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2018年州知事選挙の結果は2020年トランプ苦戦を予見させるか?(下)

January 17, 2019

写真提供 Getty Images

杏林大学総合政策学部専任講師
松井孝太

 

本論考の前半では、中間選挙年の州知事選挙とその2年後の大統領選挙における州レベルの政党得票率が、近年近似する傾向にあることを示した。後半では、州ごとの勝敗と、2016年大統領選挙でのトランプ当選を決定付けた接戦州(swing states)の動向に焦点を当てたい。

問2:州知事選挙と大統領選挙で異なる政党が勝利する州はどの程度あるのか?

選挙において究極的に重要なのは、得票率ではなく、最終的にその州で勝つか負けるかである。X州の知事選挙で勝利した政党が、2年後の大統領選挙でX州を落とすケース(すなわち本論考(上)の図2において左上と右下の象限に入る州)はどの程度あるのだろうか。

図 4:州知事選挙(t-2年)と大統領選挙(t年)で異なる政党が勝利した州の割合

図4は、中間選挙年の州知事選挙で勝利した政党が、2年後の大統領選挙で敗北した州の割合を示している。ここでは、図3のU字のトレンドをちょうど裏返しにした傾向が見られる。つまり、第二次大戦直後の時期は、8割近くの州で、中間選挙の年の州知事選挙結果が、2年後の大統領選挙の結果となっていた。しかし、1960年代から20世紀末にかけては、州知事選挙に勝利した政党が、2年後の大統領選挙では半数近くの州で敗北している。ところが近年になると、再び州知事選挙の結果と大統領選挙の結果の一致性が高まりつつある。2014年の州知事選挙で勝利した政党は、2016年大統領選挙でもその8割の州で勝利を収めている。このトレンドが仮に続くとすれば、今年の州知事選挙は、2020年大統領選挙を占う上で、やはり参考になると言えるかもしれない。

問3:2016年トランプ勝利の鍵となった州では、どのような傾向が見られるのか?

よく知られているように、二大政党が拮抗している近年の大統領選挙では、ごく少数の接戦州(swing states)の動向によって結果が左右されている。具体的には、ミシガン、ウィスコンシン、オハイオ、ペンシルベニア、フロリダなどの州を獲得できたことが、2016年のトランプ当選を決定付けた。全国的な傾向は問1、問2で紹介した通りだが、これらの重要州に限定してみると、どのような傾向が見られるのだろうか。

図 5:大統領選挙の接戦州における共和党得票マージンの推移(1988-2018年)

図5は、大統領選挙における接戦州(ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア、オハイオ、フロリダ)について、過去30年間の州知事選挙と大統領選挙の共和党得票マージンの推移を示したものである。ゼロの線を上回っている場合、共和党が民主党よりも多数の票を獲得していることを意味している。

接戦州(swing states)という呼び名が示すように、これらの州では、近年の大統領選挙において二大政党が極めて拮抗していることが図5からも読み取れる。2008年から2016年にかけては、共和党へのスウィング(トランプ勝利の要因)が各州共通で見られたことも確認できる。ただし現時点では、いずれかの政党に有利な方向に向かう長期的なトレンドを見出すことは難しい。

ピンクの線で示されている州知事選挙についてはどうだろうか。興味深いことに、州知事選挙では、大統領選挙と比べて得票マージンのスウィングがより大きいという傾向が見られる。詳細な分析はここでは行わないが、大統領選挙と比較して、州知事選挙では投票率が低いことや、党派性以外の要因(候補者個人の特質など)がなお重要な役割を果たしている可能性が考えられる。

ここでのポイントは、(素朴な分析から読み取れる限りでは)接戦州における共和党得票マージンが、必ずしも州知事選挙と大統領選挙の間で並行的な動きをしていないという点である[1]。2018年州知事選挙では、民主党がこれら重要州の複数で勝利を収めることができた。しかしそれが2020年大統領選挙での民主党勝利を強く示唆するものとまでは、必ずしも言えなそうである(今回共和党が勝利した州についても同様である)。

問4:州知事選挙において勝利した政党は、大統領選挙での得票を伸ばすのか?

問1から問3では、州知事選挙と大統領選挙で、共和党得票マージンがどの程度連動している(相関関係がある)のかを確認してきた。それでは、中間選挙年のX州知事選挙で勝利すること自体が、大統領選挙におけるX州での競争を有利にするという可能性はあるのだろうか(図6左)。今年の州知事選挙では、ウィスコンシン州等で民主党が極めて僅差での勝利を収め、フロリダ州等では共和党が僅差で勝利した。これらの結果は、2020年大統領選挙で重要な差異を生み出すのだろうか。

そのような因果関係の存否を確かめる一つの方法は、州知事選挙で共和党が僅差で勝利した場合と僅差で敗北した場合で、2年後の大統領選挙での共和党得票マージンに差が生まれるのかを見ることである[2]。詳細な分析方法の紹介は省略して結果だけ述べると、州知事選挙から大統領選挙に向かう明確な因果関係を見出すことはできなかった(図6右)。図6は1946年から2018年のデータを示しているが、より近年の選挙に限定しても結果はさほど変わらない。つまり、今回の州知事選挙での僅差の勝利をもって2020年大統領選挙の結果が大きく変わるとは(少なくとも過去の傾向からは)言いにくい。

図 6:州知事選挙(t-2年)は大統領選挙(t年)に影響を与えるか?

おわりに:2020年大統領選挙は従来の傾向に従うのか?

本論考では、2018年州知事選挙と2020年大統領選挙の関連性を考えるために、過去の選挙結果から示唆を得ることを試みた。その結果、全国的に見ると、中間選挙年の州知事選挙と2年後の大統領選挙の結果が州レベルで近年近似する傾向にあることが判明した。しかし大統領選挙において決定的に重要ないくつかの接戦州については、相当程度の不確実性が残るということもわかった。

前者の発見は、ローカルな争点や候補者個人の要因(現職優位など)の重要性が低下するとともに、あらゆるレベルの選挙や投票行動が全国政治との連動(全国化;nationalization)を強めているという最近のアメリカ政治研究の知見とも合致するものである[3]。2018年中間選挙では、上下両院も州レベルの選挙も、専らトランプ大統領の評価をめぐって選挙が争われるような様相を呈した。トランプ大統領の再選がかかる2020年選挙は、今年の中間選挙以上に、トランプ評価を中心とする党派的選挙となることが予想される。州知事選挙と大統領選挙の連動が強まる近年の傾向は、2年後も続くのではないかと思われる。

ただし、繰り返すように、ラストベルト地域やフロリダ州など、接戦州の動向については、2018年州知事選挙の結果から結論付けることは難しいというのが現時点での答えである。これらの州の有権者党派性の長期的変化については、現時点ではまだ明確なトレンドを見出すことが難しい。これまでの選挙と同様に、2020年選挙前の経済状況、人口動態、若年層やマイノリティ有権者の投票率、大統領支持率などの変数を、引き続き注視していく必要があるだろう。


[1] 図5からは、大統領選挙の得票マージンの動きとは逆方向へのスウィングがしばしば生じていることも観察される。大統領政党が中間選挙で連邦議会の議席数を減らすことが多いのと同様に、現職大統領への不満票が中間選挙年の州知事選挙に影響を与えている可能性が考えられる。

[2] この分析手法は、回帰不連続デザイン(Regression Discontinuity Design)と呼ばれる。日本語による入門的解説としては、伊藤公一朗(2017)『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(光文社)や中室牧子・津川友介(2017)『「原因と結果」の経済学:データから真実を見抜く思考法』(ダイヤモンド社)がわかりやすい。

[3] Hopkins, D. J. (2018). The Increasingly United States: How and Why American Political Behavior Nationalized. University of Chicago Press.

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