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各電力管内における夏期の節電ポテンシャルの試算(2)

June 4, 2012

9.各電力管内における電力需要の内訳


各電力管内における節電ポテンシャル(節電によって削減可能な電力需要)は、それぞれの電力需要の部門別の内訳に依存するものと考えられる。全国9電力の部門別の販売電力量について、2008~2011年度の推移を 図10 に示した。この図から、各電力管内で部門別の内訳に差があることが分かる。

図10 全国9電力の各月の販売電力量(部門別) [10] の推移

上記の販売電力量の内訳と、各電力管内における夏期の最大電力需要 [10] をもとにして、各電力管内における2010年度の夏期のピーク日・時間帯について、電力需要の部門別の内訳を推計した( 表4 )。

表4 各電力管内における2010年度の夏期のピーク日・時間帯の電力需要(部門別)の推計 *20

*20 ここでの推計方法は、各部門について、2010年8月の各電力と東京電力の販売電力量の比率を、東京電力管内におけるピーク日・時間帯の電力需要 [9] に乗じることを基本としている。ただし、関西電力については、需給検証委員会による電力需要の内訳の推計 [12] に基づいた。その上で、部門別の電力需要の合計が,各電力管内における2010年度の夏期の最大電力需要 [10] と一致するように調整した。また、業務・産業部門における大口と小口の内訳も、東京電力管内における内訳と同じものとした。


この推計結果では、東北・中部・北陸・中国電力では,産業部門の割合が高い(39~42%)。また,北海道・四国・九州電力では,いずれも家庭部門の割合が高めである(34~35%)。偶然ではあるが、前者は供給力に余裕がある電力事業者,後者は需給ギャップが発生する可能性が高いとされている電力事業者となっている。また,需給ギャップが発生する可能性が高い北海道・関西・四国・九州電力では、いずれも業務部門が家庭・産業部門よりも高い割合(38~43%)を占めている。

10.各電力管内における節電ポテンシャル

以上の分析結果に基づいて、東京電力管内における2011年度の夏期と同程度の自主的な節電対策が実施されると仮定した場合に、各電力管内において削減される電力需要を求めることで、2012年度以降の夏期の節電ポテンシャル(自主的な節電対策による最大限の減少幅)を試算する。

まず、東京電力管内における部門別・要因別の電力需要減少( 表3 参照)のうち、特に電力使用制限への対応のために実施せざるを得なかった対策を「半強制的なピークカット対策」、それらを除く節電対策を「自主的な節電対策」と考え、以下のように分類する。

・春期から秋期に共通する減少要因と、夏期に固有の減少要因のうち小口需要家による寄与(冷房需要などの抑制)は、電力使用制限の直接的な影響はないことから ⇒ 自主的な節電対策

・ただし、産業部門については、活動量の回復による冬期からの電力需要の回復を差し引いた。

・夏期に固有の減少要因のうち,大口需要家による冷房需要などの抑制は ⇒ 一部は自主的な節電対策、一部は半強制的なピークカット対策 *21
・時間・曜日シフトは、電力使用制限への対応であったことは明白 ⇒ 半強制的なピークカット対策

*21 日本経済団体連合会が企業(製造業53社、非製造業34社)に対して実施したアンケート調査では、照明の運用改善による対策は「今後も実施可能」と回答した割合が、製造業は6割程度、非製造業が8割程度に達しているのに対して、空調の運用改善による対策は、製造業も非製造業も3割程度となっている [13]。このように、実施意向という観点から「自主的な節電対策」を考えても、2011年度と同程度の冷房需要の抑制を期待することは難しいと言える。


これらの前提に基づいて、大口需要家による冷房需要などの抑制の半分が自主的な節電対策であったと仮定すると、 自主的な節電対策による減少幅は、家庭部門7%程度、業務部門16%程度、産業部門4%程度であったと見積られる 。各電力管内における夏期のピーク日・時間帯における部門別の電力需要( 表4 参照)に、これらの部門別の減少幅を当てはめると、 表5 のように節電ポテンシャルが試算された。

表5 各電力管内における夏期の節電ポテンシャル(部門別)の推計

また、これらの節電ポテンシャルを,2010年度の夏期の最大電力需要に対する減少率に換算し、需給検証委員会による「節電影響」の推計結果と比較した( 図11 )。

図11 各電力管内における夏期の節電ポテンシャルと需給検証委員会の推計 [11] との比較 *22

*22 本稿で試算した各電力管内の節電ポテンシャルと、需給検証委員会が2011年度の夏期の最大電力需要のうち「節電影響」とした減少幅(電力需給検証委2011)、同じく2012年度の夏期の「節電影響」として見積った減少幅(電力需給検証委2012)を、それぞれ2010年度の夏期の最大電力需要に対する減少率に換算した。


この図から分かるように、 東京電力管内における2011年度の夏期と同程度の自主的な節電対策が実施されれば、各電力管内で9~10%程度の節電ポテンシャルは期待できるものと試算された 。また、この結果と比較すると、電力需給検証委員会による2012年度の夏期の節電対策による減少幅は、東京電力管内と九州電力管内を除いて、かなり過小評価のようにも思われる。

以上の分析から、自主的な節電対策が最大限に実施された場合、全国9電力で750万kW(5%)程度の供給力の余裕(予備率)が見込まれる。ただし、関西電力管内では依然として250万kW(9%)程度の需要超過,九州電力管内も予備率が0%となる可能性がある。また、以上の条件下で、電力融通が可能な中西日本6電力をまとめると、それらの管内における予備率は3%程度となり、電力融通によって電力危機を乗り越えられる可能性も残されている。



参考文献


[10] 資源エネルギー庁:「電力調査統計」,
http://www.enecho.meti.go.jp/info/statistics/denryoku/index.htm

[11] エネルギー・環境会議/電力需給に関する検討会合 需給検証委員会:「電力需給検証委員会 報告書」,
http://www.npu.go.jp/policy/policy09/archive01_07.html (2012年5月14日掲載)

[12] 需給検証委員会:「節電に関する考え方の整理」,第2回 需給検証委員会,資料4-2,
http://www.npu.go.jp/policy/policy09/archive08_02.html (2012年4月26日掲載)

    • 東京大学大学院工学系研究科 都市工学専攻 助教
    • 中谷 隼
    • 中谷 隼

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