第8回 新しい地域再生政策研究会報告 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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第8回 新しい地域再生政策研究会報告

February 10, 2010

研究会概要

○日 時:2009年1月14日(木)18:30-21:15
○場 所:東京財団A会議室
○出席者:
朝倉 はるみ ((財)日本交通公社主任研究員)
板垣 欣也  (マネージメント・デザイン・オフィス代表)
伊藤 淳子  (NPO地域コミュニティ情報推進協議会理事)
猪尾 愛隆  (ミュージックセキュリティーズ(株)取締役)
梅川 智也  ((財)日本交通公社調査部長)
小林 洋光  ((株)トビムシ法務/事業管理統括)
十代田 朗  (東京工業大学准教授)
松本 大地  ((株)商い創造研究所代表取締役)
吉永 憲   ((株)共同通信情報企画本部次長)
関係省庁政策担当者
(東京財団)
赤川 貴大  (東京財団政策研究部研究員兼政策プロデューサー)
井上 健二  (東京財団政策研究部研究員兼政策プロデューサー)
斉藤 弘   (東京財団政策研究部上席研究員) 他

議事次第

1.開会
○第7回研究会での議論等のレビュー
2.ゲストスピーカー報告
演 題:『志のある資金を生かした地域再生方策』
報告者:猪尾 愛隆 氏(ミュージックセキュリティーズ(株)取締役)
小林 洋光 氏((株)トビムシ 法務/事業管理統括)
3.報告を踏まえた質疑、意見交換
4.今後の研究会の予定等について
5.閉会


前回研究会の議論等のレビューを行った後、ゲストスピーカーの猪尾愛隆氏(ミュージックセキュリティーズ(株)取締役)及び小林洋光氏((株)トビムシ 法務/事業管理統括)から、こだわりのあるものづくり等の取組に共感する人たちから小口の資金集め、応援のためのファンドを組成し、出資者皆でこの取組を支えながら、ビジネスとしても成功させていこうという事業を展開されているミュージックセキュリティーズ(株)の取り組み並びにこのファンドを活用し、岡山県西粟倉村を中心に100年の森づくりを展開されている(株)トビムシの取組の例を踏まえ、志ある資金を活かした地域再生方策等についてご報告を頂き、その報告をもとに意見交換を行った。以下は主な内容である。

【ゲストスピーカー報告要旨】

(ミュージックセキュリティーズ(株) 猪尾氏報告)
○2001年から最初はレコード会社と音楽ファンドからスタート、その後ファンドは様々な分野に水平的に展開。社員15名、その半分はファンドなど金融的な業務を担当。
○音楽以外のファンドは、2006年からスタート。飲食店立ち上げ費用をファンドにより集めた。2007年には3年熟成純米酒を酒蔵がつくる費用をお酒のファンからファンドにより集めた。
○2008年からインターネット上で事業者さんが個人の方から直接資金を調達できる仕組み、プラットフォームをスタートし、事業分野が広がっており、約70本のファンドを造成している。音楽が多いが、日本酒、飲食店、マイクロファイナンス、天然藍染ジーンズ、米や東京ヴェルディ運営資金などのファンドに取り組んでいる。
○たとえば、米のファンドだと、集めた資金で米を作り、売上に応じて返金するが、販売不振の場合は、残った米で返済するというスキーム。
○東京ヴェルディ運営資金ファンドは立川市等4市のホームタウンのファンから一口約2万円を調達、その資金をもとに練習場の整備費用等に使用、2年間分の試合収入の一部を分配するという仕組み。試合収入が不振の場合は、チケットで来年分を返済する。お金又はチケットで戻ってくるという仕組みになっている。
○ファンドとスポーツの分野は相性がいい。メディアにも広く紹介。少しでもいろんなスポーツクラブの役に立てればと思っている。
○事業の方向性やモデルの変化に合わせ、金融も変化が必要。農業など今まで行政から支援があった分野について、農業の所得補償のように、政策の方から補助金で補償されるアプローチもあるが、一方で「日本国民みんなにとって必要」、「税金でやるべきだ」というコンセンサスがとれにくくなってきている。そういうソーシャルな分野の事業がファンドの対象になっている。もう一つは、藍を育てるところから作るといったファストファッションからは逆行しているこだわりのある取組をする事業者の取組が対象となっている。
○事業の多様化に伴い、その事業を生み出すためのリソースももっと多様な形があっていいのではないか。出資の際に、利回りだけではなく、いろんな価値観で事業を応援するというのがあってもいい。それぞれの人がそれぞれの思いで出資ができるようなプラットフォームづくりがコンセプト。
○プラットフォームを利用する事業者の事業の目的、事業内容、事業者の人柄等を、共感できる方にメッセージを届け知ってもらうプロモーション、コミュニティへの構築・誘導、ファンド造成支援の3つのサービスを提供。
○実際の出資者の内訳は30代から40代がほぼ8割。男性が約7割。全体の会員は、現在2万3,000人ぐらい。出資動機は、アンケートによれば、「利益が出そうだから」という動機は少なく、「その事業が好きだから、応援したい」が最も多くなっている。
○酒のファンドを例にみると、ファンドで集めた資金は酒米の購入資金に充てるなど事業そのものに使い、販売額の分配比率を変えながら、投資家のリスクリターンと、事業者のリスクリターンを調整、双方にとってフェアとなる設計にしている。あくまでも事業の分配金を得る権利があるという契約。契約形態は匿名組合契約。
○投資家からは、1口1万円、3万円、5万円ぐらいの少額出資とし、上限100万未満にとしている。リターンは商品の売上から戻すことを基本とし、お金以外のリターン(=コミュニティリターン)もうまくつくっていくことで、相対的にリスクヘッジをして、投資家にお金とコミュニティリターン両方の合計で満足してもらえるスキームとして設計をしている。
○事業の単位に絞り込むことによって、商品1個売れるごとにリターンが生まれるという事業単位での証券化によりリターンを見やすくし、かつ、価値観を共有する人に参加してもらうことで、お酒の分配とかお米の分配が可能になり、そういう意味でリターンを増やして、そのリスクとリターンの関係をちょっとバランスを変えることで、通常の金融機関ではお金の流れにくかった事業にも資金が流れるように取り組んでいる。当然、事業がうまくいくことが必要で、各事業分野ごとにできるだけ事業ノウハウや目利き力があるリーダー的な事業者と連携し、その事業者にプロデュース的な役割を担ってもらうという事業連携等もやっている。
○質にこだわっている、独自の地域での資産とか文化とか技術を使っている事業というのは地域のほうに多く残っている。日本の3分の2は森。西粟倉村という村は9割が森で、地域にある資源は森しかないので、「森の資源を事業化しなければ地域は再生しない」というのが村長さんのお言葉。また、日本の漁業ができる排他的経済水域の面積は、世界で6位で、日本が持っている天然資源の中で世界ランクがいちばん高いのは海。その自然資源が活用できていない。その森などの資源をどうやって事業化するかとが大切な課題で、ファンドという手法でこうした手伝いをしたい。
○都市に集中しているマネジメントスキルや事業プロデュースのできるスキルを持った人が地方に行きやすいような環境や投資が必要。

((株)トビムシ 小林氏報告)
○地域の資産という意味での林業がまったく活用されておらず、どこに行っても「林業は衰退産業」と言われて久しいが、日本には3分の2以上が森で、これを何とかしないと地域の再生はできないと考え、去年の2月に設立。社員6名。
○地域の眠れる資産に光を当てて、そこに共感する人の力を持って、地域にそれを注いで、地域をそこから蘇らせていく。「百年の森」と象徴的に言っているが、持続可能な社会をいかにしてつくれるか。田舎に戻ってもそこに仕事があり、子育てもできて、さらに税収があり治体もきちんと回っていくという経済圏を地域、地域で確立できるような仕組みをつくりたいというのが目指すところ。
○トビムシの事業は、コミュニティの人と人とのつながり、地域に根ざした文化や歴史を大切にし、地域や森をもう一度つなげる「再びの共有化」して、林業等を活用していきたいと考えている。さらに、インターネットを活用し、地域の自治体と一緒になって地域情報の発信を通じて、新たな動きを起こしていくことを主眼に置いている。
○林業の衰退の原因に科学的に光を当てて、近代的な経営の採用、販売の工夫や森林ツアー等を「共有の森ファンド」という仕組みを通じて実現。都会から地域への移住・定住を究極的に目指し、まずはその入り口としてのファンドという位置づけ。
○鳥取県・兵庫県との県境の西粟倉村では、人口1,600人、500世帯ぐらいあるが、ほぼ全世帯が山主。若者の流出や木材価格の低迷で、なかなか施業できないところを受け継いで、若者を呼んで、ここできちんと事業を回していくという小口集約型スタイルを採用。
○日本の森は、戦後の植林が急速に進み、50年、60年生で収穫期を迎えている山が相当ある。木は適切に間伐し、手を入れるからこそきれいな山ができ、洪水や土砂災害もない森になる。
○われわれの取組に共感し、2年間で31名のIターン者が村に移住。村や森林組合からの求人や子会社「森の学校」でスキルの高い人を募集、3年間修業し自立するモデルに取り組んでいる。
○共有の森ファンドで、投資した人のとのつながりができたので、東京で「西粟倉村挑戦者の「集い」という就職説明会を実施、盛況であった。ここでは、共有の森ファンドへの資金の投資あるいは人生や想いの投資としての百年の森構想への就業という形での参加を募っている。
○トビムシは木材のマーケティングを担当。共有の森ファンドは、ミュージックセキュリティーズのプラットフォームを活用し資金を集め、これを林業機械の購入資金に充て、その購入した林業機械を組合にレンタルすることで得られるレンタル収入と売上に応じて村から得る「販売支援報酬」を配当の原資、返済原資として、安定したリターンをお返しする仕組み。
○都会に住んでいて直接事業には参加できないが、取組に関心、興味がある方々から、意志のあるお金を頂戴し、 “ファン”になってもらい、きのこを味わってもらったり、森が徐々に徐々によくなっていく過程を楽しんでもらい、さらには、たまに森を訪れて交流を楽しんでもらうといった価値を見出していただく、新たな形のファイナンスだと考えている。
○投資者は、林業や森のある暮らしを子どもに伝えたいといったところに共感する方が9割以上。投資の商品としては、1口5万円で募集、期間10年。ファンとして長い間お付き合いいただいている。
○出口のところをどうしていくか。木のある暮らし、ライフスタイルを提案。「地域商社」との位置づけの「森の学校」を設立、廃校を活用し、厚生労働省や総務省の補助金も活用し、若いデザイナー、木工職人、ウェブデザイナー等を採用、少数精鋭で地域にある資源を再構築し、都市に再発信して知ってもらうという作業をしている。
○「森の学校」は、出てきた森林資源を素材として、産直住宅事業や木の良さが伝わる内装材の開発など、積極的に活用し、西粟倉材をアピールしたり、投資家限定の森林ツアーの企画を提案・実施。地域メディアへの情報発信、しいたけや家具のウェブショップでの販売など。
○地域の魅力の再編集や地域と都市の関係性の再構築が大切。

【意見交換ポイント】

○共感をベースに小口のファンドを造成し、これまで地域金融で手当てできなかったような事業に対して資金を流していく仕組みは画期的。
○ファンド組成には目利きが大事で、これはキーとなるノウハウをもった事業者と組んで対応している。
○国の雇用支援のための補助金はありがたい。3年間という期間限定だが、その3年でスキルを身につけて、その補助金がなくなってもきちんと暮らしていけるスキルの習得を目指している。
○コミュニケーションの設計の際に大切なのは、自分とも関係あると自分事化してもらこと。入口は、わかりやすく楽しい、うまいといった要素の用意が大切。その上で、よくよく聞いてみると魂が入っていて奥が深いといった二段構成でのコミュニケーションが重要。
○このファンドには仲間を集めることとカネを集めることの2つの側面があるが、仲間集めのニーズのほうが大きい。単なる資金集めではなく、事業のことをわかってくれるお客さんとつながりたいという考えから、このファンドのスキームを利用する事業者が多い。
○ファンドはゲーム感覚があるから参加しやすいので、これは伸ばすとよい。変に悲壮感があると行き詰まりが出てくる。小口であるということが利点。小口であるからゆえにゲーム性あり、より投資家は集まる。その中にちょっと社会貢献というくすぐりもある。ゲーム性+プラスアルファでスパイスとして社会貢献的なものが投資家の心をくすぐる。
○証券税制の見直しができないか。匿名組合出資はいわゆる 証券税制の範囲外になっていて、みなし有価証券に分類されており、利益について証券税制では20%控除されるが、匿名組合出資は雑所得になるので控除が適用されず、年収が高い方だと50%程取られることになる。できれば税控除がされるとありがたい税控除対象になると、ある種安心感も投資家に持ってもらえる。
○リスクの高さから、将来的に地方での暮らしを希望するも躊躇して踏み切れない人の背中を押す支援があるとよい。人が流動する仕掛けが大切。事業プロデュースをできる人や自分で事業モデルをつくれる人が行きやすいような仕掛けを作ってくことが大切。移住に際し、当面の給料はある種補助金で支援できればなおよい。
○シンガポールでは、奨学金は出すが、それで他国に留学してMBAを取ったら、必ずシンガポールに戻って5年間自国で働かなければならないという奨学金もあると聞く。その地方版があってもいいのではないか。
○国の林業に関する補助金の補助対象が森林組合や協同組合に限定されていて、株式会社には出せない状況。公庫融資でも対象者が「林業に携わっている者」となっているので、融資の相談をすると、「山を持ってる人」ら対象と言われ断られてしまうのが実態。農業では株式会社が土地を借りられるようになったが、林業は農地法のような規制はないがん、補助金の対象者の縛りが大きい。メニューも多様化しすぎて、担当者も把握していないという笑い話もあるほど。株式会社といった今までと違った業態にも公的なお金がきちんと回るような仕組みを整えるべき。
○生活保護の支給のあり方も検討すべき。月21万円程度が支給されているとの話もあり、簡易宿泊所の多い曙町には月10億円ぐらいが流れているとのこと。低所得者向け簡易住宅を上手にリノベーションし、明るい街にして、外国人観光客等が利用可能なビジネス展開をしていたが、生活保護の人向けの簡易宿泊施設の需要が高く、十分それで賄えるので、街をみんなが入ってこれるような明るい街にしようという取組が中止されるということも出てきており、問題。


文責:井上

〔参考:研究会配布資料〕
■「tobimushiと共有の森事業」概要【2.68MB】

    • 元東京財団研究員
    • 井上 健二
    • 井上 健二

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