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第3回 新しい地域再生政策研究会報告

October 20, 2009

研究会概要

○日 時:2009年10月8日(木)18:30-21:15
○場所:東京財団A会議室
○出席者:
清水 愼一(地域活性化伝道師、?ジェイティービー常務取締役)
松本 大地((株)商い創造研究所代表取締役)
吉永 憲((株)共同通信情報企画本部次長)
関係省庁政策担当者
(東京財団)
赤川貴大(東京財団政策研究部研究員兼政策プロデューサー)
井上健二(東京財団政策研究部研究員兼政策プロデューサー)

議事次第

1.開会
第2回研究会での議論等のレビュー
2.ゲストスピーカー報告
演題:『地域再生の実践例から地域再生のあり方を考える』
報告者:清水愼一氏(地域活性化伝道師、(株)ジェイティビー常務取締役)
3.報告を踏まえた質疑、意見交換
4.今後の研究会の予定等について
5.閉会

前回研究会の議論等のレビューを行った後、ゲストスピーカーの清水愼一氏(地域活性化伝道師、?ジェイティビー常務取締役)から、これまで関わってこられた地域再生の実践例から地域再生のあり方、特に地域における活性化の取組推進のための仕組みづくり等についてご報告を頂き、その報告をもとに意見交換を行った。以下は主な内容である。

【ゲストスピーカー報告要旨】

○観光立国、観光立県ということで、いわば観光による地域再生が全国各地で進められている。定住人口が減る中で、交流人口を増やし地域を活性化していこうというのが観光の主たる目的だが、これが本当に地域にとってどういう意味あいなのか、具体的にはどういう数値的な「目標」とリンクしてくるのか。観光交流による地域活性化、具体的な数値目標あるいは数値の実績、具体的な地域体制といったものに落とし込んでいく必要がある。
○地域における働き場所、生計の途、特に若い人の働き場所・生計の途、それを作り上げることが具体的な目標ではないかと考えている。
○いくら観光で入込人員が増えても、結果的に、「起業」が伴わなければ一過性のものに終わるし、地域でしっかり根付くこともあり得ない。地域に根付き、地域にしっかりとした持続性を担保するには、若い人達の働き場所の創出につなげていくことが大切。観光振興も農商工連携も二地域居住もすべて同じ。そうならない観光立国なら地域から支持されなくなる。
○なぜ西ヨーロッパは根強い人気があるのか。街並み観光がとても根強い人気。日本においても、長崎の「さるく」や別府の温パクのような街歩き、こういうものが今の観光の底流をなしていることから考えると、地域の生き生きとした生活、地域の資源を大事にした街並みといったものが「人」を集めることにつながっている。観光振興は、情報発信が足りない、賑やかしが足りないということではなく、「まちづくり」が大事ということ。
○市場・マルシェがあちこちで見直されているが、採れたてのものが食べられる。京都の町家を再生した宿では、1泊10万円でも稼働率が7割を超えていて、日本人観光客も「暮らしの体験ができるきちんとした宿泊施設」であれば10万円でも払っても泊ってくれるということが分かる。この宿のキャッチフレーズは「京都の住民になった感じがします」。京都以外の地域でも古民家の再生が進められている。
○最近の観光は大きく変わってきた。その背景は色々あるが、団体旅行の減少、リピーターの増加、地域への回帰など。お土産を選ぶ時も、地場産品でないものは購入されなくなってきている。地元の食材を使ったお土産を作れば確実に売れる。そういう意味では地域にとっていい時代が来たといえる。
○旅行業界、宿泊業界、交通機関など観光関係者だけの観光協会では機能しない。これからの観光は地域ぐるみ、「地域の暮らし」がメインになるので、「食」であれば地域の農協、イベントを開催するとなると警察・道路管理者等にも参加してもらわないと上手く進められないので、こうした主体の参加なくして観光振興はできない。街なか観光や街歩きはヒューマンスケールな都市づくりが基本になってくるが、まだ十分できていない。
○観光地の平均宿泊単価の差は、しっかりとしたまちづくりをやっている地域とそうでない地域とで歴然とした差が出てきている。ヒューマンスケールの心地良さが大切になってきている。
○これまでの観光振興、地域振興のやり方を変えていく必要がある。行政主導で住民の盛り上がりが欠ける、箱モノをつくることに一生懸命でその後の活用を議論しない、イベントが一過性のものに過ぎない、といったことは反省すべき。
○観光立国や地域再生と言っているが、具体的な数値目標、地域における貢献を明らかにする必要があり、それが理念や目標になっている必要がある。言葉はいくら美しくても、その中身が具体的に連動していなければ意味をなさない。
○観光振興や地域振興では、抽象的な目的ではなくて、具体的に「起業」といったことを考え、具体的な数値目標を作って進めていくことが大切。例えば、「若者が地域を支える」といった地域づくりを目指すために「起業」を促進するというのであれば、「10年間で100人の働き場所を作っていく」というような具体的な目標を掲げる、あるいは「農林業」については、「農商工連携で10件の認定を受け、1億円の売り上げを上げ、10人の雇用を作ろう」というような具体的な数値目標を掲げて取り組むことが大切。
○具体的な数値目標を掲げること、住民の声を聞くこと、そして農商工連携、・着地型観光、子供農山村プロジェクトや空き家改修など、どこでもやっているプロジェクトだが、これを個別に実施するのではなく、トータルとして取り組むことが大切。さらに、最初の2-3年の立ち上げは公的セクターからの支援は必要だが、それ以降の補助金は不要になるような自立型のモデルをつくりあげることが重要である。
○地域に誇りを持つことは当たり前だが、同時に地域が希望を持てなければいけない。そのためには将来の姿を見通していく中で、ビジネスが見えなければいけない。
○まちづくりを進めていく上でのポイントは「連携」。「地域内の多様な担い手の連携」と「地域外との連携」が必要。
○国の支援制度は、パートナーシップを組まない限り補助金を出さないようなEUのLeader事業のように、必ず地域内の多様な担い手の連携をすることを必須条件とし、そうでないような地域や事業には支援をしない、補助金を出さないような制度にすべき。パートナーシップを組まない限り、地域再生をやっても効果があがらない。
○持続的な組織とすることも大事。「連携」組織は最終的に地域経営の事業組織、コンソーシアムになるべき。行政、観光協会や商工会、それぞれが人と金を出し合って、新しい地域経営事業組織をつくることが望まれる。成功しているところは、横断的な地域経営事業組織体をつくっているところが多い。
○国の施策では、人材育成として専門家・指導者などのアドバイザー派遣が多いが、ほとんど成果はでない。地域は大変な人材不足。地元NPOのコーディネーターになるような人に5年間の人件費を出すような制度をつくる方が成果は期待できる。さらに言えば、国のキャリア職員を、国が人件費を負担する形で、合併していない市町村へ派遣するといったことぐらいやらなければ地域再生は実現しない。

【意見交換ポイント】

○地域に入り込む有識者等は、無責任なアドバイスをするだけではなく、責任をもって地域と関わっていくことが大切。
○国家公務員には、5年間程度、合併しなかった市町村の地域再生担当の職員として、国が人件費をもつ形で派遣するようなことを考えてほしい。どんなに素晴らしい首長がいても、そういう市町村には首長の指示を受けて動ける人材がいない。
○地方では特に基幹産業である農林水産業や食を核に、持続可能となるように幅広い関係者がコンソーシアムを組んで、ビジネスを興していくことで、地域が持続できるようにしていくことが重要。
○その地域にいることで飯が食えるように地域をしていかないと若い人、優秀な人は地域に残らない。地元の高校を出ても、就職先が行政ぐらいしかないので、8割以上が都会に出ざるを得ないという地域もあるが、その地域から都会にでた人に話を聞くと、働き場所があれば戻りたいとの意向を持っている人が多い。地元に雇用先をどう起こしていくかが大切になってきている。雇用先は「確保」するもの、天から降ってくるものではなく、自ら起こすしかない。
○若手と長老グループの意見の対立や実力者間のしがらみはどこにでもある地域再生を阻む要因だが、これをどう解きほぐすかが地域で物事を動かす鍵になる。地域住民が見ている前で、長老等で構成される実力者会議を開催し、物事を決めていくと上手くいくことが多い。そういう仕組みを地域に作り上げ、進めていくことが大事。
○地域活性化を進める上でファシリテーター機能が大事。国・地方ともに行政の職員がこうした役割を果たせるような経験を積んでいくことが大事。
○農業の個別所得補償制度では、頑張っていない農家にも一定の収入が入ることになり、地域の活性化にはつながらないのではないか。農業が「産業」として食べていける農地面積の規模はどれぐらいかといった議論があって、それにふさわしい農家に対象を限定して個別所得補償を行うなどの工夫が必要ではないか。
○農地の転用が急速に進んでおり、これをどう規制していくかが大事。規制緩和の流れでルーズになってきている。魅力的な地域が生き残れるかどうか、これに大きくかかわってくる大事な問題。農地の転用による無秩序な開発は農振法で守られなくなり、市街化調整区域の規制で何とか守られている状態だが、都市計画は自治事務ということもあり、実力者からの要請で首長が規制を外してしまうといったケースも多くみられるようになっており、地方分権は大切だが、その弊害も出てきていることから、こうした動きをどう規制強化していくかも今後考えていく必要がある。


文責:井上

〔参考:研究会配布資料〕
■ゲストスピーカー報告資料:『地域再生の実践例から地域再生のあり方を考える』(4.01MB)

    • 元東京財団研究員
    • 井上 健二
    • 井上 健二

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