放置土地を持続可能な地域づくり・国づくりに生かす――グリーンインフラ、ナショナル・トラスト、生態系ネットワーク

関健志

公益財団法人日本生態系協会事務局長

はじめに――生態系を土台とした全国規模の土地利用構想

 「生態系」の核と位置づけられる生物多様性が、日本で危機的な状況にある。環境省が今年(2018年)5月に公表したレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)では、昨年から41種増加して3,675もの種が絶滅危惧種とされた。同省が2016年3月に作成した「生物多様性及び生態系サービスの総合評価(JBO2)報告書」によれば、生物多様性の状態は長期的な悪化傾向が続いている。生物多様性の恵み(生態系サービス)が私たちの生活の土台であることを踏まえると、こうした状況は深刻な影響をもたらす。

生物多様性が守られた、あるいは再生された持続可能な地域づくり・国づくりに向けて、国土全体で、今ある自然を恒久的に守り、さらに過去に失われた自然を取り戻していかなければならない。それはすぐに結果が見えるものではなく、50年後、100年後の目指すべき国土の将来像を明確にして、長期的・計画的に取り組んでいくことが重要である。

生物多様性の観点から国土全体の将来像を地図化する議論としては、2008年度に環境省の全国エコロジカル・ネットワーク構想検討委員会が全国レベルのエコロジカル・ネットワーク(生態系ネットワーク)の将来図を作成している例があり(図1)、河川を基軸とした取り組みなどを通じて少しずつ実現に向かっている部分はある。

管理がなされないまま放置されている土地の問題が顕在化しているなかで、改めて生物多様性の観点から国土管理のあり方について議論することが求められる。

図1 全国エコロジカル・ネットワーク構想(案)

 

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注:例えば、森林地域について、クマ類やイヌワシ、クマタカに注目し、それらの生息に適している地域を分布情報や数値モデルにより抽出し重要地域等と位置づけ、また、自然林に隣接した二次林については将来、自然林に戻っている姿を地図化している。「将来図」では、自然林化した二次林の緑色が「現況図」と比べて濃くなり、また、生きものの移動・分散経路が回復したイメージについて、矢印を増やして示している。(出所:全国エコロジカル・ネットワーク構想検討委員会「全国エコロジカル・ネットワーク構想(案)」2009年。事務局:環境省、日本生態系協会 )

自然の多面的な機能を生かす「グリーンインフラ」の考えの導入

山の斜面に広葉樹の樹林帯を整備したり、低い土地に遊水池として湿地環境を創出したりすることで、土砂災害や洪水による被害を防止・軽減するほか、地域づくりの場などとしても役立てる取り組みが、近年「グリーンインフラ」という言葉で注目されるようになってきている。2015年に策定された国土形成計画(全国計画)では「社会資本整備や土地利用において、自然環境が有する多様な機能(生物の生息・生育の場の提供、良好な景観形成、気温上昇の抑制等)を積極的に活用するグリーンインフラの取組を推進する」こととしている。グリーンインフラは多面的な機能を発揮するだけでなく、コンクリート等の人工物を用いたインフラと比べて整備や維持管理に必要な費用が長期的には少なく済むことからも、人口とともに税収の減少が見込まれる今の日本に即しており、今後の国土管理にあたっては欠かせない考え方である。(ここで、その地域本来の自然にふさわしくない外来種などの植物を植えるような取り組みは、「緑」に関するものであっても「自然環境」とはいえず「グリーンインフラ」と言い難いことに注意が必要である。そのような意味では「自然環境インフラ」、「生態系インフラ」と呼ぶ方が適当といえる。)

グリーンインフラにはさまざまな定義があるが、欧州連合(EU)による「幅広い生態系サービスが提供されるように、戦略的に計画された自然地域・半自然地域のネットワーク」が的を射ている。日本においても自然環境の多様な機能、すなわち生態系サービスを享受するためには、生物多様性の保全・再生に資することが前提である。そして自然をネットワーク化するという視点は、生きものの移動・分散経路を確保するために欠かせない。この考え方は、まさしく「生態系ネットワーク」と共通する。

人口が減少し、放置されている土地が全国で増えている今、それらの場所を自然に戻していくことで、国土全体にグリーンインフラの考えを導入することが可能である。残念なことに、今なお全国の各地では、自然を壊してさまざまな規模の開発が進められている。人口を維持しなければならないことや、土地を何かに利用しなければならないことを当然のこととしてしばしば政策が議論されているが、そうした強迫観念から逃れる必要がある。

まず、日本の人口が減少傾向に転じたこと自体は悪いことではない。エコロジカル・フットプリントという、私たちの生活が生態系にどのくらいの負荷をかけているかを示す指標がある。消費した分の食料を得るために必要な農地や海の面積、排出した二酸化炭素を吸収するのに必要な森林の面積など、今の生活を維持するのに必要となる資源の量を土地の面積に換算する指標である。JBO2では、日本のエコロジカル・フットプリントは、国内において持続可能な形で生産できる資源の量の4.2倍にのぼるとされた。生活の物質的な豊かさを見直すことも示唆されるが、そもそも日本の国土において今の人口を維持していくことは現実的ではない。

また、自然災害の多い日本において、崖のすぐそばや谷の出口など土砂災害の発生しやすい土地や、洪水による氾濫危険度が高い川沿いの土地などは宅地等として利用するのには適していないにもかかわらず、これまでそのような場所でも盛んに開発が行われてきた。それを一つの原因として、近年では従来のインフラで防ぎきれないほどの事象が起こるたびに、さまざまな場所で甚大な被害が生じている。気候変動によって今後ますます異常気象が激しさを増すことも見込まれるなかで、本来人が住むのに適していない場所でインフラを整備して土地の利用の維持・拡大を図ることを繰り返してはならない。そうした場所では新たに住宅地・商業地等として利用することを禁止するとともに、すでに利用がなされている場合は計画的に撤退していく必要がある。

自然を守るために土地の利用を避け、または利用されなくなった土地を自然に戻していくという考え方は、行政においてもこれまで断片的には示されている。土地基本法が公布された1989年の国土庁(当時)による通達「土地基本法の施行について」は「適正な土地利用には、自然環境の保全、公害の防止その他環境の保全に十分配慮した土地利用が含まれるものであり、この場合には、特段の利用がないことも適正な土地利用に当たるものである」ことを明記している。また、2015年の国土利用計画(全国計画)は、荒廃農地やゴルフ場・スキー場の跡地について森林への転換、自然環境の再生などを進めていくことを記している。なお、同様の考え方は、森林・林業基本計画や環境基本計画、生物多様性国家戦略においても示されている。

ナショナル・トラストを大規模に推進・展開

放置されている土地の増加を好機として、今後、国土全体にグリーンインフラの考えを導入していくにあたって、具体的にどのような手法をとることができるか。寄付金を募って土地を取得し、重要な自然地を守るナショナル・トラスト活動を行っている全国各地の団体が大きな役割を果たすことが期待される。

ナショナル・トラストがその役割を担うためには、現時点ではいくつかの課題があり、その解決が強く望まれる。それについて以下の①で取り上げるとともに、それらの課題をクリアしたうえでの提案を②と③で述べる。

図2(公社)日本ナショナル・トラスト協会のトラスト地

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注:2018年10月現在。地図中の番号は取得の順番を示す。

本図に示した同協会のトラスト地のほか、ナショナル・トラストの手法で自然保護に取り組むNPO等(48団体)が管理している土地も合わせると、2018年4月時点で約1万5,700haの自然がナショナル・トラストによって保護されている。(出所:同協会ウェブサイト) 

① ナショナル・トラスト団体に対する支援の拡大

国土の将来像を地図化するにあたって、まずは各自治体において50年後、100年後の将来を見据え、利用されない土地が増えていくことを念頭に置きつつ、広域の視点からどのように自然を保全・再生し、ネットワーク化していくかを示す構想・計画図を作成することが重要である。そのうえで、今残されている自然やこれから自然に戻していく重要な土地については公有地化して開発から将来にわたって守られるようにすることが望ましい。その際、自治体だけで土地を買い取ることが難しい場合はナショナル・トラスト団体と連携することが考えられる。公益社団法人日本ナショナル・トラスト協会では、北海道黒松内町にある道内最古の貴重な高層湿原である歌才湿原について、2015年にキャンペーンを実施して全国から寄付金を募り、同町と共同で購入している。

ナショナル・トラスト団体は全国各地に存在し、日本の自然の保護に大きく貢献しているが、その実力が遺憾なく発揮されるためには解決すべきさまざまな課題がある。特に税制について、個人がナショナル・トラスト団体に土地を寄付する際に譲渡所得税が非課税となるかどうかが寄付の時点において明確でないことや、ナショナル・トラスト活動により取得した土地に対する不動産取得税や固定資産税が自治体によっては非課税または減免とならないことがあげられる。また、その土地が周辺に迷惑を及ぼさないように維持管理する必要がある場合は、そのための費用の負担も課題となる。ナショナル・トラストの発祥の地であるイギリスでは、ナショナル・トラスト活動にかかる税に関して、法律によりさまざまな優遇措置を定めている。日本においても同様に国としてナショナル・トラスト活動に関する税を非課税としたり、そのほか必要となる費用を援助したりするなど支援策を充実させていくことで、その促進を図ることが求められる。

② 放棄された土地の受け皿としてのナショナル・トラスト団体

土地を放棄したいと考えている所有者が多く存在するなかで、それを可能とする仕組みについての議論が国においてなされている。そこで、放棄された土地の受け皿をどうするかということは一つの大きなテーマであるが、①で述べたような課題をクリアできるのであれば、ナショナル・トラスト団体はそれに対する答えとなりうる。放棄された土地が重要な自然地ではなく人工林や荒廃した原野などの場合でも、一定の管理を経て森や湿地などの自然に戻していくことを前提に、ナショナル・トラスト団体が所有することは、将来的に国民にとって大きな財産となる。

なお、日本ナショナル・トラスト協会では、優れた自然環境とされる土地でなくとも、日常的な管理が必要とならない山林や原野等(不法投棄や倒木のリスクが高い道路沿いの土地を除く)について、これまで数多く寄付の相談を受け、実際に取得してきた。里山環境のような維持管理が必要な土地についても、地元NPO等と連携して維持管理が行える場合は、受け入れた事例がある。

 

③ ナショナル・トラスト団体による所有者不明土地の取得

所有者が不明のまま放置されている土地についても、自然地として残し、または自然に戻していく視点をもつことが重要である。その場合、自治体やナショナル・トラスト団体が直ちに所有権を取得することは難しいが、一定の期間を経た後にそれを可能にする仕組みができないか。例えば、自治体が自然地とすることと定めた土地について条例等で位置づけて、自然に戻すことを前提に所有者でなくとも最低限の管理を行えるようにし、一定期間(10年程度)を経た後に、管理を行ってきた者が引き続きかつ恒久的に適切な管理を行うことを条件に所有権を取得できるようにする仕組みなどが考えられる。

50年後または100年後、山には自然の森が、川辺や海辺には広大な湿地が再びよみがえり、都市や農山漁村内の身近な場所でも生物多様性が保全・再生され、多様な生態系サービスを享受することができる――そのような生態系を土台とした持続可能な地域や国へと今の状況を変えていく方向に、放置土地問題の解決を結びつけていく必要がある。

 

参考文献:

エコシステム」No.154(2017年11月、公益財団法人日本生態系協会発行。特集「空いた土地 使わない土地――もとの自然を取り戻す」)

  

関 健志(せき たけし) 

198890年、財団法人日本鳥類保護連盟研究員としてキングマヘンドラ自然保護財団(ネパール)に2年間派遣される。その後、同主任研究員として主に野生鳥類、哺乳類の調査研究に従事したのち、1991年、サウジアラビア野生生物救護センターに派遣される。1992年より公益財団法人日本生態系協会、2004年より公益社団法人日本ナショナル・トラスト協会の事務局長を兼任し、持続可能な社会の形成に関するさまざまな業務に従事している。

   

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