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大統領選出と今後の見通し

September 22, 2014

宮原信孝 研究員

挙国一致政府の樹立

9月21日正午、アブドラ・アブドラ候補(以下「AA」)とアシュラフ・ガーニ候補(以下「AG」)は、挙国一致政府合意に署名した(*1)。また、独立選挙管理委員会は、AGが大統領に当選した旨を発表した(*2)。具体的な投票結果はAA陣営の申し入れもあり公表されず、AGおよびAAに直接知らせた旨が付言された(上記*2報道)。

決選投票に不正があったとしてAA陣営が独自政権樹立を表明し、アフガニスタンの分裂が懸念された中、米国による仲介が功を奏し、ここに至った形である。ニューヨークタイム紙の20日付報道(*3)によればケリー米国務長官が2度にわたりアフガニスタンを訪問し、挙国一致政府樹立を提案し、AA、AGを納得させた他、オバマ大統領は3度も両者に対し電話による働きかけを行った。また、現地駐在米大使他の外交官は、AAに42回、AGに39回、カルザイ大統領に15回も会って働きかけを行った(上記報道)。

しかし、米国としてはこの働きかけは必須のことであったと考えられる。2015年以降も、米国・NATOの計画に従ってアフガニスタンの安定化を進めるためには、新大統領が、米・アフガニスタン二国間安全保障協定及びNATOアフガニスタン駐留軍地域協定に署名しなければならなかったし、実際そのような署名の最適の機会であったウェールズNATOサミットには間に合わなかった。NATOは、アフガニスタンに関するウェールズNATOサミット宣言(*4)を発出し、これらへの署名を条件として2015年以降の訓練・助言・その他支援を行う旨明示し、両候補への圧力とするしかなかった。

AA、AGとも2つの安全保障協定に署名することを表明しているので、これでやっと2015年以降の安全保障体制も確定した。だが、米国の介入がなされてこの合意まで2ヶ月かかった。何度も述べるが、2015年以降のアフガニスタンの安定を考えた場合、対タリバーンについての結束が、現政権側及び現政権と米国を始めとする国際社会の間に存在しなければならない。

今後の見通し

2ヶ月かかったことで、現政権の結束の弱さが示された。この弱さを払拭するためには、挙国一致内閣が結束して対応する体制ができているかが鍵となる。

現地メディアTOLOが伝える合意の骨子(*5)は次の通りである。

  • 1.行政長官は、大統領就任日に権能を与えられる。行政長官は大臣会議(COUNCIL OF MINISTERS)の議長であり、大統領は閣議(CABINET)の議長である。2名の行政長官の代理が、それぞれ閣議と国家安全保障会議のメンバーとなる。
  • 2.2年以内にロヤジルガ(国民大集会:*6)が開催され、行政長官に代えて首相府を創設することを含む国家組織変更を憲法に反映させる。
  • 3.長官等の任命に関し、治安、経済、国家安全保障及び独立行政組織については、両陣営から半々で選出する。高級官僚や州知事・司法判事の任命は、大統領と行政長官が能力優先の任命メカニズムを構築する。
  • 4.将来の選挙を完全に信頼できるものにするため、2015年の議会選挙までに現行制度の徹底的見直しを行う。

上記1.は分かりにくく、そのまま読むと2重政治のように思える。上記ニューヨークタイムス報道によると、実質的な権能が行政長官に与えられており、政府の政策の実施の運営管理に責任を持ち、大統領に直接、また閣議の中でその進捗について報告する、とされている。いずれにしろ、ここには、AA、AG両陣営の意見が対立した場合の安全装置が見当たらない。AGは元々能吏タイプであり、行政の細かい諸問題に良く気づく。AAの行政実施に注文をつけすぎるようなことが続くと対立の火種となる。対立が表面化した場合は、またもや米国の介入が必要となるかもしれない。

上記2.は、挙国一致政府、特に行政長官の役職自体が、憲法上予定されていないものであり、当然必要なことであろう。憲法修正の原案を策定する独立の委員会が設立されるであろうが、委員任命に当たっての政治的な対立も起こりうる。これは、

上記3.についても言えることである。 上記4.は、挙国一致政府づくりをしなければならなくなったそもそもの発端でもあり、1年足らずの間に信頼できる選挙制度をつくることができるかは、はなはだ疑問である。

以上をまとめれば、挙国一致政府は成立したが、AA、AG両陣営が、対立する火種は各所にあり、対タリバーン対応のためのアフガニスタン・国際社会の結束のためには、今後とも国際社会の注視と必要な外交的働きかけが必要となるものと考えられる。

(注)

  • (*1)TOLO NEWS ‘Candidates Sign National Unity Government Agreement’ http://elections2014.tolonews.com/candidates-sign-national-unity-government-agreement
  • (*2)毎日新聞(電子版)2014年9月22日0:34最終更新「アフガニスタン:ガニ氏勝利、正式発表・・・大統領選」 http://mainichi.jp/select/news/20140922k0000m030095000c.html
  • (*3) The New York Times, Asia Pacific, ‘Afghan Presidential Rivals Finally Agree on Power Sharing Deal’ 2014年9月20日、 http://www.nytimes.com/2014/09/21/world/asia/afghan-presidential-election.html?_r=0
  • (*4) WALES SUMMIT DECLARATION ON AFGHANISTAN 2014年9月4日 https://www.gov.uk/government/publications/wales-summit-declaration-on-afghanistan/wales-summit-declaration-on-afghanistan
  • (*5)TOLO NEWS ‘UPDATE: NATIONAL UNITY GOVERNMENT A DONE DEAL’ http://elections2014.tolonews.com/update-national-unity-government-done-deal
  • (*6)アフガニスタン憲法上、憲法の改変の権能は、長老・有識者により構成されるロヤジルガ(国民大集会)にある。
    • 元東京財団研究員
    • 宮原 信孝
    • 宮原 信孝

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