繰り返された大統領選挙前世論調査の苦戦

2021年1月6日、「ストップ・ザ・スティール(選挙を盗むな)」集会のために米連邦議会議事堂の外に集まるトランプ支持者たち(写真提供 Getty Images)

繰り返された大統領選挙前世論調査の苦戦

杏林大学総合政策学部専任講師
松井孝太

事前予測と実際の選挙結果の乖離
予測との乖離を生んだ要因は何か?

事前予測と実際の選挙結果の乖離

昨年113日に実施された2020年大統領選挙は、民主党バイデンが当選に必要な270人を上回る306人の選挙人を獲得して勝利した。2016年大統領選挙においてトランプが獲得した中西部のラストベルト地域(ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州)を奪還しただけでなく、大統領選挙で長らく共和党優位が続いてきたアリゾナ州(過去70年間で民主党が勝利したのは1996年大統領選挙のみ)とジョージア州(1996年大統領選挙から6回連続で共和党が勝利)でも勝利し、南部サンベルト地域における今後の民主党の党勢拡大にも期待を持たせる結果となった。選挙後もトランプは敗北宣言を行わず、訴訟や各州政府への圧力によって選挙結果を覆す試みを続けてきたが、今年16日に連邦議会が各州の選挙人投票の結果を確認したことで、120日のバイデン大統領就任は確実なものとなった。また15日にジョージア州で実施された二つの上院議員決戦投票でも民主党が勝利を収めたことで、10年ぶりに大統領と上下院のすべてを民主党が支配する統一政府状況が生まれることとなった。

クリントン優勢という大方の予想に反してトランプが勝利した2016年大統領選挙とは異なり、事前に優勢が伝えられてきたバイデンが最終的な勝者となったという意味では、今回の大統領選挙は選挙前世論調査の予測通りの結果となったと言える。しかし、各州における投票結果を見ると、世論調査が予測していたよりも明らかにバイデンにとっては苦しい内容であった。表1は、各州におけるバイデンの得票マージン(バイデン得票率とトランプ得票率の差)について、選挙前の世論調査を基にしたFiveThirtyEightの最終予測と実際の選挙結果を示している[1]。ウィスコンシン州やミシガン州ではバイデンが約8ポイントのリードを獲得するという予想に反して、実際には3ポイント未満という極めて僅差の結果となった。また接戦ながらもバイデンがやや優勢と考えられていたフロリダ州やノースカロライナ州で、トランプが早々と勝利を確定させるという事態も生じた。

なお、世論調査が民主党の優勢を過大に予測したのは、大統領選挙だけではない。同日に行われた連邦議会選挙でも、世論調査による楽観的予測をもとに、民主党はすでに多数党である下院での議席増と、共和党支配が続く上院の多数派奪還という「ブルー・ウェイブ」の実現に期待を寄せていた。しかし、全議席改選の下院では多数党地位の維持にこそ成功したものの、選挙前と比較して、9議席の純減となった(未確定議席を除く)。また上院でも、上述のように15日のジョージア州決選投票の両方に勝利したことで辛うじて半数の50議席を確保したものの、少数党のフィリバスター(議事妨害)を乗り越えるのに必要な60議席には遠く及ばない結果となった。
 

表 1:バイデンの得票マージン(単位:%ポイント) 

(出所)事前予測FiveThirtyEight (https://fivethirtyeight.com/)による最終予測
    投票結果:New York Times 

予測との乖離を生んだ要因は何か?

記憶に新しいように、前回の2016年大統領選挙でも、選挙前世論調査の予測に反して、中西部ラストベルト地域をトランプが獲得するという番狂わせが起きた。これはデューイ当選という事前予測を覆してトルーマンが勝利した1948年選挙以来の事態であり、世論調査に対する信頼性を揺るがすものとして、選挙後に米国世論調査協会(AAPOR)による詳細な検証が行われた[2]

選挙前世論調査は、ごく限られた人数の調査回答者から得られた情報から、選挙日に実際に投票する有権者集団の投票動向を推論しようとする試みである。その際には、人種や性別、年齢、学歴などの属性によってそれぞれの回答者に適切な重み付けを行えば、調査回答者の集団は、選挙投票者全体の縮図となるという想定が行われる。しかし、米国世論調査協会の検証では、調査回答者に重み付けをする際に、トランプ支持が強い大卒未満の白人有権者の割合を実際の投票者に占める割合よりも過小に見積もってしまったという問題点が明らかになった。

そこで、2016年選挙以降に行われた世論調査の多くでは、大卒未満の白人有権者がより適切に代表されるよう、学歴の重み付けなどに関して改善が行われてきた。そのため、筆者自身も昨年8月の論考で議論したように、今回の大統領選挙では2016年大統領選挙時のようなサプライズが起きる可能性は低いのではないかと考える向きがあった[3]。ところが蓋を開けてみると、世論調査と実際の選挙結果の間には、前回選挙時に匹敵する規模の(あるいはそれ以上の)ギャップが存在することが明らかになったのである。

それでは、今回も選挙前世論調査による予測の失敗を生んだ要因は何だろうか。まず、世論調査に回答する人々と回答しない人々の間に、重み付けに用いられた属性以外の点で体系的な相違が潜んでいた可能性がある。たとえば、「大卒未満の白人」といった属性が共通しているとしても、仮に世論調査に対して回答する有権者と回答しない有権者の間に候補者支持傾向や投票率に体系的な差が存在するとすれば、世論調査の予測にバイアスが生じてしまう恐れがあるのである。

そのような変数として具体的に指摘されているのは、回答者が有する「社会的信頼感(social trust)」の高さである。社会的信頼感とは、家族や友人など日常的に交流がある特定の個人ではなく、近隣住民など、他者全般に対してどの程度の信頼を有しているのかという概念である。世論調査専門家のデイビッド・ショアらは、トランプ支持者はバイデン支持者と比較してメディアや世論調査などの制度に対する不信感が強く、世論調査に回答することを拒否する割合が高かったのではないかと指摘している[4]

それに加えて、春から続く新型コロナウイルスの感染拡大の影響も考えられる。コロナ禍の中で民主党支持者の方が在宅している傾向にあり、電話での世論調査に対して積極的に回答する割合が高いために、バイデン支持者が世論調査に過大代表された可能性が考えられる。つまり、世論調査に対してトランプ支持を隠して嘘の回答をする有権者(“shy” Trump voters)が多数存在したというよりも(実際にこの仮説は2016年選挙後の検証で否定的な報告がなされている)、そもそも世論調査がトランプ支持者の回答を得られなかったという問題である。

また、2020年大統領選挙が、約67%という過去100年間の大統領選挙の中でも最も高い投票率を記録した点にも注目したい。選挙前世論調査では、過去の選挙データをもとに、回答者がどの程度の確率で実際に投票に行くのかを推定する。しかし、トランプという極めて分極的な現職大統領の存在が両党支持層の熱意を喚起して投票率を競い合うように押し上げたことに加えて、郵便投票や期日前投票の割合が史上最も高かったなど、今回の大統領選挙が過去の選挙の枠組みから相当に逸脱したものであったことは確かである。そのため、特に今回初めて投票する有権者などに関して、世論調査が投票意向を正確に予測することが出来なかったのかもしれない。

米国世論調査協会は、2016年大統領選挙と同様に、2020年大統領選挙前の世論調査の正確性に関しても改めて検証を行うことを予定している[5]。誰が実際に投票したのかというミクロレベルの有権者登録データと世論調査を照合することによって、どのような有権者層が予測と乖離していたのかが、今後さらに明らかになることが期待される。 
 


[1] FiveThirtyEight (https://fivethirtyeight.com/)

[2] American Association for Public Opinion Research. “An Evaluation of 2016 Election Polls in the U.S.”https://www.aapor.org/Education-Resources/Reports/An-Evaluation-of-2016-Election-Polls-in-the-U-S.aspx)。ジャーナル掲載論文としてCourtney Kennedy, et al. "An Evaluation of the 2016 Election Polls in the United States." Public Opinion Quarterly 82.1 (2018): 1-33.も参照。

[3] https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3513

[4] Dylan Matthews. “One pollster’s explanation for why the polls got it wrong.” Vox, November 10, 2020. (https://www.vox.com/policy-and-politics/2020/11/10/21551766/election-polls-results-wrong-david-shor)

[5] https://www.aapor.org/Publications-Media/Press-Releases/AAPOR-Convenes-Task-Force-to-Formally-Examine-Poll.aspx

松井 孝太

  • 杏林大学総合政策学部専任講師