アイオワ州でマラソン大会に参加したオルーク前下院議員 (写真提供 GettyImages)

早くも本格化する民主党の2020年大統領選指名候補争い:ルール改正と見えにくい勝利のシナリオ

上智大学総合グローバル学部教授

前嶋和弘

民主党の2020年大統領選指名候補争いが早くも本格化しはじめている。アイオワ州党員集会、ニューハンプシャー州予備選がスタートするのが2020年2月とほぼ1年だが、ウォーレン、ブッカー、サンダース、ハリス、クロバチャーら、アメリカ政治の中では知名度の高い上院議員たちがすでに相次いで立候補を決めている。これに加え、昨年の中間選挙の上院議員選で惜敗したが全米に名前を知られることとなったオルーク前下院議員も立候補したほか、現時点の世論調査では頭一つ抜きんでているバイデン前副大統領も正式に立候補する直前ともいわれている。2016年の大統領選挙の場合、共和党で指名を獲得したトランプ氏が前年6月、出馬確実とみられていた民主党のクリントン氏が同4月だったことを考えると、出馬そのものが数か月前倒しになっている。

立候補のペースだけではなく、個々の候補はすでにアイオワ州などで積極的に遊説しているほか、クロバチャー、ウォーレン、サンダースなどの主要候補は連日、テレビ出演で内政だけでなく北朝鮮政策を含む外交政策の質問に積極的に答えている。CNNやMSNBCはすでに個々の候補者が有権者と話し合う「タウンホール」を特番としてプライムタイムに放映している。 

予備選のルール変更(1) カリフォルニア州

なぜ、これほどペースが早いのか。それには民主党の予備選のルールがいくつか変更になった点が大きい。

大きな変更は2つある。

まず、日程そのものの変更だ。予備選段階の「前半の山場」であったはずのスーパーチューズデーが予備選全体の山場になる可能性が出てきたことがある。

スタートそのものはほとんど変わらない。アイオワ州党員集会は2020年2月3日(16年は2月1日)、ニューハンプシャー州予備選は同11日(16年は9日)である。しかし、その次の大きな山となるスーパーチューズデー(3月3日)に南部諸州だけでなく、例年予備選段階の最後に開催されてきた大票田のカリフォルニア州もこの日の選挙に加わることになった(2016年は同州は6月7日に予備選を行った)。

カリフォルニア州の代議員数は2020年の場合、492で民主党の全体(4532)の約10%に相当する。20年選挙の日程がまだ正式に決まっていない州はあるが、2016年の場合にはスーパーチューズデー(2016年3月3日)までで代議員の25%が決まっている。20年の場合にはこれに1割強加わることになる。その後の資金集めの流れを考えると、この日までに選挙戦の雌雄が決まるといっても過言ではない。

このスーパーチューズデーに合わせて党内の予備選も前倒しになっている。今年6月を皮切りに予備選開始まで8回もの討論会が計画されており、そのうち19年中に6回が割り振られている(2016年選挙では15年中には3回しかなかったほか、開始も2015年10月最初だった)。 

予備選のルール変更(2) 特別代議員

もう一つの変更が、党の幹部らで構成する特別代議員の影響力を減らしたことである。これまで特別代議員は党指名候補を最終的に決める全国党大会で各州の結果にかかわらず、投票の意思を表明することができたため、「党のボスたちの意向」が民主党の予備選段階の大きな焦点だった。実際、2016年選挙は各州の結果ではサンダース氏とクリントン氏が比較的拮抗していたが、特別代議員のほとんどがクリントン氏支持だったため、常に「クリントン有利」となり、最終的な全国党大会でも州の中には投票の結果はサンダース氏が上回ったものの特別代議員の影響力により結果が逆転するウエストバージニア州のようなケースもあった。

この点を改善するとして、全国党大会で特別代議員が影響を及ぼすのは、1回目の投票でどの候補も過半数を取れなかった場合に限られることになった。特別代議員の数は764人と代議員数全体の17%を占めるため、この変化は大きい。

特別代議員の影響力を減らしたことで、その分、各州で投票の結果が重要になり、選挙戦を前倒しし、より積極的に行わないといけなくなった。それが立候補の前倒しにつながっている。 

見えにくい民主党のシナリオ

2018年中間選挙で下院を奪還した勢いから民主党関係者からは「2020年は大丈夫」という声が少なくない。ペロシ下院議長がトランプ大統領の弾劾を事実上見送ったのも、民主党支持者の怒りを継続させることができることで、選挙に追い風であるかもしれない。筆者が聞いた中では「ハリス大統領候補とオルーク副大統領候補なら間違いなく勝てる」といった声すらあった。

もちろんどの候補が勝ち残るかはまだ全く読めない。そして、これだけ盛り上がっているものの、民主党がどのように2020年を戦うかはみえにくい。世論調査では高い支持を現時点で集めるトップ3のバイデン、サンダース、ウォーレンの場合、2021年の大統領就任の時にはそれぞれ78、79、71と超高齢でもある。

何といってもフロントランナーがおらず、党内の亀裂が明らかである。予備選の有権者は一般の有権者よりもイデオロギー的には極端であるため、サンダース、ウォーレンらの左派が有利に進める可能性がある。下院議員に当選したばかりのオカシオ・コルテスは29歳と大統領の被選挙権(35歳)に満たないため年齢的に出馬できないものの、左派の代表格として注目されている。はっきりとした言動に加え、大ベテランのマーキーと一緒に提出した、代替エネルギー推進の「グリーンニューディール」法案は共和党にとっても無視できない政策になりつつある。

このように左派は元気だが、本選挙では未知数であり、バイデンらの中道路線が支持される可能性がある。本来左派的なブッカーやハリス、さらにはオルークも比較的慎重で党内をまとめようという意図の発言も増えてきた(本稿を書いている段階ではバイデンはまだ正式に立候補はしていない)。

昨年の中間選挙で民主党が躍進したのは、人種マイノリティと女性、若者の支持を固め、郊外に住む比較的保守的だった層を取り込んだことがポイントだった。ただ、この4つの層の心をつかむような象徴的な候補はまだ現れていない。最初に党員集会が開かれるアイオワ州の世論調査では無名のブティジェッジ氏(インディアナ州サウスベンド市長)の支持が予想以上に高く、注目を集めているがまだ全くの未知数である。

1年半をかけて党内をまとめるような候補が誕生する「成長の物語」がみられるかどうか。そのドラマの序章が始まっていく。

前嶋 和弘

  • 上智大学総合グローバル学部教授