この手法を続けることは難しい。日本などの先進国との開きがあるエネルギー効率の向上が中心となるであろう。

さらに重要なのは産業構造調整である。構造調整は、金融などのサービス業および新興産業(特に電気自動車、省エネ、新エネ、新素材、バイオ、物流、環境保護の7分野)の促進と従来産業の高度化(過剰生産力の解消、高付加価値商品の製造)によって進める。政策手法としては、市場メカニズムを活用し、規制緩和・内外開放・奨励金などに加え、消費行動の改革も必要になる。社会システムの変更や環境基準の強化とともに、教育による大衆の意識変革を進めていくという。

エネルギー研究所のレポートでは、2050年の長期目標についても研究を行っている。2050年に中国がベースラインより60%のCO2削減を実現するには、以下が必要だという。(1)エネルギー効率向上と省エネルギー(53 %)、(2)CCS技術(20 %)、(3)非化石エネルギー(27%、内訳:原子力(8%)、水力発電(7%)、風力(4.5%)、バイオ・太陽エネルギー(3%)、その他(4.5%))。ここで最も重要なのはCCS技術と原子力発電である。しかし、このような極めて理想的なシナリオで進んでも中国のCO2排出のピークアウトは2035年以降になると予測される。

この中国の「40-45%」の目標はNDRC気候司の蘇偉司長によれば、「(達成義務のある)強制指標として今後の第十二次(2011~2015年)および第十三次(2016~2020年)の五カ年計画に盛り込まれる」とのことであるが、40-45を分割した目標として記述するのか否かは検討中とのことである。また、外交部の于慶泰気候変動交渉特別代表は「中国としては、まずは自ら建てた目標達成に努力しつつ、外圧には決して屈しない国際交渉を行う」と述べている。中国がCOP16に向けて目標の積み上げをしてくるような可能性は極めて低いであろう。

5.中国の低炭素戦略

中国において「低炭素経済」という言葉は、国務院常務会議や全国人民代表大会などハイレベルな会議において使用されているのみならず、新聞紙面やマンションや地下鉄の広告など街中でも「低炭素」という言葉が目につくようになってきている。温室効果ガスを出す乗り物で移動せず、インターネット上で行う「低炭素墓参り」、電子目覚まし時計をねじ巻き式へ、運動時間を増やして、テレビ視聴時間を減らす低炭素ライフスタイルなど、市民の取組も紹介されている。

もっとも「低炭素経済」の概念については議論があり、社会科学院城市発展与環境研究センターの潘家華主任によれば、1人当たりのCO2排出総量や炭素強度(CO2/GDP)なら中国は既に低炭素と言えるし、CO2より水・大気の課題が大きい状況の中国は「低炭素」より「緑色」が重要と指摘している。

「低炭素経済」の枠組を研究した国務院発展研究センター産業経済研究部の馮飛部長によれば、「低炭素経済」には5つの柱と3つの原則があるという。5つの柱は、(1)低炭素工業、(2)低炭素都市、(3)農業と低炭素の発展、(4)低炭素と持続可能な消費のスタイル、(5)土地の利用とCO2吸収量の増加、3つの原則は(1)技術革新、(2)市場メカニズム、(3)政策制度である。

また、「低炭素経済モデル都市」の取組も進んでいる。2010年1月28-29日、NDRCは「全国発展改革系統気候変動対策工作会議」を開催した。ここで解振華副主任は、年内に地方政府(省・市など)が、地域の低炭素経済計画を策定するように指示をした。2009年末までに、既に全国32の省・直轄市・自治区(新疆兵団含む)は「気候変化対応方案」及び「行動計画」を策定している(09年末時点で18省・市・区が公布)が、今後、さらに多くの都市で低炭素経済計画の策定が進むことになる。

低炭素経済モデル都市については、省・直轄市では広東省・海南省・山東省・北京(東城区)・上海(閔行区)・重慶・天津、市では吉林・保定・日照・徳州・朔州・無錫・成都・広元・武漢・長沙・南昌・杭州・寧波・アモイ・温州・珠海・深xV靴覆匹療垰圓如⇔DRCや建設部などの中央政府や、欧州の国・都市・研究機関やWWFなどのNPOの協力を得て、先行的に都市の低炭素経済計画を策定したり、太陽光やLEDなどの低炭素産業の誘致・育成などを行っている。

今後は、産業構造調整(低炭素産業育成)、循環経済、省エネ・環境友好型産業、省エネ・排出削減推進、エネルギー(天然ガス、風力・太陽・バイオマスエネルギー等)、建築物での省エネ・再生エネルギー導入、公共交通システム・エコカー、低炭素生活スタイルなど、各都市の特性に応じた検討が進むものと考えられる。

各研究機関でも、既に気候変動目標の設定に関する検討は終えた今、目標の達成に向けて「低炭素経済」に関する検討が次の課題となっている。2010年10月頃までには各研究機関より報告書(政策建議)が中央政府へ提出され、例年12月頃に開催される全国工作会議にて骨子、そして、2011年03月に公表される第12次5カ年規画において公表されるという。

おわりに

中国がここまで低炭素経済に着目する理由は何であろうか。筆者は以下の2つの理由が大きいと考えている。一つは、本年12月にメキシコで開催されるCOP16へ向けた布石である。COP15において不興を買った中国としては、COP16でその二の舞は避けたい。COP16までに低炭素経済に積極的な中国、それに対し、途上国への資金メカニズムの整備や温室効果ガス削減のための具体策が進まない先進国という構図をつくり、交渉を有利に進めたいという意図があろう。

もう一つは、国際経済競争への参戦である。前述のような見栄えの問題もあるが、実際のところ将来の国際経済での競争は低炭素の競争であり、事前に手を打たないと、将来の経済競争の中で先行チャンスを勝ち取ることができないかもしれないと中国は考えている。安い労働力による世界の工場から、さらに一段上の国へ進むためには、この低炭素競争は格好の機会である。先進国からの技術移転に闇雲に頼るのではなく、自主創新能力を重要視し、特に低炭素経済に関するルール作り(基準化)に積極的に参加していくであろう。

日本で行われている25%の目標が高すぎるか否か、経済への影響が大きいか否かといった議論は、中国から見れば一週遅れの議論であり、日本がいつまでもそこに留まれば、中国は低炭素経済の実現という形で日本を二周遅れにするであろう。日本は環境・省エネ対策が進んだ国であり、高い目標は国際的に不公平であるといったクレームを述べても、国際経済競争に「タイム」はなく、「試合」の時計は動き続けている。

月刊『東亜』 2010年7月号(財団法人 霞山会)より転載

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染野 憲治

  • 元東京財団研究員