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オバマ外交3か月と日米関係・米欧関係(1)

April 21, 2009

東京財団上席研究員
久保文明

はじめに

バラック・オバマ大統領による3月末からのヨーロッパ歴訪は、その期間も長かったが、内容も盛りだくさんであった。

オバマ大統領の政策は、内政でも外交でもきわめて野心的であるといえよう。多くの分野で政策の大きな転換を図ろうとしている。内政では大型景気刺激策の実施、健康保険制度の改革、環境・エネルギー政策の変化、財政赤字の半減などが企図され、外交では、イラク撤退、アフガニスタンでの戦略転換、ロシア・イラン・シリア・キューバなどの国々との関係の変化、中国との協議の拡大、地球温暖化対策や核不拡散への取り組み強化など、実に多くの政策を変化させようとしている。北朝鮮に対してはすでに、ただちに対話を開始することは容易でないことが明らかになったが、他の政策領域については今後の展開をみるしかない。このうちのごく一部でも成功すれば、それなりに画期的な成果となろう。

オバマ大統領の最初の3か月の外交について、以下、アフガニスタン問題を軸としてヨーロッパ諸国との関係と日本との関係を比較しながら論じ、さらに日米関係に対する含意を考察していきたい。

ロンドン:G20サミット

ここでは、政府による大型の景気刺激策を求めるアメリカと、それに消極的なドイツやフランスとの対立が当初大きく伝えられた。アメリカは当初、自らが実現したGDP2%相当の景気刺激策と同程度の財政支出を各国に求めた。日本や中国はそれに同調したグループであったが、必ずしも他の国々に支持は広がらなかった。どの程度根本的かつ深刻な対立であったかどうかはやや疑わしいが、この「対立」ないし「大きな溝」をメディアが大きく伝えていたことは確かである。また、サルコジ大統領は会合前にメルケル首相と共同記者会見を行い、大型の政府支出に断固反対することを表明した。フランスは満足の行く成果が得られなければ、共同声明に署名しないことまで示唆していた。

結局、第2回主要20カ国・地域(G20)金融サミット(首脳会合)は4月2日、2010年末までに実質経済成長率2%を達成し、世界経済を回復軌道に乗せる目標を掲げた首脳宣言を採択して閉幕した。各国の景気刺激策は来年末までに計5兆ドル(約500兆円)にのぼり、国内総生産(GDP)で4%を押し上げる効果があることも明記した。IMF(国際通貨基金)などを通じた1兆1,000億ドル(約110兆円)の融資枠を設けるなど具体的な数値を示し、危機脱却と景気回復に向けた意志を表明した。

開幕前にさかんに伝えられた追加の財政出動をめぐる欧米の対立や、発言権の向上を求めるBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)など新興国との調整の難航も、最終的にはそれほど深刻な問題とならなかった。

その一つの原因は、オバマ大統領が結局、一方で追加財政出動の数値目標を断念し、他方で金融規制強化に応じるなど、いろいろな形で欧州に歩み寄る姿勢に転じたからであろう。

ただ、タックス・ヘイブン(租税回避地)の規制強化では、制裁も辞さないとするフランスと、そこまで求めない米国、日本、中国などが対立した。大筋で合意したものの、具体策までは詰められなかった。

オバマ米大統領は2日、同日閉幕したG20が世界の経済回復に向けた「転換点」になるとの考えを表明した。米大統領は会議後の会見で、今回のサミットを「歴史的」で「成果に満足している」と評価した。「世界経済の回復に向けた転換点になると信じる」と述べた。同時に、一連の政策について「効果があるまで追加の対策をとることになるだろう」とも述べ、危機対応を続ける必要性を強調した。しかし、結局のところ、オバマ氏の個人的人気をもってしても、20カ国の中で大きな影響力を発揮するには至らなかったといえよう(オバマ大統領の一連の発言は ホワイトハウスのサイト を参照)。ただし、興味深いことに、ここで、アメリカとの相違を際立たせたサルコジ大統領は、この後のNATO会合では、違った役割を演ずることになる。

アメリカ:高まる反戦感情

2009年2月18-19日に行われたCNNニュースとオピニオン・リサーチ・コーポレーション共同の世論調査は、ここ数年間顕著になっていたアメリカ国民のアフガニスタン戦争に対する態度を、あらためて確認させてくれるものであった。すなわち、一進一退ながらも、戦争に対する支持は50%前後を行き来し、基本的には反対意見と拮抗状態にある。最新の調査では、賛成が47%、反対が51%であった。

本年3月26-29日に行われたABCニュースとワシントンポスト紙による類似の調査では、賛成が56%、反対が41%であった。ただ、質問の仕方がやや違うようである。前者では以下の表にみるように、「アフガニスタンでのアメリカの戦争を支持するか、反対するか」と単刀直入に聞いているのに対し、後者では「アメリカに対するコストと便益を総合的に考慮すれば、アフガニスタンでの戦争は戦う価値があったか、なかったか」と聞いていることに留意する必要がある。ただ、後者においてでも、2007年初めころから、賛成は50%から56%の間、反対は39%から47%の間を行き来しており、いわば膠着状態にある。


要するに、アメリカ国民はもはやアフガニスタンでの戦争を強く支持していない。9.11はアフガニスタンを拠点とするテロリスト・グループにより実行された。アフガニスタン戦争には、そもそもアメリカの方が一方的に攻撃を仕掛けられたという経緯があり、アメリカでは自ずとイラク戦争と異なる位置づけが与えられているものの、2001年秋からすでに7年以上経過しているにもかかわらず、情勢は改善するどころかむしろ悪化が伝えられている。国民の間の厭戦気分は相当強まっている。

それに対して、オバマ大統領は就任早々に17,000人の増派を決定した。この決定に対して、先のCNNの調査で63%の回答者が賛成を表明した。4月1-2日に行われたニューズウィーク誌による調査でも、賛成が61%であった。このように、当面、とりあえずアメリカ国民が増派を支持していることが、オバマ大統領にとっては何よりの救いである。

しかし、この支持率は、オバマ大統領自身に寄せられた強い期待による部分も大きいと推測される。大統領の支持率が下がり始める時、増派への支持も落ち込むであろう。より根本的には、アメリカ国民は長期の戦争を容認しない傾向が強い。それがいかに、テロの根拠地に対するものであっても…。基本的に国民の半分弱しか賛成していない戦争を、しかも出口戦略を描きにくい困難な戦争をいつまで継続できるか。まして、増派の効果も、国民の目に見える形で表れてこないとき、政権はさらに戦争を遂行できるであろうか。これが、オバマ政権が背負った深刻な政策課題である。

  • 研究分野・主な関心領域
    • アメリカ政治
    • アメリカ政治外交史
    • 現代アメリカの政党政治
    • 政策形成過程
    • 内政と外交の連関

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