民主党の視点から見た2018年中間選挙:「明日」は見えたのか

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上智大学総合グローバル学部教授

前嶋和弘

2018年11月6日に行われたアメリカ中間選挙を民主党の視点から振り返ってみたい。

 1. トランプ的なものの“浸透”に対する拒否感

上院では共和党が多数派を維持、下院では民主党が制したという選挙の結果については、民主党側から考えてもいくつかの解釈がある。リベラル層にとっては「トランプ人気は一過性のものではなく、かなり根強い」という拒否感に似た反応がおそらく真っ先に来るだろう。

トランプ大統領は今回の選挙では全米を異例の頻度で遊説し、まさに「選挙の司令官(electioneer-in-chief)」といえるような活躍だった[1]。共和党候補が苦戦しながらも逃げきったインディアナ、ジョージア、テキサスなどの各州の上院議員選の雌雄を決めたのがトランプ氏の応援演説だったように思える。特にテキサス州では、2016年大統領選挙共和党予備選ではトランプ氏の最大のライバルとなり、「嘘つき」と罵り合った現職のクルーズ候補がトランプ氏の応援演説を懇願した。

2016年の大統領選挙を席巻したトランプ現象を「泡沫的な政治のサイドショー(見世物)」と切り捨て、「共和党の本流は離反するだろう」とみていた民主党支持者も少なくなかったはずだ。強引なポピュリストで、政治経験がなく、多文化共生的な理念に背を向け、野卑であることをむしろアピールポイントとするトランプ氏の言動。同氏を礼賛する人々について、同選挙での民主党候補だったヒラリー・クリントンが演説で「哀れな人々(basket of deplorables)だ」と呼んだのはリベラル派の視点を象徴するものだった。

しかし、そのトランプ大統領は約2年をかけて共和党の主役となった。大統領の支持率は全体では低空飛行だが、共和党支持者に限っては、支持率は就任以来ほぼ常に8割を超えている。中間選挙直後のトランプ大統領の支持率はギャラップの週別調査(11月5日から11日)では、全体では38%だったが、共和党支持者の中では91%と誤差はあるものの過去最高を記録している。同じく過去最高の91%を記録したのは、選挙戦が佳境に入った10月15日から21日の週であり、中間選挙までの1カ月間は極めて高い支持率を維持している。この動きなどは共和党が「トランプ党」に変貌しつつある事実を示している。共和党がもっと大きく議席を減らすと信じていたはずのリベラル派にとって、トランプ大統領のレファレンダムである今年の中間選挙の結果は自分の信念とは別の世界が着実に広がっている残念な現実そのものだろう。 

2. ユーフォリアなき「大勝利」

リベラル派にとって、今回の選挙の結果を示す受け入れがたいものかもしれないが、一方、民主党が下院で40の議席を増やし、知事選では民主党は選挙前よりも党所属知事を7人増やしたのは「大勝利」であるという見方もある。共和党が多数派を維持した上院も、共和党側が選挙を勝ち抜いたのではなく、選挙制度上、明らかに有利だった。今回改選となった35議席のうち、2012年にオバマ大統領の再選とともに当選した民主党議員の任期6年後の今年の改選が26に膨らんだ。2年前の2016年選挙で上院の共和党と民主党の差が3(現在は引退などもあり、2)だったため、26に加え、この両党の議席の差を加えないと民主党は多数派を奪還できない。最初から圧倒的な差があった。

実際は民主党がかなり優勢だったというのが客観的な見方だったのかもしれない。ただ、そんなユーフォリアといえるような陶酔感は全くと言っていいほどない。これもトランプ氏の戦略だったようにもみえる。選挙当日の開票が進む中、そもそも想定内だった上院での勝利を確信した段階で、トランプ大統領はツイッターで「大勝利だった(Tremendous Success)」と喧伝した。さらに選挙直後の記者会見でも上院で多数派を維持できたことをたたえた。実際に「下院と知事選は民主党、上院は共和党」という「ねじれ」からは、「引き分け」というイメージが広がっていった。

トランプ大統領の迫力に民主党側の明らかな勝利のイメージがかすれてしまっている感がある。本来なら共和党側に「敗北」の責任論や党の立て直しの議論が出てきておかしくはずだが、トランプ氏に気を使うのか、引退議員くらいしか、共和党の危機感を積極的に発言していない。 

3. 2つの方向性

中間選挙を経て、民主党側にとって、2020年、あるいはその後の戦略は、「明日」はみえたのだろうか。いまのところ、2つの方向性が考えられる。

一つの方向性は左派への傾倒である。今回の選挙ではバーニー・サンダース上院議員が2016年大統領選挙での民主党予備選敗退後に力を入れてきた政治団体「Our Revolution」が支援した候補も全米で健闘した。上院、州知事、下院など総計すると330を超える候補を擁立し、そのうち90近い候補者が当選した。

その代表格が今回の選挙で急浮上し、29歳という史上最年少で下院に当選したアレクサンドリア・オカシオコルテス氏である。オカシオコルテス氏はすでにベテラン議員以上の注目を集めており、左派の立場に立ち、社会民主主義をうたうサンダース氏らとの共闘をうたっている。再選を果たし、同じく左派を代表するウォーレン上院議員は大統領選挙への出馬がほぼ確実視されている。

左派への傾倒は分極化の時代の戦略としては間違ってはいないかもしれない。特に人種マイノリティやラストベストの労働者層にとっては所得再配分的な政策を前面に出すことは有効ではある。今回の中間選挙ではペンシルバニア、ミシガン、ウイスコンシンというラストベルト3州での知事選に民主党は勝利している。この3州では大統領選挙で長年民主党が勝利してきたが、2016年の大統領選挙では共和党・トランプ氏が一転して、いずれも勝ち抜けている。その3州での民主党の勝利はラストベルトがまだ民主党勢力内である可能性を示唆しているといっても間違いはない。

また、インディアナ、ジョージア、テキサスなどの各州のいわゆる南部の「サンベルト」を代表する3つの州で民主党候補が敗北したものの善戦しており、「南部=共和党」のベクトルが変わる可能性が見え始めている。その背景にあるのが、人口動態の変化であり、テキサスやフロリダ両州の場合、いずれも民主党支持が目立つヒスパニック系の数が増えつつある。

ただ、左派寄りの政策が必ずしも民主党にとって王道とは言い難い。例えば、今回の中間選挙では下院選挙区で郊外の共和党から民主党へのシフトなどが目立っている。対立をあおるトランプ氏に疲れ、反発する有権者が同党に投票したと考えられる。郊外においては、カリフォルニア州オレンジ郡の選挙結果が特筆される。同郡には下院選挙区が6つあり、現在はそのうち4つで共和党議員が現職を務めているが、今回の選挙では民主党候補が善戦し、6つ全てで議席を確保した。カリフォルニア州全体では53の下院議席のうち、39が民主党となった。全体の議席数の変動はあるものの、共和党との議席の割合は史上最大となった。

比較的豊かな層が居住する郊外で民主党が勢力を伸ばすには、所得再分配ではなく、むしろ中道で減税に舵を切った方が得策である。政治哲学の研究者、マーク・リラが指摘するような、「アイデンティティの政治」ではなく、中道を追い求めることで、リベラル側の復活を望む動きにつながる[2]。この中道路線がもう一つのベクトルであろう。ブラウン上院議員ら民主党のリーダー格の政治家もいるが、なかなか穏健派をまとめ上げるような動きはまだ起こっていない。

民主党がどちらを向くのか。あるいは両方を進む動きは可能なのか。2020年の大統領候補は2019年の夏には出そろう。その顔ぶりを見ると、民主党の明日がみえてくるかもしれない。


[1] 前嶋和弘(2018)「『選挙の司令官(electioneer-in-chief)』となったトランプ大統領に民主党はどう立ち向かうか」東京財団政策研究所2020年アメリカ大統領選挙と日米経済関係プロジェクト

[2]リラ、マーク(2018)『リベラル再生宣言』夏目大訳、早川書房、原著はLilla, Mark (2017). The Once and Future Liberal: After Identity Politics, HarperCollins

前嶋 和弘

  • 上智大学総合グローバル学部教授